WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)   作:木村仁一

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2話 お邪魔します

 翌日、昼前の白摩(はくま)署の刑事部屋では、松崎(まつざき)が自分の席に着いた。

 昨晩、勝田(かつた)のガードに参加していたので、今、仮眠から起きたところだ。

 そんな松崎の携帯電話に着信が入った。相手は(タケル)だ。

 

「どうした武?」

隆太(リュウタ)、ちょっと調べて欲しいことがあるんだ』

「調べる、って何をだ?」

『実は、情報屋の日下(オッチャン)から聞いたんだけど、北野(きたの)組の組長の息子のことを調べて欲しいんだ』

「北野組の組長の息子? 何か事件?」

『そうだ。北野の息子が勝田に殺されたらしい』

「何だって? そんな話聞いてないぞ?」

『俺もだよ。朝電話があって、その話を聞いたんだ。しかもそれを日下(オッチャン)に調べるように依頼したのが、ブラックウィザードらしい』

「アイツが⁉」

日下(オッチャン)も調べるみたいだけど、一応そっちでも調べてくれないか?』

「わかった、やってみるよ」

『それともう一つ、勝田が隠し持っている資産についても調べて欲しい、って頼まれたみたいなんだ』

「資産?」

『俺もよく分からないんだけど、もし分かったら教えてくれ』

「了解。それで武?」

『なんだよ?』

「今日行くんだろ、未来って()の所。大丈夫なのか、美人な彼女に、誤解されるかも?」

 

 修羅場になることを想像したのか、松崎の顔がニヤッとする。

 

『安心しろ、彼女も一緒だ』

 

 ここで電話は切れた。

 

「……。お(うち)デートかよ、武のヤロー……‼」

 

 嫉妬に狂った松崎が、携帯電話を強く握りしめ、目から血の涙を流していた。

 

「落ち着け、松崎。血が無くなるぞ?」

 

 宮元(みやもと)が言ったが、松崎の血涙は止まらない。

 

                 〇

 

 未来(ミク)のアパート近くのコインパーキングに、バイクに乗った武が到着。

 アパートの駐輪場を借りるという手もあったが、アパートの住人じゃないのでそれは遠慮した。

 武が時計を見ると、間もなく15時、レイとの約束の時間だ。

 14時頃に、一度安定剤を打たないといけないので、この時間になった。

 すると、1台のクライスラーがコインパーキングに入って来た。

 レイの車だ。

 車から降りてきたレイの恰好は――

 

「なんか、可愛いな……」

「うるさい……」

 

 ――明るいピンク色の作業着で、髪の色は硲署に連れていかれた時と同じ、黒に近い茶髪だ。

 

「武の方も……っていうか、ただのライダースーツよね?」

「借り物だけどね」

 

 武が今着ているのは黒のライダースーツだ。と言って、中は普通の白TシャツとGパンだが。

 

「それで、妹さんにはちゃんと連絡したんでしょうね?」

「勿論、いきなり行ったら流石に失礼だろ。まぁ、未来ちゃんから『まだ葬儀の準備は先で、直人の遺品の整理だけだから来なくても大丈夫』って言われたけど、それでも1人に出来ないから、って言ったら納得してくれ……て……」

 

 レイの方を見ると、頬を膨らませて不機嫌な顔をしていた。

 

「本当にゴメン、今日の予定台無しにして……」

「別に……怒ってないから安心して……!」

 

 そう言うレイだが、表情が不満でいっぱいだ。

 

「そもそも遺体がまだ戻ってないなら、手伝うことも無いんじゃない?」

「そうだけど、もし勝田が荒松(あらまつ)と繋がっているなら、何か未来に仕掛けて来るかもしれないだろ?」

 

飛馬(ひば)がやたらとウッサかったのもあるけど……)

 

「確かに。そうじゃなくても、大切な家族が殺されたら、色々気が滅入って、最悪自ら南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)して――」

 

 レイが遠い所を見るように目を細めて、黒いオーラを放ちながら言った。

 他から見たら、呪いをかける魔術師か何かのよう。

 

「――縁起でもないこと言うなっ‼」

 

 武が瞬時にツッコミを入れた。

 

 未来が居る部屋のチャイムを鳴らした武。

 すると、「はーい」と未来の声が聞こえた。

 

