1話 怪しい動き
翌朝の
席に座る荒松の隣には、髪型を角刈りにした目つきの鋭い男が立っていた。
荒松の弟――
特に2人の間に会話は無い。
ただ、人が来るのを待っている感じだ。
2人が待っていると、ドアがノックされた。
「入れ」
部屋に入ってきたのは
「失礼します」
岩屋が一礼すると、荒松の机の前に立った。
「お待たせしました」
「岩屋、資金が奪われたことについてだが、どうもウチのモンの誰かが流したらしい」
それを聞いた岩屋の目つきが鋭くなった。
「やっぱりそうですか……。それで、モグラの正体は?」
「いや、そこまではわかっていない。まだ探っている最中だが、時間の問題だ」
「そうですか……」
それを聞いた岩屋の表情に、僅かだが焦りが見える。
荒松はその僅かな動揺を見逃さなかったが、話を続けた。それ以上に重要なことがあるからだ。
「それよりも岩屋、
岩屋が気まずそうに荒松から視線を外した。
その態度からも分かる、上手くいっていない、と。
取引は明後日。何としてでも資金を提供してもらわないといけない。
「とっとと手伝いに行け!」
「わ、わかりましたっ!」
岩屋が慌てて荒松に頭を下げると、急いで部屋を出て行った。
その岩屋の後姿を睨む男が居た。
「兄貴、
博之は岩屋のことを信用していないようだ。
「そう言うなよ、あいつらのお陰で資金調達が出来たんだ」
「それが都合良すぎる、って言ってんだよっ‼ 確かにアイツが用意した
博之は荒松に向けて物凄い剣幕で怒鳴った。
しかし荒松は冷静だ。
「落ち着け。俺がそこまで馬鹿だと思うか?」
博之は眉をひそめた。
「アイツの黒は確定している。金さえ手に入れば、あとは
「まさか兄貴……?」
荒松は静かに微笑んでいる。
既に岩屋が裏切っていることを突き止めているようだ。
「何で分かったんだ、兄貴?」
「お前と同じ理由だ。それに、探りを入れていることがわかれば、きっと動きを見せるはずだ」
それを見て荒松の考えていることを悟った博之は、自分の後頭部をかいた。
○
岩屋が車を公園の駐車場に止めると、スマートフォンを取り出して勝田を呼び出した。
「まだ仕留められないんですか?」
『そうだ。奴は警察署から出ない』
「急いでくれないとこっちが困るんですよ」
『だったら手伝ってくれ。いいか――』
勝田が必要なことを岩屋に伝えた。
「待ってください。それだとウチの部下が
『そっちも時間が無いんだろ? 言う通りにした方が互いのためだぞ』
「……しかし」
『それもだが、本当に大丈夫なんだろうな? あんたには協力するが、組長さんがあんたを裏切っていることが分かれば、俺だってただじゃすまない。そうなったら取引はなしだ』
「それに関しては無用な心配ですよ。わかりました手配します」
『頼んだぞ』
ここで電話は切れた。
続いて岩屋は、スマートフォンでメールを打ち始めた。
その様子を窺う1台のワゴンの存在に気付かないまま。
岩屋はメールを送信した。
その頃、白摩署のトイレの個室に1人の男が居た。
受信したメールを確認し終えると、素早くスマートフォンを懐にしまった。
男は個室を出すると、
「おう
「あっ、すみませんトシさん」
「いや、別にいいよ」
「失礼します」
そう言って男――飛馬はトイレを出て行った。
壁の陰から