WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)   作:木村仁一

53 / 163
4話 新人

 白摩署・刑事部屋――

 出勤時から(タケル)は自分の席に肘を突きながらムスーとした顔をしていた。

 

「どうした武? 朝から景気の悪い顔して」

 

 松崎(まつざき)が武の顔を覗き込んで言った。

 

「事実悪いからだ、ほっとけ」

 

 昨日の夜の喫茶店でレイの分までコーヒー代を支払ったため、正直財布がいつもよりスカスカになっていた。

 付き合っている彼女に(おご)るなら別だが、恋人でなければ友人でもない相手の分まで支払いをする義理はない。

 

「それより(オヤッさん)の捜査はどうなってんだ⁉」

「ちゃんとやってるよ」

「ホントか……?」

 

 武は昨日のレイのような猜疑(さいぎ)全開の目で松崎を見た。

 

「おぉい、ヤマから外されてイラついてるのは分かるけどさ……てか、その目止めて怖いから……」

 

 武の見たこともないような目で見られる――というより何処かプレッシャー……又は恐怖に耐え兼ねた松崎は、あさっての方へ視線を向けた。

 

「おい大下、今日は新人が来るんだ。シャキッとしろ!」

 

 鹿沼(かぬま)が武を戒めた。

 今日は谷の後任になる新人刑事が来る日。

 本来は歓迎すべきだが、武にはとても気になることがあった。

 噂では県警に居たらしい。

 その刑事が白摩署に来るということは、左遷されたのだろうか。

 課員の人数的にも恐らく新人とペアを組まされるのは武だ。

 谷のようになんでも分かち合えることを願いたいが、そんな人柄の良い刑事なら県警から左遷されることはないだろう。

 

(せめてパワハラオッサンじゃないことを願おう)

 

 そんなことを考えていると、刑事部屋のドアが開いた。

 入って来たのは宮元(みやもと)と、そして噂の……。

 

(え、マジ⁉)

 

 武は内心驚いた。

 どう見ても若すぎる。

 県警に居たと聞いていたため、もっと年配の人――谷くらいの――が来ると思っていたからだ。

 でもその男はどう見ても20代後半、武や松崎よりは少し年上くらいだろう。

 センターわけのミディアムヘアが似合い、女性ウケしそうな印象だが、無表情で愛想が良いとはあまり言えない。

 

「今日から県警より配属された飛馬君だ」

飛馬(ひば) 弘一(コウイチ)です」

 

 そう言って飛馬は一礼する。

 だが、その声はテンションと同じで低い。

 想像とは違っていたが、ともかく挨拶をと思い、武は自分の席から立ち上がると、飛馬の前に立った。

 

「俺は大下だ。よろしく」

 

 武も飛馬に右手を差し出した。

 しかし飛馬は武を無視して宮元に訊いた。

 

「自分の席はどこですか?」

「あぁ、そこだ」

 

 宮元は武の隣の席を指さした。

 飛馬は何も言わずに席に座った。

 

(うわぁ……やな奴……)

 

 武はムスーとした顔で飛馬を見る。

 どう考えても仲良くできる自信がない。

 この態度だから左遷されて白摩署に来たのか、と武は勝手に納得した。

 

「本当に県警に居たんですか?」

 

 松崎が宮元に近づいて訊いた。

 武と同様、松崎もそこが気になったからだ。

 

「間違いない。彼は元々キャリア組で、今回の着任はあくまで現場で経験を積ませるためで……」

「それを()()にお願いされたというわけですか?」

 

 武が皮肉るように宮元に訊いた。

 

「そうだ!」

 

 宮元が自信たっぷりに答えた。

 それを聞いた課員たちは、またか、と頭を抱えて呆れた。

 課員が不足しているので新人の着任はありがたいが、宮元の県警服従症によって任されたと考えると、単なる問題児の押し付けに思えてくる。

 

「本当に大丈夫かうちの署……?」

 

 武がボソッと言った。

 

                ○

 

 白摩署に飛馬が着任している頃。

 とある人気の無い路地に黒い革製のロングコートを着た1人の男がいた。

 男はショートの黒髪に広いレンズのサングラスをしているが、その左頬には大きな縦傷が有る。

 男は青いゴミ箱に近づくとふたを開けた。

 ゴミ箱の中には少し大きめの黒いアタッシェケースが入っていた。

 男はゴミ箱からアタッシェケースを取り、路肩に駐車してある白のセダンの後部座席へ乗り込むと、すぐさまセダンは走り出した。

 男がアタッシェケースを開けると、その中に入っていた物は、弾薬と3つに分解された中折れ式のライフル、そして標的の写真だった。

 1つは銃身で、持つための先台(ハンドガード)と弾を装填する部分であるチャンバー、その上にはスコープを取り付けるためのマウントレールが付いた21インチ(約533ミリ)の銃身。

 2つ目は引き金(トリガー)撃鉄(ハンマー)、グリップからストックが伸びているレシーバー。

 3つ目はライフルスコープだ。

 弾薬は直径が9ミリの弾頭に、4センチ位の長さのボトルネックタイプの薬莢を使っている。

 男はライフルを組み立て始める。その手つきはかなり手慣れたものだ。

 そしてしばらく走ると男を乗せるセダンは停車した。

 

 ここは川に沿った白銀川(しらがねがわ)通り。

 マンションやビルが並び、その中には昔ながらの駄菓子屋や幼稚園などの施設がある。

 更に川に沿う歩道には桜の木が植えられており、春になると満開の桜が通りを彩る場所だ。

 

 セダンが止まったところは川に沿ったところにあるパーキング……の中にあるスペース。正確には駐車できない場所。

 セダンが止まった場所から道路を挟んだ向こう側には、喫茶店があった。

 その喫茶店には眉がつり上がり少々強面が居る。

 上地(うえち)だ。

 上地はコーヒーを飲み終えると、腕時計で時間を確認した後、席を立った。

 その間にセダンの後部座席の窓が半分ほど開き、ライフルの銃身が10センチほど外へ伸びた。

 上地はセダンに気づかないまま、レジで支払いを終え、喫茶店のドアを潜った。

 そして……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。