WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)   作:木村仁一

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3話 鬼柳 浩二

 翌日の朝、とあるホテルの一室内――

 シングルの部屋に、サングラスをした1人の男が座っている。

 

 年は40代、サイドが刈り上げられた黒髪のショートヘアー。

 相当鍛えているのだろう、引き締まった体は服の上からでも分かる。

 何よりこの男を見て真っ先に目に入るのは、左頬にある大きな縦の傷だろう。

 彼が黒富士の雇ったフリーの殺し屋、鬼柳(きりゅう) 浩二(コウジ)だ。

 

 鬼柳は朝のストレッチをしていた。

 すると、机に置いてあるタブレットの着信音が鳴り、鬼柳はタブレットを立てると、「通信開始」をタップした。

 画面に映し出されたのは塚元だ。

 

『おはようさん』

「おはようございます、塚元(つかもと)さん」

 

 鬼柳は挨拶を返した。

 その声は低く、何処か冷たい。

 

『追加の仕事や。消してほしい奴がおってなぁ』

「相手は?」

刑事(デカ)や』

「刑事を消すのか?」

『『ギャラ上げろ』ぬかしてきよってなぁ。これ以上出費が増えるようなら消した方が安上がりや……』

「そういうことか……()り方は?」

『今回の指定はあらへん、好きなようにやってぇ』

「了解した。後で指示を出す……それと、追加のギャラは2000万だ。いいな?」

『にっ! ――まぁええやろ。すぐに写真を送るさかい、頼んだでぇ』

 

 塚元はそう言い残すと、画面に「通信終了」と表示された。

 鬼柳は椅子から立ち上がると、部屋の隅にあるスーツケースと黒いアタッシェケースが並んでいる。

 黒いアタッシェケースは上地と過去に谷を撃った銃が入ったケースだ。

スーツケースの方を取ると、ベッドの上に置き、それを開いた。

 中に入っていたのは、着替えだが、それをどけると、ケースの内側を剥がすように開ける。

 そこから出てきたのは、1挺の拳銃・ベレッタ 92FSと、その弾倉(マガジン)2つ、そしてベレッタに付けるサイレンサーがあった。

 ベレッタを取ると、サイレンサーを銃身の先に装着した。

 

                  〇

 

 レイの隠れ家・2階にある小屋根裏の小さな空間に(タケル)は寝ていた。

 大人2人が横に並べる程度の広さしかないうえ、天井も低いので、部屋として快適かどうかというと微妙なところだ。

 元々は収納スペースとしてあるので、ドアなどの仕切りは無い。

 それでも武は文句ひとつ言わずにここを借りた。

 居座らせてもらっているので文句を言ったら、罰当たりの何者でもないが。

 最初は野々原(ののはら)が自分の部屋で寝るように勧めて来たのだが、申し訳ない気持つから断った。

 過去に泊まったカプセルホテルの個室と比べれば、この空間はゆったりしている。

 そう思えばそれほど苦ではなかった。

 すると、野々原が階段を上がって、武の寝る収納スペースを覗いた。

 仕切りが無いので武の寝相が丸見えだ。

 

「武様、おはようございます」

「……おは…………――やべっ、寝坊した‼ ――あがっ‼」

 

 布団から飛び起きた武は、低い天井に頭をぶつけてしまった。

 

「だ、大丈夫ですか武様⁉」

 

 慌てて武に駆け寄ろうとする野々原に、武はまだ寝ぼけた様子で周りをキョロキョロしている。

 

「あれ⁉ ここ何処⁉ 俺は――馬鹿か……」

 

 唐突に冷静になる武。

 今は警察署の寮ではないことにやっと気づいた。

 

「朝食の準備が出来ましたので、ダイニングの方へ」

「ど、どうも」

 

 野々原は一礼して階段を下りて行った。

 

                 〇

 

 ダイニングルームに降りた武。

 テーブルには既に朝食が並べられていた。

 

「改めておはようございます。野々原さん」

「おはようございます」

 

 挨拶を済ませると、武は席に座った。

 メニューは、目玉焼きトーストと野菜スープ。

 

 目玉焼きトーストは、食パンのフチに沿って土手のようにマヨネーズがのせられ、目玉焼きの上に、刻みのりや、かつお節がふりかけられている。

 野菜スープは、キャベツとソーセージが入った食べ応えのある具に、粉チーズやパン粉でとろみが付けられた濃厚でクリーミーな仕上がりとなっている。

 

 どれも寮の食堂ではあまり見られないメニューなので、武にとってはなかなか新鮮だ。

 食欲をそそる香りに今すぐにでも食いつきたい武だが、泊めさせてもらっている立場上、それは失礼な気がする。

 せめてここの(あるじ)が来るまでは待つべきだろう。

 

「ところで、レイはまだ起きてこないんですか?」

「お呼びしたのですが……」

 

 そう言うと野々原は冷蔵庫からスポーツドリンクのボトルを取り出し、それをコップに入れた。

 これからの鍛錬の為の準備だろうか。

 そんなことを考えていると――

 

「……お……おはよう…………」

 

 まるで死にそうな不気味な声。

 武も眉を引きつらせて「おはよう」と声のした方へ返すと、そこに立っていたのはパジャマ姿のレイ――なのだが、年寄りのように背を曲げて、長い髪の毛を垂らして顔を隠しているような状態。

 それを見た武が、唐突にあるホラー映画のキャラを思い出してこう言った。

 

()()で寝るのかお前?」

「……うる……ざい…………」

 

 レイはヨロヨロと武の正面の席に着くと、テーブルに肘を突いて頭を抱えた。

 

「ねぇ、それも体質変化の影響なんですか?」

 

 心配そうに野々原に訊く武。

 

「ご心配なく武様、ただの二日酔いですから」

「……二日酔い」

 

 意外な答え。

 もしかして昨日のことでヤケ酒でもしてしまったのだろうか。

 透かさず野々原がスポーツドリンクをレイに差し出し、それをレイが一気に飲み干した。

 流石に一杯だけでは足りないのでもう一杯野々原が持ってきて、それも同じように飲み干す。

 すると、レイは、姿勢を正し、「ふぅ……」と髪をかき上げ、素顔を現した。

 何時ものクールそうなレイに。

 

「回復早っ‼」

 

 二日酔いはこんなに早く治るのだろうか?

 武自身二日酔いの経験が殆ど無いので分からないが、それにしても早すぎるような気がする。

 

「それじゃあ、いただきましょうか」

 

 そう言ってレイは何事も無かったかのように両手を合わせた。

 野々原も準備を終え、席に着いた。

 どうやら日常的なことなのだろう、と納得しようとするが、それでも二日酔いの疑問がどうしても気になってしまう武であった。

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