サイレンを鳴らしながら適当にバイクを走らせる
正直、何処へ向かえばいいのか全く考えていないが、それでも勝田を引きつけるには十分のはずだ。
サイドミラーで後ろを見る限り、追手は見当たらない。
武は右の靴の
『はい、武様』
「野々原さん、緊急事態です」
『追われているんですか?』
「いいえ、まだ相手は――」
武がサイドミラーを覗くと、1台のセダン車が見えた。
ドライバーの顔はよく見えないが、明らかにこっちに殺気を向けていることから、間違いなく運転しているのは
「――現れました。青のセダン」
『武様、レイドマスターを向かわせています』
「どのくらいで到着しますか?」
『そうですね……白摩区内には、早くても30分はかかります』
「白摩埠頭に向かわせてください」
『白摩埠頭ですか?』
「そこなら時間稼ぎができます」
『かしこまりました』
「よろしく」
武は通信を切り、通信機を踵に戻した。
前尾の件以来、なんだかあの埠頭と腐れ縁でもできたかのような、何とも言えない変な気持ちになるが、近くに邪魔が入りにくい広い場所、さらに障害物が豊富にあって勝田をかく乱させることができそうな場所といえば、あそこくらいしか思いつかない。
「……本当に縁があるな、あの場所は……」
〇
隠れ家のサポート部屋では、野々原がコンピューターを使ってレイドマスターを白摩埠頭に向かうようにインプットしていた。
画面には、レイドマスターの現在地が出ている。
すると、サポート部屋のドアがノックされ、まだ変装したままのレイが入って来た。
「武は?」
「白摩埠頭に向かっています」
「あそこね……。間に合う?」
「間に合わせます」
別の画面にはレイドマスターに付けられたレーダーが表示されていた。
これは警察無線を搭載している車両を感知するレーダーで、パトカーが近くに居れば、すぐに分かるようになっている。
今のところレイドマスターの近くにパトカーは居ないようだ。
「ところで、さっき話していたお金のこと、本当なの?」
「はい、間違いありません。研究室にサンプルがあります」
「分かった」
レイはサポート部屋を出て行った。
○
白摩埠頭を目指す武のバイクを青いセダンが追いかけている。
ただでもサイレンを鳴らしたノーヘルの武が乗っている白バイだ、まだ人目につく通りなので、大勢の目を引くだろう。
うかつに武を銃撃すれば、それだけ目撃者が大勢現れる。
そうなれば逃げるのは困難だろう。
「さぁ、撃てるもんなら撃ってみろ」
武が余裕な気持ちになっていると、セダンの運転席の窓が開き、銀色に輝く銃が姿を現した。
バッチリ、フラグ回収である。
「ウソだろっ⁉」
焦った武は、白バイのアクセルを捻りスピードを上げる。
すると、運転席から顔を出した銃が火を噴いた。
発砲すると思われるタイミングで武は体を傾けて左に移動したため、弾は当たらなかったが、その後も勝田は武に向けて遠慮なく銃弾を放つ。
「何考えてんだ、あのバカ⁉」
今の勝田は、まるで獲物を視界に捉えて突き進む猛獣と化しているようで、周りが見えていないようだ。
ただ、ハードボーラーの
案の定、すぐに銃の姿が車内へと引っ込んだ。
問題は、予備の弾薬がどれだけあるか。
大量にあったら、流石に逃げ切れる自信はない。
白摩埠頭の守衛所が見え、武はアクセルを全開。
それに気づいた中年の警備員が、武を止めようと両手を振った。
「悪りぃ!」
そう言い残して、武は埠頭の中へ入って行った。
「あれ? あの人って刑事だったよな……?」
実はこの警備員は、前尾の時に武に尻餅を着かされた、あの警備員だった。
そのため、今でも武の顔をよく覚えていたのだ。
警備員が無線で武が侵入したことを報告しようとすると、警備員の横を勝田の車が猛スピードで通過した。
これはただ事じゃないと感じた警備員は、守衛所に入ると、電話の受話器を取った。
コンテナターミナルを走り抜ける武の白バイと勝田の車。
「……まだ来てないか」
見渡す限りレイドマスターの姿は無い。
このまま丸腰では、
武は何とか弾を避けようと、蛇行を繰り返して弾を避けていたのだが、その間にも、勝田の車から銃弾が飛んでくる。
そして、武をなかなか倒せない苛立ちがピークになったのか、とても狙いをつけているとは思えないくらいガムシャラに発砲してくる。
そうなると、武でも流石に避けきれず、勝田の放った銃弾が何発か白バイに命中した。
特に支障は無さそうだが、勝田を引き離さないと
せめてブラックウィザードの時みたいに、グラッピングフックがあれば、上手く不意をついて勝田を撒くことができるのだが。
そんなことを考えていると、視線の先に、コンテナを抱えた大型フォークリフトが見えた。
フォークリフトは、止まっているトレーラーにコンテナを積み込むところだ。
それを見て何かひらめいた武は、バイクのアクセルをいっぱいに捻り一瞬ウィリーするくらい急加速し、フォークリフトの方へ向かった。
このままでは、コンテナを抱えるフォークに武が激突するが、それでもスピードを緩めない。
勝田も、武を逃がすまい、とスピードを上げた。
フォークリフトが抱えるコンテナが目の前に迫った時、コンテナをシャーシに積み込むためにフォークが上昇。
武が狙っていたのはそれだ。
勝田はぶつかると思い、急ブレーキを踏んだ。
しかし、武はタイミングを計って、リアブレーキと体重移動で、わざとバイクを倒すと、そのままスライディングする形でコンテナを抱えるフォークの下を滑り抜けた。高さが足りなかったため、左のサイドミラーがフォークに引っかかって取れてしまったが……。
勝田の車は、ギリギリでフォークリフトにぶつかる前に止まった。
滑り抜けて勝田との距離を取ることに成功……したかに思えたが、この技は、まだマスターしたわけではなかったので、背中の一部が地面に接触した弾みでバランスを崩し、地面を転がってしまった。おまけに白バイは武を残して勢いよく滑り、遠くへ。
「痛ってぇ……」
白バイから落ち、体のあちこちをすりむいて痛むなか、武が勝田の車の方を見てみると、勝田の車が容易に目に入る。思っていたほど距離は取れていないようだ。
仕方なく武は、コンテナヤードに向かって走り出した。コンテナヤードの中なら入り組んでいるので、ある程度時間は稼げるからだ。