ヒトのための場所ではないから、穴はいつでも暗かった。乗り捨てた
二抱えもある魔導デバイスに軽量化魔法をかけて魔導車から降ろし、床の「大扉」から三歩と離れないところに据える。これが「親機」だ。向こう側に持ち込まれる「子機」とは呪術的に連動している(魔力過多により通常の通信が届かない場所への通信は専ら原始呪法による「日記帳」形式で、イデアはそれを機械化しただけだ。ことさら珍しくもない*1)。
愛用のタブレット端末によく似た「子機」を左手に抱えて、弟に見せてやろうと思ったゲーム機の詰め合わせ(次元圧縮済みなので小型のトランク一つ)を右手に持って、イデア・シュラウドは今度こそ、世界に
「
身の内に魔力を廻す。大扉に魔力を注ぐ。遠い祖と、そして呪いによる苛烈な淘汰でもって受け継がれてきた膨大な魔力を以てして、それでも穴の抜けた桶か、さもなければ底なしの虚を埋めようとするような。本当なら、魔力のすべてに命も魂さえ削り落として捧げて、それで漸く敵うような大魔術。
消費される魔力に比例して生成されるブロットを、この時のための呪詛が燃やす。父祖が焦がれて届かなかった高い空のような。父祖の権威の源となった
それでも、イデア・シュラウドは立っている。扉の向こうの弟に、笑って「ただいま」を言うためだけに。苦痛などないかのような顔をして、世界で一番重たい扉を開く。
「ただいま、オルト。兄ちゃん、お土産いっぱい持ってきたからな」