鮮血のエンブリヲン   作:Mk.Z

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第二十三話 Say Goodbye/訣別、そして

 ■■【浮遊航行艦 エンブリヲン】周辺空域

 

 三機の<調装機(ベルドレス)>は、艦の周囲を旋回していた。砲戦の傷は重く、既に三機のすべてが無傷ではなかった。その脇を、今も雷撃やビーム兵器がすり抜けていく。

 それでも、飛行に支障はない。三人の腕は確かだったし、シュタイナーのフライトユニットは完全破壊されない限り大気の波に乗り続けられるからだ。

「……だが、埒が明かない」

 エルディンは呟いた。コロリョフは、空になったミサイルポッドを戦艦に叩きつけながら言った。

『こちらの<エンブリオ>は三つ。敵は、四つか五つは確実、だな?簡単な引き算だ』

「サンフォーリングの軍もある」

『そりゃ頼もしいな』

「あぁ」

 エルディンは、自分でも信じていない口調でそう言った。

「どうだ、ゾル?」

『誰か、【アルシオーネ】の脚がまだ付いてるか、分かる?』

 ゾルはぼやいた。

『たぶん、右足は無いんだ』

「いや、左の脛から下も取れてるぞ」

『クソッ、さっきの透明ミサイルだ!』

 ゾルは悪態をついた。

『避けたと思ったんだ』

 敵の武装担当はずいぶんと強い、とエルディンは思った。仮に<上級エンブリオ>ひとつの能力だとしたら、相当の多彩さと火力だ。なにか縛りはあるのだろう。もっとも、この敵艦の在り方そのものが“縛り”ではありえるのだが。

 と、ゾルの声が響いた。

『敵艦に異変!』

 なにが、と訊こうとして、エルディンも気がついた。

 戦艦の上部装甲が変形していた。折り重なった葉のようなそれらが歪み、内部から金属の枝が顔を出す。それは絡まりあって、ひとつの輪郭を成そうとしていた。

『あれは……ギアか?』

 ヒトのかたちを。

 

『咲け、《華機(パラス・アテナ)》』

 

 白銀の機体が、装甲の内側から這い上がった。枝のような指がうぞうぞと開き、掌が甲板を掴み、腰を引き上げる。茎と根のようなものが寄せ集まり、腿と膝を形成した。

 それは次男、チャールズ・ファイアローズが能力、パラス・アテナの結晶だった。

 花弁のような流線型の装甲、鋭い一本角に、人型の機体を覆い隠すような四枚の大型シールド。頭部には、回転するセンサーボールに紅い十字のラインが走っていた。

 四枚羽の白銀は、三機を睨むように立ち止まり、チャールズの声で言った。

『ねぇ、君らの機体さ、なんて名前?』 

 不意の敵機からの声に、エルディンたちは面食らった。

「なんだ?」

『返事くらいくれたっていいじゃないか……まぁ、いいさ』 

 その声……チャールズはそう言うと、

「鹵獲すれば分かるよね」 

パラス・アテナを舞い上がらせた。

 ジェットが大気を汚し、足が離れた。

 シュタイナーの造った、風に漂うだけの飛行理論とは違う。<エンブリオ>の能力による飛行だ。四枚のシールドは柔らかに広がり、大気の層を捉えていた。

 ジェスイットに穴が空き、パラス・アテナは浮上をした。風の塊を受けて、機体が揺れていた。

 そして、シールドの裏から、無数の光が飛び出してきた。

 それらは屈折するビーム砲、くねる紫電、あるいは炎の矢だった。我先に三機へと風を切って向かうその光を、三人も気流に乗って舞い上がることで躱した。

「なるほど、やっぱり浮いてるだけか。推進力は別……ならさ!」

 チャールズはそう言うと、無数に並んだ計器やスイッチをパチパチと動かした。パラス・アテナは、艦から離れてアクロバット飛行をやりながら、重々しく、その腹にある砲門を開いた。

「吹き飛べ!」

 そして、その砲門から竜巻が巻き起こった。

 影響範囲を重視した広域攻撃は、確かな乱気流として三機を吹き飛ばした。フライトユニットの乗る波を乱されて、足の止まった【アルシオーネ】へ、パラス・アテナが迫った。

『……ッ!』

「……!」

 火花が散る。膨らんだシールドと白銀の爪が擦れあい、耳障りな音を立てた。

「食らえ!」

 シールドの裏で花開くターレットや火砲は、至近距離で【アルシオーネ】に突き刺さった。ゾルが機体を捻り、フレームの破片が飛び散る。突き出した右腕を完全破壊され、ゾルは喚いた。

