怖いウマ娘じゃないよ……多分   作:但野ミラクル

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転生したら怯えられている件

 気づいたら転生していた。最初は驚いたものだ。何せ目が覚めたら子供になっていたのだから。

 目線は低いし、声はやけに高いなくらいに考えて鏡を見て子供になったのだと認識した。まあ、最初は混乱して頬をつねったり辺りを見渡したりしたが徐々に落ち着いた。

 しかし、問題が三つ程あった。一つ目は自分がいるところが孤児院であること、二つ目は転生したのが人間ではないこと、最後に何故か人を威圧してしまうことである。

 転生したと気づいたのは私が転生して五才になったときだったのだが、どうやらその間に捨てられたらしい。

 ……まさか転生したと思ったら捨てられるとはね。いや、精神年齢は高いのでそこまでショックではないけど、聞いたときまじかとは思った。まあしょうがない話ではある。どこにでもそういう話はあるのだ。見えないだけで。

 二つ目の人間ではないというのはそのままのことを言っている。馬と人間の特徴が合わさったような生物に転生してしまったようだ。その生物の名前はウマ娘。馬の耳、しっぽ以外は人と同じという不思議生物である。燃費は人より悪いが人の何倍も力があるようだ。私以外にもかなりの数いる種族らしい。生命って不思議だなぁ……。ウマ娘には耳やしっぽ以外にもレースや走ることが好きという特徴があるらしい。しかもそのウマ娘のレースはこの世界においてトップクラスで人気のスポーツみたいだ。改めて不思議な世界である。ちなみに名前は親がつけるのではなく本人がある程度知識を得てきたら勝手に降りてくるらしい。私もある日突然、自分の名前がデゼスプワールというものだと認識した。……ウマ娘の存在ファンタジー過ぎませんか?

 最後の威圧してしまうことだが、これが一番の問題だ。何故か人を威圧してしまうのだ。それも無意識に。最初から周りの孤児の子に避けられているな、とは思っていたが……孤児院の院長から私が皆を威圧していると聞いたときに始めて意識した。意識すればある程度抑えることはできるようで、院長からもましになったとは言われた。それでも他の子からは避けられているみたいだけど……それは仕方ない。一応話しかけてくれる子は何人かいるから寂しくはない。誰だって威圧している子に近づきたくはない。一応威圧しないように色々努力はした。表情が柔らかくなるようにしたり威圧してしまう理由を考えて対策を取ったり本当に色々。でもましにはできても、ゼロにはできなかった。もう最近は若干抑えることを諦めている。

 まあそんなこんなで色々問題があったのだが、十二までは比較的平穏な日常を送れていた。大きく変化したのは十四歳になってからだ。

「トレセン学園に入学……ですか?」

「ええ、試験だけでも受けてみないかしら」

 ある日院長からトレセン学園への入学を薦められた。

 トレセン学園とはウマ娘が行うレースのために作られた学園のことでこの学園に入るだけでも難関といわれる場所である。入れればそれだけでも就職に有利になるとまで言われている。……何でそんなところに私を薦めるんです?

「デゼスちゃん、野良レースでも成績よかったでしょう? それがお偉いさんの目に止まってスカウトされたのよ。奨学金の制度も整っているらしいからどうかなって」

「ええ? いやでもそもそも合格できるかどうかすら分からないんですよ?」

「大丈夫よ、デゼスちゃんは頭もいいし、レースのタイムもいい。受かると思うわ」

 確かに近くの図書館とかで勉強していたからこの世界での常識も知っているし前世がある身からしたらある程度はできる。レースもできはする。でもそれだけだ。

「いやでも」

「受験費用も大丈夫よ。デゼスちゃんが私たちの手伝いしてくれていたからちょっと余裕もあるの」

「え」

 いやそこは忘れてましたけど、受験費用のことも既に解決させているということは私を本気でトレセン学園に通わせるつもりか。

「……どうしてそこまで」

「デゼスちゃんには苦労ばかりかけていたでしょう? 料理、洗濯、掃除、買い物、避けられながらも小さい子たちの面倒を見たり、会計の手伝い、DIY、その他諸々。正直この子ここじゃなければいい学校にも通えたし、大企業にも入れると思ったことが何回もあったわ」

