怖いウマ娘じゃないよ……多分   作:但野ミラクル

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就活は大変

「……どうしよう」

「デゼスさんどうしたの? そんなに浮かない顔して」

 トレセン学園の中庭で私が空を仰いでいるとライスさんが話しかけて来た。

「……就職が」

「え?」

「就職できてないんです、どこも一次選考で落ちてしまって」

「え?」

 私の言葉にライスさんは首を傾げ、頭を軽くかいた。

「……一次で?」

「……はい」

「え? デゼスさん面接練習もしっかりとしてたし、志望動機から長所短所まですらすら言えたよね?」

「……はい、もうどうしたらいいのか」

「もう2月だよ!? え? 本当にどうするの?」

「……どうしよう!? 実家なんかないし頼れるところがないです」

 本当にどうしよう?とりあえずバイトとかで時間を稼ぐしかないか?

「え? でもデゼスさん、レースの賞金あるよね。まだ余裕あるんじゃ」

「……」

「え? もしかして使いきった?」

「いえ、そこまでではないのですが、世話になった孤児院にほとんど送ってしまってます」

「デゼスさんらしいね、でもどうするの? お金あまりないんだよね?」

「……はい、それでもしばらくは一人暮らしはできる位は残していますが」

「うーん、トレセン学園を卒業したらしばらく私の家に来る?」

「……本当に困ったらそうさせてもらいます。流石に最初から人に頼るのはちょっと抵抗が大きすぎます」

 ライスさんは、そう?と首を傾げていたが人に甘えるのは基本的に避けたい。

「んー、それならとりあえず誰かに相談してみれば? ゼデスさんを怖がらない人に、就職しなくてもお金を稼げる方法を」

「……そんなのありますかね」

 

 

 

「あるよ」

「本当ですか!? タキオンさん」

 トレセン学園にあるアグネスタキオン専用の研究室であっさりと答えたタキオンさんに私は問うた。

「まあ、簡単な話さ。君も強いウマ娘だったのだからファンはそこそこいる。ならそのファンからお金を取ればいい」

「それはファンクラブとかそういうことですか?」

「それもありだが、そうじゃない。動画投稿だ」

「動画投稿……」

 自信満々に答えたタキオンさんに私は疑問を投げ掛ける。

「それはかなり無謀では? 私は動画編集技術も面白い構成を考える技術もありませんよ?」

「うん、それは大丈夫だ。私の知り合いにそういう(・・・・)ことが得意な子がいる」

 

 

 

 

 

 

「という訳で頼めないかな、デジタル君」

「ヒョエエエエ!? タ、タキオンさん!? デゼスプワールさんを連れて来たんですか?」

「うん。君なら彼女を怖がらないと思って」

「そりゃあ、デゼスプワールさんを怖がるなんてことは全然ないですよ。めちゃくちゃ優しい人だと見てればすぐ分かりますし、でも私が会うなんて恐れ多いですよ」

「どっちだい」

「ええっと、アグネスデジタルさん、なんかすいません」

「うっひゃあ、顔が、顔がよすぎる……」

 私が顔を近づけるとアグネスデジタルさんは倒れた。

「……えっとどうすれば」

「とりあえずしばらくベッドで寝かせてあげようか」

 

 

 

「という訳でウマチューブの動画作る手伝いを頼みたいんだ」

「……話はわかりましたけど私ではあまり役に立たないと思いますよ?」

「いやいやデジタル君の発想や技術は大変役に立つものだよ、それに他に宛があまりない。シャカール君はやってくれそうにはないし」

「いやでも他に方法はないんですか、フリーランスとかお金があるなら投資も可能だと思いますよ? そもそもデゼスプワールさんは動画投稿をする気はあるんですか?」

 アグネスデジタルさんの言葉に対し私は首をひねる。

「……動画投稿にこだわるつもりはないですが、死にたくはないのでやれることはやりたいと思ってます」

「……なるほど、わかりました。そういうことなら私も全力で協力させていただきます!」

 デジタルさんは私の目をまっすぐ見て言った。

 

 

 

 

 

 

「はじめまして、視聴者の皆さん、デゼスプワールです。どうぞよろしくお願いします」

 デジタルさんのつてで何とか撮影メンバー、スタッフが集まり、動画撮影は行われていた。基本はゲーム実況を行い、サブチャンネルでたまに別ジャンルを行ってマンネリ化を防ぐという形で投稿していくことになった。

 最初は撮影スタッフの人たちに怯えられていたが、なんだかんだあって慣れられたみたいで今では割りと気さくに接してきてくれるようになった。嬉しい。

 

 

 

 

アグネスタキオン視点

 

 

そのウマ娘を知ったのはいつだっただろうか。確か風の知らせで聞いたのだと思う。

「誰彼構わず威圧するウマ娘か」

 噂というものは大抵どこかで歪む。例えば顔が怖いからそれを見た人が威圧されていると感じても威圧的だという噂は立つ。本人がそんな気がなかったとしても周りは威圧的だと思ってしまう。だからその話をあまり信じていなかった。

「まさか、本当とはね」

 別に怖いとは思わないが、威圧されているとは感じる。いやはや大分奇妙な感覚だ。彼女を見ていると動き辛い。しかも本人は意識して起こしているようには思えない。何せ、私は彼女の死角から観察しているのだから。どこにいるか分からない相手を威圧なんてできない。つまりこの威圧は本人の意識に関係せぬところで働いていることになる。

「実に面白い」

 私はデゼスプワールを見て口角を上げた。

 

 

 

 

 

 

「あのアグネスタキオンさん? 私に何の用事でしょうか?」

「いや、実はお願いしたいことがあってねえ」

 私はデゼスプワールが中庭で暇そうにしていたところへと声をかけていた。

「私にですか?」

「そう、実は足の負荷とホルモンの関係を調査していてね、協力してほしいんだ」

「なるほど、私でよければ協力させていただきます」

 彼女はコクリと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ、ちょっとお人好しが過ぎないかねえ」

「くぅくぅ」

 私の目の前には疲れからか眠ってしまったデゼスプワール君がいた。

「いくら何でも、ここまで協力的だと私でも心配になってくるものだねぇ」

 彼女は私が薬を飲んで欲しいといえば飲むし、体液のサンプルが欲しいといえばすぐに採取させてくれる。なんでこの子はこんなに怖がられているのか不思議でしかない。

「……この子、色々苦労しそうだねえ」

 私は寝ているデゼスプワール君を見てそう言うしかなかった。

 

 

 

 

 

 ……心配していたことは現実となった。なんとデゼス君が就職できずに困っていた。レースで勝って得た賞金は大半を孤児院に送ってしまったらしい。……もうその孤児院で雇ってもらったら?と言いたくなったが、彼女は嫌がりそうだし、本当にどうしようもなくなったらその時助言することにしよう。

 

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