ウマ娘プリティダービー『神馬』   作:K.T.G.Y

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トラック如きじゃウマ娘は死なないし異世界にも行けないと思ったので
こんな手段しかなかった。許して候
いや、死んでないけどさ


邂逅

 

【ふう……】

 

トレーナー室で、PCとにらめっこしながらチームのウマ娘達の今後の予定を考える。

 

ふと、カレンダーを見る。

気が付けば随分時が流れたような感覚がある。

 

【思えば遠くに来たものだ……】

 

チーム『シリウス』。始めは何もなかった中央トレセン学園の、チームと呼ぶのも疑わしい所から始まった。

 

一心同体を誓い合ったメジロマックイーンは、稀代のステイヤーとして自分を支えてくれた。

ライスシャワーは紆余曲折がありながらも、歓喜の祝福に包まれる道を歩むことが出来た。

ウイニングチケットはそのダービーへの想いを実現し、自分にダービーウマ娘という栄誉をもたらしてくれた。

ナリタブライアンは三冠ウマ娘の名に恥じない、歴史に名を残すウマ娘となった。

サイレンススズカは最速の名を恣にし、その脚を世界に轟かせるべく海を渡った。

スペシャルウィークは日本一のウマ娘を目指して邁進し、やがて総大将として凱旋門賞ウマ娘を打ち破った。

 

ゴールドシップは……まあ置いておくとして。

 

 

これからもチーム『シリウス』は多くのウマ娘に支えられ、幾多の試練、困難に打ち勝ち、歩んでいくことだろう。

しかし……、

 

【この道は、果たして俺が歩みたかった道だったのか……】

 

結果には満足している。

だが体に穴がぽっかりと開いたと言うか、燃え尽き症候群と言うか、どこかやり切ってしまったという想いも混在する。

 

【贅沢な悩みだよな】

 

皆の明るい笑顔が頭の中で浮かぶ。時として泣き顔も見せた顔。それを支えた自分。

全てが全て上手くいったわけじゃない。

 

だがトレーナーとして、指導者として、何かカンフル剤が欲しいのも事実だ。

 

【普通なら入学した大物ウマ娘とかなんだろうけど】

 

そんな都合のいい話はそうない。

 

駄目だ。考えが纏まらない。

 

【気分転換に外を散歩するか】

 

俺はトレーナー室を出て、外の空気を吸いに行った。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

トレセン学園近くの公園を一回りし、河川敷に向かう。

犬の散歩をする人、談笑しながら歩く学生、それに交じって、空を見ながら、一人延びをする。

今日も快晴だな。ターフも絶好の良バ場だ。

念のため傘を持ってきたが、

 

【これなら傘なんか持ってこなくても大丈夫……】

 

そう、思っていた。

だが、ふと空を見る方向を変えると、灰色の雲がこっちに向かってやってくるではないか。

 

【一雨来そうだな】

 

しかし、何か様子がおかしい。外は無風だ。しかし雲はこっちに向かって導かれるようにやってくる。

それだけではない。四方八方から灰色の雲が一点に集中するかのように集まってきた。

 

その雲は集まると同時にバチバチと放電した。だが雷が落ちてくる気配もなければ、ゲリラ豪雨のように突如雨が降ってくる感じもない。

 

そしてその雲の塊は、黒い楕円形の渦を空中に浮かび上がらせた。

空気が文字通り渦巻いている。

まるでブラックホールだ。

しかもその塊は、徐々に降下してくるではないか。

 

【な、なんだ……】

 

「おいおい何かおかしいぞ!」

「何が起こるっていうの!?」

「ワン! ワン! ワン!」

 

付近の人間もこの異常事態に気付き始めた。こんなのCGでしかありえないような光景だ。

 

『…………わ……。……おい……』

 

声が聞こえる。だが辺りを見回すが周囲の住民が発したものではない。

 

『……お……おい……な……吸い……!』

 

間違いない。声の主はあの黒い渦の先から聞こえる。

 

【誰かいるのか?】

 

『おいおいおいおい何だってんだい!? 吸い込まれ……うわあああああっ!』

 

声の主の言葉がはっきりしてきた。

そしてその瞬間、その黒い渦から、女性が『降って来た』。

 

「うわああああああああっ!!??」

 

ひゅぅぅぅぅぅぅぅ…………どっしーん!

