WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)   作:木村仁一

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8話 新装備

 時間は遡り、レイの隠れ家の武器開発室――

 (タケル)とレイが部屋に入ると、中では野々原(ののはら)が居て、部屋の奥にある大きな長テーブルの上には、ノートパソコンの他に、色々な物が並べられていた。

 

「お待ちしておりました」

「完成したのね?」

「はい、お嬢様」

「完成した、って何が?」

 

 事前に何も聞かされていない武が野々原に訊いた。

 

「まずは、マスクです」

 

 野々原はそう言って、武にマスクを渡した。

 マスクは、鼻から首元までを覆うタイプで、顔にフィットするように形作られていた。後ろにマジックテープが付いているので、それで固定することが出来る。

 武はマスクを着けようとした時、喉を覆う部分に、何やら機械が付いていることに気づいた。

 

「この機械は?」

「それはボイスチェンジャーです。このリモコンで4種類の声に変えることが出来ます」

「あなたが地声だと何時かばれでしょ」

「確かに」

 

 武はマスクを着けると、野々原からリモコンを受け取った。

 今まで使っていたネックウォーマーは、何かの拍子にズレ落ちて顔が見えてしまうのでは、と不安だったが、このマスクは顔にフィットするのでその心配はないようだ。

 呼吸もしやすく、窮屈さは無いのだが、喉に当たるボイスチェンジャーには少し違和感を覚える。

 リモコンには、5つの長円形のボタンがあり、上の4つのボタンは白だが、一番下のボタンだけは赤くなっていた。

 試しに一番上のボタンを押すと、ボタンが点灯、武が声を出してみると――

 

「〈あー、って酷い声だな……〉」

 

 最初に出た声は、ピッチを下げたような重低音の声が出た。

 警察のドキュメンタリー番組などに出て来る、顔がモザイクで隠された男性のような感じで、あまり良い印象はない。

 続いて上から2番目のボタンを押した。

 

「〈こっちはどんな……〉」

 

 次に聞こえてきたのは、中年の男性のような声。

 それを聞いてレイと野々原は薄っすらと笑っているが、武はその理由が分からない。

 

「〈何を笑ってるの?〉」

「まぁ、聞いてみて」

 

 そう言うとレイは小型タブレットの録音機能を立ち上げ、武に渡した。

 自分が聞いている自分の声と、他人が聞いている自分の声は違うので、自分の声を確かめるためには録音が必要だからだ。

 録音のスイッチをタップして、武は再び切り替えた声で、適当に喋った。

 録音された声を聞いてある人物が頭に浮かぶ。

 

「〈神代(かみよ)警視の声か⁉〉」

「正解」

「〈どうやって?〉」

「あなたが、塚元の事務所の駐車場に居たときにこっそり録音したのよ」

「〈そこまでやっていたのか⁉ ――おっと、地声に戻す時はどのボタンですか⁉〉」

「一番下の赤いボタンです」

 

 武はボタンを押してマスクを外した。

 

「これは面白いな!」

 

 テレビや映画でしか見たことがないようなハイテク機器に武のテンションは上がった。

 

「これを使えば誰にでもなりすまして、黒富士組(奴ら)を嵌められるかも」

「かもしれませんね。次はこちらです」

 

 武が受け取ったのは、小型拳銃・グロック26――なのだが、その銃の横には、武の手首から肘近くまでの長さで、上部に小型の装置が付いたレールがあり、固定用のベルトが2つ付いている。

 レールに沿って動くレールランナーから伸びた棒の先端は、拳銃のグリップの下部のところで固定されているが、棒は銃を握っても邪魔になり難いように工夫されて曲げられている。

 仕掛けとしてはレールに沿って銃が前進するようだが、パッと見た感じでは、これが何なのか分からない。

 

「これは?」

「それはスリーブガンです」

「スリーブガンって、あのスリーブガン?」

「はい、そうです」

 

 スリーブガンとは、普段は袖の中に隠し、必要な時に拳銃を飛び出させ、手の中へ贈ることが出来る、不意打ちには最適のギミックだ。

 武は「スリーブガン」と聞いて、ワクワクしながら手首の裏にスリーブガンを着ける。

 そこで武は1つの疑問が浮かぶ。

 

「これは、どうすれば銃が出るんですか?」

 

 そう、レールの上の機械にスイッチはあるが、それを押しても機械が起動するだけで、銃は出て来ない。腕ごと大きく振っても同じだ。

 

「それを使うにはこちらが必要です。かけてみてください」

 

 そう言うと野々原はテーブルの上に置いてあったサングラスを手に取る。

 サングラスは、ガーゴイルズのノンフレームの物で、レンズの面積は目の部分を横まで覆う形状をしている。

 ただ、販売されている物との違いはレンズの内側の上部と蔓の部分に何か機械が付いていること、そしてサングラスが落ちないように、蔓には固定ベルトが付いていた。

 サングラスを受け取った武は、それをかける。

 特に何も起こらない。

 すると野々原は、テーブルに置かれているノートパソコンを操作、画面には折れ線グラフのようなものが出ている。

 

「それでは武様。そのスリーブガンに向かって『出ろ』と念じてみてください」

「分かりました」

 

 武はスリーブガンを浮かべながら念じた。

 

(出ろ!)

