あゝいとけなき闇の子よ   作:穢銀杏

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Dark Princess × Ashen One

 

 

 …あら、おかしな香り。

 

 どしたの、迷子?

 

 それとも流れ着いたのかしら?

 

 まだ鐘も鳴っていないのに、せっかちさんねえ。

 

 おまけに無口ときたもんだ。

 

 例外(イレギュラー)って、みんなそうなの?

 

 舌でも切られたみたいにさ、不景気でございって顔つきで、むっつり黙りこくってさ。

 

 そのくせいきなりとんでもないことしでかす(・・・・)からさ、ほんと、あなたたちは性質(タチ)悪い。

 

 グウィンが発狂したくなるのも納得ね。

 

 怖いわー、人間怖いわー。

 

 くすくす。

 

 あはは。

 

 …はあ。

 

 んん、なんだろう、この感じ。

 

 ざわざわ、わさわさ。なんだか私の奥が疼くわ。

 

 郷愁? 追憶? いったい何時の? ドラングレイグ? ロードラン? いいえ違うそうじゃない、これはもっと遡る、遥かにずっと古い(きず)。私が私になるより前に刻まれた、あの――。

 

 まさか。

 

 ねえ、あなた。

 

 もしかして。

 

 ……。

 

 いいえ、やっぱりなんでもない。

 

 そんなわけはないものね。

 

 あいつが戻るはずがない。

 

 あなたが、火を継いでくださるのですね――とか。

 

 やはりわしは、人が好きじゃ――とか。

 

 煽られ、囃され、いい気になって、逆上(のぼ)せるあまりとうとう炎に身投げして。

 

 薪になっちゃったんだもの。

 

 とっくに骨も遺さず(チリ)よ。

 

 うん、だいじょうぶ、戻らない。あいつはもう、何処にもいなくなったんだから。

 

 あなたも、どうせそうなるのでしょう?

 

 灰は残り火を求めるものねえ。

 

 わかってるのよ、私には。知っているのよ、えづくほど。何度も何度も繰り返し、性懲りもなく上演された喜劇ですもの。

 

 私はルーミア。

 

 寄る辺なきルーミア。

 

 世界のどこにも居場所がなくて、けど、でも、きっと、だからこそ、いついつまでも彷徨える、闇。

 

 ぴったりな配役でしょう? こんな寂しい、無縁墓地みたいなとこには、さ。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

At the close of the Age of Fire, all lands meet at the end of the earth.

The Ringed City is said to be at world's end.

Past this heap of rubbish, as far as one can go.

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ――。

 

 ……へえ、それ、持ってくんだ。

 

 ああ、待って待って、早まらないで、殺気は物騒、ひっこめて。短気は損気よ、落ち着いて。

 

 咎めだてするつもりはないの。

 

 あなたに暴かれ、拾われて、きっとその子も喜んでいるでしょうから。

 

 その火防女の瞳も、ね。

 

 優しい嘘から手を離せない臆病者らが抉り取り、そのくせ壊すほどの思い切りも見せられず、ただひっそりと、こんなところに隠して秘めた。

 

 恐れたのよ。堅い鎧を身に着けながら、弱い女の眼差しを、児戯のように。

 

 残酷な真実の道標(みちしるべ)、摂理へ導き、また繋ぐ、最初にして最後のカケラ。

 

 濡れた暗い双眸を。

 

 …ねえ、あなた。

 

 見たいの?

 

 剥がしたいの? 偽りを。

 

 惹かれているの? 本当の世界のありように。

 

 聞こえているの? 深淵に跳ねる、(かす)かで切ない、あの水落(みら)が。

 

 …そう。

 

 だったらいいことを教えてあげる。

 

 吹き溜まりを(くだ)りなさいな。

 

 もしもあなたが灰の英雄、とびきり優秀な探索者、王狩りたるの道程を踏み、特異点を開けたならば。

 

 律の玉座に、

 森羅万象の中心に、

 最初の火の炉に、背を向ける勇気があるのなら。

 

 吹き溜まりを降りなさいな。

 

 あらゆる時代、そして土地の名残りに屈さず、迷わず。

 

 なれはて(・・・・)どもを薙ぎ倒し、世界の底を突き破れたなら、そのときあなたは(まみ)えるでしょう。

 

 輪の都に。

 

 小人たちの王国に。

 

 火に忌まれ、神に疎まれ、永久(とわ)の隔離の憂き目に遭った、闇の魂の流刑地に。

 

 ヒトの本質、人間性の原型が、そこには封じられている。

 

 躊躇なく壊して暴きなさいな。

 

 ありとあらゆる冒涜を、(ほしいまま)にすればいい。

 

 それでやっと触れられる。

 

 新たなるヒトの怪物が、とうの昔に開いてしかるべきだった、次の時代の扉ってのに。

 

 うん、そう、きっと、そうなのよ。誰かが正道を継ぐべきなのよ。

 

 だから――ああ、祈っているわ。

 

 あなたに暗黒の魂あれ。

 

 

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