街中を逃走するクリーナーの男が運転するセダン。それを数台のパトカーが追いかけている。
建物が入り組む街中なら、一般人を巻き込んで警察の追跡を振り切れるかもしれない、と考えたからだ。
同時に自分が巻き込まれて捕まるリスクもあるが。
やがて交差点に差し掛かった。信号も赤に変わる。
しかし、男はアクセルを踏み込み加速。
男の車は交差点を抜けることに成功したが、後続のパトカーは交差点から出てきた一般車に激突、中には乗り上げて横転するパトカーもあった。
何とか1台のパトカーだけが、男の車を追いかけている。
やがて目的地である高速インターの看板が見えた。
ところが、男の正面に赤く点滅する光が複数見える。
警察が検問をしいて男を待ち伏せたのだ。
男は検問を強引に突破しようとアクセルを踏み込む。
だが、警察も馬鹿ではない。男の車が通る場所を予想してスパイクを配置していた。
男がそれに気づいた時にはもう遅い。スパイクの上を通過し、タイヤがパンクしたことでコントロールを失い道路沿いの標識に激突、車は大破した。
頭を強く打ち、額から出血を起こしている男は、ヨロヨロと車から出る。
「両手を頭の上に置いて、地面に跪きなさい‼」
拡声器を使って警官が男に向けて命令を出す。
他の警官は拳銃を構え、男の動きに警戒。
現在、男が手負いだとはいえ、報告で「武装している」と事前に聞いていたので、いつにも増して緊張が走っている。
流石に怪我を負っている今、この警官の数を相手にするのは無理だ。
警官は繰り返し男に向けて命令を出す。
男は諦めたようにその場に座り込むと、ネックレスを取り出し、それをかじる。女が自決した時の物と同じネックレスだ。
男の頭部は吹き飛んだ。
〇
県警本部では、葬儀場付近で起こったことの報告を受けていた。
「こういうこと? 例の魔女が、私の声を使って
「そういうことだと思います」
刑事の1人が答えた。
まさか自分の声を使われるとは思っていなかったからだ。
同時に気掛かりなことが
「あの男は?」
「はい?」
「黒い方、
「それはまだ確認取れていま――」
答える最中に、無線の呼び出し音が鳴った。
大戸野が無線に出る。
「大戸野」
『報告します――』
無線の相手は長峰を監視していた刑事の1人だ。
葬儀場近くで、武装した外国人の男が検問を突破後に死亡したことを報告した。
すると、また別の無線から呼び出し音が鳴った。
「大戸野」
『黒富士組本部付近で銃声を聞いた、と通報がありまして。未確認ですが、ホワイトウィッチとブラックウィザードの車が目撃されています』
「何ですって⁉」
ブラックウィザードの車が現れたってことは、武が寮から出たということになるが、そんな報告は受けていない。
ということは、車だけが現場に有り、当の本人は居なかったのではないか?
「ブラックウィザードは居たの?」
『それもまだ確認できていません』
「――っ、早く確認しなさい!」
乱暴気味に無線を切ると、すぐに西嶋に連絡を入れた。
〇
白摩署の警察寮に近くに、「
そこから使い捨ての保護服着替えた武が降りると、急いで非常階段へ向かった。
そろそろ県警も現場にブラックウィザードが現れたことが報告されるだろう。
今はプロジェクターで人影を映し出しているが、報告を受けて見張りをしている刑事が尋ねて来たら、流石にバレる。
武は非常階段を上り、天井裏へ潜った。
覆面車の中で武の部屋を見張っている
そこへ無線の呼び出し音が鳴った。
「はい西じ――」
『――大下はどうなっているの⁉』
西嶋が返事を言い終える前に、無線から大戸野の怒号が遮った。
「お、大下なら部屋に居ますよ……」
『何ですって? 何でそう言えるの⁉』
「部屋に人影が――」
『――ちゃんと確認しなさい! ブラックウィザードが黒富士の屋敷付近で現れたの!』
「何ですって⁉」
覆面車を降り、急いで武の部屋に向かう西嶋たち。
武の部屋の前に来ると、西嶋が呼び鈴を鳴らした。
しかし、武は出てこない。
「おい、管理人の所に行って合鍵貰ってこい」
「はい」
刑事が部屋を離れた。
やはり武がブラックウィザードだったのか――
ジャー‼
「んっ?」
武の部屋から水が流れる音が聞こえた。恐らくトイレの水を流した時の音だ。
「……はいっ!」
中から返事が返ってきて、ドアが開いた。
「はい、どちら……あっ、西嶋さん」
「大下、本当に大下か⁉」
「何言ってんですか? どっかの警視さんの所為で、ずっとここに居ましたけど……」
「ちょっといいか?」
そう言って、西嶋は部屋の中に入ると、部屋の中には誰も居ない。
一応押し入れも見たが、あるのは布団だけだった。
「そ、そうだよな……。すまない」
「何かあったんですか?」
「実は、ブラックウィザードが現れたらしい」
「あらま。それで確認に?」
「そういうことだ。すまなかったな」
「いいえ。ご苦労様です」
そう言って西嶋は武の部屋から離れた。
そこへ合鍵を持った刑事が駆け寄る。
「合鍵を借りてきました」
「あっ、それなら大丈夫だ。トイレに入っていたせいで、すぐに出られなかったみだいた」
「そうだったんですか?」
無駄足踏まされた、と肩を落とした刑事と一緒に覆面車へ戻っていった。
西嶋が戻って行くのを確認すると、武は静かにドアを閉める。
(危なかったぁぁぁー‼)
武は緊張から解放された所為か、ガハー、と口を開けた。
実は、西嶋が訪ねてくる約1分前。急いでトイレの天井から中に戻った武は、保護服を脱ぎ捨て、顔の汚れを落とし、プロジェクターの電源をオフにした。
すると、プロジェクターが写していた人影が部屋の奥に向かいように動いて、そして部屋の電気が消える。
急いでプロジェクターを布団の中に隠して、トイレに置いた保護服を片付けたその直後に、西嶋が呼び鈴を鳴らしたのだ。
保護服を屋根裏に隠し、カモフラージュの為に水を流して返事を返した。
これが真相だ。
何よりも、サングラスが銃弾を防いでくれたおかげで、顔に傷ができなくて良かった。
元々レンズが顔に触れないようなタイプだったので、それも幸いしたことも大きい。
〇
県警の一室では、無線の前で大戸野が、今か今か、と西嶋の連絡を待っている。
やがて無線から呼び出し音が鳴り、大戸野は速攻で出た。
「どう? 大下は部屋に居なかったでしょ?」
何処か嬉しそうに尋ねる大戸野。
しかし、そんな上機嫌がすぐさま打ち消されることになる。
『いいえ、ちゃんと部屋に居ました』
「何ですって⁉ 他に誰かが居たんじゃないの⁉」
『それも確認しましたが、大下以外は誰も……』
大戸野は乱暴気味に無線のスイッチを切った。