『調子に乗るな!』 

 その背後から、無数のケーブルが湧き出した。黒い紐は蛇のようにくねると、パラス・アテナのシールドを絡めとり、操作を奪おうとした。

『《ハッキング・ハブ》!』

 シールドの一枚が暴れだし、パラス・アテナを揺らす。チャールズは即座にそのシールドをパージし、そして複合武装シールドは【アルシオーネ】のケーブルを巻き込んで爆発した。

『お返し、だ!』 

 コロリョフが叫び、【タイゲート】が上空に陣取る。だが、そのミサイルハッチたちが開くより早く、パラス・アテナは吶喊した。機体同士が衝突し、僅かに出力で負けていた【タイゲート】が破片を散らして吹き飛んでいく。

 パラス・アテナは三枚になったシールドを広げ、またもその炎を解き放った。追尾するビームが三機を襲い、変形した三機の絡み合うマニューバへ食らいつく。

 その爆煙を抜けて、【エレクトラ】が細長い銃口を向けた。トリガーが引かれ、黒煙の中から幾筋もの狙撃が風を貫いた。

 その【LRW02】が放った銃弾の軌道をくぐって、パラス・アテナは【エレクトラ】に接近した。その掌が振動を帯びて【エレクトラ】の腕を掴んだ。フレームが軋み、装甲が剥離していく。エルディンが舌打ちした。

『歩く武器庫ってわけか!』

『当然!』

 チャールズは吠えた。

 パラス・アテナは武装植物の<エンブリオ>だ。土と水ではなく、鉄屑と機械油で育つ機械の花だ。手ずから育て上げる手間こそかかるが、ひとたび成長し終えたならば……展開数、能力特性、拡張性、すべてが最高級の戦力になる。

 それをチャールズが選定し、ひとつに集めたのが《華機(パラス・アテナ)》だ。

『その機体の技術(タネ)も、頂くよ!』 

 パラス・アテナが【エレクトラ】の腕を引きちぎる。ケーブルが飛び、火花と共にフレームが断裂する。

 その後ろから、【アルシオーネ】が飛びかかった。

『三対一なら!』

 だが、その爪は受け止められた。パラス・アテナの背部から、もう一対の腕が持ち上がり、刃を構えていたからだ。

『無駄、無駄、手間がかかっているからさ!』

 四本腕のパラス・アテナは、そう叫んで上昇した。三機もまた、赤橙の波紋を残して上空へと上がった。既に相当の高高度だ。雲ひとつ無い天空に、戦争の光がたくさんの筋を描いた。

 航跡は絡み合い、離れ、時に衝突しながら天へと昇っていった。機体に薄い霜が降り、次の瞬間には剥がれて飛行機雲へと変わっていった。

『エルディン!』

 コロリョフが叫んだ。

『窒素濃度8.9286mM(ミリモーラ)!これ以上は飛べない!』

『気圧が低すぎる!リーダー、僕らは……』

『分かっている!』

 <調装機(ベルドレス)>のうち、素体のTYPE:ギアの段階で飛行能力を持つのは【エレクトラ】だけだ。他の機体は、シュタイナーの【FLA08Xフライトユニット】の性能を越えては飛べない。

『フライトユニット停止(リポーズ)!』

 エルディンが叫んだ。

『……《制空権(バルディエル)》最大行使!』

 【エレクトラ】の尾翼で、紅い波紋が消失する。代わって、その機体を白っぽい光が包み始めた。

 瞬間、【エレクトラ】は史上最速に加速した。パラス・アテナを振り切って、高高度を泳いでいく。急旋回と共に放たれた一筋のビームが、パラス・アテナの右脚部を吹き飛ばし、そしてその内部に格納されていた数十発のミサイルが誘爆した。