「大下だ」

 

 武の声を聞いて、未来が玄関のドアを開けた。

 

「やぁ、お邪魔するよ」

「こんにちは、大下(おおした)さ――んっ‼」

「んっ、どうしたの?」

 

 突然、驚いたように未来が、ビクッ、と身を震わせたことで、武が未来の視線の先を辿って後ろを振り返ると、そこには笑顔なのに禍々しいオーラを放つレイが立っていた。

 

「あぁ……未来ちゃん、彼女はレイ……チェル。未来ちゃんのことを話したら、どうしても、って」

「よろしく……。レイでいいわよ、未来ちゃん……」

 

 妙に圧を掛けるような口調のレイに、次第に未来は怯えだしていた。

 

「えーと、あっ、に、日本語上手ですねぇ、レイさん……」

 

 何とかコミュニケーションを取ろうと、未来が口を開いた。

 

「ありがとう。でも私、こう見えても日本人だからね?」

「……ご、ごめんなさい」

「レイ、その辺にしてぇ‼」

 

 慌てて武が、今にも泣き出しそうな顔をする未来とレイの間に割って入った。

 部屋に入って直人(ナオト)の遺品を整理する武とレイ。

 私物が少ないので、早く終わり……というより、あまりやることが無かった。

 

「ふぅー、これで終わりね?」

「あっはい! ありがとうございます!」

 

 玄関でのことでレイに対する怯えがまだ抜けない未来は、まだどこかオドオドしていた。

 あまりにもやることが無かったので、部屋の掃除も手伝う武とレイ。

 武は窓拭きをしている。

 普段から寮で使っている自分の部屋の窓も、自分でやっているので、窓拭きくらいはお手の物だ。

 部屋の中を改めて見渡すと、中は綺麗になっている。

 半分は未来もやっているのだが、残りはレイが掃除をしていた。

 料理の腕が優れていることは知っているが、身の回りのことは、全部野々原がやっている感じだったので、レイ自身は掃除などが苦手なイメージだったのだが、そうではないらしい。

 改めてレイの女子力を目の当たりにして、レイが女であることを自覚し直した。

 

「ちょっと、手が止まってる!」

「あっ、悪い」

 

 レイに注意され、窓拭きを再開する武。

 

(本当に、勿体ないな。未来ちゃんも良い奥さんになりそう――)

 

 そう思いながら乾拭きしようとした時、武の手が止まった。

 窓を通して見た先にある、別のアパートの陰から、こちらを覗く人影が見えた。明らかに、こっちを監視している。

 相手も武に自分の存在を気づかれたことを察したのか、慌ててその場を離れて行った。

 武は、タオルをその場に置いて、玄関へ走った。

 

「どうしたの、武?」

 

 武は何も言わずに、急いて靴を履いて玄関の外へ。

 怪しい男が居たところまで走って来たが、既に男の姿は無かった。

 未来の部屋を覗いていたのは間違いないが、一体何者だろうか。

 

「どうしたの、いきなり飛び出して?」

 

 武のことを追いかけてきたレイが尋ねた。

 

「誰かが部屋を覗いてたんだ」

「監視されてたの?」

「間違いない。俺に気づかれた瞬間に逃げやがった」

「ということは、誰かが未来(彼女)を?」

「多分……。やばいな、署に連絡して――」

 

 武が携帯電話を取りだして松崎を呼び出そうとした時、武の携帯が鳴った。

 相手は松崎だ。

 

「隆太」

『やぁ武、北野の戸籍を調べたら、離婚した妻と2人の子供が居ることがわかったぞ』

「妻と2人の子供?」

『それも驚いたことに、その別れた妻の名字が、()()なんだよ』

「なにっ⁉」

 

 直人と同じ名字、そして子供が2人と聞いて、武は直感した。

 

「直人は北野の息子なのか⁉」

『その通り。まぁ、離婚の理由は、暴力団のいざこざに巻き込まないようにするためだろう』

 

 ということは、未来は北野の娘ということでもある。

 そこで武はあることに気づいた。

 

「隆太、トシさんは居るか?」

『居るよ。代わるか?』

「頼む」

『何だ、大下?』

 

 電話から鹿沼(かぬま)の声が聞こえた。

 