 

俺はその真下に居た為、その女性の下敷きになってしまった。

 

 

そしてその黒い渦は、いつのまにか『消滅』したかのように無くなっていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「痛たたたた……一体全体何だってんだい。いきなり空中に黒くて丸っこいものが現れて吸い込まれたと思ったら……と、うわぁ!」

 

声の主は俺の存在に気付き、慌てて立ち上がった。

 

「ああ、こりゃ済まない。下敷きにしてしまったね! 怪我はないかい!?」

 

【だ、大丈夫です……】

女性は腕を掴み、俺をひょいっと起立させた。

 

女性は、ウマ娘だった。

頭の上の特徴的なウマ耳、後ろに動く尻尾。顔に見覚えはないが、ウマ娘なのは間違いない。

 

「なあ、あんた、さっきの現象は何か分かるかい? 急に空が曇って黒い渦が出来たと思ったらそこに吸い込まれて気が付けばここだ」

 

【いえ、覚えがありません】

「だよねえ……」

 

強いて言えば、『映画』のようだった。

しかし監督も俳優もいる気配はなかった。しかもあんな天候を自在に操るような技術は現代社会にはまだない。

 

「あんた、ここがどこだか分かるかい?」

 

【中央トレセン学園近くの河川敷です】

 

「へえ、中央の……。何だろうね。私はワープ? でもしたのかね? まあ関東なら東海道新幹線に乗れば一応帰れるか……」

見たことがないウマ娘は、この辺の事を知らないのだろうか、周囲をキョロキョロと見回している。

「しかし、何だろうか……。この空気が違う感覚は……。建物も近代的だし、周りの人間の服装も垢抜けてる感じというか……」

 

改めて彼女を見る。服装は前世代的というか、何処か田舎臭い印象を受ける。靴も下駄だし。

だがウマ娘として見ると、どこか得体のしれない凄味がある。オーラを感じるというか……。

 

「ああ、自己紹介が遅れたね。私はシンザン。これでも結構有名なウマ娘なんだよ」

 

【シン……ザン……?】

 

「あれ、知らないのかい? うーん、オリンピック、新幹線、シンザンと言えばそれなりに有名な筈なんだけど……。

まあ巨人、大鵬、卵焼きに比べれば知名度は低いほうか……」

 

ウマ娘を預かるトレーナーとして、頭の中の辞書や歴史の教本を引っ張り出しながら考える。

だが、シンザンと名乗られて、該当するウマ娘はただ一人しかいない。

 

【もしかして、戦後初のクラシック三冠ウマ娘のシンザン……?】

 

「おお、知ってたか! そう、皐月賞、日本ダービー、菊花賞、三つを勝ち抜いたウマ娘とは私の事さ」

 

【そして史上初の五冠を達成したシンザン!?】

 

「は? 何言ってんだい。私はまだ三冠しか獲ってないよ。まあ来年は天皇賞と有馬を獲るつもりでいるけども」

 

何かが整合していない。

自分の知る所のシンザンはクラシック期に三冠、翌年に二冠を達成し、史上初の五冠を達成した筈だ。

ということは、推測するに、彼女はクラシックを勝ち抜いたばかりのシンザンということになる。

 

「…………」

「…………」

「……あの、一つ聞いていいかい? 今……何年だ?」

 

【20XX年です】

 

「はあああああああああああああっ!?」

シンザンが大きな声を上げる。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待て! 待て待て待て待て! するっていうと何かい、私は半世紀近い未来に飛ばされたって事かい!?」

 

【そうなりますね】

 

「いや、嘘だよな、あんた。嘘と言ってくれよ! 私は春天を控えてるんだ! 武田も栗田も中尾も心配する!

いや、それ以前に、冗談にも程があるよな!? そうだと言ってくれよ!」

 

シンザンは狼狽した。

当然だ。今この場で起きたことは、本人にも自分にもにわかには信じがたい現象だったのだから。

 

「…………」

シンザンは頭を抱えながらボソボソブツブツと何か言っている。

まあ自分だっていきなり未来に飛ばされたらこういう反応をするし、信じられないし、狼狽えると思う。

例えばトラックに轢かれて異世界に転生させられたりとか。

 

「……いや、分かる。目を見れば分かる。あんたは嘘を言ってない。本当……みたいだね……」

 

 

「……さて、どうしたもんか……」

シンザンは考え込んでいる。

彼女の心境を察するに余りある大きな問題だ。

しかし目の前で困っているウマ娘がいれば、救いの手を差し伸べるのがトレーナーというものだ。

 

【あの、もし……】

 

