WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)   作:木村仁一

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10話 金の真相

 白摩署(はくましょ)の屋上に来た(タケル)

 変わらず県警の聴取は時間が掛かる。その証拠にもう夕方だ。

 いつも通り、周りに誰も居ないことを確認すると、レイに電話をした。

 

『待ってたわよ、武』

「やあ、埠頭では世話になったな。お陰で勝田(かつた)を抑えられた」

『それは良かった。でも、脚の方は大丈夫なの?』

「埠頭でも言ったけど、平気だよ。一応医者に診てもらったけど、数日で治る程度だって」

『フーン。それはいいけど……』

「なに?」

『どうして、警察署から出て囮になるようなことをしたのぉ⁉』

 

 鼓膜を破るのでは、というほどの声量が武の耳を突き抜けた。

 

「……それに関しては――」

 

 武は偽物の爆弾で誘き出され、更に勝田がライフルで狙撃を試みたことで被害者が出たので、やむなく囮になったことを説明した。

 

『そういうことなら、仕方ないわね』

「ご理解いただき、ありがとうございます」

『悪かったわね、怒鳴ったりして。それで、缶詰状態からは解放されたの?』

「それはバッチリ。ところで、埠頭で言いかけていたことがあったよな?」

『そう。私たちが奪ったお金の使い道がわかったの。グローブスファミリーって言うマフィアから武器を買うお金だったの』

「グローブスファミリー? 前に言ってた例のマフィアの正体か?」

『そう。北米のマフィアで、結構悪名高いみたい』

「わお! でも、武器を買うなら、武器商人の方がよくないか? 黒富士組ならそれくらいのパイプはありそうだけど? それに、マフィアって日本人とか見下して、無駄に吹っかけられそうな気がするし……」

『やっぱり武もそう思うわよね』

「勿論っ」

 

 その後、武とレイは「うん」と互いに声を揃えて納得した。

 

『でも、これを聞けば納得よ。グローブスファミリーは日本進出を狙っているみたいなの。もしかしたら、武器だけじゃなくて、マフィアと共謀して北野組(きたのぐみ)の縄張りを奪うつもりかも』

「なるほど。日本進出プラス2億で引き受けた訳ね。それを察知して北野組が武装を強化しているのか」

『知ってたの?』

「情報屋に勝田のことを調べさせていたら、その話が出たんだ……あっでも待てよ、資金を抑えたから、その話も無くなるか?」

『それは……ごめん、昨日連絡を受けた時に言うのを忘れてたんだけど、実は、資金の情報がわざと流れていた可能性があるの』

「どういうこと?」

『荒松に資金提供する人間が現れたのよ。私たちがお金を奪った直後に。それに』

「それに?」

 

『奪ったお金の内、1億が偽札だったのよ』

 

「偽札⁉ じゃ、片方のケースに入っていたのは囮用ってことか⁉」

 

 確か、最初に倉庫で爆弾入りの偽札ケースを奪った時は、ケースは1つだったので、本当は1億だったのかもしれない。

 

『可能性が無いとは言えないけど、囮を目的にするなら、並べて置くことは無いでしょ』

「それもそうか……」

 

 レイの言う通り、囮が目的なら、本物と偽物のケースを並んで置いたりしないだろう。

 そうさせる理由として思いつくのは、誰かがピンハネして、それを隠すために、わざと金を奪わせた。

 自分たちに金を奪わせれば、ピンハネした証拠は無くなる。

 こっちが荒松(あらまつ)に本当のことを言ったところで、相手は信用しないだろう。

 

「まんまと利用された訳だな、俺たち」

『そういうこと。悔しいけどぉ……』

 

 電話の向こうからでも、レイが悔しがっていることが伝わってくる。

 それは武も一緒だ。

 

「それで、提供者はわかったの⁉」

『それが……確証は無いけど、勝田らしいのよ』

「へぇー、勝田が――なにぃ⁉」

 

 まさかの名前が出て、武は大声を出してしまった。

 

『コラッ、声が大きい!』

「あっ、ごめん。でも本当なのか?」

『情報屋の話だと、その資金提供者が元北野組の人間って言ってたのよ、今のところ該当する人間は勝田くらいしか居ないでしょ?』

 

 確かに状況的には勝田しか当てはまる人間は居ない。

 しかし、根本的な疑問がある。

 

「いや待て待て、そもそも勝田が2億も持ってるのか?」

『……。確かに……』

 

 刑務所から出たばかりの、人間がそんな大金を持っていつとは考えられない。貯金をしているとしても、あり得ない金額だ。

 そう考えていると、武はあることを思い出した。

 勝田が北野組に襲撃されたことだ。

 幹部だった小野田(おのだ)を殺された報復に加え、資金のことを掴んだ北野組が、それを阻止するために動いたとすれば。

 

