男女比1:1000の世界で男装して女友達とイチャイチャする女 作:最条真
男女比1:1000。
それが現代社会における男女の出生率の比である。
数十年前(僕が不勉強なせいで覚えていない)、人間の男だけに感染するどちゃくそにヤバイウイルスによって人間の男の数は1000分の1になった。
ウイルスは人の染色体にまで影響を与え、感染が終息してからも男子の新生児はめちゃくそに生まれづらく、確率はなんと1000分の1。小数点に直すと0.1%。ソシャゲでSSRを1体引くようなものかと思えば容易に思えるが、現実はそう甘くないらしい。
このままだと世界の人口は減り続け、50年以内に世界人口は10分の1になると言われている。
まぁ高校生の僕にとってそんなことは割とどうでもいい。
50年後には多分クローン技術やら凄いハイテクな技術が開発されてて、男少なすぎる問題とかは多分解決されて、人類は安泰な生活を享受しているような気がするからだ。
閑話休題。
未来の話は置いておいて、男が少なすぎてヤバイ現代の話。
男女比1:1000という世界において、男として生まれるメリットは想像に易くないだろう。
『男』は特権階級だ。
生まれながらに大事に育てられ、男なら必死に働かなくても国からの補助金で食うに困らない。
もちろん往来を歩けば女の子にチヤホヤされるし、男から求められて嫌がる女はほぼいない。何せ腹に子を宿せば将来安泰だ。一夫多妻制であるからして、男は女を囲い放題。男は欲のままに生を謳歌できる。男に生まれるだけで人生イージーモードと言うわけだ。
正直羨ましい。
1000分の1の壁はやはり高く、僕も女として生を受けたわけだが。
気づいてしまった。僕は女の子が好きだ。彼女達を見てると、なんかすごい癒される。
めちゃくそに可愛いのだ。男が稀少とされる世の中、当然同性婚も認められている。
僕は女の子にアプローチをかけまくった。
しかし同年代の女の子と言うやつは大抵男に惹かれるモノで。
僕は趣向を変えた。
女の子のハートを射貫くべく、一人称を変えたり、男らしく髪を短めにしたり、ちょっと髪を青に染めるお茶目をしたり、と色々小細工をしてきた。しかしふとした瞬間に思った。
ーー男装すれば勝ちじゃね?
雌は雄に惹かれるモノ。いままで僕は女のまま女の子に好かれようとしていた。
それが甘かった。
天辺から爪先まで本気の男装。それで臨めば女の子のハートなんて容易に撃ち抜けるのでは。
僕の短絡的だが儚く純粋な夢は、見事に実現した。
僕は男装が似合うタチだったらしく、往来を歩けば女の子からモテまくる。
ホテルまでは余裕で誘えるだろうが、問題があった。
ーー男にはある筈のイチモツがない。
そのときばかりはさすがの僕も神を呪った。これでは行為に及べないじゃないか!!
ソレ以外にも方法があるのは、もちろん知っている。だけど女が最初に想像する行為と言えばソレが代表例だ。
彼女たちの期待に応えるには、それが最も良い方法だ。でもない。なので別の方面、テクニックの方からアプローチをかけようともしたがーー。
言っちゃなんだけど僕にはテクニックがない。練習は姉相手に何度もしたが姉に「へたっぴ」と貶されて以来心が折れた。逆に姉にヤられまくる始末だった。
故に、まずイチモツがなければ勝負の土俵にすら立つことが出来ない。
もし僕にイチモツがあれば女を食い荒らす世紀のバーサーカーとなっていただろうに。
神は多分僕の性別を間違えたと思う。
というわけで死ね、神。
でも神絶対殺すマンだったのも結構過去の話。
いまではまあ、それなりに落ち着いて、男装も成りを潜め、週に2回程度。趣味で行うものとなった。女の子からの黄色い声援は、僕の承認欲求をめっちゃくそに満たしてくれるのだ。僕は承認欲求のモンスターだから、これは必要な行為ーー、と言い訳する辺り性根が腐っているのだろう。
女の子はいまでも好きだ。でも彼女達を満足させる術がないんじゃ話にもならない。
というわけで僕が男の替わりになるのではなく、単純に僕のことを女として愛してくれる女の子を探している。
