WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)   作:木村仁一

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8話 怪しい女

 翌日の白摩総合病院(はくまそうごうびょういん)――

 (タケル)鹿沼(かぬま)と一緒に、勝田(かつた)の担当医師に話しを聞いていた。

 

「それで、勝田はいつ退院出来ますか?」

「そうですね……。骨折などはありませんし、自力で動くこともできますし――やたらと病院食に文句を言ったりしていますが――明日までは様子を見た方がいいかと」

「もう退院でよくないですか?」

 

 思わずツッコミを入れた武。

 話を聞く限り、もう元気ではないだろうか? と。

 

「まぁ、それは置いておいて。話は聞けそうですか? と言うか聞けますよね?」

「えぇ、そのくらいは大丈夫です。ただ、あまり強引な聞き込みは、ご遠慮ください」

「わかりました。フフフ……」

 

 怪しい気な笑みを浮かべる武。

 

「……大下(おおした)、お前何を考えてる?」

 

 鹿沼が遠くを見るように目を細めて武を見た。

 

 勝田が入院している病室は、相変わらず厳重な警備で固められている。

 北野組(きたのくみ)の報復を防ぐためだ。

 武と鹿沼が病室の前に立ち、出入口の前に立つ警官に警察手帳を見せると、病室の中に入って行った。

 病室の中では、ベッドで横になる勝田が、武を見るなり、険しい目つきになった。

 

「大下‼」

「よう、元気そうだな」

 

 武は勝田の左足の近くに移動した。

 

「てめぇ‼ 何しに来やがった⁉」

「あのねぇ、俺は刑事で、あんたは容疑者。聞き込みに決まっているだ、ろっ!」

「痛ててててて‼ クソッ‼」

 

 そう言って、武は勝田の左足の中指の両脇を強くつまんだ。

 

「おい大下、言ってるそばから!」

 

 鹿沼が注意するが、武は完全に無視して聴取を始める。

 

「それじゃ、勝田くん。俺と直人のことに関しては有罪(ギルティ)確定だから(はぶ)くとして、あのハードボーラーやライフルは何処で手に入れた?」

「……」

 

 勝田は武から顔を背けた。

 

「黙秘かよ。でもわかってんだよ、他の暴力団とお前が繋がってることは?」

「……知らねぇな」

「あらまぁ。ボケが進んで物忘れが激しいみたいだねぇ。んじゃ、今思い出させてやる、よっ!」

「痛ててててて‼」

 

 武は足ツボマッサージをするように、勝田の左足の親指を強く押し込んだ。

 

「おい大下、だから乱暴だって‼」

「確か、脳のツボがここにあるって聞いたことがあるので、これで思い出すかと?」

「忘れたんじゃなくて、惚けている訳だから、やっても意味が無いぞ?」

「アーソウカ―。ソレジャ―ショウガナイナー」

 

 わざとらしく棒読みで惚ける武。

 

「テメェぶっ殺すぞゴラー‼」

「あっ! 脅迫の現行犯確定!」

「今のは(お前)が訴えられる側だぞ……」

 

 鹿沼が冷静にツッコんだ。

 

「それじゃ、話題を変えて。だいぶ資金をお持ちと聞きましてね?」

「何だ、金欠か? 刑事(デカ)は貧乏で大変だな――痛ててててて‼」

「やっぱりボケが進んでるみたいだな……‼」

 

 武は再び、勝田の左足の親指をマッサージ――ぽい方法で痛めつけた。

 

「おい止めろ、大下! こっちの分が悪くなるから‼」

 

 

 鹿沼に追い出され、仕方なく病室の外の廊下に出た武。

 何としてでも、勝田の口を割らせたいが、方法が思いつかない――正確には相手が相手なので痛めつける方法ばかり偏ってしまう。

 

(ブラックウィザードになって、ここに忍び込むか?)

 

 問題は、どうやって警備の目をかいくぐるか?

 

(忍び込む方法……んっ!)

 

 武が何気なく廊下の先に目を向けると、こちらを覗く女と目が合う。

 女は20代後半くらいで、赤髪のロングヘアー、紺色のような口紅を塗っている。

 女はすぐに武から目を逸らし、足早に廊下の先に行ってしまった。

 まるでその動作は、警察に気づかれたくない人間がする行動だ。

 武は女の背中を睨みつけ、女を追いかけようとした時、病室から鹿沼が出て来て、武に近づいた。

 

「駄目だ。お前が余計なことをするから――」

「――トシさん、怪しい女が居たよ」

「何⁉」

 

 女を尾行する武と鹿沼。

 すると、相手の女も武たちに気づいたのか、足早に正面玄関を出て行ってしまった。

 

「トシさん、アレって?」

「間違いないな」

 

 2人は確信した。勝田の病室を監視していた、ってことを。

 ただ、相手が何者なのかまではわからない。

 

「監視していたってことは……」

「勝田を狙っている人間、ってことだよな……?」

「……。北野組?」

 

 武と鹿沼が同時に結論を出した。

 

 怪しい女のことは、すぐに宮元(みやもと)にも報告された。

 

「なに⁉ 怪しい女が病院に?」

『はい。もしかしたら北野組が勝田を消しかけようとしているのかもしれません』

「そうか。私からも県警に連絡しておこう。そうだ、飛馬(ひば)が病院に行ったから、鹿沼は署に戻ってくれ」

『わかりました』

 

 宮元は電話を切ると、続いて県警を呼び出した。

 

 武と鹿沼は、廊下の先にあるフリースペースで飛馬が来るのを待っていた。

 

