キャバクラの入り口は物々しい空気が流れていた。
あからさまに暴力団風の男たちが入り口を硬め、その目の前には黒いバンが3台、縦に並んで停まっていた。
その光景を店の向かいにあるビルの一室から、
例の魔法使い二人組の仕業かは分からないが、
しばらくすると、店のドアが開いた。
それに合わせて、店の前に止まっていたバンからそれぞれ組員が降りてきて、後部のスライドドアを開ける。
その姿はまるでドアマンのようだ。
まず出てきたのは、頭がハゲた50代くらいの小太りの男。縦じま模様の茶色いスーツに身を包み、手には金ぴかの指輪が全ての指に嵌められている。
まともに金儲けをしているようには見えない印象だ。
続いて出てきたのは片野だ。その後ろには店のオーナーらしき1人の中年男性と2人のキャバ嬢がいる。
「出てきたぞ」
橘がその場にいる刑事たちに言った。
「それでは、これからもよろしくお願いしますよ、片野さん」
「ええ。是非」
小太りの男は満面の笑みを浮かべると、一番前のバンの後部に乗った。
そのバンを見送った片野は、振り返り、オーナーと2人のキャバ嬢と向き合った。
「それじゃまた」
片野は手を上げて笑顔で3人に挨拶すると、止められたバンへ乗ろうと――
「うっ‼」
突然、片野が倒れた。
それを見たキャバ嬢たちは悲鳴を上げ、組員たちもあたふたしていた。
「行くぞ‼」
その光景を見ていた橘もすぐに動いた。
橘たちは道路を横切る車に気を配りながらも、倒れる片野に近づいて行く。
「どけ!」
橘が組員を
横たわる片野のこめかみには風穴が開いていた。即死だ。
銃声が聞こえなかったことを考えてサイレンサー付きのライフルだろう。
「周囲を探してくれ!」
橘が命令を出した。
○
組員に言われた場所に到着したダークスピーダー。
既に
武は悔しそうにグッと奥歯をかみしめると、ダークスピーダーを走らせた。あまり長居をすると誤解される可能性もある。
武はレイに通信を入れる。
『どうだった?』
「遅かった。片野が死んだかはっきりしないけど、恐らく……」
『しょうがないわね。とにかく、今日はこれで引き揚げた方がいいわ』
「分かった……」
○
武の通信の後、レイは隠れ家のサポート部屋で考え込んでいた。
鬼柳が片野を狙った理由だ。
「お嬢様、もしかしたらですが、お嬢様と同じように黒富士を追い詰めるつもりじゃないでしょうか?」
しかし、結論付けるには、まだ鬼柳の情報が足りない。
「もしかしたら……」
「どうしましたか?」
「確証は無いけど、片野の葬儀で
「葬儀で?」
「黒富士が確実に現れる可能性の高いから」
鬼柳は片野を餌に黒富士を誘き出そうとしていると推理した。
葬儀場に現れた黒富士を狙撃するなり爆破するなり方法はいくらでもある。
しかし、野々原がある疑問を抱いた。
「お嬢様、それでしたらどうして
それを聞いて、確かに、と言うようにレイは自分の顎に手を添えた。
確かに塚元の葬儀の時に黒富士を殺すことも可能だったはずだ。
そんなことを考えていると、レイはあることを思い出し、武に通信を入れた。
「ねぇ武、聞こえる?」
『何だ?』
「鬼柳を抑えたことがあったでしょ。あの時はどうやって抑えたの?」
『簡単だよ。鬼柳の肩を撃ったら車が横転して、そこを抑えたんだ』
「鬼柳は怪我をしてたのね?」
『
「どのくらいの怪我だったの?」
『少なくとも2、3日では治らないと思うけど』
「なるほど、塚元の葬儀の時は怪我の影響で何も出来なかった可能性があるわね」
『何の話だ?』
話が見えない武にレイが説明した。
鬼柳が片野の葬儀で黒富士を狙うかもしれないということを。
『それじゃあ、鬼柳が片野の葬式で黒富士を殺す可能性があるってことか』
「多分」
『でも、俺には何もできないぞ。管轄が違うから』
「武は出来るだけ、鬼柳に関する情報を集めて、片野の葬儀のことは私が調べるから」
『分かった』
レイは通信を切った。
○
片野の通夜当日――
片野の葬儀が行われる場所は地元の霊園だ。
山を登ったところにあり、建物の後ろに広がる墓地以外、周りは殆ど木々しか見えない。
各黒富士組系の暴力団が次々に到着し、建物の前にあった何十台も止められる駐車場はあっという間に埋まり、葬儀場というより暴力団の集会場のようになっていた。
当然だが、葬儀場の正面を一望できる高台にある墓地から、県警の刑事たちが見張っている。
本来墓地の方は17時頃で閉じてしまうが、管理者の許可を取り、特別に車両は墓地にある駐車場に止められていた。
しかし問題は、張り込んでいる場所だ。
何故ならここは、明かりの無い墓地、正直気味が悪い。
張り込みをする刑事たちも全員何処か落ち着かない感じだ。
それよりも黒富士組の総長・黒富士がなかなか来ない。
刑事たちが、違和感を覚えると、突然葬儀場の中に居た組員たちが慌てだした。まるで蜂の巣でも突っついたような騒ぎだ。
県警の刑事たちも「一体どうしたんだ⁉」と眉を引きつらせていると、刑事の1人のスマートフォンが鳴った。
「はい――何ですって、黒富士が⁉」
その場に居た刑事たちが一斉にそっちへ顔を向けた。