WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)   作:木村仁一

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8話 襲撃

 マル暴の刑事たちは反撃の隙を与えられることなく、次々凶弾に倒れる。中にはまだ息のある者もいたが、応戦できる程の力は残っていなかった。

 

 覆面車の中で身を潜める(タケル)(たに)は、何とか脱出する方法を探した。

 だが、昔の刑事ドラマかハリウッド映画でしか見ないような状況に対処できる方法など、ほぼ皆無だ。

 

「武、()()能力で何とかできないか?」

「オヤッさん……能力を使うには()が要るって知ってますよね?」

 

 刑事は武装した犯人による事件が発生した時、又は昨夜の武器密造による犯人の武装の可能性が非常に高い時に、上からの携帯命令が出た時以外は拳銃を携帯していない。

 マルボウの刑事は、襲撃の危険性があったため上からの命令で拳銃を携帯していたようが、武は県警に向かうだけだったため、持ってはいなかった。

 

「そうだったな。これでどうだ?」

 

 すると谷は、懐から拳銃を取り出した。谷が愛用するS&W M37だ。

 谷は、武に拳銃を渡した。

 

「勝手に持ってきたんですか? 課長に怒られますよ?」

「まさかと思ってな。どうだ、何とかなるか?」

「確かに能力は使えますけど……」

「それで能力を使いながら移動は?」

「ダメですよ。発動しながら移動しても数メートルで勝手に解除されちゃいますから……」

 

 武の能力は飛んでくる銃弾を避けることは可能だが、瞬間移動ができるわけではない。

 この能力を発揮中に移動を試みるも、何度やっても数メートルを移動しただけで能力が勝手に解除され、1回くらいなら問題ないが、それ以上行えば、1日に発揮できる時間より早い段階で、能力による限界が武の体に襲い掛かる。

 能力に対して武自身が抱いている不満の1つだ。

 

 後方の襲撃者たちは、イングラムを撃ちながら、徐々に武たちへ迫り、一刻も早く手を打たなければ、いつ殺されてもおかしくない。

 何とか打開策を考える武は、襲撃者のイングラムを見て、ふとあることを思いついた。

 

「オヤッさん。俺が撃ったら、車の前に移動してください!」

「外に出るのか?」

「車の中じゃ、いずれ()られます!」

「分かった」

 

 外れそうな勢いで、武は運転席のドアを蹴って開けた。

 映画などで得たベタな展開からの考えだが、襲撃者は大抵、応戦してくるのでは――相手が刑事なら尚更――という緊張から、動く物に対して過敏になってしまう。

 案の定、襲撃者たちは、反射的に運転席のドアに向けて銃弾の嵐を浴びせた。

 

 武の狙いはそこだ。

 

 イングラムの利点であり欠点でもある凄まじい連射は、弾の消費が激しい。

 さらに武は、襲撃者たちがサブマシンガンの扱いに慣れていない素人だということも見抜いていた。

 イングラムのように連射速度の速い銃を戦闘で使う時は、弾の消費を抑えると同時に有効に使うために、3発前後で一度連射を止め、もう一度狙い直すことが比較的賢い使い方だ。

 

 しばらくすると、運転席のドアを穴だらけにしていた銃撃が止んだ。

 イングラムの弾が切れたのだ。

 

 よし!

 

 襲撃者たちは、予備のマガジンに交換するため、空のマガジンを抜いたそのタイミングで武は車を飛び出し、さらに能力を発動した武が放った弾は、襲撃者たちの足を正確に撃ち抜いた。

 谷もそれに合わせ覆面車を降り、前に止まる県警と自分たちの覆面車の間に隠れた。

 あとは襲撃者から銃とワンボックスカーを奪えば逃げられる、武はそう考えていた。

 

 バンッ!