 

 しかし、スリーブガンは全く動かない。

 

「失敗か?」

「いいえ武様。まだインプットをしていなかったので出なかっただけです」

「インプット?」

 

 何のことか分からず、武は首を傾げた。

 その間にも野々原はノートパソコンを操作した。

 

「次は……そうですね。『戻れ』と念じてください」

「……。はい」

 

(戻れ!)

 

 武は言われた通りに念じた。

 すると、ノートパソコンの画面にローディングが現れ、そしてロードが終わった。

 

「これで使えます」

 

 野々原にそう言われ、武は再びスリーブガンに向けて念じた。

 

(出ろ!)

 

 すると今度は、武の念に答えるように銃がスライド、武の手の中へ滑り込んだ。

 

「すごい! 戻れ!」

 

 今度は思わず声を出してしまったが、念じているので銃はスライドして武の手から、腕へ戻っていった。

 

「脳波をサングラスのセンサーがキャッチして銃が飛び出るようになっています。他にも高性能の暗視装置も着けました。右の蔓のボタンを押すと使えます。左の蔓のボタンは、前の物と同じで、サーモグラフィーになります」

 

 男のロマンが詰まったスパイグッズのオンパレードを目の当たりにした武の目はキラキラに光っていた。

 その姿はまるでオモチャを買ってもらった子供のようだ。

 

「それとお嬢様、頼まれていた物です」

 

 野々原がそう言うと、レイに黒いガントレットを手渡した。

 ガントレットは甲の部分が強化プラスチックでプロテクターのようになっており、腕の部分もそのように強化されているよだが、プロテクターにしては分厚いようにも見える。

 

「ありがとう」

「そのガントレットを使う時は、必ず手は少し内側に曲げるようにしてください。安全装置が働いてしまいますので」

「分かった」

 

 ガントレットを着けていると、野々原は次にシルバーのサークレットをレイに手渡した。

 サークレットは何やら模様が入っており、額に当たる部分には1センチくらいの青い石が付いている。

 

「そのサークレットは何?」

 

 武の質問に野々原が答える。

 

「武様のサングラスと同じで脳波をキャッチするセンサーが付いております」

 

 どうやらレイに渡したガントレットにも何か秘密があるようだ。

 自分のじゃないとはいえ、どんな仕掛けか楽しみだ。

 

「ところでジイ、この石は本物?」

「もちろん本物のサファイアです。ただ、お値段の方は比較的お安めの物ですが……」

「あら残念」

 

 戦闘時に使う物に、安物とはいえ本物の宝石を使うのは、と武は思ったが、ツッコむだけ無駄な気がして止めた。

 レイはサークレットを額につける。

 

「やり方はスリーブガンと同じ?」

「はい。少々お待ちください。インプットの準備をいたしますので」

 

 レイはガントレットに付いている腕のプロテクターに付いている電源ボタンを押して起動。

 野々原はノートパソコンを操作し、レイの脳波をインプットする。

 

「終わりました」

 

 早速ガントレットを試してみようとするレイだが、ふとテーブルに置かれていた鏡に映る自分が目に入った。

 

「……。まるでアニメの()()()()()ね」

 

 よほどサークレットが気に入ったのか、鏡を覗くレイの顔は、今まで見たことがない笑顔を浮かべていた。

 それだけ見れば、レイも1人の女性だ。

 しかし、空気の読めないアホが1人居た。

 

「……美少女ねぇ……」

 

 レイの一言に、武はあさっての方へ顔を向けながらボソッと本音を漏らした。

 その顔は小バカにしたようにほくそ笑んでいる。

 しかし、そんな小声もレイの耳は聞き逃さず、キッとした目で武を睨んだ。

 武はそれに気づいていない。

 そんな武の視界を切り裂くように、目の前に2枚の小太刀のような刃が勢いよく伸びた。

 それを見た武も思わず「ヒッ‼」と間の抜けた声を上げる。

 武は目で刃の出先を辿ってみると、刃はレイの付けたガントレットから伸びている。

 

「何か言った……?」

 

 ただでも鋭い目つきをしているのに、今のレイは悪魔のように目を赤く光らせている――ような気がする――のだから、もはや恐怖しかない。それで口元は笑い……ついでにどす黒い妖気のようなものを放っているのだからなおさらだ。

 

「いいえ……。例えるなら、『ハイテク地球外生命体ではぁ?』と思いまして……」

 

 武は顔を引きつらせて、冷や汗をダラダラと流しながら必死に言い訳をした。

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