「裏切ったな後藤ぉ……」
「あっ……え? な、なんでここに吉田くんが?」
「バイトだよバイト。ここの店長の手助けしたらバイトしないかって言われてな」
「へ、へぇ〜」
意外そうな顔をしてるが後藤こそ意外だろう。
いつも教室で一人過ごしているぼっちがまさかこんなロックバンドを組んでいたとは、人は見かけによらないものだ。いや、俺もついさっき店長にみかけで判断するなと言ったばかりだったな。反省反省。
「それで? 後藤はぼっちだと偽り俺を騙してたのか?」
「あっ、いえ……それは……」
「違うよ。ひとりちゃんは私が今日だけリードギターとして誘ったんだよ」
「えっと……」
「私は伊地知虹夏、下高の二年だよ。こっちは山田リョウ、同じく二年生」
あ、二人とも先輩だったのか。
「改めて、秀華高一年の吉田幸樹です。強面ですがただのぼっちです……いや、強面だからぼっちなのか」
「あ、あはは。ひとりちゃんみたいだね〜」
はたして、それは褒め言葉なのだろうか。それとも貶されているのだろうか。
ひとまずライブ開始前だと言うことを伝え、控室から出て行こうとすると僅かに服が引っ張られる。
背後を振り向くと、僅かにゴミ箱から這い出た後藤が俺の服を掴んでいた。
「後藤?」
「あっ……えっと……その……」
「……ゆっくりでいいよ」
「あっ、あの……え、演奏……が、頑張ります」
「おう、後藤のギター期待してるぜ」
フッと笑って見せると、後藤もフッと笑う。後藤はいつもガチガチだがたまに見せる自然な笑いに実はドキッとしたりしなかったり。
これ以上居座ると店長から何か言われそうなので後は後藤を二人に任せ、フロアに戻る。
「伝えてきました」
「ああ、ありがとう」
「妹さん、明るそうな人ですね」
「そうだろ? 今日のあのギターだって公園で見つけて連れてきたって言うんだ」
「行動力の化身ですね」
店長の妹さんは話していても陽キャオーラと言うか、誰にでも優しくできるオーラを放っている。現に、強面ぼっちの俺にも部屋を出る際に手を振ってくれていた。
あれはまさに天使だな。
「吉田……虹夏に手出したりしないだろうな?」
「も、ももも勿論ですとも。そ、そそそそそんなことする訳ないじゃないですか〜」
心臓に悪い、店長絶対エスパーだ。いや、エスパーじゃなくてもエスパーだよこれ。Mr.マリック越えてるって。あれ? Mr.マリックはマジシャンだっけ?
「ほんと、顔に出やすいよな吉田って」
「か、顔に出るんですか?」
強面の表情が分かりやすいって、もはやにやけてる時は般若にでも見られているのではないだろうか。
「でも結束バンドなんてバンド初めて聞きましたよ。最近結成されたんですか?」
「いや、今回はインストバンドだ。まぁ、思い出作り程度にはな」
「思い出作りって……」
「まぁみてれば分かるよ」
店長の意味深発言が気になりつつも、ライブが始まる。どのバンドも有名所とまでは言わないが、それぞれに個性があり聞いていて楽しかった。
そしてついに、結束バンドの出番になったのだが──
「なんだあれ」
「完熟マンゴーって書いてますね」
ドラムは伊地知先輩、ベースは山田先輩、そして三人の中でも異彩を放つダンボールに包まれた人物はそう……後藤である。
いや、なぜそうなった。
百歩譲って下を向いて演奏とか、背中向けて演奏とかなら分かるよ? でもなんでダンボールの中なんだよ。LBXだってダンボールの中で堂々と戦ってるだろ。
俺と店長が完熟マンゴーに戸惑っていると、伊地知先輩のドラムに合わせて有名な曲のカバーを演奏しめた。
****
「ミスりまくりだったな」
「ううっ……もう生きていけない……」
ライブが終わり、店長から早めに上がる許可を得て後藤と二人で帰り道を歩く。俺も後藤も同じ方向の電車に乗るので、登校時もよく出くわす。
