WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)   作:木村仁一

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8話 最悪の事態

 何とか中央のバースに出た(タケル)。ここなら勝田(かつた)を仕留めるにちょうどいい広さだ。

 すると、勝田の車がコンテナヤードから現れた。

 猛スピードなので、タイヤからスキール音を発しながらカーブすると、武に向かって来る。

 運転席の窓が開くと、そこから勝田が顔を出し、そして拳銃(ハードボーラー)を持つ手を武に向けて伸ばした。

 

「来やがったな」

 

 武も勝田に向けて拳銃を構えた。

 勝田の拳銃が先に火を噴いたが、車体の揺れと片腕で構えているせいで、なかなか照準が武に定まらず、半ばヤケクソで撃っているので、弾は武の周りに着弾している。元々能力を発揮しているので、武に向かって来る弾があったとしても、避けてしまうのだが。

 打って変わって安定した状態と能力を発動した武は、勝田の握る拳銃に照準を合わせると、すぐさま引き金を引いて銃弾を放ち、勝田の手から拳銃を弾き飛ばした。

 それにより武器を失った勝田。

 何発撃っても、武に当たらなかったのに、武は1発で銃を撃ち落とした。勝田にとってそれは、武が自分をおちょくっているように感じのだろう、頭に血が上った勝田は、アクセルを踏み込み、武に向かって車を走らせた。

 武は再び拳銃を構え、車のタイヤに照準を合わせた。

 あとは引き金を引いて、タイヤに弾を当てれば終わり――

 

 ポッ!

「あれ……?」

 

 ――だったのだが、銃から間抜けとも思えるような変な音が聞こえ、装填不良を起こしたようにスライドが半開きの状態になっていた。

 まさか、と思い、武は銃口の中を覗こうと銃を上向きにした瞬間、その理由が分かった。

 銃口から弾丸が少し頭を出し、詰まっていたのだ。

 

 これは〝スクイブ・ロード〟と言われる現象で、火薬不足、または火薬の劣化などで弾丸を押し出す力が不足し、銃身の中で弾丸が詰まってしまう現象だ。

 

「ちゃんと管理しておけよなぁ‼」

 

 武が文句を言うが、銃は使えない現実は変わらない。

 その間に勝田が運転する車は武に迫って来る。

 

「死ね、大下ぁぁぁー‼」

 

 勝田は、アクセルを踏み込み、車は猛獣のように武に迫る。

 

「そうだ!」

 

 もう逃げる余裕も無いが、武は諦めない。

 まだ武には切り札がある、こういう時こその――

 

「――スタント技!」

 

 武はタイミングを計ってジャンプ、勝田の車のボンネットの上に肩から着地し、フロントガラスから屋根へ、そしてトランクへと、頭を打たないように気を付けながら転がり、地面に着地した。

 実際に映画などでスタントマンが行う技だ。

 見た目は大変な事故の瞬間だが、地面の上を早く転がるような理屈で、車の上を転がることでダメージを抑える。頭を打たなければ致命的な事態は避けられるのだ。

 体力とタイミングを見計らう力が必要だが、取得できれば日常生活で信号無視の車が来ても最小限の被害で済む――という訳ではなく、トラックやワンボックスカーなど、車種によっては使えないので万能という訳ではない。

 更に着地の仕方にもコツが必要で、そのタイミングを間違えると、負傷してしまう。

 その証拠に、完全にこの技をものに出来ていない武は、左足を強く打ってしまった。骨折はしていないようだが、かなり痛い。

 勝田の車は、踵を返すようにターンし、再び武に向かって来る。

 痛みが走る為、先ほどのようにうまく着地するのは無理だ。

 逃げようとするが、怪我した脚が言うことを聞かない。

 武は轢き殺されて終わりだ。

 

「畜生!」

 

 最悪の事態を覚悟した武は、ギュッ‼ と目をつぶった。

 

 ガシャーン‼

 

 ものすごい衝突音が埠頭に響き、そして、地面には横たわる……勝田の車。正確には、ひっくり返った、と言うべきだろう。

 勝田の車をよく見てみると、後輪付近の後部が凹んでいる。

 当然だが、武は何もしていない。

 大破した勝田の車の次に武の目に入って来たのは、車をこんな状態にした張本人――

 

「レイドマスター」

 

 そう、レイドマスターが強化バンパーを使って勝田の車の後部に衝突したのだ。勝田の車もスピードが出ていたので、衝突した時にバランスを崩して横転してしまったのだろう。

 当然、レイドマスターは強化バンパーがあるので、かすり傷程度のダメージしか受けていない。

 武は安堵して、フー、と溜息をついた。

 しかし、それで終わりではない。

 車の割れたフロントガラスから手が伸び、地面を這う形で、勝田が外に出てきたのだ。重症のはずだが、それでも勝田は立ち上がり、更にポケットから飛び出しナイフを取りだした。

 

「タフだな……」

 

 武は脚の痛みに耐えながらも身構え、勝田の動きを窺い――

 