 いやなんか避けられるから色々やっていただけなのですが。

「苦労とは思ったことないですよ。やりたかったからやっただけで」

「そう言う気はしていたわ、でもあなたはトレセン学園でも活躍できると思う。できなくても入学したというだけでも話題にはなるから募金するときの文句としてかなり有効なのよ。どちらにしても問題ないわ。あなたにしても入学できたというだけでプラスになると思うの」

 ……私の性格を見越して外堀を埋めてきた。私が通っても問題なくむしろ利点しかないと。

「本当にいいんですか?」

「行ってほしいと思ってるわ」

 真剣な院長の顔を見て私も真面目な顔を作る。

「分かりました。受験します」

 

 

 

 

 トレセン学園。そこはエリート中のエリートしか入ることができない場所である。

「ふぅー」

 その学園の教室で私は他の受験生の子と一緒に今テストに回答を記入していた。

 うーむ。結構解けるな、これ。流石に転生前の知識と今世での努力を合わせたらいけるようだ。後はレースと面接だな。頑張ろう。

 

 

 

 そう思い望んだレースと面接だったのだが、レースは何故か私以外の子が終盤バテて一気に抜き去ってゴールできたし、面接ではウマ娘の方に一瞬睨まれてしまったがそれだけだった。……なんかおかしい気がする

が……。まあ、後は結果を待つだけだし、気にしないでいいか。

 

 

 それから数ヶ月後

「……! 受かった。受かりましたよ。院長!」

「デゼスちゃん、やったわね。おめでとう」

 トレセン学園から合格通知が来た。

 よかったー。ぶっちゃけレースで他の子に勝てるか分からないけど入れるなら入った方がいいからね。トレセン学園以上に奨学金制度とかが整っているところこの世界ではほぼないからね。一安心である。

 

 ……それまではよかった。その後もレースには勝てたし、勉強も問題はなかった。なかったんだけど、それ以外、例えば人間関係とかは問題しかなかった。

「……」

「……」

「……」

「……」

 ……めちゃくちゃ避けられてる。目も合わされない。確かに威圧してしまうのは申し訳ないとは思う。でも今はある程度制御できるし威圧感もそんな出てないはずだからここまで避けられることはないと思うのだけどなあ。いや心当たりはあるよ?菊花賞とかのゴタゴタとかね。でもそこまで避けなくてもいいと思うんですが!?

 ……まあ、誰一人友達がいないわけではないからいいけどさ。例えば――

「あっ、デゼスさーん。お昼一緒に食べない?」

 噂をすれば影を差すとはよく言ったものだ。ちょうど今思い浮かべた人物が私の方へと、とことこと歩いてきた。

「ライスさん。ええ、是非」

 私はライスシャワーに返事をすると鞄から弁当を出す。

「……デゼスさん。足の調子はどう?」

「悪くはないと思います。完治したらトレーナーと復帰レースを決めることになるでしょう」

「そっか、いつかはまた走りたいね」

「……ええ、是非」

 私はライスシャワーの言葉に頷く。菊花賞を勝利したウマ娘ライスシャワーの言葉に。

 

 

 

 

 

 

 

ライスシャワー視点

 その人を最初は怖いと思った。目付きが悪くこちらを威圧するから怖いとしか思えなかった。その印象が大きく変わるきっかけは二回あった。一回目は私が流行りのスイーツ店に行く途中で道に迷ったときだ。

 私はその日普段行かない場所に行ったせいか迷ってしまった。ウマホも運悪く充電が切れてしまい周りをあたふたと見回すことしかできずにいた。

「……あの、大丈夫ですか?」

「え? あっ、デ、デデデデデゼスプワールさん!?」

「ええ、デゼスプワールです。名前覚えてくれていたんですね。ライスシャワーさん」

 覚えているに決まっていた。忘れられるはずがない。何せ顔が怖く、何か怖いオーラを撒き散らしているのだから。一度名前を聞いたら忘れられない。しかも名前が名前だ。名前まで怖そうだ。しかも同級生なのだから覚えないわけがない。