隣で明らかにゲンナリしつつも、またあの結束バンドで演奏できることに喜んでもいるようだった。
「それにしても、偶然出会ったギタリストが後藤とは。伊地知先輩は中々の運を持ってるな」
「そ、そんな……貧乏くじだよ……」
「はぁ。天下のギダーヒーロー様が何言ってんだか」
「ひ、人前では……あんまり演奏とか……しないから」
今日のライブでは散々なミスを犯していた後藤だが、その正体は登録者3万人を誇るギタリスト『guitar hero』。俺がギダーヒーローを知ったのはつい最近であり、後藤がギダーヒーローだと知ったのはつい数日前。
後藤が両親の勧めでYouTubeで動画をアップしていると言う話題になり、興味本位で聞いてみるとギダーヒーローだったと言うわけだ。後藤本人も、リスナーと共に昼食をとっているとは思っていなかったようでその日は終始ニヤニヤしていた。
「でも、結束バンドのメンバーとしてやっていくなら人前でも弾けるようにしないといけないんじゃ無いのか?」
「そ、それは……」
「でもまぁ少しずつでいいんじゃないか?」
「え?」
「俺はまだ後藤の全てを知ってる訳じゃないし、何かを強制する立場でもない。でも、もしも後藤が結束バンドとして頑張ろうと思ってんのなら──俺はお前を応援するぜ」
「よ、吉田くん……」
なんだろう、なんだか急に恥ずかしくなってきた。
顔が熱くなってくるのを感じ、少し後藤の前を歩く。
後ろでは後藤が「うへっ、うへへっ」といつもの笑い声を上げている。
もしも、後藤が結束バンドとして成長していつか人前で自信を持って演奏できるようになれたとしたら……それは俺にとっても嬉しいことなのだろう。
後藤がどう思っているのかは分からないが、口には出さなくとも少なくとも俺は友人だと思っている。もしかしたら、後藤はただの強面ぼっち野郎だとしか思っていないのかもしれない。
それでも、後藤のすぐ近くで後藤の成長を見守ることができるのなら、俺は出来る限り後藤の手助けをしてやりたい。
そんな事を考えつつ、俺と後藤はライトに照らされた下北沢の道を歩く。
いつか後藤が、結束バンドが舞台の上で輝くことを願いながら。
「あ、そういえば……う、裏切りというのは……」
「……許そう」
バンド組無事になったのが少し羨ましいとか、そんなんじゃないんだからね!
****
「……誰もいねぇ」
家に帰宅すると、そこはもぬけの殻だった。
流石に私物くらいはあるだろうと思っていたが、それすらない。泥棒にしては持って行き過ぎたろうし、おそらくうちの親父がまた何かをしでかしたのだろう。
しばらく玄関で棒立ちしていると、スマホから着信音が鳴る。
相手はもちろんバカ親父。
「もしもし」
『あ、もしもし幸樹か?』
「一体何をした?」
『まぁそう怒るなって──父さん海外転勤になったんだよ』
「は?」
『幸樹ももう高校生だからって母さんも着いてくるって言ってな。でも流石に一人暮らしは厳しいだろうって事になって、父さんの実家に荷物送っといたから』
親父の実家。
それを聞いた途端、俺はスマホを床に落とす。
画面にヒビが入ったかもしれないがそんな事を気にしている場合ではない。
親父の実家……それは学校からやく二時間かけた県外に位置する余りにも遠い場所だった。
「やりやがったなクソ親父ぃぃ!」
『はっはっは! それじゃあ楽しい高校生活を謳歌したまえよ我が息子!』
言いたいことだけ言ってスッキリしたのか、ブツっと電話を切られた。
最悪、学校まで二時間かかる事は許そう。
「親父……終電が出る前にはそれを言って欲しかったよ」
その日は結局、近くの格安ホテルで一夜を過ごすことが決定した。
あの親父、帰ってきたら必ず殴る。
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