1話 新情報
街の街灯や建物の灯りが目立ち始めた頃。とある2階建てのビルの前に、3人ほどの男たちが立っていた。
スーツを着込んで身なりがしっかりした者も居れば、中には派手な柄のシャツを着た男も居る。全員
そこへ1台の黒塗りのバンが止まった。
そして、2階へ直通の階段から1人の男が下りてきた。
年齢は50代くらいの強面のこの男が、天王会《てんおうかい》系・北野組の組長、北野《きたの》 隆志《タカシ》だ。
組員の1人が後部のスライドドアを開けると、北野は車に乗る前に、一度男たちに向き直った。
「おい、あとは頼むぞ」
「はいっ!」
北野の一言の後に、一斉に返事を返した組員たち。
それを聞いて一度頷いた北野は、車に乗り込んだ。
北野を乗せた車は走り出し、男たちはお辞儀をして見送った。
「ハァー、終わった」
さっきまで、キリッ、としていた3人が、一斉に気を抜いた。
「どうする、今日は飲みに行くか?」
「オッ! いいね。お前も来いよ」
「そ、それじゃ、遠慮なく」
他愛のない会話をしていると、3人をヘッドライトの光が照らした。
「何だ⁉」
眩しさに耐え切れず、3人はそれぞれ腕で光から目を遮る体制を取った。
すると、猛スピードでヘッドライトが3人に迫った。
3人が撥ね飛ばされる……寸前で車は止まった。
「何だテメェ⁉ おいっ⁉」
組員の1人が車に向かおうとした時だ。
「〈動くな〉」
3人の背後に、いつの間にかブラックウィザード――武《タケル》が立っていた。
陽動の為にレイドマスターを使ったのだ。
「何だ、お前⁉」
「〈ブラックウィザード。世間では俺をそう呼んでいる〉」
「うそ、あのブラックウィザード⁉」
何故かチンピラの男がテンション高めで言った。
「まさか、黒富士《くろふじ》組を襲っているアイツか?」
組員の1人が訊いた。
「おい待ってくれ、俺たちは――」
「〈――天王会の北野組。知ってるよ〉」
「じゃ、何の用だ?」
「〈訊きたいことがある。ここじゃなんだ。事務所に案内してもらおうか?〉」
「なに勝手に決めてんだ。とっとと失せろ――」
組員の1人がポケットから飛び出しナイフを取りだしたが、同時に武が素早く懐から拳銃・ファイブセブンを取りだし、3人に向けた。
その瞬間、3人は一斉にホールドアップした。
武に言われるがまま、事務所の中に入る3人。最後に銃を構えたままの武が入り、ドアを閉めた。
「〈すまないな。言う通りにすれば危害は加えない。それで、北野組《ここ》に勝田《かつた》って男が昔居ただろ。そいつについて訊きたい。勿論正直に話してくれれば、謝礼は出す〉」
武は左手で、懐から金を出した。それも100万円の札束だ。
札束を見て、一瞬3人の目が光るが、振り払うように左右に首を振ると、真顔に戻った。
「さぁ、知らねえな」
「そう、昔、幹部争いをしてた勝田なんて……」
「おい、バカ‼」
「あっ‼」
口を滑らせたチンピラが慌てて口を両手で塞ぐ。
冷静を装っても、このチンピラだけは正直だ。
「〈今日、お宅の組員が勝田を襲撃しただろ。小野田(幹部)の仕返しか?〉」
「……あぁ、そうだ」
小声だが、今度は組員が認めた。
このくらいなら話してもいいと思ったのだろう。
「あと勝田《あいつ》が北野《オヤジ》の息子を殺したから」
「〈息子?〉」
「バカやろー‼」
組員2人がチンピラをシメるが、なんだか妙にコミカルな印象を受ける。
それよりも、北野の息子が勝田に殺されたことは初耳だ。
(後で隆太《リュウタ》に調べてもらうか)
「〈それともう1つ。勝田はどれだけ金を隠し持っている?〉」
今度は、組員の1人が口を開いた。
「それはわからないよ。ただ、他の縄張りで荒稼ぎしていた、って噂はあったけど。むしろ俺たちも探しているくらいだ」
組員たちの表情からして、嘘は言っていないようだ。
「〈悪かったな。それじゃ〉」