「速度じゃ勝てないか……なら!」

 チャールズが呟き、舵を切る。右舷へ逸れた機体の後には、切り離されて自律飛行を開始した三基のシールド・バインダーが列を作っていた。

 それらが火を吹く。無数の砲撃の内側へ、脚から黒煙を引いたパラス・アテナが飛び込んだ。

 その四本腕が、腰にマウントされていた一本のシャフトを掴みとる。シャフトは伸長し、変形して一振の大鎌に姿を変えた。その刃には、稲妻が踊っていた。

『《エレキ・サイス》!』

 その鎌の刃を変形することで避けた【エレクトラ】は、己も両手剣を振りかざしてパラス・アテナの頭上に襲いかかった。

『墜ちろデカブツ!』

『寄越せよ、カトンボ!』

 刃と長柄がぶつかり合う。二機は火花を散らしながら、再び対流圏を降下していった。

 

 ◇◆◇

 

 □■【浮遊航行艦 エンブリヲン】艦内

 

 ステラの剣は、大きく弧を描いてエドワードへ食らいついた。それを左手のジェスイットで受け止めながら、エドワードは切っ先を振った。

「ふっ!」

 貴剣士系統の動きは、この上なく優雅だった。半身の右足が踏み込んで、金細工の剣は鋭く突きを放った。ステラは首を傾け、そして頭を下げた。

 その髪を短く斬り飛ばして、突きであった剣筋は水平の薙ぎ払いに変わった。その隙に、剣を寝かせて抱くように、ステラが切っ先を突き上げる。

 けれどそれは、ジェスイットの壁に阻まれた。ステラは素早く床を蹴り飛ばし、エドワードの追撃を躱した。

「粘るものだね」

 エドワードは呟いた。

「僕が決してヴァネッサほどの速度戦特化でないといえ、これほどの時間を持ちこたえたことは君の研鑽とやらのあかしだ。……それで満足は、できないのかな?」

 ステラは独楽のようにくるくると回り、エドワードの剣を弾きながら剣戟を繰り出した。それをジェスイットの陰に防ぎながら、エドワードは苦笑した。

「いい加減、決着を付けたいのだけれどね。お父様のプロメテウスから多くの力を注がれているとはいえ、ジェスイットも安くないんだよ。それとも、勝ち目があると思うのかい?」

 ステラは答えなかったが、返答の代わりに上段からの切り下ろしが飛んできた。その剣の後にエドワードも上段の剣を合わせたが、その切っ先はステラの鼻先を微かに掠めただけだった。

「おしい……けれど、無駄だよ」

 ステラの動きは、エドワードの目にはまるで輪舞のようで、ひどく滑稽に見えた。速さ(AGI)が違うのだ。ステラが剣を振りはじめるのを見てからでも、エドワードは容易くそれを避けられる。ジェスイットで受け止めてもいい。

 エドワードの剣が届かないのは、ステラの足さばきが巧いからだ。間合いを読み、動きを読み、刃のぎりぎりの外を動いている。だが、そんな芸当はずっと続けられるものではない、とエドワードは思っていた。

「にしても、研鑽か。技術(テクニック)?努力?安い言葉だね。仮に、君が真に強いのなら、【(ザ・ワン)】というシステムだってこの世界にはあるだろうに?所詮は、君の“研鑽”も、その程度なんだよ」

 目の前の少女には、すべてが足りない。何も長所がない。凡庸すら通り越して、頼りうる力が何もない。

(と、今のは危うかったね)

 肩にジェスイットを移動しながら、エドワードは剣を引き戻した。空間歪曲の面を、ステラの剣は滑っていった。

 何も問題はない。彼には無敵の盾がある。もしミスをしても、容易く取り返せる。むしろ、守りを捨てて果敢に攻められすらする。

「ティアンごときが……」

 そのときステラの顔が歪んだのを、エドワードは見た。

 エドワードは少しだけ口角を上げた。

「劣等種のきみに、教えてあげるよ。この世では、生まれこそがすべてなのだと!」

 挑発と共に、エドワードが踏み込む。ジェスイットを前に出して、剣を振りかぶる。

「その血に殉じるといいさ、ステラ!」

 ステラは身を捻ってその刃を避けた。袖口をほんの僅か、エドワードの剣が斬り飛ばしていた。

(ふん、躱したか)

 エドワードは切っ先を回して、一歩下がった。

 

 そして、微かに嫌な予感がした。

 