まずは普通に女友達が欲しい。
男装をした状態でとりあえず話しかけ、女であることを明かし、僕の異常ともいえる性的嗜好を理解してくれた上で、対等に話ができる女友達が欲しい。
なんというか、胸に抱えている爆弾とかを僕はとっととオープンにしたいタイプの人間で。
僕のありのままを受け入れた上で、友達になってくれそうな子を探しているわけだ。
友達から親友、親友から恋人に昇華できたらいいなぁとかいう目論みがあるので僕は結構ドス黒い奴なのだろう。
というわけで、学校帰りによさげな女の子を探している。
男装はしていないが、男装をしている事実は後々打ち明ける予定だ。
最近は女の子探しに奔放している気がする。
男装していない状態でも勝手に足がこの街に来てしまうくらいに。
学校内はもうあらかた物色し終えて、拒否されつくした後なので、僕はもう学校外に賭けるしかない。
マジでよさげな女の子いないかなぁ、と都市開発の進んだ『東京』を歩く。
最近の技術開発は目覚ましいもので、なんかよくわからないけど東京をめっちゃクリーンにするプロジェクトやらが進んでいるお陰で、数年前まであったらしい息苦しさはまったく感じない。
信じられないクリーンっぷりに、思わず感涙しそうになったところでーー、
「ヘイ姉ちゃん。ちょっと遊ばない?」
後ろから声が聞こえた。
振り向いてそれが男だと確認するのに1秒。声をかけられた女の子はどんな子かな、となんとなく確認しようとして、目があった。
「ひょっ!? ぼ、僕ッ!?」
コンビニとかで男の店員と会釈するときとかは、本当にたまにあるけど、明確に知らない男の人に声をかけられるのは初めてで。声は上擦り、実に奇妙な声が出た。
「そうそう、キミキミ。めっちゃ可愛いと思って声掛けちゃった」
男は明らかに頭の悪いピアスをジャラジャラ付けていて、金色の首飾りもバカっぽいし、すっげぇ日焼けしてるし、謎にサングラスしてるし筋肉質だしデカイし金髪だしで。そこまで認識してようやく察知した。
(やべぇ奴だコイツーー!!)
気づいたときには横に並ばれ、肩を組まれた。
「ホテルいこうぜ」
明らかに手慣れている。この手法で男は何度も女を性的に食い散らかしてきたのだろう。
本来、僕がしたかったことだ。そもそもその手法がなぜ僕に通じると思ったのか。僕は女の子が好きなんだ。
「あのーー」
「ん?」
僕が何か言おうとすると、そう聞き返されて。
「......なんでも、ないです」
(知らん知らん知らん絶対無理ィーー!?)
心中の叫びが怯えに掻き消される。強気なのは心中だけ。男が近くにいる。それだけで元来の性格は成りを潜め、縮こまってしまう。僕はすごく押しに弱く、怯えが強い『女』だった。
ヤバイ。めっちゃ怖い。なにこいつなんで我が物顔で僕の肩組んでるんだろう。うわっ歩きだした。
というかいつのまにか治安の悪い方へと僕は来ていたようだった。
なんてバカなんだろう僕ってば!! 歩きスマホをしていた自分をひたすらに恨むしかない。
僕はただ女友達が欲しいだけだったのに。
(このままだと純潔が散らされる!!)
その純潔を散らすことの出来ない女の子の方が多いという意見は、いまはとりあえず置いておいて。
僕は女の子の方が好きなんだ! こんな筋肉質な明らかに頭の悪そうな男とか......イヤだ。
「名前は何て言うの?」
「......ひより、です」
「綺麗な名前じゃん。漢字だとどう書くの?」
「普通に、ひらがなで書きます」
「へぇー。ところで好きな食べ物とかーー」
ヤベェこいつ。ガチで僕を囲もうとしてる。
見た目は良いことに定評のある僕だから、そもそもこの年まで男に声を掛けられない方がおかしかったんだ。
時代は悲しいことにルッキズム。
良い見た目をしてる女の子は、とりあえず男に囲まれるのが定番(そのせいで僕の学校には既に囲われている女の子が大多数)だ。そのせいで僕の誘いに乗ってくれる女の子もいないわけだし、こういう男が諸悪の根元とも言えるだろう。
というか、マジでヤバくないか?