 バタッ‼

 

「アレ?」

 

 武がマヌケな声を上げた。

 勝田が崩れるように倒れたのだ。どうやら限界だったのだろう。

 そんな勝田の側に武は足を引きずりながら近づき――あまり近づき過ぎて不意打ちされる恐れがあるので、痛む方の足で勝田の頭を(つつ)いて――失神していることを確かめると、万が一を備えて勝田の両手に手錠を掛けた。

 そして武は、レイドマスターの運転席に近づくと、運転席の窓が開いた。

 

「サンキュー、助かったよ」

『《間に合って良かった。足は大丈夫?》』

 

 車内から武が変装の時に使う変声機の声が聞こえた。

 万が一誰かが来ていて、武との会話を聞かれたとしても、武のアリバイを固める為だろう。

 

「ちょっと打っただけだ、寝れば明日には治るよ」

『《ホントに?》』

「心配ない、っていうか、何か――……喋り方が俺っぽくないぞ」

 

 武は小声で注意をする。

 

『《えっ! コホン。それで、そこに居るのは――勝田って男だったのか?》』

「そうだ。それと、何処の奴だか知らないけど、チンピラっぽいのが3人、そっちは返り討ちにしたよ」

『《よく反撃できたわ……できたな?》』

「待ち伏せして銃を奪ったから。……メンテしなかったから、さっき死にかかったけど……」

 

 武は明後日の方へ向いて、ボソッと言った。

 

『《そのチンピラ、もしかしたら荒松組(あらまつぐみ)の人間かも》』

「ホントか?」

『《実は――》』

 

 すると、武の耳にパトカーのサイレン音が入る。

 

「後で聞く。ここは任せて、早く行って」

『《わかった》』

 

 窓が閉まると、レイドマスターは走り去った。

 それと入れ替わりに、覆面車1台とパトカーが2台到着。覆面車から鹿沼(かぬま)松崎(まつざき)が降りてきた。

 

「大下、大丈夫か?」

「何とか。それよりどうしてここが?」

「通報があったから、もしかして、と思ってな」

「それにしては、随分遅……いいえ、あっちに、勝田の協力者の荒――」

 

(――あれ、まだ荒松組って確定してないんだよな、これ)

 

「あら?」

 

 首をかしげて武に訊く鹿沼。

 

「えっ、いや、あら……いことをするどっかのチンピラぽい人間が3人向こうに居ますので、抑えてきて」

 

 そう言って、武はチンピラが居る方へ指をさすと、そこへ向かって警官が数人向かった。

 

「ついでにアレもね。――隆太(リュウタ)、悪いけど救急車呼んでくれ」

 

 武はそう言って、失神する勝田の方へ親指で指した。

 

「了解」

 

 松崎は、携帯電話で救急車を手配した。

 

「何があった?」

 

 鹿沼が武に訊いた。

 流石に、レイドマスターの援護を待つために白摩埠頭(はくまふとう)に来た、とは言えなかったので、勝田から逃げると同時に警察の応援を待てそうな場所、ということで白摩埠頭に来て、組員に関しては、返り討ちの機会があったと説明した。

 

「そうだったのか。それで、あのひっくり返った車は、どうしてああなった?」

 

 鹿沼は、ひっくり返った勝田の車を見る。

 

「さっき、トシさんたちとすれ違った車、気づきました?」

「あのSUVか?」

「例の魔法使い二人組の新車で、どういう訳だが、あれに救われたんです」

「何故お前を助けた?」

「こっちが訊きたいですよ。もしかしたら、奴らが勝田を狙っているのか、それとも何か別の目的でここに来たのか」

「……」

 

 鹿沼は、腕を組んで考える。

 

「ところでトシさん。爆弾騒ぎは?」

「おぉ、それなんだが……」

 

 パッとしない表情を見れば分かる。

 

「偽物だったんですね」

「……そうだ」

 

 予想はしていたが、やはり勝田が武を誘き出すための罠だったようだ。

 

「とにかく、勝田はパクったので、あとは吐かせれば無事に解決でしょ。そうじゃなくても、あの組員連中を――」

 

 言いかけた時、1人の警官が武たちに近づいて来た。

 

「すみません、大下刑事が言っていた3人の姿が何処にも……」

「何だって⁉」

 

 すると、武たちの耳に、エンジンのセルが回る音の後、車が発進する音が聞こえた。

 武が銃を奪った時に気絶させたチンピラが目を覚まして、車で逃げ出したのだろう。

 おまけに、出口の方へ向かうワゴンが見えた。

 

「あのワゴンを追って!」

 

 武が警官たちに命令を出すと、パトカーが追跡を始めた。

 

「……しまった。ワゴンのナンバー見るの忘れてた」

 

 ワゴンのナンバーを覚えておけば、後で手配できたのだが、勝田に追われていたので、そこまで余裕がなかったのだ。

 

「とにかく、署に戻って……その前にトシさん、俺も病院に連れてってください、足やっちゃって……」

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