WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)   作:木村仁一

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12話 衝突

 その後、レイに格闘技を習うことに……なったのだが、どうも習得が難しい。

 格闘が苦手な(タケル)の性格も原因の1つだが、もう1つ別にある。

 

「だからこう!」

 

 レイがサンドバッグに華麗な回し蹴りを喰らわせる。

 その威力は高く、重そうなサンドバッグは反対側に跳ね上がった。

 

「ヒュッと回転してバシッと蹴る。分かった⁉」

「だから! 擬音じゃ分からねぇよ!」

 

 レイが技を披露するまでは良いのだが、擬音や「こう」「こうやって」など説明が雑過ぎるのだ。

 ある程度格闘の知識があるならそれで通じるのかもしれないが、武にとってはただの技の披露会にしか見えない。

 レイはレイで、伝わらない苛立ちから「もう……」と声を漏らしていた。

 正直言ってレイ自身も他の人に格闘技の指導をした経験は無い。

 

「とにかくやってみて」

 

 そう言うとレイは、武をサンドバッグの前に立たせる。

 実際にやらせて、ダメなところを指摘することで上達させようと考えたのだ。

 

 ピーピー

 

 すると、レイの時計のアラームが鳴った。

 レイはランニングマシンのパネルの上に置いてあったパーカーのポケットから細長いケースを取り出すとそれを開けた。

 中に入っていたのはモール白摩でみたものと同じ注射器だった。

 レイは注射器のキャップを取ると、現れた針を首元に刺した。

 そして注射が終わったことを知らせる確認音が鳴り、注射器を首元から離した。

 

「なぁ、……本当に大丈夫なのか、その病気?」

 

 やはり気になる、注射の中身は分からないが――少なくとも麻薬などではないと思うが――注射が必要なくらい深刻な病気なのは間違いないだろう。

 

「あなたには関係ないでしょ。治せるわけじゃないんだから」

「まぁな、薬があるってことは、でも病院には行ってるんだろ?」

「『関係ないって』言ってるでしょ! 私の心配をする余裕があるなら、組員の2、3人素手で殺せるようにしなさいよ!」

 

 そう言うとレイは、ご立腹、と両腕を組んだ。

 

(人が心配して言ってんのに……!)

 

 不服、といわんばかり武はレイを睨んだ。

 

「あのな! 人が心配してんのに、その言い方は無いだろ! 第一、殺せるようになれ、って、あんたがやってるのは、復讐を語っている、ただの殺人だろ‼」

 

 レイも癇に障ったように武を鋭く睨んだ。

 何時もの黒富士組系の人間に向けるときと同じように、冷たく鋭い憎悪に満ちた目だ。

 

「あなたこそ何も分かってない‼ 奴らは、私やいろんな人から大切な物を奪って平然としている悪党なのよ‼」

 

 そう言うとレイはズカズカと武に近づき、武の胸倉を掴むと鋭い目で睨みつけた。

 

「私は、あのクズたちを一日でも早く葬りたいの‼ 口だけのマヌケな刑事には分からないでしょうけどね⁉」

 

 武は俯くと、ゆっくり拳を握った。

 

「……なんだよそれ……確かに俺は、奴らの罠に嵌るほどのマヌケな刑事(デカ)だよ……オヤッさんほど役にも立たないよ……だけど――俺だって遊びであんたに協力してるんじゃない!」

 

 武は顔を上げると、怒りを込めるようにレイを睨め着けた。

 

黒富士組(奴ら)が憎いのは俺も同じだ‼ お前だけが被害者ぶってんじゃねぇよ‼」

 

 その言葉を聞いたレイは、武の胸倉からそっと手を離すと、武に背を向けた。

 

「今日は()めましょう……」

 

 レイはつぶやくように言うと、足早に部屋を出て行った。そして入れ違いに入って来たのが野々原(ののはら)だ。

 野々原はレイの後ろ姿を見送ると、武へ向いた。

 

「申し訳ありません、武様」

「どうして謝るんですか⁉」

 

 頭を下げて謝罪の言葉を述べる野々原に、武は、不機嫌そうに近くの筋トレ器具が付いたシットアップベンチに座った。

 

「どうしてあいつは復讐にこだわるんですか?」

「それはお嬢様のご両親が黒富士組に殺され、そのお怒りを……」

「そのことは知っています。だけど本当にそれだけですか? 注射をしないと生きていけないほど酷い病気なのに……」

 

 確かに薬を適切に打っていれば日常生活を送れることもあるが、モール白摩で見たレイの苦しみ方は明らかに尋常じゃなかった。

 そんな厄介な病気を持っているのに、黒富士組への復讐を優先する理由。

 ドラマなどが主な参考だが、加害者が復讐を優先するのは、自分に残された時間があまりなく、病気を治療する時間も惜しいからだろう。

 気持ちは分からなくもないが、それでは復讐を成し遂げる前に死んでしまうのがオチだ。

 武がそんなことを考えていると、野々原は重い口を開けた。

 

「正確には、お嬢様は病気ではございません……」

 

 その言葉に武は耳を疑った。

 あれだけ苦しんだレイが、病気ではない? そんなことがあり得るのか?

 そう考えたいが、真面目そうな野々原が冗談を言っているようにはとても見えない。

 ならば、あの症状は何なのか。

 

「そんなわけないでしょ! それならあの注射は⁉」

「……。申し訳ございません。これ以上は私の口からはお話しできません……」

 

 野々原は武に背を向けると、部屋を出ようと歩き出したが、武はすかさず野々原の肩を掴んで止める。

 

「教えてください。一体なにが原因なんですか⁉」

 本当のことが知りたい。

 薬を打たないと生きていけない理由や復讐にこだわる理由。

 もし聞けるなら、あのことも。

 

「自分が刑事(デカ)で信用できないのは分かります。でも知りたいんです。どうして彼女がここまでするのか?」

 

 野々原は武を一度見ると、再び視線を武から外し、何か思い詰めたように表情を硬くした。

 

「お願いします……」

 

 武は真剣な眼で野々原を見た。

 まるで時が止まったかのような沈黙がしばらく続く。

 やはり無理なのだろうか。

 

「……分かりました。お話いたしましょう」

 

 武の願いが通じたのか、野々原が重い口を開いた。

 

「お嬢様が今のお姿になられたのは、お嬢様の父上であります(ツトム)様が、実験でお作りになった薬のせいです」

「レイの父親が作った薬? それと黒富士組がどう関係しているんですか?」

 

 野々原は更につづける。

 レイだけじゃなく、レイの家族に対して行った黒富士の悪行について。

 

                                      第6章 END

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