そこで俺は語った。自分は中央トレセン学園所属のトレーナーである事。

チームを持ち、何人かのウマ娘を担当している事。

もし良ければ、元の時代に戻れるまで、中央でお世話させてもらえないかと理事長に掛け合ってみるという事。

 

「ふむ……お偉いさんとの交渉か。……どのみち帰る手段も分からないし、選択肢もなさそうだね」

 

【はい】

 

「分かった。あんたに任せるよ。私の生殺与奪、あんたにくれてやろうじゃないか」

 

【聡明で助かります】

 

「……しかし、20XX年の日本か」

シンザンは俺の後ろを着いて来ながら、終始考え込んでいた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「驚愕ッ! そなたがあのシンザン殿だというのか!?」

「……理事長、間違いありません。学園内の資料で拝見しました。この方は間違いなくあのシンザンさんです」

 

トレセン学園に戻った俺は、早速理事長である秋川やよいと秘書の駿川たづなの元を訪ねた。

 

「……。おやおや、随分と小さな理事長さんだ。そして、駿川たづなさん、か。ふうん……」

シンザンさんはまた考え込んでいた。たづなさんを見ているようだが……。

 

俺は事の経緯を詳しく説明した。

……と言っても、普通の人間なら説明されても「???」と頭にクエスチョンを並べるだけなのだが。大真面目に、馬鹿正直に話した。

 

【まあ、信じられないのも無理はないですが】

「むむむ……。しかしはっきりしている事は、我々の目の前にシンザン殿がいる! それは紛れもない事実である!」

「トレーナーさん、あなたを信じます。よく行く当てもないシンザンさんをここに連れてきてくれました」

【有難うございます】

 

【つきましては、シンザンさんを一時的に中央トレセン学園で受け入れる手筈を整えていただきたいのですが】

「了承ッ! シンザン殿はURA史上に残る至宝のウマ娘! 最大限の恩恵をもって接し、身柄を預かるものとする!」

「具体的には、制服とジャージの貸し出し、寮の空き部屋の使用、カフェテリアの利用許可でしょうか」

「うむ! これは私の一存では決められないな。シンボリルドルフ生徒会長にも話を通す必要がある。よし早速行くぞ! 善は急げだ!」

「ああ、待ってください、理事長」

 

「済まない、たづなさん、彼女だけ残してくれないか。話し相手が欲しいんだ」

「む、構わないが。ではトレーナーよ。私に続けえ!」

【あ、ちょっと、待ってください、理事長】

 

 

「……二人きりになっちゃいましたね」

「ああ……」

「どうします? あなたがターフから去った後のURAの歴史でも話しましょうか?」

「……その前に、一つ聞きたい事がある」

「何でしょう?」

「たづなさん、とか言ったね」

「はい」

「あんたはいつ現役復帰するつもりだい?」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「……。どういう意味でしょう?」

「しらばっくれなくていい。私の目は誤魔化せないよ」

 

「かつて、あるウマ娘がいた。生涯成績10戦10勝。レコード7回。皐月賞、日本ダービーの二冠。

数々の栄光を手にしながら、急逝した事から、天から来てまた天に還っていった幻のウマ娘と称された少女……」

 

「あんたは、そのウマ娘と瓜二つだ。

なあ、トキノ……」

 

「ふふっ……」

 

駿川たづなは、そっと帽子を取った。

そこには、ウマ娘の耳はなかった。

 

「私は駿川たづなです。それに、私をその名で呼ばないでください」

 

「神様が、人間に生まれ変わる時に、ちょっとだけ前世の記憶を残してくれたんです。

永田オーナーや、岩下トレーナーにはお世話になりました。今ではウマ娘の皆さんを見守る理事長秘書ですよ」

「……そうかい。悔念はないんだね」

「人もウマ娘も、決まっていることは生まれてくることと死ぬことだけ。それ以外はなるようにしかなりませんから……」

「達観してるねえ。経験からくるものだからかな」

「さあ、どうでしょう」

 

バタン!

 

「たづなー! 私一人では新規に作る書類が纏めきれん! 手伝ってくれー!」

「はーい、ただいまー。それではシンザンさん、また後日……」

駿川たづなは手を振って理事長室を出て行った。

 

「なるようにしかならない、か……」

シンザンは今一度考えこんだ。

「しかし、この時代に飛ばされたのは、何か天命がある……そう思ってしまうんだよねえ」




たづなさんの所は一部個人的な設定が入ってます
まあモデルはもう既に広く知られてますし……これでもいいかと
シンザンからすれば偉大な先輩にあたるんですけどね
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