「勝田を何処かに移した方がいいですかね?」

「でも、退院の許可が出ないことにはどうしようもない。ここなら目が届くから、警備もしやすいだろ」

「そりゃそうですけど、相手は暴力団ですよ、どんな手を使って来るか?」

「それもそうだな」

 

 北野組の動きも気になるが、武が一番に気にしているのは、荒松組の動きだ。

 偽物とはいえ、白摩署に爆弾を仕掛けるような奴らだ。金が必要な今、どんな手を使っても勝田を取り戻しに来るだろう。

 

「病院に爆弾を仕掛けて、一斉に逃げ出したところを……とか?」

「随分物騒なことを言うな、大下……」

「あくまで可能性ですよ」

「しかし、北野組がそんなことをするかね?」

「北野組とは限りませんよ……」

「なに?」

「お待たせしました」

 

 武と鹿沼の所に飛馬がやって来た。

 

「それじゃトシさん、後は自分がやります」

「任せたぞ」

 

 鹿沼はフリースペースから出て行った。

 

「それで、勝田の様子は?」

「相変わらず。それより、さっき怪しい女が勝田の病室を覗いてたんだ」

「何だって⁉」

「課長には報告した。県警にも連絡するらしいから、勝田の今後はこれからだな」

「それで、勝田の退院は?」

「明日までは入院だと」

「……そうか」

「……」

 

 勝田の退院のことを聞いて、何処かガッカリしたように見えた。

 それよりも、ここに来てからの飛馬は、妙に落ち着きが無いような気がするのは気のせいだろうか?

 

「そう言えば、未来(ミク)ちゃんは? ちゃんと護衛は居るんだよな?」

「えっ……あぁ、問題無い。ちょっと先生から話を聞いてくる」

「おい」

 

 飛馬は勝田の担当医師の所へ行ってしまった。

 

(今更何を聞くんだ?)

 

 

 しばらくすると、飛馬が足早に戻ってきた。

 

「大下、勝田を移動させるぞ」

「なに?」

「県警からの命令だ……って課長が」

「だけど、勝田は動かせないぞ? 医師からも許可が」

「それなら問題無い。さっき事情を話して許可を貰った」

「早いな……」

 

 

 勝田を連れて病院の「休日・夜間」の出入口に来た武は、飛馬が来るのを待っていた。

 正面玄関からだと、人通りも多いので、それに紛れた刺客に襲われてしまう危険がある。

 それだけじゃない、狙撃に適した場所が複数あるので、容易に勝田をライフルで狙えるということも、正面玄関を避けた理由だ。

 この出入口なら、人の出入りも少なく、すぐに車に乗れる程出入口との距離が近いので都合がいい。

 とはいえ、全く襲撃の方法が無いわけではない。

 一応、病室を見張っていた警官たちには、陽動の為、引き続き見張りを頼んでいるが、勝田が病室を出たところが見られていたら、と考えると気が気じゃない。

 なにより、上着で隠してあるとはいえ、手錠をかけた勝田が目立つ。

 

「早く来ねぇかな……?」

 

 すると、飛馬が運転する覆面車が到着。

 飛馬が運転席から降りると、後部座席のドアを開けた。

 

「大下、運転してくれ」

「えぇ、何で俺が?」

「頼む」

「わかったよ……」

 

 何処か引っかかるところがあるが、武は運転席に乗り込んだ。

 後部座席に飛馬と勝田が乗り込んだことを確認すると、武は覆面車を走らせる。

 

「で、何処に向かえばいいんだ?」

「とりあえず、県警本部に向かってくれ……」

「わかった」

 

 何か違和感を覚えた武だが、とりあえず県警に向けて覆面車を走らせた。

 

 信号待ちをしている間も、周りの警戒を怠らない武と飛馬。

 今のところ誰かに尾行されている様子は無いようだ。

 すると、武の携帯電話が鳴った。

 相手は宮元だ。

 

「はい、大下」

『宮元だ。大下、片平 未来のアパートの近くで、男の死体が発見された。それも、どうやら北野組の関係者らしい』

「どうして北野組の人間が?」

『わからん。それと、県警から勝田を移動すると連絡を受けた。今病院に県警の刑事が向かっているから合流してくれ』

「え? 今、飛馬と一緒に勝田を連れて県警に向かっているところですけど?」

『なに⁉ 誰がそんな命令を出した⁉』

「課長ですよ?」

『私はそんな命令は出してないぞ⁉』

 

 おかしい。飛馬の話では、既に県警が勝田を移すように、と命令があったはずだ。

 

「だけど、飛馬が――」

 

(――あー、そういうことか‼)

 

 ここで武は気づいた。これこそが罠だったことに。

 

『んっ、飛馬が何だって?』

「それが――」

 

 カチャ!

 

 武の頭に、冷たい物が突き付けられた。

 拳銃だ。

 それも警察が使うはずがないオートマチック拳銃のマカロフだった。

 

「電話を切れ、大下……」

 

 武は言われるままに通話を切った。

 そして、飛馬が武の携帯電話を取り上げると、それの電源を切り、懐に仕舞った。

 病室に入る前に警官がチェックした時は、当然飛馬は拳銃を持っていなかった。

 それを考えると、この車に隠していたのだろうか?

 

「何処に拳銃を隠してた?」

 

 一応、飛馬に訊いてみるが、帰ってきた答えはこうだ。

 

「うるさい、言う通りに走らせろ」

 

 仕方なく武は、飛馬の言う通りに覆面車を走らせた。

 

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