白摩署・刑事部屋――
出勤時から
「どうした武? 朝から景気の悪い顔して」
「事実悪いからだ、ほっとけ」
昨日の夜の喫茶店でレイの分までコーヒー代を支払ったため、正直財布がいつもよりスカスカになっていた。
付き合っている彼女に
「それより
「ちゃんとやってるよ」
「ホントか……?」
武は昨日のレイのような
「おぉい、ヤマから外されてイラついてるのは分かるけどさ……てか、その目止めて怖いから……」
武の見たこともないような目で見られる――というより何処かプレッシャー……又は恐怖に耐え兼ねた松崎は、あさっての方へ視線を向けた。
「おい大下、今日は新人が来るんだ。シャキッとしろ!」
今日は谷の後任になる新人刑事が来る日。
本来は歓迎すべきだが、武にはとても気になることがあった。
噂では県警に居たらしい。
その刑事が白摩署に来るということは、左遷されたのだろうか。
課員の人数的にも恐らく新人とペアを組まされるのは武だ。
谷のようになんでも分かち合えることを願いたいが、そんな人柄の良い刑事なら県警から左遷されることはないだろう。
(せめてパワハラオッサンじゃないことを願おう)
そんなことを考えていると、刑事部屋のドアが開いた。
入って来たのは
(え、マジ⁉)
武は内心驚いた。
どう見ても若すぎる。
県警に居たと聞いていたため、もっと年配の人――谷くらいの――が来ると思っていたからだ。
でもその男はどう見ても20代後半、武や松崎よりは少し年上くらいだろう。
センターわけのミディアムヘアが似合い、女性ウケしそうな印象だが、無表情で愛想が良いとはあまり言えない。
「今日から県警より配属された飛馬君だ」
「
そう言って飛馬は一礼する。
だが、その声はテンションと同じで低い。
想像とは違っていたが、ともかく挨拶をと思い、武は自分の席から立ち上がると、飛馬の前に立った。
「俺は大下だ。よろしく」
武も飛馬に右手を差し出した。
しかし飛馬は武を無視して宮元に訊いた。
「自分の席はどこですか?」
「あぁ、そこだ」
宮元は武の隣の席を指さした。
飛馬は何も言わずに席に座った。
(うわぁ……やな奴……)
武はムスーとした顔で飛馬を見る。
どう考えても仲良くできる自信がない。
この態度だから左遷されて白摩署に来たのか、と武は勝手に納得した。
「本当に県警に居たんですか?」
松崎が宮元に近づいて訊いた。
武と同様、松崎もそこが気になったからだ。
「間違いない。彼は元々キャリア組で、今回の着任はあくまで現場で経験を積ませるためで……」
「それを
武が皮肉るように宮元に訊いた。
「そうだ!」
宮元が自信たっぷりに答えた。
それを聞いた課員たちは、またか、と頭を抱えて呆れた。
課員が不足しているので新人の着任はありがたいが、宮元の県警服従症によって任されたと考えると、単なる問題児の押し付けに思えてくる。
「本当に大丈夫かうちの署……?」
武がボソッと言った。
○
白摩署に飛馬が着任している頃。
とある人気の無い路地に黒い革製のロングコートを着た1人の男がいた。
男はショートの黒髪に広いレンズのサングラスをしているが、その左頬には大きな縦傷が有る。
男は青いゴミ箱に近づくとふたを開けた。
ゴミ箱の中には少し大きめの黒いアタッシェケースが入っていた。
男はゴミ箱からアタッシェケースを取り、路肩に駐車してある白のセダンの後部座席へ乗り込むと、すぐさまセダンは走り出した。
男がアタッシェケースを開けると、その中に入っていた物は、弾薬と3つに分解された中折れ式のライフル、そして標的の写真だった。
1つは銃身で、持つための
2つ目は
3つ目はライフルスコープだ。
弾薬は直径が9ミリの弾頭に、4センチ位の長さのボトルネックタイプの薬莢を使っている。
男はライフルを組み立て始める。その手つきはかなり手慣れたものだ。
そしてしばらく走ると男を乗せるセダンは停車した。
ここは川に沿った
マンションやビルが並び、その中には昔ながらの駄菓子屋や幼稚園などの施設がある。
更に川に沿う歩道には桜の木が植えられており、春になると満開の桜が通りを彩る場所だ。
セダンが止まったところは川に沿ったところにあるパーキング……の中にあるスペース。正確には駐車できない場所。
セダンが止まった場所から道路を挟んだ向こう側には、喫茶店があった。
その喫茶店には眉がつり上がり少々強面が居る。
上地はコーヒーを飲み終えると、腕時計で時間を確認した後、席を立った。
その間にセダンの後部座席の窓が半分ほど開き、ライフルの銃身が10センチほど外へ伸びた。
上地はセダンに気づかないまま、レジで支払いを終え、喫茶店のドアを潜った。
そして……。