WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)   作:木村仁一

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10話 手紙

 (たちばな)たちの聴取も終わり、(タケル)は1人、白摩署の屋上にいた。

 まだ2月の半ばだけあって、比較的日の入りは早く、空はすっかり夕日の橙色の光に染まっていた。

 武が屋上に来たのは、どうしても1人になりたかったからだ。

 普段は誰も来ない所なので、ここ絶好の場所だ。

 武は落下防止の金網に背を押し付け座り込むと、(カオル)から受け取った封筒を取り出した。

 中に入っていたのは1枚の手紙だった。

 

「えーと。『武、君がこの手紙を呼んでいるとしたら』――」

 

 手紙を読むにつれ、武の顔色がまるで血が抜けて行くように次第に青ざめて行った。

 書かれていたこと、それは――

 

 

 〝武、君がこの手紙を呼んでいるということは、私は死んでいるということだろう。

 これを読んで、私を軽蔑するかもしれないが、武には本当のことを伝える。

 県警が追っているホワイトウィッチに情報を流していたのは私だ。

 仕方なかった。息子の仇を取るには、彼女と組む以外に方法が見つからなかった。

 息子はどうやら、黒富士組の取引現場を偶然見つけ、それで殺されたようだ。

 犯人の組員はすぐに捕まったが、県警に運ばれる途中で殺され、息子の死の真相を知ることはできなくなった。

 黒富士組を調べるにも、自分の息子が被害者ということで捜査から外された。

 私は悔しかった。掛け替えのない、たった一人の息子を失ったのに何もできないことが。

 そんなある日、彼女が私の前に現れた。

 どこで調べたのか、私が息子のことで黒富士組を恨んでいたことも知っていた。最初は警戒したが、彼女はそんな私に。

 

「私に情報を提供してほしい。そうすれば私が握る黒富士組の情報を渡す、一緒に黒富士組を潰しましょう」

 

 最初は半信半疑だったが、彼女から貰った情報を元に黒富士組関係の暴力団を次々抑えることができたが、それでも息子の死の真相を知る者は見つけられなかった。

 それからも私は、彼女に警察の捜査資料を提供したり、彼女の手配状況などを教えたりするようになり、そうしているうちに彼女とも親しくなった。

 

 私は思い切って彼女に黒富士組を狙う理由を訊いてみた。

 彼女もどうやら被害者で、両親を殺されたうえに、彼女自身も妙な薬で白い姿に変えられたようだ。

 彼女に共感を覚えたのも、互いに黒富士組に大切なものを奪われていたからかもしれん。

 本当にすまない、お前に刑事としての心得を色々教えた私が、こんなことをしてしまって。

 それで武に1つだけお前に頼みがある。

 もしも彼女に会えたら、「役に立てなくてすまない」と伝えてくれ。〟

 

 

 手紙はここで終わっていた。

 

(息子さん、殺されていたんだな。だからって、嘘だろオヤッさん!)

 

 最も恐れていたことが、よりにもよって(たに)本人の手紙で明らかになってしまった。

 偽物だと疑いたくても、谷の書いた報告書などを見ている筆跡と手紙の字は全く一緒、本人が書いたものに間違いない。

 それでも何かの間違いだと思い込みたいが、手紙を読んだせいか、考えれば考える程、谷の疑わしいことが次々に頭に浮かんでしまう。

 

 真っ先に浮かんだのは、加藤を県警に送る時に襲撃された時。谷が携帯で連絡した後にホワイトウィッチが現れ、覆面の男たちを一掃したこと。

 病院で池田が言っていた「無線を受けてからすぐに向かったよ――」という言葉だ。

 もし谷が連絡を入れたなら「電話を貰って――」となるはずだ。

 

 公園で情報屋の日下と話した時も「……俺が場所を突き止める前にダンナが武器工場を抑えたから……」と言っていた。

 なら誰からの情報なのか――他に情報屋がいた可能性も捨てきれないが――ホワイトウィッチが絡んでいる可能性は高い。

 そして谷が最後に言った言葉。

 

「もう一度……彼女に会ったら……」

 

 武はその言葉は谷がホワイトウィッチを逮捕しろと委ねたのかと思っていたが、本当に続くはずだった言葉、それは「役に立てなくてすまない、と伝えてくれ」、彼女に対しての謝罪の言葉を伝えてほしかったのだと。

 谷に裏切られたという悲しみもあるが、関係が深いために捜査から外される状況は、今の武も同じ、谷の悔しさは痛いほど理解できる。

 その時、もしや、という考えが脳裏を過ぎった。

 ホワイトウィッチは、谷が県警に目を付けられたことを知り、口封じの為に殺したのでは、と。

 谷がホワイトウィッチにとって知られてはいけない何かを知っていたからだと。

 しかし、そうだとしたら撃たれた直後に「裏切られた……」や「利用しやがって……」などの恨み言を言うはずでは、という疑問が湧いた。

 ならなぜ、谷は撃たれなければならなかったのか。考えられる答えは。

 

 事故。

 

 黒富士組関係者以外にもホワイトウィッチは、相手の動きを止めるために怪我をさせることがある、と聞いている。

 恐らく本来は武の動きを止めるために撃とうとした時に、谷が庇ったことで、ホワイトウィッチの狙いが狂い、谷を誤って撃ってしまった。

 谷はそれを理解していたから恨み言を言わなかったのかもしれない。

 ホワイトウィッチが競馬場で見せたあの悲しい表情は、谷を誤って撃ってしまったことによる罪悪感からなのだと武は考えた。

 

 しかし、それでも疑問が残る。

 あの時、武は能力の限界による頭痛で、とても反撃ができる状況ではなかった。

 確かに武の手には拳銃が握られており、ホワイトウィッチから見れば、銃を持った相手に警戒するのは当然かもしれないが、苦しみだした相手をわざわざ撃とうとしなくても、その場から立ち去れば何も問題は無いはずだ。

 それに谷と組んでいるのだから、谷の「あぶない!」と叫んでいたことを聞けば、谷が武を庇うだろう、と予想ができる。

 それなのに、ホワイトウィッチが突然飛び込んできた谷を誤って撃つだろうか。

 武は話を聞いただけでホワイトウィッチの実力がどれ程のものなのかは知らないが、暗殺のプロである彼女が、誤って谷を撃つようなミスをするとはとても思えなかった。

 やはり「意図的に谷を撃った」そう考えが、直後に「なら、ホワイトウィッチを恨むはずだよな」という疑問に変わる。その繰り返しだ。

 考えれば考える程、答えが見えない谷とホワイトウィッチの疑問。

 武は今にも頭が押し潰されるような思いに苦しんだ。

 そして1つの仮説が立った。

 それは――

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