 ステラの左からの剣筋は、軌道の先にエドワードの頭を捉えていた。

 間合いを計り損ねた。一歩、近い。

「くっ!」

 ジェスイットの移動も間に合わない。エドワードは肩を捻り、頭を傾けた。その耳たぶを掠めて、ステラの剣が振り抜かれ……返す刃でエドワードの意識の外にあった右膝下を浅く切り裂いた。

「な……」

「あたしも教えてあげるわ、エドワード」 

 ステラの剣は、下から垂直にエドワードの剣とぶつかった。ステラの身体は、右方向へ傾いていた。

「努力は万能の言い訳じゃない。どんなに頑張っても、結局人は生まれから逃れられない。エドワードの言う通りね」

 エドワードの左側で、ステラの剣が振り下ろされる。それを左手のジェスイットで滑らせるように受け止めたエドワードは、自らの驚きに、ほんの少しだけ足運びを乱した。その隙にステラの剣がねじ込まれ、エドワードの左肩を抉った。

「頑張ればなんだって出来ると、そう思っていた。でも、そんなのは都合のいい慰め……人は自分に出来ることしか出来ない。努力を言い訳にすがっていても、何も生まれない」

 掠り傷だ。致命傷には程遠い。血だってちょっぴりしか流れていない。けれどそれは明確に、エドワードの綻びのかたちだった。

 

「あたしは遅い。あたしは弱い。あたしは柔い。そう、それは変わらないし、否定できない。だからさ、遅い自分を受け入れて……その上で、この弱いからだで!勝つための“努力”をする!」

 

「バカな!」

 一手では敵わない。二手でも及ばない。ステラの一挙手一投足は、エドワードの視覚にとって牛の歩みに等しい。

(見える、見えている!それなのに、なんだこれは?なぜ押し込まれている?)

 それでも、三手、四手を重ねていけば、いずれ彼女の技に、エドワードは対応しきれなくなる。速度ではなく、技巧による“詰み”だった。

(なんだ、これは!?どうすればいい?次はどこを狙っているんだ!?)

 ステラの振り上げた剣を、エドワードは身体を回して無様に受け止めようとした。そして、死角から放たれた膝蹴りに身体をぶらした。

 ジェスイットも届かなかった。それはエドワードの左肘の位置にあって、そこを無敵の盾で守っていた。

()っ!」

 ステラの剣は水平に振り抜かれた。エドワードにはそれが見えていたし、なにをしようとしているのかも分かった。けれど、止められなかった。姿勢は崩れていたし、剣も盾も別の方向を向いていたから。

 のけぞったエドワードの額を、ステラの剣が斬り割いた。ごくごく浅いその傷は、しかし額の常として、とめどなく鮮血を吐き出し、エドワードの眼を塞いだ。

「バカ、な!」

「口が、悪いわよ、お坊っちゃま!」

 ステラが何をしているのか、もうエドワードには見えなかった。足音、目蓋の隙間から見える手足、それだけではステラを捉えられなかった。呆然とするエドワードは、必死に喉と腹を守ろうとしたが、側頭部を鉄の塊に殴り付けられる感触に、思わずその方へ剣を振り抜いてしまった。

 そして、ステラの剣がエドワードの喉を突いた。

 肉体スペックの差から、その切っ先は喉を切り裂くまでには至らなかったが、それでも硬いものに気道を突かれて、エドワードは苦悶の息を漏らした。その隙に手首を掴んだステラの掌は、エドワードを転ばせるに十分だった。

「生まれも、血も、過去が変わらないとしても!今あるものをどう使うかはあたしが決める!変えられる!」

 直上からの剣がエドワードのうなじへと突き立つ。

「未来の勝敗は、あたしのものだ!」

 そして、ステラはその剣へ全体重をかけた。その刃はとうとう、エドワードの(END)を切り裂いて、首筋の血管を突き破った。

 溢れ出す鮮血を避け、忘れずにエドワードの取り落とした剣を取り上げて、ステラは後ずさった。エドワードはまだ生きていたが、首から流れる紅は、致命傷を知らせていた。すぐに塞がなければ、命に関わるだろう。

 エドワードは両手を突いて立ち上がろうとし、首から吹き出す血に顔を歪め、なにか言おうとした。血の色に染まったその琥珀色の眼、シリルとよく似た眼は、ステラの瞳を真っ直ぐに捉えていた。

 ステラは剣を拭い、落とした鞘を拾った。その唇がふと、小さく動いた。

 

