WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)   作:木村仁一

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4話 鍛錬

 レイの隠れ家・トレーニングルーム――

 早朝に起こされた(タケル)は、再びレイの鍛錬を受けることになった。

 今のレイは、グレーのスポーツブラに黒のショートパンツと暗い色だが、それでも昨日と変わらず、官能的な魅力を発揮している。

 武はというと、昨日と同じ黒のタンクトップ姿だ。

 レイの指示を受け、武は右足でサンドバックを横蹴りしている。

 しかし、あまりにも威力は弱く、サンドバッグは全く揺れない。

 それを見たレイが、ハァー、とため息をついた。

 武も気まずそうに顔を引きつらせている。

 本当は回し蹴りを教えていたのだが、全く出来ていない。

 

「だから、ヒュッと……なんて言えばいいのかな……?」

 

 レイは何とか武に伝えようと考える。

 自分が鍛錬を受けた時はどのようにコツを教えてもらったのだろう。

 そして――

 

「股関節と膝が一直線になるようにして蹴ってみて、相手の腰辺りの高さを狙うように」

「こうか?」

 

 武はレイに言われた通りに右足をサンドバッグの方へ突き出した。

 すると、蹴りを受けたサンドバッグは大きく揺れた。

 さっきより威力が増していることは間違いない。

 

「できたじゃない。もう一回やってみて」

「もう一回?」

 

 武はさっきと同じように右足をサンドバックに向けて突き出し――

 

「あれ……」

 

 今度は僅かにサンドバッグの左側へ逸れた。

 

 気まずそうに顔を引きつらせる武に、あちゃー、と右手で顔を覆うレイ。

 

「もう一回……」

 

 レイの冷たい声に武は、渋々「はい……」と答えた。

 

 約2時間後、武は床で大の字に倒れて息を切らしていた。

 

「ハァ、疲れた……!」

「もうスタミナ切れ?」

「少しは休ませてくれよ……」

「だらしない……」

「どうもすみません……」

 

 武は口を尖らせてそっぽを向いた。

 自分は刑事で軍人ではない。

 体力には自信があったが、やはり2時間近く休憩もなしで続けるのは、さすがにきつい。

 今の武を見て、さすがにこれでは使い物にならない、とレイはため息をついていた。

 

                 〇

 

 バテバテの武を見て、レイは自分の顎に手を添えて考える。

 軍にいる時に習った接近戦で使える総合格闘技を色々教えてみるが、まだまだ未熟だ。

 そもそも自分だって何年も鍛錬して取得したのだから、たった1日で伸びないのは当たり前だ。

 それでも何か手っ取り早く接近戦に対応できる方法はないものか……せめて能力だけを発動出来れば接近戦のコツもすぐに掴めるかもしれない。

 そんなことを考えていると、あることを思い出した。

 

「そう言えば、武の能力って銃なら何でも使えるの?」

「勿論。エアガンやモデルガンとかオモチャの銃でも」

「……オモチャまで……――でも、そうよね。競馬場で排莢不良(ジャム)った銃で能力使ってたし……ねぇ、それを接近戦に応用できないかしら?」

「……まぁやってみる価値はあるかも」

 

                 〇

 

 しばらくして、レイは武器庫から武の拳銃(ファイブセブン)を手に戻って来た。

 勿論、ファイブセブンの弾倉(マガジン)は抜かれている。

 

「じゃぁ、喧嘩するように構えてみて?」

 

 ファイブセブンを受け取ると、武は喧嘩をするように構えるが、武の眼が、不満、と言わんばかりに細めている。

 

「なによその眼は?」

「いや、なんていうか……すっごく違和感が……」

 

 銃を握りながらの喧嘩の構え。

 武は左を向いて、何も無い空間に向けてパンチを突き出した。

 正直違和感の塊でしかない。

 そもそも右手に銃が握られているので、拳の前に銃が相手に当たってしまう。

 

「左手で持てばいいでしょ……?」

 

 半ば呆れたように言うレイに、武は赤面して銃を左手に持ち替えた。

 

「いきなり実戦?」

「教えた通りにやれば大丈夫よ。必ずどこか隙ができるからそこを突く、いいわね?」

「おう」

「行くわよ」

 

 そう言うとレイは、武の顔に向けパンチを突き出した。

 そして武がすかさず能力を発動、レイのパンチがゆっくりこちらに向かって来る。

 能力を発動している今は難なくレイのパンチを避けられた。

やっぱり楽だ、と油断していると、今度はレイの右足ハイキックが武へ向かって来る。

 武は慌てて身を伏せて、それをかわした。

 

「かわしてばかりじゃなくて、ちょっとは攻めたら?」

「こんな感じ?」

 

 レイが再びパンチを繰り出すと、武が横に素早くずれ、レイの顎に向けて武の拳が突き出し、それを寸前で止めた。

 

「これでどうだ?」

「そうね。じゃぁ、これはっ⁉」

 

 すると今度は、後ろ回し蹴りを武に向けて打ち出した。

 

(なんの!)

 

 武がレイの足素早く避けると、お返し、と武がレイに向けて蹴りを繰りだして、レイの顔ギリギリで止めた。

 

「確かに使える」

 

 確かに相手がゆっくりなら武でも対応できる――正確には能力で武が素早くなっているのだが。

 その後も武はレイに教わり、能力を使いながら近距離での格闘技を次々と叩き込まれた。

 

 しかし、この2人は大事なことを忘れている。

 本来、銃を使わないで戦えるように鍛錬をするはずだったのに、レイに関しては、いつの間にか武の能力の分析に夢中になり、武はというと、どんどん上達している――ような気がする――達成感から、今の自分がまだ銃離れを克服できていないことに気づいていない。

 そして――

 

「……うぅぅぅ……」

 

 唸る武が医務室のベッドでうつ伏せになっている。

 能力を使い過ぎて頭痛を起こしたのだ。

 

「失礼します。お嬢様お昼についてですが――どうなさいました⁉」

 

 昼ごはんについて訊きに来た野々原が、ベッドに横たわる武を見て思わず声を上げた。

 

「……ぢがらづがいずぎで…………あだまいだい……」

「頭……お嬢様、どういうことでしょうか?」

 

 さっきから武に目を背けるレイに訊いた。

 

「興味本意でつい……限度のこと忘れてた……」

 

 そう言うとレイは、自分のこめかみの近くを指でかく仕草をした。

 武は、グロッキーです、と言わんばかりに、さらに唸り声を上げる。

 二日酔いのサラリーマンのように……。

 

「ところでお嬢様、武様の鍛錬の方は?」

「ギクッ!」

「お嬢様……」

 

 野々原は遠くを見るように目を細めてレイを見た。流石にこれは呆れていた。

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