「トシさん、勝田のことだけど、どのくらい覚えていますか?」

『ある程度は』

「それじゃ、勝田が北野組に入った時期も知っていますか?」

『確か……そうだ、お前が関わった例の事件のおよそ5年前くらいだ。結構スピード出世をしたみたいだけど……』

「北野が離婚した時期はどのくらい前か、隆太に訊いてください」

『それなら聞いているよ。確か……20年くらい前だ』

 

 これで分かった。勝田は北野の息子と知らずに、8年前の事件に巻き込んだのだ、と。

 直人が北野の息子だということは後で知ったかもしれないが、今の勝田にはもう関係は無い。

 

「なるほど、もしかしたら、さっきの男は……?」

『男?』

「実は、未来ちゃんの部屋を覗いていた奴が居たんです」

『本当か? 相手は?』

「分かりません。気づいて追いかけたんですけど、もう……。未来ちゃんには――しまった、未来ちゃん1人だっ‼」

「大変‼」

「すまないトシさん、誰かよこしてくれ‼」

『おい――』

 

 電話を切ると、武とレイは、急いで未来の所へ。

 玄関のドアを勢いよく開けて中に入ると、未来がリビングに居た。幸い何事も無かったようだ。

 

「どうしたんですか、急に?」

「未来ちゃん、最近ストーカーとかの被害に遭ってない?」

「いいえ」

「……そう。それじゃ、単刀直入に訊くけど、未来ちゃんのお父さん、どんな人か知ってる?」

「それは……」

 

 未来が口ごもってしまった。

 

 武とレイと未来が、リビングのテーブルを囲み、詳しい話を聞いた。

 

「知ってるんだね?」

「……はい」

 

 どうやら未来は、父親の正体を知っているようだ。

 そして武は、先ほど松崎から聞いたことを未来に尋ねた。北野が暴力団の組長の部分は伏せてだが。

 

「はい、確かに私の父は、北野という人だってことは、母から聞いています」

「それで、お父さんのことは、何処まで知ってるの?」

「……」

 

 未来は黙り込んでしまった。

 確実に何かを知っているが、話すとマズい、と思っているのだろう。

 

「大丈夫だよ、未来ちゃん。正直に話して」

「……。実は……私の父は暴力団の組長で、離婚したのも、それが原因だと」

 

 どうやら未来は、北野が暴力団だということを知っていたようだ。

 

(そう言えば、刑事になってから、殆ど連絡しなくなったな……)

 

 それも直人と未来なりに武に気を遣ったのだろう。

 確かに暴力団の関係者と接点があれば、懲戒解雇や刑事処分になる可能性はある。

 とはいえ、絶縁している場合はどうなのだろうか?

 

「でも、信じてください! 私もお兄ちゃんも、暴力団とは何も関係ありませんからぁ!」

「そう必死になると、逆に怪しいわよ?」

「えっ、あわわぁ……‼」

 

 レイのツッコミに、未来は軽くパニックを起こしてしまった。

 

「レイ、その辺にしてっ!」

 

 武が制止するが、お構いなしにレイは続ける。

 

「それで、他にアナタが、暴力団の娘だ、って知ってる人は居るの?」

「……。一部の人には、何故かバレていて……学生のことは歯がゆい思いをしたことはあります。お母さんも死んで、それで、私もお兄ちゃんも仕事が見つからなくて、お金も無くて……」

「それで、直人はあの話にノッた訳か」

「……はい」

「アハハ……」

 

 武と未来は、互いにそっぽを向く形で苦笑いをした。

 

「あの話、って何?」

「ドキッ!」

 

 尋ねるレイに、武と未来が、ビクッ、と身を震わせた。

 

「何を隠してるの、武くん?」

「ベ、別に隠しては……」

「……」

 

 レイの無言の笑顔が武に迫る。

 まるで「怒らないから正直に話しなさい」と言って、後でしこたま怒る母親のような感じだ。

 

「正直に言うけど、幻滅しない?」

「内容による」

「まぁいいけど。俺、高校の時に親父と揉めて、グレてたんだ。それで、割のいい仕事はないかな? と思ってたら――」

 武は8年前のことを話し出した。

 直人との初めての出会い。

 そして、あの人とのファーストコンタクトだ。

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