白摩署の刑事部屋では、
命令で署から出ることが出来ないので、やることと言ったらこれしかないのだが、正直この仕事は退屈でしょうがない。武は何度もあくびを繰り返していた。
「ハァー……」
だが、そんな退屈な気分を味わっているのは武だけではない。
かすり傷とはいえ、一応安静にするよう注意を受けているので、松崎も同じように現場に出ることができなかったのだ。
出る現場もないのだが……。
せめて何か希望を抱けるようなニュースでも入れば違うのだが……。
武がそんなことを考えていたら、松崎が武に話を振ってきた。
「ところで武、昨日の続きだけど?」
「またレイのことかよ……? 話しただろ、彼女とはオヤッさん絡みで付き合ってるだけ」
「そっちじゃない、馴れ初めの方だよ」
「馴れそっ……‼ ……まぁいいけど。オヤッさんのお通夜だよ」
「あんな美人居たか?」
「来て……あっそうか、あの時はベール付きの帽子を被っていたから」
(おまけに黒髪だったし)
「あー……」
納得してくれたようで、武は内心、ホッ、とした。
と思われたのだが――
「ちょっと待て! それじゃ、彼女からお前に話しかけたのか?」
「どういうこと?」
「どっちかが話しかけない限り、そんな出会いなんてありえないだろ?」
(ギクッ!)
レイに気がついて話しかけたのは武だ。
しかし、どうして声を掛けたのか、その理由が、ホワイトウィッチを見かけたから、とは言えない。
「……えーとそのぉ……。キレイな人だなぁ、って思って……つい」
武は頬を指でかく仕草をしながら、松崎から視線を逸らす。
「
「言い方っ!」
からかうような笑みを浮かべて言う松崎に対して、武は耳まで真っ赤だ。
別にそんな意味で話しかけた訳じゃないのだが、否定するにしても、何も言葉が浮かばない。
そんな武の携帯電話に着信が入った。
「はい大下」
『おう、アンちゃん俺だ』
電話の相手は情報屋の
「
『勝田はまだなんだけど、ちょっと気になることがあって、そっちを先に話しておこうと思ってな』
「気になる?」
『
「でも暴力団が血眼になって探す、ってことは、ただ出所祝いをしたくて探している訳じゃないよな?」
『その通り。幹部の
「何か根拠があるのかな?」
『聞いた話じゃ、昔勝田は小野田と幹部の席を巡って争っていた。その矢先に
「そうだよ」
『それをタレこんだのが小野田みたいなんだ。勝田がそれを知ったから仕返しをした、ってところだろうな』
やはり武の推理通り、小野田がタレコミの張本人だったようだ。
「完全に逆恨みだな」
『そうだな。それともう一つ気になる話があってな。北野組の頭痛の種は、どうやら勝田だけじゃないようなんだ』
「どういうこと?」
『話じゃ、北野組は勿論、その付近に居る天王会の傘下の組までも武装を強化しているみたいだ』
「かなり大規模だな。まさか、戦争でも始まるのか?」
『話じゃ、
「縄張りね……」
恐らく前にレイと一緒に奪った資金もそれに関係しているのだろう。
しかし気になるのが、ただでも色々切羽詰まっているはずの状況で、どうやって荒松組が北野組の縄張りを奪うのか?
「荒松が北野組の縄張りを狙う理由は?」
『北野組の縄張りが大分豊かになっているみたいでな。それを狙ったんだろう』
「でもそれ、下手をしたら天王会と
『そうなるな。だが、今の黒富士組に勝機があるとは思えねぇが……』
(もしかして、あの金を使って傭兵でも雇うつもりだったのかな……? いや、2億じゃ安いか……?)
傭兵のギャラまでは知らないが、2億円じゃたいした傭兵は雇えないような気がする。
そうなると、殺し屋だろうか?
北野組の人間を全員暗殺するのか?
(……分からん?)
武は、ガクッ、と首を傾げた。
いずれにせよ、金を抑えたので、荒松が何かすることはないだろう。
「ありがとう。また何かあったら教えてくれ」
『まかせな』
「よろしく」
そこで電話は切れた。
「誰からの電話だ、大下?」
「
「おい大下⁉」
「別に荒松組を追ってる訳じゃないですよ。勝田の手掛かりがあるかと思って北野組の情報を集めていたんです」
「北野組のことは本当なのか?」
「恐らく」
「県警に報告しないとっ!」
(はいはい、どうぞ……)
いつもの県警服従症に武と松崎は互いの顔を見合わせた後、「ハァー……」と深いため