「そういうなら……」

『何か心当たりが?』

「実は、勝田が俺を狙った時、北野組の人間と撃ち合いしたんだ。幹部を殺した報復とも思ったんだけど、もし勝田が荒松に資金提供することを知って殺しにかかったとしたら?」

『それなら……。でも確証は無いわよね……』

「まぁ、それは勝田か北野の組員の口を割らせばいいか。ただ、両方目が覚めてないから……。それか」

『何?』

 

 武はレイにある提案をした。

 いつ目覚めるかわからない勝田や組員を待つより、そっちの方が手っ取り早く情報を得られる。

 

『危険すぎない?』

「でも確実だよ」

『わかった。あとで待機場所を連絡するね』

「よろしく」

 

 そこで武は電話を切ろうとした時、レイが更に続けた。

 

『それで話は変わるけど、明日の有休は予定通り、ってことよね?』

「それなんだけど……」

 

 武は言いづらそうな口調で続けた。

 

「勝田に殺された男の妹が、1人で葬儀とかの手配をしなきゃならないから、そっちを手伝いに……」

『なんですって?』

 

 レイの低い声が聞こえた。その声には怒りが含まれているような気がする。

 それもそうだ。明日の有休でレイと出かける約束をしていた。

 例の計画に関しては、レイにはまだ内緒だから問題無いが、それでも約束をすっぽかす結果になるのは事実だ。

 とはいえ、このまま知らん顔をしてレイと出かけても、全然楽しくないだろう。

 

『ねぇ武、その勝田に殺された男の妹……さんとはどんな関係なの……?』

 

(なんで?)

 

「関係って……別に何も無いよ。その兄貴の方と昔ちょっとあって、それで少し付き合いがある程度で……」

『付き合い……?』

「べ、別に男女の付き合いは無いよ!」

『本当……?』

 

(なんで彼氏の浮気を疑う彼女、みたいになってんの⁉)

 

「まぁ、そういうことだから、それじゃ!」

『ちょっと! ――』

 

 ここで武は強引に電話を切った。

 このまま話を続けても、まともに通じる感じがまったくしない。

 それよりも武にとって気になるのが、どうしてレイに、未来との関係が疑われたのか、ということだ。

 

                 〇

 

「今戻りました、お嬢さ――マッ⁉」

 

 買い物を終え、荷物を持ってリビングに来た野々原(ののはら)は、言葉を失った。

 そこには、目が赤く光り、白く長い髪はメデューサの蛇のようにウネウネし、どす黒い妖気のような物を全身から放っている、まるで妖怪のような……いや、妖怪化しているレイの姿がそこにあったからだ。

 その手に握るスマートフォンは、今にも握りつぶされそうだ。

 

「お、お嬢様、どうなさいましたか⁉」

「別にっ! 武に一方的に電話を切られたことには怒っているのよぉ! 誰も明日の武の有休が殺された被害者の妹と一緒に葬儀の手伝いをすることになって潰れたり、もしかしたら、その妹と何か関係を持つのでは、とか気になったりしている訳じゃないからっ!」

「本音がダダ洩れですよ、お嬢様……」

「おだまりジイっ‼」

 

 野々原を、キリッ、と睨むレイ。

 

「武様のことが気になるのでしたら、お嬢様もお手伝いに行ってみては?」

「見ず知らずの! ――それもそうね」

「忙しいですね、お嬢様……」

「でも、どうやって住所を調べれば……?」

「武様に訊けばいいじゃないですか?」

「どうやって訊くの? 唐突に、手伝うから住所教えて、とは言えないでしょ」

「それでよいのでは?」

「友達でも何でもない人の葬儀なのに?」

 

 レイの言う通り、武とは付き合いがあるとはいえ、相手とは何の関係もない。

 何か理由があればいいが、レイにはそれが浮かばなかった。

 

「まぁ……あっ!」

「どうしたの、ジイ?」

「忘れていました。実は武様に頼まれたダークスピーダーの改造を加えまして、それが昨日完成したんです。そのお披露目で早くお暇をもらいたい、ということであれば、武様も納得されるのではないでしょうか?」

「なるほど、流石ジイね……っていうか、最近ダークスピーダーをいじっていたのは、それが理由だったのね?」

「はい。装備に不足があると、武様から申し出がありまして。それと、武様にお渡ししたい物もありますので」

「わかった。それじゃ、明日の朝にでもメールを入れましょうか」

 

 先ほどのピリピリした雰囲気から一転し、少し上機嫌になるレイ。

 黒富士組(くろふじくみ)に復讐をするようになってからは、無表情が多かったレイが、こんなにリアクションが豊かになる姿を見るのは随分久しぶりだ。

 表情は崩さないが、野々原は内心ほのぼのしていると、次第に空気が変わった。

 レイが上機嫌になったのはいいのだが、次第に意地の悪そうに薄ら笑いに変わった。

 

「さぁて、どんな女か、その面拝ませてもらうわよ、フフフ……」

「……お嬢様、キャラが変わっていますよ……」

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