そこにあったテーブルの上には、1つの腕時計が置かれていた。
この腕時計は、普段武が使っている物と同じ物だ。
「まずは、こちらです」
そう言って野々原は、武に腕時計を渡した。
「お揃いですね」
「3つほど細工をしました。まず、録音機能、メニューボタンを六回押して、決定ボタンを押すと、録音が開始されます」
「録音時間はどのくらいですか?」
「最長で1時間は出来ます。録音データは、ペアリングしたコンピュータで引き出せます。そして、時計の両端を同時に押しますと――」
野々原が時計の両端を押すと、時計の上部が開き、中から鍵のような物が顔を出した。
「おぉ……」
「手錠や南京錠程度の簡単な鍵なら、これで開けられます」
飛び出した物は、万能キーだった。
「そして、もう1つ」
野々原は、時計の本体の下部のベルトを掴みながら、本体を無理やり左にズラすと、本体の下から小さな薄い正方形の機械が出てきた。
「これは?」
「こちらは小型発信器になっております」
武は子供のように目を光らせる。
まさに男のロマンが詰まった一品だ。
「それと、こちらも完成しております」
武は野々原と一緒にダークスピーダーの所へ。
運転席の隣に立った武の目に入ったのは、以前には無かった、長方形の浅い溝がフロントのトランクの左右にあることだ。
溝は縦になっており、一見するとエアインテークに見えなくもないが、ダークスピーダーのエンジンは後ろなので、エアインテークではない。
「こちらを」
野々原は、武にダークスピーダーのキーを渡した。
キーには、今まで無かった長方形のキーホルダーが付いていた。
キーホルダーの真ん中の部分にあるカバーを上へスライドさせると、その中から「赤」と「黄緑」と「白」の三色のボタンが現れた。
「モードの方は?」
「武様のご注文通りに設定しています」
「確認したいんですけど、いいですか?」
「勿論です」
「では早速」
武が赤いボタンを押した瞬間、フロントのトランクにあった例の溝の底が内側へスライドし、下からサブマシンガンくらいの大き目の銃が上昇してきた。
両方の銃の側面には、「青、黄緑、赤」のランプが横に並んで付いており、今点灯しているのは赤だ。
「武様、こちらを」
野々原は、ポケットからコインくらいの大きさのワッシャーを取り出し、武に渡すと、武はそれをダークスピーダーの前に向かって飛ばした。
バンッ‼
左側の銃がワッシャーを瞬時に撃ち落した。
これは武が野々原に提案した新しい兵器、小型セントリーガンだ。
装弾数は各50発になっており、本体の上部にサブマシンガン――正確にはPDW――のP90に使われる独特の形状をした
弾薬は武の愛用しているファイブセブンと同じ、5,7ミリの弾を使い、貫通力も抜群。
ルームミラー付近に探知センサーが搭載されており、動く物を自動で攻撃する銃だ。
鬼柳の時のように、素早く動く車など、固定マシンガンでは狙いがつけられない相手でも、これなら容易に攻撃できる。
先ほどは標的が1つだったので、左側しか銃撃しなかったが、標的が多い場合は、左右の銃が、それぞれの標的を捕捉し、銃撃する仕組みになっている。
ただし、「赤」の自動だと、動く物を無差別に攻撃してしまうので、時と場合を考えないといけないが、勿論他にも攻撃方法がある。
武は更に、キーホルダーの黄緑色のボタンを押した。
セントリーガンの側面の赤いランプが消え、今度は黄緑のランプが点灯した。
そして、武はキーホルダーの底の部分をダークスピーダーの前の方にあるガレージの扉へ向ける。
キーホルダーのそこからは青いレーザーが出ているのだ。
扉に当たるレーザーの光を適当に動かすと、左右のセントリーガンもそれに合わせて動いた。
黄緑色のボタンは、レーザー誘導モードだ。
「レーザー誘導も完璧ですね。流石、野々原さん」
「恐縮です」
「さて次は――」
武は運転席のドアを開け、席に座ると、スピードメーターの上に置かれた、何時も武が変装の時に掛けているサングラスを掛けた。
ハンドルとシフトレバーの間近くを見てみると、新しく設置されたセントリーガンに関係する3つのボタンがL字状に並んでいた。
「赤」はキーホルダーと共通で自動攻撃モードだが、車内のボタンには黄緑色のボタンは無く、代わりに青色のボタンがあり、その隣に白のボタンがあった。
青い色の押すと、セントリーガンの黄緑色のランプが消え、青色のランプが点灯すると、武のサングラスの中心に照準線が表示された。
武が顔を左右に動かすと、武の視線に合わせてセントリーガンも動き出した。
サングラスと連動してセントリーガンも動くようになっているのだ。
実際に軍の攻撃ヘリなどに使われている、
武の要望通りだ。
「他にも前に見ていただいたEMPや、後方攻撃用のナパーム弾とフラッシュをつけました」
「3つも!」
確かによく見ると、セントリーガンのボタンの下に『EMP』とリア・ナパームを略した『R・N』と『
「ナパームは初めて見ましたけど、何処から?」
「ナンバープレートからです。1発だけだと火力が弱かったので、2発同時発射タイプにしました。フラッシュは後方に激しい光を放つことで相手の目を眩ませることが出来ます。夜しか効果を発揮できませんが、これで追手の足止めができます」
守りの装備が皆無だったダークスピーダーは、今まで高速道路を使って、スピードで振り切るしかなかったが、これでその必要がなくなる。
それだけでも、だいぶ楽だ、
「他にご要望がありましたら、ぜひ」
(むしろ、これ以上の装備があるの?)
そんなことを考えていると、武はあることを思い出した。
運転席から降りると、武は野々原と向き合った。
「野々原さん、つ提案があります」
「何でしょうか?」
「レイが安定剤を打つ時の注射器ですけど、あれを何とかできないでしょうか? 例えば、吸入器みたいにしてみるとか?」
「吸入器ですか……」
吸入器にすれば、喘息持ち、と言い訳が出来るし、周りを気にすることもない。
何より、首の傷も次第に落ち着くだろう。
そう思っての提案だったのだが、野々原は難しい顔をして顎に手を添えて考えていた。
「あの……やっぱり直接注射しないと、効果が無いんですか?」
「えっ? あっすみません。試したことがなかったので、今度試してみます」
(良かった、的外れな提案で呆れられたのかと思ったぁ‼)