病院で治療を終えた
「大下、足は大丈夫か?」
事前に武が、足を負傷していたので、治療してから署に戻る、と連絡していたのだ。
「ご心配をおかけしました。多少の打撲と、足は軽くひねっただけなので、テーピングしていれば支障はありませんので」
「そうか、それで
「
「病院? 重傷なのか?」
「はい」
「何があった?」
「それが……どういう意図があるのか知りませんが、例の魔法使いの仕業で……」
「何故あいつらが?」
「さぁ……? それで勝田が重傷を負ったんです。まぁ命に別状は無いと思いますが、確か
「なに、お前も病院に行ったんじゃなかったのか?」
「自分はトシさんに頼んで、近くの診療所の方で診てもらったので」
その時、武の携帯電話が鳴った。
相手は
「隆太、勝田はどうだ?」
『体のあちこちを強打したみたいだから今日一日は入院だけど、あれだけ派手にやってアレだけで済んだんだから、タフだよなぁ……』
「それはいいから、それで、いつ勝田の尋問ができるの?」
『まだ目が覚めないから、早くても明日以降になるのは間違いないよ』
「やっぱりそうか……隆太、勝田が逃げないように、しっかり見張っていてくれ」
『俺が?』
「見張りの警官をよこすように課長に言うから、それまでだよ。ところで何処の病院?」
『白摩総合病院だよ』
「わかった、よろしく」
武は電話を切った。
「課長、白摩総合病院に見張りをお願いします」
「手配しよう」
ドアがノックされ、鑑識官が入って来た。
「課長、2人の身元が判明しました」
「2人って?」
「あぁ、大下はまだ知らなかったな。実は
それなら武も知っている。白摩署から離れているが、署の駐車場の向かいにある3階建てのビルだ。
確かにあのビルなら、署の駐車場を狙うこともできるだろう。
鑑識官から身元を示した資料の束を受け取った宮元は、自分の席に座ると、机に資料を置き、目を通し始めた。
「本当なのか⁉」
驚きの声を上げる宮元。
武もその資料を覗き込むと、眉をひそめて顔を突き出した。
「
鑑識官は「間違いありません」と頷いた。
遺体の正体は、北野組の組員だった。
「どうして北野組? ――あっ、
武が呟くと、その場に居る全員が納得したようで、一斉に頷いた。
勝田からみんなを引き離す為に白摩署から離れる前、撃ち合いをしているような銃声が聞こえたことを思い出した。それと同時に、狙撃されたサラリーマン風の男のことも。
「あっ、そう言えば、あの撃たれたサラリーマンの男はどうなりました⁉」
「それなんですけどね……」
鑑識官が真剣な表情になると、資料の中から一枚取り出し、それを机の上に置いて、武たちに見せた。
それには、まさかのサラリーマン風の男の正体が記されていた。
「
サラリーマン風の男は荒松組の人間だった。
「でも何で、白摩署に荒松組の準構成員が?」
「それで話は戻ります。北野組の二人が倒れていたビルの屋上で、薬莢が二種類か見つかりました。45口径の拳銃弾の物と、308口径のライフル弾の物です」
鑑識官は別の資料を机に広げた。
それには、「45ACP」の薬莢と、「308ウィンチェスター」の薬莢の写真が載っていた。
308口径のライフル弾は、埠頭で見た勝田が持っていたライフルと同じ物で間違いない。
45口径は勝田が持っていたハードボーラーの物だと思うが、撃ち合いをしていたことを考えると、北野組の組員の物の可能性もある。
「ちなみに、北野組の組員も拳銃を持っていましたか?」
武が鑑識官に訊いた。
それさえ分かれば、大体の薬莢の持ち主の見当がつく。
「勿論、2人が持っていたのは、フィリピン製のリボルバーでした」
「ということは、この45ACPの持ち主は、勝田のハードボーラー……あっ、回収しましたか、ハードボーラーとライフル?」
「勿論。トリガーガードや弾倉が破損していましたが……」
「……それはすみません」
武が申し訳なさそうに鑑識官に言った。
「まぁ、ライフルマークの特定に支障はありませんので、あとは照合すれば片平殺しの物かどうか判ります」
(ハードボーラーの時点でほぼ確定だと思うけど……)
銃社会のアメリカとかならばともかく、日本で実銃のハードボーラーを持っている人間は他に居ないだろう。
それよりも、荒松組の準構成員が白摩署にいたことが気になる。そして狙撃されたことも。
勝田が荒松組の準構成員を何故撃ったのか……?
