WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)   作:木村仁一

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10話 病院

 白摩総合病院手術室前――

 壁際にはそれぞれ、鹿沼(かぬま)松崎(まつざき)菅原(すがわら)安藤(あんどう)が立っている。

 

 (タケル)は手術室前にある椅子に座り、頭を抱えて俯いていた。

 それは能力による頭痛もそうだが、自分のせいで恩人が撃たれたという罪悪感による落ち込みも併せ持っていた。

 その隣には、(たに)の妻・(カオル)が座っている。

 口元や目元に多少のシワはあるが、穏やかそうな優しい目と、たるみのない肌が、年を取っても美しさを感じさせている。

 だが、その表情も今はとても暗い。

 

「すみません奥さん、俺のせいで……」

 

 武が口を開いた。

 武にとって、今の病院の静けさが、耐えがたい何かをより一層強めていた。それを紛らわしたかったのだ。

 薫は、武の背中を優しくさすった。

 

「武君のせいじゃないわよ。自分を責めないで。きっと大丈夫だから……」

 

 優しく微笑む薫。

 だが、武は顔を上げてその顔を見ることができない。どういう顔を薫に向ければいいのか分からなかったからだ。

 

 やがて、手術中のランプが消えた。

 武と薫が立ち上がる。

 手術室から術衣を着た医師が出てくると、武たちが近づいた。

 

「手は尽くしましたが、正直助かるかどうか……これが摘出された弾です」

 

 医師が手にするステンレスの膿盆の中に、銃弾が乗っていた。

 銃弾の先端が潰れ、バナナの皮のようにめくれたジャケットの尖った先端が外へ広がる形は、まるで銃弾が開花しているようにも見える。

 鹿沼が白いハンカチを取り出し、形が崩れないようにそっと弾頭を包んだ。

 

「スガ、鑑識に」

 

 菅原は鹿沼から弾頭を受け取ると、その場を後にした。

 すると、谷を乗せたストレッチャーが手術室を出る。

 

「あなた、しっかりして?」

 

 薫が谷に呼びかけながら、一緒に病室へついて行った。

 それを見送った武は、自分の額を壁に押し当てた。

 

「しっかりしろよ、武……」

 

 松崎が武を慰めようと声をかけるが、武の耳には入らない。

 

 すると、1人の医師を思われる白衣を着た男が通路の陰から武たちを覗いていた。

 マスクをしているため素顔は分からないが、ネームプレートには「夏目」と書かれている。

 その男は、武たちの方へ近づこうと足を向けるが、何かを察したのか、すぐにその場を立ち去ってしまった。

 

 その男と入れ替わるように、刑事数名が武たちに近づいた。

 全員、県警のマル暴・第二係の刑事だ。

 その中の一人、色黒の40代後半で180センチ超えの長身とガタイの良い見た目に、顔つきは少々四角顔のいかにもタフガイという言葉が似合いそうなこの男――池田(いけだ) 孝之(タカユキ)が武に声をかけた。

 

「谷刑事は?」

「重体だよ……」

 

 震えるような声で武が言うと、池田の胸倉を掴んだ。

 

「なんで早く応援に来なかったんだぁ⁉」

 

 武は憤怒に満ちた声を池田に浴びせるように叫んだ。

 

「止めろ、大下!」

 

 鹿沼が武を池田から引き離した。

 池田は、スーツを直すと、こちらも悔しいのか強い口調で言った。

 

「無線を受けてからすぐに向かったよ。だが間に合わなかった!」

「何が間に合わなかっただぁ‼」

 

 再び池田に掴みかかろうとする武に、鹿沼が拳を入れた。

 

「落ち着け大下‼ まだ谷さんが死んだわけじゃない‼」

 

 鹿沼の声――と拳で、頬をさすりながら、武は少しずつ冷静さを取り戻した。

 確かに池田に掴みかかったところで谷の容体が良くなるわけではない。

 武はゆっくり立ち上がり、池田に頭を下げた。

 

「すみませんでした……」

 

 負傷したのは谷だけではない。マル暴の刑事の中には、死亡した者も居る。

 自分だけが悔しい思いをしている訳ではないと、武は改めて自分の愚かさを恥じた。

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