「何だとぉ⁉」
組長室で受話器を持つ
怒りで荒松が受話器を置くと、電話を掴んで床に叩きつけた。
このままでは、資金が手に入らず、取引に間に合わない。
怒り狂い、肩で息をしていると、今度は荒松のスマートフォンが鳴った。
「何だぁ⁉」
『おいおい兄貴、俺だよ! どうしたんだ、機嫌が悪いな?』
電話の相手は
「勝田がドジ踏んで
『そういうことか……』
「……?」
荒松は首を傾げた。
『実は、
「高飛び⁉」
『そうだ。どうやら
「1億⁉ なんでそんな金を⁉」
『それを今、しめて吐かせてる最中だ』
「何処に居る?」
『
「わかった、すぐに行く」
ここで電話は切れた。
荒松は部屋を出ると、部屋の外に待機していた組員に命令を出した。
「車を用意しろ、出かけるぞ」
「はい」
荒松の車が、博之の言われた場所に到着した。
元田工場跡がある場所は、濃い森林に囲まれた場所にあり、工場自体も町工場と言った方がしっくりくるほど小さい。
今は封鎖され、窓も真っ白く変色し壁は錆びて茶色くなり、夜中ならお化けでも出そうな印象だ。
それ以前に、いつ建物が壊れても不思議じゃないほど老朽しているので、ほとんどの人が危険を感じて入ろうとしないだろう。
荒松が中へ入ると、中には既に到着していた博之率いる組員数人が、床に横たわる小太りの男を取り囲んでいた。
床に倒れる男――周は、顔中血だらけになっており、相当リンチにかけられたことが見てわかる。止めは額に一発だ。
「どうなってる博之?」
「ちょうどいい兄貴。全部吐かせた」
「本当かぁ?」
「思った通り、っていうか兄貴もわかっていたと思うけど、やっぱり岩屋が情報を漏らしていたんだ」
「クソヤローがっ‼」
激怒した荒松が、周の頭に蹴りを入れた。
「それより、この金は何だ?」
荒松が、周の横に置かれていたケースを指さした。
「こいつと岩屋がピンハネした金だ」
「ピンハネ? ……、まさかこの金⁉」
「そう、
「そういうことか……」
薄々は気づいていたが、1億なんて大金があるとすれば、それしか考えられない。
この金の管理を任せていたのも岩屋なので、偽金にすり替えることくらい容易いだろう。
ということは――
「じゃ、それを隠すために金を魔女たちに奪わせて、隠そうとしたのか?」
「そういうことだ」
岩屋の意図が掴めたのはいいのだが、荒松には、まだわからないことがある。
「未だに分からないんだが、なんで勝田が周に声を掛けたんだ?」
そう、敵であるはずの周に、勝田が協力する理由が未だにわからないのだ。
そこで博之が推理したことを話し始めた。
「多分だけど、何処かで周の正体を知って、利用しようとしたんじゃないか? 協力者が居なきゃ、
「だから金で周を釣って協力させて、周はこの計画を立てた訳か……」
「まあ、そんなところだろうな」
まんまと利用されていたことに、再び腹が立ってきた。
そこで荒松が、ある重要なことを思い出した。
「ところで博之、岩屋の居場所も吐かせたんだろうな?」
「それなら心配ねぇよ兄貴。岩屋なら――」
「――お待たせしました」
博之が言いかけた時、入り口から声が聞こえた。
荒松たちがそっちへ向くと、そこには、組員に襟元を掴まれた状態で引っ張り込まれた岩屋が居た。
その岩屋の顔は、相当殴られたらしく、頬や目は腫れあがり、鼻からも血が出るほどだ。
「……オヤジ、俺が何したってんですか⁉」
「とぼけんじゃねぇ‼
「……俺は、何も知りませんよっ‼」
必死に荒松に訴える岩屋だが、荒松からしてみれば、ただの言い訳にしか聞こえない。
「
博之も岩屋を睨みつける。
「本当に……何も知らないです‼」
岩屋は否定することを止めない。
「その根性だけは認めてやるけどよ。2億を丸ごとパクったのはわかってんだよ⁉」
「2億……? 俺は1億しか……あっ‼」
うっかり口を滑ら滑らせてしまった岩屋に、荒松の口元が緩んだ。
「決まりだな……。始末しろ!」
「任せな」
博之が腰から拳銃を取り出すと、岩屋に照準を合わせる。
「まっ、待ってくれぇぇぇー‼」
バンッ‼ バンッ‼
博之が岩屋の心臓に2発撃ちこんだ。
それにより、岩屋のシャツが、心臓を中心に真っ赤な染みが広がっていった。
「それで、海にでも沈めておくか?」
「いや、丸ごとここを燃やしてやれ。抗争に見せかけるんだ。おまけに解体する費用も安くなるだろう」
「そうだね」
建物を出た荒松と博之。博之の手には、1億円が入ったケースが握られている。
その後ろでは、組員が何やら準備をしていた。
「問題は勝田をどうするか……? 博之、何か方法はないか? 勝田を連れ出す方法を?」
「連れ出す、って言っても勝田は
「そうだ。でも何とかして連れ出さないと、金が……」
荒松の問題が、まだ全て済んでいない。
勝田を警察から取り戻さなければ、マフィアとの取引が出来ないのだ。
半分の1億は戻ったが、それでは足りない。
「兄貴、半分は戻ったんだ。他の奴らから何とか半分集められないか?」
「……」
博之の言う通りだが、そう易々と1億も集まるとは考えにくい。
ただでも魔法使いたちに金を奪われたことが失態なのに、金を貸してくれ、と言っても素直に貸してはくれないだろう。勝田を取り戻した方が、難易度としては簡単のような気がする。
それに、勝田を取り戻すことで、もう一つメリットがある。
勝田に黙っていれば、1億円分が事実、浮くのだ。
「博之、勝田をパクった
「……。まぁ、やってはみるけど、かなり厳しいぞ?」
「いいからやるんだ」
「わあったよ」
投げやりのような返事を返した博之は、スマートフォンを取り出して情報屋を呼び出そうとした時、スマートフォンに着信が入った。
相手は博之が掛けようとしていた、
「何か掴めたか?」
『はい。組長の北野のことを調べていたら――』
情報屋の話を聞いて、博之は眉をひそめた。
「そういうことか……。引き続き頼むよ」
『わかった』
博之は電話を切った。
「誰からだ?」
「北野を調べている情報屋。このネタは使えるかもしれねぇ」
「どんなネタだ?」
「実はな――」
荒松に情報屋から聞いたことを話した。
もしかしたらこの後、北野組との戦争で役に立つかもしれない情報を。
第14章 END