武は、床に閃光弾を投げ、強烈な光を放った瞬間には、武の姿は事務所から消えていた。
「あのヤロー」
まんまと逃げられたことを悔しがる組員だが、テーブルに置かれた100万の札束はちゃんと置かれていた。
残された組員の1人が、武が残した金を手に取った。
「どうせ偽物だろうけど……」
閃光弾を使ったのだ、ただで情報を引き出してトンズラ、がお決まりだろう。
「んっ!」
武の置いていった札束を調べると、なんとお札は全部本物だった。
3人の間で変な空気が流れる。
全部偽物か、見えるところだけが本物の札束だと思っていたので、嬉しいような、欲に負けて買収されたような複雑な気持ちが募った。
〇
レイドマスターを運転する武は、無線でレイに連絡を入れていた。
『それで、収穫はあったの?』
「〈北野の息子が勝田に殺されたらしい〉」
『何ですって⁉』
「〈俺も警察もそんな情報は掴んでないけど、どういうことなんだ?〉」
『もしかして、幹部だった小野田《おのだ》、って男が隠し子だったとか?』
「〈それは無いんじゃないか? とにかく、腕利きの情報屋にも頼んでみよう〉」
『それもありかもね……ねぇ、武』
「〈どうした?〉」
『明日、被害者の妹さんの所に行くのよね?』
「〈そうだけど〉」
『その妹《こ》の住所教えて?』
「〈どして?〉」
何故未来の所に行きたいのか理由がわからない武は、首を傾げた。
『実は……えーと……じ、ジイが新しい装備を早く渡したい、って言っていたから、私も手伝いに行こうと思って、その方が早く終わるでしょ?』
「〈
(もしかしてアレかな?)
前にリクエストした装備が頭に浮かんだ。
確かに武は早く装備を受け取りたいが、野々原が急ぐ理由がわからない。
「〈そんなに急ぐ用事なの――〉」
『いいから早くっ‼』
何故か急かされた為、レイに住所を伝えた。
〇
とあるアパートに向かって歩く男が居た。
日下《くさか》だ。
ここが彼の住居の1つで、今日はここに寝泊まりする日だった。
日下が敷地内に入ろうとした時、ヘッドライトの光が日下を照らした。
眩しさに腕で目を覆う日下。
ヘッドライトの持ち主は、大型のSUV車だ。
それから誰かが降りて、日下とヘッドライトの間に移動した。
眩しさが軽減され、日下が腕を下ろして相手を見ると、相手は全身黒ずくめ、サングラスとネックウォーマーで顔を隠した男が、日下に近づいて来た。
「〈日下だな〉」
「誰だ?」
「〈ブラックウィザード〉」
「あんたが⁉ 何で俺の名前を⁉」
「〈えっ⁉ えーとー……あぁ、
「他を当たんな」
「〈せめて聞いてから言ってくれ!〉」
こんな奴の依頼なんて聞いたら、命が幾つあっても足りない。
本能的に危機感を覚えて断ろうとした。
「〈これ前金〉」
そう言ってブラックウィザードは、懐から20万ほどの札束を出してきた。
「それで、何を調べりゃいいんだ?」
「〈手の平返し早いなぁ〉」
「うるせぇ」
ろくでもないことを調べられる気がするが、それなら内容によって断ればいい。20万も見逃すのは惜しいが、それも仕方ない。
そんな心配をしていたが、ブラックウィザードの依頼は、北野組の組長・北野の息子が勝田に殺されたことの事実確認をするように、ということだった。
その程度なら問題無いだろう。
もう1つが問題だ。
勝田が持っているという隠し資産のことも調べて欲しいと言われても、かなり難しい。
そもそも、資金とは何のことだろうか?
「時間が掛かるぞ?」
「〈時間は掛かってもいい。調べてくれ〉」
「それで、あんたの連絡先は?」
「〈それなら白摩署の大下《おおした》に情報を渡してやってくれ。あの刑事《デカ》も掴んでいない情報だ〉」
「なんでアンちゃんに?」
「〈あいつに伝われば、俺にも伝わる。それが確認出来たら、もう半分の報酬を払うよ〉」
そう言って、ブラックウィザードは車に乗ってその場を離れていった。