海堂工場跡――
かろうじて高いコンクリートの塀と、ビルの2階ほどの高さがある建物の外壁、その近くには事務所のような小さな建物が残っているだけの寂しい場所だが、隠れて誰かに会うには絶好の場所だ。
そこへ、ダークスピーダーを引き連れる形で、レイドマスターが敷地内に入って来た。
正確には、施錠されていた金網の門をレイドマスターの強化バンパーで突き破った、だが。
レイドマスターが事務所の前に止まると、ホワイトウィッチ姿のレイが運転席から降りてきた。
「居る?」
レイが声をかけると、正面のドアが開き、中から
ボコボコに殴られた武の顔を見てレイが思わず目を見開いた。
「ちょっと、大丈夫?」
「とりあえず動けるよ」
武はダークスピーダーのドアを開け、変装の準備を始める。
その間にレイは、レイドマスターの運転席からタブレット端末を操作し、
「ここは……」
「お待たせ」
変装を終えた武が、助手席側のドアを開けた。
ボイスチェンジャーを作動させていないので地声だ。
「それで、奴らは?」
「ここ。スクラップ工場に居るみたい」
「何でスクラップ工場? まさか、そこで未来ちゃんを⁉」
「多分違う。荒松たちにとって、
「ということは……」
武が考えた。
荒松みたいな人間が証拠の始末以外でここに寄る理由。
そこで浮かんだのは。
「金か?」
「多分……。でも、スクラップ工場に隠したら、お金も一緒に潰されたりしない?」
「確かに……。いや、買収していれば大丈夫じゃないか?」
「それならあり得るけど、大金よね? ネコババされない?」
「……」
確かに。よほど信用している人間じゃなければ、金を預けることは難しいだろう。
しかし、今勝田たちが居るのも事実。
やはりここが金の隠し場所と考えるのが無難だ。
すると、レイドマスターの前席の間にある収納ボックスの上に置かれたレイのスマートフォンが鳴った。
相手はレイの情報屋の女だ。
「はい」
『緊急よ。調べていたら、今日グローブスファミリーが所有する貨物船が日本に入港したことがわかったの』
「なら、取引は予定通り? でも、入港したら海上保安庁のチェックが入るんじゃ?」
外国の船が入れば、当然、海上保安庁の検査が入り、隅々までチェックされる。
普通に考えれば武器の密輸は不可能だ。
しかし、情報屋の女から、更に気になることが告げられた。
『本当ならね。だけど、その船が入港した次の日に大量の麻薬や武器が出回った、っていう噂があるの。もしかしたら、何らかの方法で既に持ち込まれたかも』
「でもどうやって?」
『それはわからない。ただ、阻止するなら急いだほうがいいわよ』
「ありがとう」
『気を付けて』
ここで通話は終わった。
「まずいわ。荒松の取引相手が日本に入った、って」
「それじゃ、道案内してもらおうぜ」
武がタブレット端末を指差すと、勝田たちはスクラップ工場から移動していた。
「行きましょう」
〇
時間は少し遡り、スクラップ工場に、
勝田が車から降りると、工場の事務所の隣にある作業所の方へ入っていった。
作業所の中には、作業着を着た初老の男が何かの機械を緩衝材で巻き、それを段ボールの中に入れていた。
「おい、オヤジ」
勝田の声で初老の男が振り返った。
「おお! ムショから出たか。随分ダチを連れて来たな」
「例のモンを取りに来た。まさか使ってねぇだろうな?」
「まさか、あんたの金をネコババするほど、金に困っとらんよ」
そう言うと男は、作業所の奥にある棚の方へ歩いて行った。
「何だ、儲かってんだ?」
「まぁな。今は海外でも日本車が人気でね、手間は掛かるが、廃車から状態のいい部品を外して、ある程度直して売れば、それなりに金になる」
「へー」
男は棚にある小さな引き出しから1本の車のキーを持って勝田のところに来た。
「はい、これ」
男が勝田にキーを渡した。
「サンキュー」
〇
荒松たちは、キーを持った勝田に案内されて、1台のワンボックスカーの所へやって来た。
勝田はキーをトランクの鍵穴に差し込み、ロックを外すと、ドアを開けた。
車内には、3つのアタッシェケースがあった。
勝田は、その内の一つを開けると、中には1億円分の札束が入っていた。
「3億円もありますね……」
予想以上の金額に、荒松が目を光らせる。
「2億だったな、持っていけ」
「ありがとうございます!」
荒松は勝田に向けて深々と頭を下げた。
「それで荒松、ちゃんと話はつけたんだろうな?」
「問題ありません。あなたをアメリカに連れて行くように手配しました」
「そうか」
勝田は最後の1ケースを持って車に向かった。
すると、荒松が
それを受けて博之は小さく頷くと、近くに居た組員の1人に「寄こせ」と手を差し出すと、組員は拳銃を博之に渡した。
そして――
バンッ‼
一発の銃声が響き渡った。
荒松は金を受け取ったら、勝田を消すつもりだったのだ。
「何故だ…………博之……!」
銃弾を受けたのは荒松だった。
「おい、どうなってんだ?」
状況がわからない勝田が博之に訊いた。
「勝田さん。兄貴は金を受け取ったら、アナタを消すように言われていたんです」
「ふん、やはりか。だけど、実の兄貴を撃つのか?」
「そもそも、俺はヤクザに興味は無かったんだよ。それなのに無理やり入れやがって!」
「……博之…………てめぇ……。リコッ!」
「はーい、アンタ」
リコが現れると、荒松は命令を出した。
「……博之を……
「……。ヤナこった! ねっ、ヒロポン」
そう言って博之にベッタリとくっ付くリコ。
それを見て荒松は理解した。
リコも博之に取られていたのだ、と。
「いいザマですね、オヤジ」
荒松が声の聞こえた方へ向いた。
明らかに聞き覚えのある声だが、あり得ない。奴は死んだはずだ。
そう思ったが、そいつは間違いなく居た。
「…………畜生……」
そう、岩屋と博之は裏で手を組んでいたのだ。
それだけじゃない、荒松組全員が荒松を裏切っていた。
「じゃあな兄貴」
博之は、もう一発荒松の額に撃ち込み、荒松は息絶えた。
「おい、片付けろ」
博之が命令を出すと、チンピラ2人がそれぞれ荒松の手足を掴んで、1台のセダン車のトランクの中に押し込んだ。
「約束通り、組はアンタにやるよ」
「ありがとうございます。博之さん」
「ところで、高跳びの方はどうなってる? まさか、ハッタリだったんじゃないだろうな?」
勝田が博之に訊いた。
「問題ありませんよ。ちゃんと自分が手配してあります。それに自分も――」
「――んっ!」
博之の袖を引っ張るリコ。
それを見て博之は言い直した。
「
「そうか」
勝田は車に向かって歩き出した。
「ところで岩屋。周は本当に殺して良かったのか?」
「構いませんよ。あいつ、本当に金を奪って逃げようとしていましたから」
岩屋は〝キッ〟と悔しそうに奥歯を噛みしめた。
周は大金を目にした瞬間、本当に強奪を企んでいたことを知り、工場跡で殺したのだ。
お陰で、荒松を誤魔化すのに役に立ったのだから、皮肉だ。
「急ごう、取引が迫ってる」
「はい」
博之と岩屋はそれぞれ車に乗り、スクラップ工場を後にした。
第15章 END