「あの、もしかして何か困ってますか? キョロキョロとしてらしたのでどうしたのかと思いまして」

「ええっと、その最近流行りのスイーツの店に行こうと思ってたんだけど迷っちゃって」

「もしかしてこの店ですか?」

 デゼスプワールは自分のウマホを見せて来た。そのウマホに表示されていた店は確かに探していた店の名前だった。

「そう! この店!」

「……私もこの店を探していたのでよければ一緒に行きませんか?」

「えっ、いいの?」

「ええ、構いません」

 そうして案内してもらったのが仲良くなるきっかけだった。怖い印象はなくなり、優しい人なのだと思った。

 ちなみにデゼスさんが甘いものはそこまで好きではないと知ったのは大分後になってからだった。

 二回目は私が菊花賞で勝ってしまった(・・・・・・・)ときのことだ。デゼスさんはそのとき怪我をしていたから菊花賞には出られなかった。デゼスさんには、あなたと菊花賞で一緒に走りたかったと言われたけど私も同じ気持ちだ。セントライト記念や京都新聞杯で私を負かし制覇したデゼスさんとは走りたかった。とても強い走りをしたデゼスさんに勝ちたかった。

 だからせめて私が勝つ姿をデゼスさんに見せたかった。私の走りを見せたかった。だから全力で走った。

 そして私は勝った。勝ってしまった(・・・・・・・)

「あーあ、俺はミホノブルボンが勝つところを見たかったのに」「ふざけんな」「邪魔するなよな」

 ……私と同じく菊花賞を走っていたミホノブルボンさんはとても期待されていた。とても栄誉な無敗のクラシック三冠を成し遂げるのではないかと期待されていた。そして私はそのブルボンさんに勝ってしまった。本来与えられる称賛はなく、罵声しか浴びせられない。何故私は責められているのだろうか?勝ったのに何故落胆されているのだろうか?私は――

「「「「「「「「「「「」」」」」」」」」」」

 あれ?突然静かになった。

 先程まで自分に罵声を浴びせていた観客は一様に黙ってしまった。まるで何かに怯えているように。恐れているように。

 観客は何故か固まっていた。表情を暗く、いや顔が蒼白になっている。視線の先には――目付きが悪いウマ娘がいた。

「ライスさんー! おめでとう!」

 そのウマ娘が叫ぶ。会場が静かになっていたとはいえライスにしっかりと声が届くほどの声量で。

「デゼスさん……っ」

 気づけば私の目からは涙がこぼれ落ちていた。でもこれは悲しみのものではなかった。そう、決して悲しみのものではなかった。

 

 

 その後ウィンニングライブで私を無視するような扱いを受けそうになったが、そこでも一人とても私を全力で祝ってくれる人がいたから私は逃げずにいられた。もし彼女がいなければ、私はどうなっていたのだろうか。レースから去っていただろうか。絶望していただろうか。今となっては分からない。

 

 

 

 今となっては怖いと思っていたことがとても申し訳ないと思う。こんなに優しい人なのに避けてしまっていた。

 まだこの人の優しさを知らない子はいっぱいいる。すぐには無理かもしれないが、いつか分かってもらえる日が来ると思う。だってこの人は太陽のように温かく優しい人だから。

 

 




本編で書かれない設定
・威圧感
相手を威圧する能力。転生時に特典として無理やり与えられた(本人知らぬ内に)
能力としては純粋に威圧することに尽きる。意識していないと勝手に周りを威圧してしまう。意識すると制御できるが、感情が高ぶると制御しにくくなる。主人公が捨てられたのもこの特典のせい。特典とは一体……。
意識すれば比較的自由に使えるので自分が威圧していると自覚できればそこまで日常には支障をもたらさない。(威圧がゼロになるわけではない)威圧は主人公の中心を威圧し続けるタイプだが主人公が認識し威圧しようとすれば好きな相手を威圧できる。一点に威圧することも可能でその場合周囲にばらまく場合よりもめちゃくちゃ強く威圧できる。主人公が本気で威圧すれば生物のほとんどは気絶させられる(ばらまくタイプで)。悪用しようと思えばレースだろうと犯罪だろうとなんでにも使える。というよりほぼそれしか使えない。呪いに近い能力。世界を混沌に陥れることも可能な能力。幸か不幸か主人公はこの能力を多様しないため秩序は保たれたままである。



デゼスプワールの意味 フランス語で絶望の意
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