がっちりと肩は腕でホールドされている。どうやら相手に僕を逃がす意思はない。
叫んで逃げるか? 時代は悲しいことに男尊女卑。いや、なんでも許容される訳ではないけれども、この状況は覆りようがないし、そもそも僕にはそんな勇気がない。
男装さえしていれば、もっと勇気は出るのだが。
いや、そんな事は今はどうでもいい。
「......ホテル」
「ん? そうだな」
ホテルが見えてきやがった。
肩を組まれている状態は未だ継続中。
「ーーぁ、の」
どうにか、解決の糸口を見つけようとしたところで。
肩を組んでいた男が思いっきり吹っ飛んだ。
「ぐふぇ」
とんでもない勢いで接近してきた女子高生っぽい人影に、ハイキックをぶちかまされ、なんか断末魔みたいなモノが聞こえたと思った瞬間、なんかもうそこに男はいなかった。
「ふ、ぇ?」
「走れ!」
手首を掴まれる。手を引かれて走っている。彼女の後頭部のポニーテールが揺れている。
いや、ちょ、もうヤバイ。息切れがパない。死ぬ。でも、走るのが止まってない。
二人、手を引かれながら、思いっきり地面を蹴っ飛ばすのは爽快だ。
靴とアスファルトが擦れ合う音が何度も何度も何度も反響して、その音がいつまでも自分の中から消えてはいけないようにと、がむしゃらに走り抜ける。路地を抜け、坂を抜け、人を抜け、体力なんてもう尽きているのに、それでも脚が動いている。
何故走っているのかと問われれば、何故か走っていると答える。
疲れているのに、走りたくないと思えないのだから不思議だ。
それから結構、走った気がする。
とっくに自分の限界を越えていた。
何処だか知らない高架橋の下、僕らはそこに行き着いていた。
少年達がキックボードにでも励んでそうな、やけにお洒落な場所。
しかし、そんなことを気にする余裕なぞ、僕にはなかった。
彼女も息が切れたようで、肩で息を付いていた。
まぁ、僕の方が疲れているわけだが。もう、僕がいつスライムになってもおかしくない。疲れた。
僕はもう全身で息をしまくっている。
彼女がこちらを振り向いた。
そして、何処か興奮した様子でこちらに顔を近づけーー、
「聞いたか? あいつの断末魔。オレに蹴っ飛ばされて『ぐふぇ』だってよ!」
「......ぇ、と」
「おい、大丈夫か?」
凛とした声が、僕の鼓膜に響いた。
端正な顔。スッと透き通りそうな雪の肌。女子高生の服を着ていて、ポニーテールにまでしていて、それでも女性的だと思えず、中性的だと評せるのはなぜなのだろう。男らしくもあり、女らしくもあった。不思議だが、素敵だと思った。
というかそもそも声が女の子だった。
冷静に考えればそうだ。かわいいかわいいめっちゃ可愛い!!
テンション上がってきたヤベェ!!
「好きですゥ!!」
「ごめんオレ男の人が好きなんだ」
勢い任せの僕の告白はあっけなく拒否された。
「何だよもおおぉ!!!またかよぉ!!!!!」
僕はその日決めた。
男装しよう。やっぱり男にしか女は靡かないんだ。
理想は叩き割られた。
ちなみにオレっ子ポニテ美少女ちゃんは生粋の純愛派だったらしく、流石にあの状況は見過ごせなかっただけらしい。
普通に連絡先だけ交換して別れた。
帰路を辿る。
今日の収穫は0。いや、連絡先を交換した子はいたけど普通に男好きだしおまけに生粋の純愛派。
多分僕がアタックしても無理だ。
実にファッキンな気持ちで僕が帰宅していると、携帯の通知音。
姉からLINEが届いていた。
『今日もシよ♡』
「......はぁ」
唯一の僕と同じ性癖をもつ姉。
近親相姦にも一切の躊躇のないヤベー奴。
でも、モテる。
僕以外にも相手がたくさんいる。
「コツでも聞いてみるかぁ」
夜戦後、聞いてみればやっぱりテクニックらしい。
手先が不器用な僕にどうしろと。やっぱり男装しかない。
僕は心にちんこを生やす決意をした。
どこぞの二番煎じ。