「あっぶねぇ……。感謝するよ、
そう、
野々原から貰った腕時計に万能キーを使って脱出していたのだ。
爆風に耐えられそうな、この太い木がすぐに見つかったのも幸運だった。
武は靴の無線機を取り出し、耳に着ける。
「早く出てくれ……」
『どうしたの、武?』
「非常に言い難いことだけど、
『なんですって⁉ どうしてそうなったの⁉』
「未来ちゃんが人質に取られて――」
『――あなたが逃がしたの⁉』
「違うよ。うちの刑事に
『何でアナタじゃなくて飛馬って刑事を使うのよ?』
「わからないよ。とにかく荒松たちを追わないと、取引って確か今日だよな?」
『そうよ。だけど、どうやって追うの……なるほど、珍しく手際がいいわね』
「そういうこと」
そう言って武は自分が着けている腕時計を見た。
実は、先ほど勝田地面に押し倒した時に、時計の発信機を勝田の上着のポケットに入れていたのだ。
レイが察したのも、隠れ家のコンピューターが発信機の電波を受信したからだ。
武は覆面車に向かって歩きながら、レイとの通信を続けていた。
『それにしても、よく殺されなかったわね?』
「野々原さんのおかげだ。撃たれるかと思ったけど、幸い組員が銃を持っていなくて、代わりに強力な爆弾を用意してくれたから、あいつらが離れた時に時計の万能キーで脱出した、ってわけ」
『随分映画みたいにベタなパターンで助かったわね』
「でもそれでよかった。……いや、完璧にいいってわけでもないな……」
『どうしたの?』
武の目に入ったのは、ひっくり返ったボコボコの覆面車だ。
先ほどの爆発で吹き飛んだのだろう。
「覆面車がひっくり返った亀のマネをしてるよ……」
『そんなにすごい威力だったの?』
「だったんだね……」
『とにかく時間が無い。今から迎えに行くから』
「頼む。何処で落ち合う?」
『ちょっと待って、調べるから』
レイが待ち合わせ場所を探した。
『武、そこから南方面に大体500メートルくらい進むと、海堂工場っていう、工場跡地があるみたい。そこで待っていて』
確かにここに来るまでに、大きな工場跡の横を通った。
恐らくあそこだろう。
ただ、気になることがある。
武が居る場所から直線で進めば確かに500メートルくらいでたどり着けるだろう。
しかし、それはあくまで直線の距離。
「進め、って道が無いぞ?」
武の視線の先にあるのは森のようになっており、道という道は見当たらない。
工場跡まで行くには、来た道を戻るしかないのだが、それではグルっと回る形になり、かなり遠回りになってしまう。
徒歩で行くには相当の距離になってしまうのだ。
『その森を真っ直ぐ突っ切るの。歩いてなら抜けられるはずよ』
「行けるか?」
『つべこべ言わないで、早く行くっ!』
「はい……」
通信を終え、それを靴に戻すと、武は森の方へ向けて歩き出した。
〇
勝田が連れ出されたことで、病院では大変な騒ぎになっていた。
病室を見張っていた警官が、
当然だが、勝田を担当した医師は、勝田の退院許可を出していない。
「よしわかった。――一体どういうつもりだ、飛馬の奴……?」
「トシさん」
鹿沼のところに
「駄目です。武と飛馬に電話しても、電源が切ってあるみたいで……」
「本当にどうなっているんだ?」
すると、鹿沼の携帯電話が鳴った。
「おっと、いかん」
鹿沼は携帯電話が使える場所まで移動し、電話を取った。
相手は
「鹿沼です」
『宮元だ。やはり大下たちは県警に着いていないようだ』
「そうですか……」
『大下との通話で、飛馬が私の命令で県警に向かおうとしていた、と言っていた。恐らく飛馬が何か関わっているのは間違いないが、何故こんなことを?』
「……。んっ!」
鹿沼はあることを思い出した。
「課長、そう言えば
『それがどうした?』
「片平 未来は無事なんですか?」
『さぁ……そういうことか! すぐに調べさせる!』
「お願いします」
『それで、そっちは?』
「それが、医者は当然勝田の退院許可は出していないと言っていました。ただ飛馬が一度医師のところで勝田が動かせるかどうかと訊いていたことは確認が取れましたが」
『その女が仕掛け人の可能性もあるな。引き続き洗ってくれ』
「わかりました」
通話を切った。
〇
同じ頃、北野組の事務所でも大騒ぎになっていた。
未来を監視していた男は殺され、勝田を監視していた女からは連絡が途絶えたのだ。
最後に連絡があったのは、勝田を運んでいた車が廃屋に向かい、そこに荒松たちが居たことと、荒松たちの中に未来が居たこと、廃屋が爆発したことくらいだ。
話している途中で電話が切れたので、恐らく荒松たちに捕まったか殺された可能性が高い。
最後に連絡があった場所に、組員を向かわせたが、時間が掛かる。
「……未来」
それよりも、北野にとって一番気掛かりなのは、未来が今無事かどうか。
あまりにも心配し過ぎて、刀の手入れを黙々としている。
その北野の近くに居る組員は、生きた心地は全くしない。
ここで悲報が届いたら、自分が真っ先に刀で切られてしまうような気がしてしまうのだ。
北野はそんなことをする人間ではないことはわかっているが、どうしてもその考えが頭から離れない。
(頼むから、無事でいてください、お嬢さん……)
組員は天に祈った。
もし未来に何かあったら、それこそただでは済まない気がしてとても怖い。