 

「やべっ!」

 

 武は一瞬能力を使って銃弾をかわした。

 イングラムを持つ襲撃者の他に、後ろを塞いでいたワンボックスカーの運転席からも、拳銃で武に銃撃してきたのだ。

 武は慌てて谷が待つ覆面車同士の間に隠れた。

 運転手が武たちに銃を撃っているその隙に、撃たれた足の痛みと戦いながらもマガジンを入れ替え襲撃者たちが再び銃撃を始める。

 さらに、県警のミニバンがある前方からも同じような銃声が聞こえる。

 恐らく前方を塞いているワンボックスカーの運転手も武装しているだろう。それを考えれば、襲撃者は最低でも6人は居る計算だ。

 武に残された弾だけではとても足りない。

 仲間と連絡が取れない状況と、前後からの挟み打ちに、武は絶望を感じた。

 

 すると谷は、懐から携帯電話を取り出し、ダイヤルした。

 

「谷だ。大至急応援を頼む。現在地は、4丁目(ひいらぎ)工場横の運河沿いの道路、相手は恐らく6人だ!」

 

 通話を終え、谷は携帯電話を仕舞う。

 

「考えてみれば携帯を使えばよかったんだ」

「そうでしたね……」

 

 襲撃という緊急事態とはいえ、携帯電話の存在を忘れた己の無能さに、武は今すぐにでも穴の中に潜りたい気恥ずかしさに満ちた。

 

                 〇

 

 ミニバンの中では、加藤が結城とマル暴の刑事の間に挟まれるような形で大人しく座っていた。

 

「どうしますか結城さん⁉ 逃げますか⁉」

 

 マル暴の刑事は、イングラムの脅威にパニックを起こす寸前だ。

 前席にいた刑事は、既に応戦しようとして襲撃者たちの銃撃で負傷している。

 応戦したいが、加藤を監視するポジションだったため、この刑事はもちろん、結城も武装していなかった。

 

「僕が運転して何とか!」

「待って早見(はやみ)君。そんなことしても逃げられないわよ」

「じゃあ、どうすれば⁉」

 

 慌てるマル暴の刑事――早見と違い、結城は冷静だ。広い道路であれば、多少ぶつければある程度道が開き、脱出できるかもしれない。

 だがここは状況的に最悪だ。前後には立ち往生している乗用車、さらには襲撃者のワンボックスカーまである。

 車を捨てようにも、運河と工場の高い壁が行く手を阻んでいる。

 

 すると、その状況を好機と捉えた男がいた。

 加藤だ。

 結城の髪の毛を掴み、その頭を車の窓へ打ち付けた。

 そのショックで、結城は朦朧となり、シートに横たわった。

 

「何をする⁉」

 

 早見が加藤を押さえようと掴みかかったが、加藤は足で一度早見を引き離し、手錠をかけられた両手をテニスのスイングのように振って早見の顔に一撃を食らわせる。

 早見が殴られた鼻を押さえているその隙に、加藤はドアを開け、ミニバンから外へ飛び出た。

 

 ミニバンのドアが開く音を聞き、武もそっちへ目を向けた。

 

 加藤は手錠をかけられたまま、一目散にガードレールを乗り越えようと、手をかけた。

 それを目にした襲撃者がイングラムを加藤へ向けるが、既にマガジン内の弾は撃ち尽くされ、慌ててマガジンを交換した。

 その隙に加藤はガードレールを乗り越え、運河へ飛び込んだ。

 

 

                 〇

「クソ、加藤が――」

「――よせ!」

 

 加藤を見た武が思わず立ち上がったが、谷が武の腕を掴み、車の陰に引き戻した。

 直後にイングラムの凄まじい銃声と共に無数の銃弾が、本来武の頭があったところを通過していった。

 前方では、加藤を撃ち損ねた襲撃者たちが、慌てて加藤が飛び込んだ辺りに向けて銃弾の嵐を浴びせている。

 襲撃者たちは銃撃を緩めない。

 

 殺すか?

 

 襲撃者たちを殺せば、脱出できるかもしれない。

 3発あれば覆面車の後方から来る襲撃者は退治できる。能力がある武なら1発で急所を撃ち抜くことは簡単だ。

 

 〝刑事が銃を撃つのは、犯人を殺すためじゃない〟

 

 かつて谷に言われた言葉を思い出し、それが武の決断にストップをかける。

 刑事と言っても意図的に相手を射殺することは当然許されない。だが、自分や仲間の刑事を犠牲にしてまで守ることなのだろか。

 武の中で迷いが渦を巻く。

 こうしている間にも、襲撃者の魔の手が迫る。

 

 おやっさんを、死なせるわけにはいかない。

 

 武は迷いを振り払った。

 だが、事態は何も好転していない。

 

 とても足りない。でも、やるしかない。

 

 僅かな望みを託し、拳銃の撃鉄を立てた。

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