WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)   作:木村仁一

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9話 告白?

 地下から1階へ上がる(タケル)野々原(ののはら)

 

「お嬢様、武様がお帰りですよ」

 

 2階に向けて野々原が言うと、次第に2階から駆け下りる音が聞こえてくる。

 

「ごめん武。もう帰るの?」

「門限があるからね。それよりそっちは大丈夫か?」

「何が?」

「突然出て行ったから、何処か具合が悪い悪いのかなって。もしかして、例の拒絶反応?」

「な、何でもない! その……そう、あれだったから……」

「あれ?」

 

 何か誤魔化すように慌てた口調のレイに、武は首を傾げた。

 そもそも「あれ」の言葉だけでは何なのか分からない。特に男性の武には。

 

「すみません武様、少々お待ちください。車の鍵を取ってきますので」

 

 そう言って野々原はその場から離れて行った。

 

「あのさ、レイ。その、改めて晩御飯ありがとう」

「別にいいよ」

「それでさ、レイ……その……もしよかったら、何だけど……」

「何?」

「お……」

 

(……おい待て! 何だよ、この緊張感……‼)

 

 突然滝のような汗を流す武。

 冷静に考えてみれば、今自分が言おうとしていることは、ほぼ「告白」と言ってもいい。

 見事に告白する前に終わった初恋以降、ろくに恋愛をしたことがない武に取って一生を左右する重大な決断を下すような思いだ。

 

「どうしたの?」

 

 そんな武の気持ちを知る由もないレイが難しい顔をして訊いた。

 今すぐに誤魔化して、この場から逃げたい。

 

「何よ、ハッキリ言いなさいよ!」

 

 レイが少し苛立ち気味に言った。

 なかなか武が話し出さないので、しびれを切らしたのだ。

 でも駄目だ。緊張して何も言えない。

 次第にレイの表情も(こわ)ばる。

 もう後戻りができない。そう悟った武は覚悟を決めた。

 

「レイ、俺と付き合ってくれないか⁉」

 

 武は心臓を吐き出すような思いで、レイに思いを伝える。

 しかし、レイは口を開け、ポカーン、として固まった。

 

(ヤベッ、ド直球過ぎたか?)

 

 まずい、と思った武は慌てて言い訳を考える。

 

「あ、あの、その、なんて言うか、交際とかじゃなくて、えーと、俺たちこれからも色々一緒に行動する訳だし、少しでも互いのことが理解できれば、と思って……」

 

 明らかに苦しい言い訳なのは武もわかっているが、だからといって「今のなし」というのは、流石に薄情過ぎる。

 何か言い訳できることはないか、と考えていると、レイが口を開いた。

 

「ハァー……。あのねぇ武、私たちはお互いに目的を持って組んでいるの。それに私と武じゃ立場が違うでしょ。何処に刑事と付き合う犯罪者が居るのよ?」

 

 レイは、プン、と腕を組んだ。

 

「……ですよねぇ。ゴメンナサイ、忘れてください……」

 

 武はガックリと肩を落とし、レイは「分かればよろしい」と言うように深く頷いた。

 

 正論だ。

 

 レイの言う通り、刑事と付き合う犯罪者など、何か目的がない限りありえない。

 いや、レイの性格では自分と付き合うなど、宝くじに当たる確率くらい無いだろう。

 

「すみませんお待たせ……どうなさいましたか武様?」

 

 重い空気の中、鍵を取って来た野々原がやって来た。

 

「……何でもないです」

 

 武が返事を返すが、その顔はげっそりしている。

 状況が理解できず野々原は首を傾げた。

 

                 〇

 

 武と野々原を見送ったレイは、戸締りをして再び自分の部屋に戻った。

 

「もう、本当にあの男はぁぁぁー‼」

 

 発狂するようにレイは叫んだ。

 突然の不意打ちともいえる状況に、一瞬頭が真っ白になってしまった。

 男性から誘いを受けたこと自体は初めてではない、大学時代に何度か告白されて2人ほど付き合ったことがある――どちらも金と体目当ての最低野郎だったので、すぐに振ってやったが……。

 今までと大きく違うのは、否定したい気持ちが募る今だというのに、まさか武から誘いが来るとは思ってもみなかったことだ。

 武が自分のことを意識してくれているんだと思うと、本当は嬉しかったが、正論を言って武の誘いを突っぱねてしまったのだ。

 武の誘いを断ったのは正しかったに違いない、と自分を誤魔化すように言いきかせると、レイの全身が次第にプルプルと震え出し、その場で自分の膝を抱えて蹲ってしまった。

 もっと早く、武と違う形で出会えたら……。

 こんな運命を許した神を、レイは改めて恨んだ。

 

                 〇

 

 クライスラーの車内は静まり返っていた。

 というのも、武が後部座席で、魂の抜けたように白目を向いてシートに深く座り込んでいるからだ。

 まるでほったらかしの操り人形のようだ。

 

「本当に大丈夫ですか武様?」

 

 ハンドルを握る野々原が、ルームミラー越しに心配そうに武を覗いている。

 

「……いいえ、大丈夫です。ちょっと、立ち直るのに時間が少しかかるほどの精神的ダメージを受けただけで……」

「それは大丈夫ではないのでは?」

 

 野々原に流石に指摘した。

 

「もしかしてと思いますが、お嬢様のことでしょうか?」

 

ギクッ!

 

 武は体を跳ね上げた。

 

「すみません。私が出過ぎたことを言った所為で」

「いや、野々原さんの所為じゃないですよ。ただ……」

「ただ?」

「……。自分はレイのことが嫌いって訳じゃないんです。殺しをするのはアレですけど……できることなら、もっとレイのことを知りたいと思っています」

 

 そもそもレイが暗殺者になってしまったのは、自分たち警察の所為だ。それを知っているのは野々原を除いて自分だけ。

 犯罪者にそんな感情を抱くのは刑事として許される行為ではないが、それでも武は構わないと思えた。

 例え刑事を辞めることになるとしても。

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