ベッドで横になっていたレイが目を覚ました。
「……うー、気持ち悪い」
とりあえず作業着から普段着に着替えると、部屋を出て行った。
一階のリビングの方へ向かうと、ちょうど
「ジイ……」
椅子に座ると、ダラー、と背もたれに寄り掛かった。
「はい、お嬢様」
予測していたみたいに、レイの前にスポーツドリンクの入ったコップを置いた野々原。
レイはそれを一気に飲み干すと、酔いが完全に醒め、次第に意識がハッキリしてきた。
そして、次第に記憶も戻っていき――
「ハッ‼」
自分が先ほど武に対して行ったことも思い出してきた。
無防備な姿を晒したり、弱音を吐いたり、挙句の果てには、武がとても輝いて見え、そして……。
「……‼」
レイは両手で顔を覆いながら、パニックを起こし、何かを叫んだ。
「お嬢様、どうなさいましたか⁉」
今まで見たことがないレイの異常に、流石の野々原も動揺を隠せなかった。
レイは両手で顔を覆ったまま、俯いた。
(一生の不覚……)
「…………して……」
「はい?」
「ジイ、私を殺してぇぇぇ‼」
レイは目をグルグル回しながら狂い始めた。
「お、お嬢様、落ち着いてください!」
レイを必死に宥めようとする野々原だが、レイの錯乱は止まらない。
〇
寮に戻った武は何処か落ち着かない様子だ。
未来の側に飛馬が居ることもそうだが、何よりレイのみっともない姿を見てしまったことに対する罪悪感のようなものが頭から離れないのだ。
もしも、レイが酔いを醒まして、あの醜態のことを思い出したら……。
絶対に当たりがきつくなるか、口も利いてくれない気がする。
やはり心配だ。
レイに電話をかけようと考えたが、まだ寝ていたら申し訳ない。
野々原に直接電話をしたいが、そもそもレイの隠れ家の電話番号を知らないので無理だ。
他の連絡手段は靴に仕掛けた通信機だが、流石に悪い気がする。
どうするべきか考えていると、武の携帯電話にメールが届いた。
相手はレイからだ。
連絡して欲しい、という内容だったので、武は早速レイに電話を掛けた。
「もしも――」
『――たけるぅぅぅ‼』
レイのどデカい声が武の耳を突き抜けた。
「いきなりデカい声を出すな。耳痛てぇよ……」
『それより、さっきのことだけど! あの、えーと……なんて言うか……。もしかして私、武にアレしちゃってた⁉ 私全然覚えてないの‼』
「アレって何?」
『アレはアレよ‼』
アレ、と言われても、色々思い当たることが多いのだが、ここまでレイが慌てることを考えると、思い当たるのは、あと数センチまで迫ったレイの唇のこと。
触れる直前で眠ってしまったのだから、レイが覚えていないのは当然だ。
「もしかして、キスのこと?」
『――‼ もしかして、やっぱりぃ⁉』
「安心して、する前に寝ちゃったから未遂だよ」
『……はぁ、良かった』
(あからさまに、ホッとされてもなー……)
『――って言うか、ゴメン。困らせちゃって』
「……」
『何よ、黙っちゃって?』
「いや、随分素直だな、と思って」
『うるさいっ! 今日のことは忘れなさいっ‼ って言うか、記憶から絶対に消しなさい‼ それじゃ以上、お休みっ!』
一方的に電話を切られてしまった。
塚元の時は、命に関わることだったので、何とか納得してもらえた(?)のだが、やはりキスは乙女にとって重大なことなのだろう。
そんなことを考えていると、武はあることを思った。
(そもそも、レイって乙女なの? 美人だし、男の一人や二人は居ても……)
武の脳裏に男たちと寄り添うレイの姿を想像し、そして、次第に膝をついて落ち込んだ。
(なんで想像して落ち込んでんだ、オレ……⁈)
すると、武の携帯電話が鳴った。
再びレイから掛かって来たのかと思ったが、相手は
『やぁ、アンちゃん。
「もしかして、北野に妻子が居たことについてかな?」
『そうだ。調べがついていたか……』
「まぁ、そのくらいなら。ただ、資金うんぬんについては全然」
『それについての噂なら仕入れたよ。どうやら組に居た頃から、裏で怪しい商売で儲けていたらしい。正確な金額までは不明だが、かなりの額らしい』
「もしかして、億単位だったりして?」
『さぁな。今で分かっているのはそれくらいだ』
「ありがとう。また何かわかったら教えてくれ」
『任せな』
ここで電話は切れた。