その時、埠頭でレイが言ったことを思い出した。
――その組員、もしかしたら荒松組の人間かも。
荒松組が勝田に協力していると考えると、武が出た答えは――
「間違って狙撃された?」
「……?」
周りの人間が一斉に武の方へ向いた。
「間違うって、何がだ?」
宮元が武に訊いた。
「いや、確信は無いんですけど、その準構成員は勝田に雇われて、自分が障害物などに隠れた時に引きずり出す役目をしていたのでは、と思って」
サラリーマン風の男(準構成員)の行動からして恐らく間違いないだろう。
「それなら、何故
当然の疑問だ。
まだライフルマークの鑑定はまだだが、準構成員の倒れ方からすると、例のビルから発射された物で間違いないだろう。
それを考慮して武が出した答えはこれだ。
「薬莢が落ちていたビルから署の駐車場までの距離は……大体70メートル……もっとあるかな? そんな遠距離を素人が一発で仕留めるのは難しいでしょう」
「何が言いたい?」
宮元の質問に武は答える。
「自分を狙ったつもりが、風向きの計算を怠ったか、スコープの調整不足、又はその両方で狙いを外して、偶々準構成員に当たったのかも」
「なるほど、確かにありえるな……」
武の推理を聞いて、宮元も納得した。
70メートル近い距離を、訓練をしていない人間が正確に当てるのはほぼ不可能。それは宮元でも想像がついたようだ。
「待てよ! それじゃ、大下が埠頭で言っていた勝田の協力者のチンピラらしき3人も、荒松組と関係が?」
鹿沼が思い出したように言った。
「ちょっと待ってくれ、荒松が勝田に協力している、ということか? 元々敵対関係のはずだろう?」
宮元が当然の疑問を抱いた。
元とは言え、何故、勝田に黒富士組系の暴力団が協力しているのだろうか?
武はレイから勝田の協力者が荒松組の可能性があることは聞いていたが、敵対する組が、勝田に協力する理由がわからない。
「もしかしたら、チンピラの方は、荒松と関係ない……元々の勝田の手下か何かだった、とか?」
その可能性も高いが、それだと、白摩署に居た荒松組の準構成員が一人だけ居たのは変だ。
答えがわからず、全員が、んー、と悩んだ。
「そうだ大下、あとで県警も来るから、埠頭であったことを話してくれ」
「分かりました課長。――あっ、そうだ!」
「どうした?」
「課長、未来ちゃんに勝田を抑えたことを話してもいいですか?」
「待て大下、まだ勝田が片平を殺した
「課長、ハードボーラーの時点で、
「大下、もし勝田が『拾った』とか言い訳されたら……」
「拾う方が至難の業の品物だと思いますけど⁉」
流石にその言い訳を真に受けてしまったら、正真正銘の馬鹿だ。
武はそう考えたが、直人を殺した相手の顔を見た人間が居ないことも事実、ここは完璧な証拠が固まるまで、宮元の言う通り、未来に知らせるのは待った方が良いのかもしれない。
それよりも、武の脳裏に過ぎったのは、埠頭のチンピラたちが、何かを仕掛けてくる可能性。
「課長、
「そうだな」
宮元が納得すると、刑事部屋のドアがノックされた。
「はい」
宮元が返事を返すと、入って来たのは県警の刑事たちだった。
「あぁ、来ちゃいましたね……」
聴取を終えて、刑事部屋に戻った武。
部屋には、未来を警護する
「終わったか大下」
「はい。ヘトヘトです……」
「まぁいい。勝田を抑えたんだ、明日の有休は予定通り、ゆっくり休むがいい」
「はっ! そうでした。明日はゆっくり――」
「――できるわけないだろ?」
「へ?」
突然、
「どういうことだよ?」
「お前考えてみろ。片平の妹さんが一人で色々やることがあるだろ?
「わかってるよそれくらい……」
飛馬の言う通りだが、何故アンタに言われなきゃならないんだ、と武は内心文句を言った。
結局、有休の計画は、勝田の所為で完全にパーになったということだ。