「さよなら……エドワード・ファイアローズ」

 

 エドワードが、光の塵になった。

 ステラは絨毯の上に座り込んだ。決戦の余韻に、身体が震えていた。

 

 ◆◆◆

 

 ■【浮遊航行艦 エンブリヲン】直上・同刻

 

 四機の戦場は、既に高度6000mほどまで戻ってきていた。

 パラス・アテナはその重火力ゆえにまだ戦えていたが、やはり三機を相手にするのは苦ではあった。気を抜けば、数に負ける。本当ならこの手の()()()敵は、ヴァネッサと……シリルの担当なのだ。

 斬り結んだ【エレクトラ】を踏みつけにするパラス・アテナの中で、チャールズは第一艦橋からの映像に眼をやった。司令部に鎮座するウィリアムの周りでは、ゲヘナの人形たちが次々と力を失い、木偶に戻っていっていた。

「ヴァネッサ!」

 チャールズは叫んだ。

「何してる!おい、聞いてるのか!」

 返事はなかった。チャールズは舌打ちをし、そしてパラス・アテナが【エレクトラ】に蹴り飛ばされて仰け反った。

「くっ!」

『隙ありァ!』

 十分な気圧を得た【アルシオーネ】と【タイゲート】が、赤橙色の波に乗って、パラス・アテナの背後から飛びかかった。それを後方の腕で捌きながら、チャールズは三基のシールドを呼んでいた。

 シールドたちは即座に反応した。レギオンとして、希薄ながらも自我をもつそれらは、裏面に備えた蕾のような砲で三機に狙いをつけた。

『それは……』

『……お見通しだ!』

 だが、二機の<調装機>は素早く反転すると、手持ちの火器をありったけ解き放った。砲弾とミサイルが雲ひとつない空を汚し、肉薄する。チャージ中で動きの鈍くなったシールドたちは、回避軌道をとることなく、おしなべて砕け散ってしまった。

 パラス・アテナは、腹いせとばかりに腹部の竜巻砲を撃とうとして、ふと顔を上げた。十文字のセンサーが狂ったように動く。

 直上には、あの二つ目の太陽が輝いていた。その光は少しずつ強まり、エンブリヲンを狙っていた。

「くそ、またか!」

 チャールズは叫び、全スラスターを噴かして、機体を弾丸のように翔ばした。三機もまた飛行形態をとり、逃がすまいとその後を追う。

 頭上では、【真昼之星(ハロー)】第二射が始まっていた。磁界により束ねられたプラズマ・キャノンが、極大の柱となってエンブリヲンの空間障壁に突き立つ。

 弾け飛んでくるその余波に、四機は混然となって吹き飛ばされていった。

「けど、ジェスイットが在る限り、エンブリヲンは沈まない!」

 大鎌を振り上げながら、チャールズは言った。

 現に、空間歪曲の壁は、その論理に従ってプラズマの奔流を弾いていた。その向こう側の浮遊航行艦には、傷ひとつつけられないはずだった。

 

 そして、ジェスイットは消失した。

 

「なっ!?」

 チャールズは、それが虜囚として捕らえていたティアンの小娘のせいだ、とは夢にも思わなかった。壁の消失によって、受け流されていたエネルギーはいよいよ、艦そのものと衝突を始めた。

 凄まじい爆風の中で、パラス・アテナと三機は刃を交わしながら、エンブリヲンの後部甲板へと叩きつけられた。もはや、その太陽の力を遮るジェスイットはなかった。艦に突き立っていた無数の十字架は、塵になって消滅していた。

 装甲が揺れ、軋んでいた。大出力のプラズマに、艦の前部が破壊されていく。パラス・アテナが何ヵ月もかけて育てた“装甲蔓(パルテノキサス)”たちが、枯れ葉のように割れてちぎれていく。

「こんな……エンブリヲンが!」

 【浮遊航行艦 エンブリヲン】は必死に面舵を切っていたが、既に遅かった。最後の装甲が消し飛び、艦内へとプラズマ砲が到達する。金属が膨らみ、張り裂け、歪んで融けていく。唸るような音が響いた。

 次の瞬間、艦の前部から左舷にかけてが大きく爆発し、砕けた船首は瓦礫になって地上へと墜ちていった。

 

 To be continued

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