多分、未完ですが、これはこれでいいかと思い掲載します。
其の一ですが、其の二はありません。
乃梨子はひどく場違いな所に居るのではないかと、非常に不安になっていた。そのまま、時代劇に出てきそうな質素な茶店風の構えに、中は静かで趣あるお庭、通されたのは茅葺き屋根の数寄屋。自分がタイムスリップしたような気分になる。
(なんだ・・・ここは・・・世界がちがう・・・)
乃梨子は中に入ってからというのも、きょろきょろとあたりを見回してしまっていた。
ここは京都の有名な料亭。石川五右衛門が「絶景かな」と言ったという逸話がある山門がある寺院の近くにある名店だ。
仏師修行のために京都に移り住んで約一年、家と工房がこの近くにあるので、目の前はなんども通ったが入るのは、今日が初めてだった。それはそうである。見習い仏師がとてもではないが手が届く食事代ではない。
では今日、何故、乃梨子がここにいるかというと・・・。
「どうですか、可南子さん!これで私の勝ちですわ!」
「・・・それは乃梨子さん次第でしょう」
「負け惜しみではございませんこと?」
障子の向こうから聞こえてくる懐かしい声・・・というか、言い合う声。
(何やってんのよ・・・この二人は・・・。相変わらずと言えば、相変わらずだけど)
案内の人も苦笑いしていた。ずっとやっているのかもしれない
(じゃあ、この人はあの二人と私を同類と・・・?は、恥ずかしい・・・)
ともあれ、三人が一同に顔会わすのは、六年ぶりぐらいだった。
紅き天使のレクイエム 番外編 出番無き者たちの宴 其の一
「ごきげんよう、瞳子、可南子さん」
私がその間に入ると、瞳子と可南子さんは互いににらみ合っていた。ちょっと、懐かしい光景だった。食いつこうとするような瞳子とこれから無視に入ろうとする可南子さん・・・高校時代とほんとに変わらない。
そんな二人もいまや有名人だ。瞳子は若手実力派女優として様々な映画・ドラマ・時代劇に出演している。可南子さんはモデルからコラムニストに転向して、コメンテーターなどでTVにも出ている。この間、生放送のトーク番組に二人揃って主演して・・・・大変なことになったらしい・・・。残念ながら(そうでもないけど)、私は観ていない。
私と言えば、大学を出たあと就職したものの、二年で退職、単身で京都の仏師に駆け込み入門した。いわゆる、脱サラである。彫刻なんて初めてやる自分をよく入門させてもらえと今でも驚いている。
「あら、乃梨子さんごきげんよう」
「ごきげんよう、乃梨子さん」
瞳子と可南子さんが、同時にこちらを向いて挨拶をした。やはり「ごきげんよう」である。リリアン歴が浅い私と可南子さんでさえ、もう染みついて抜けない癖みたいものである。
「それで、瞳子?何を言い争っていたの?私の名前が出ていたみたいだけど?」
「それはもちろん、どっちが乃梨子さんに喜んでいただけるか、ですわ」
さも当たり前のように瞳子が言う。可南子さんに目を合わせると、恥ずかしそうに目を背けた。
(まぁ・・・つまりはどっちが私を上手く接待できるか大会、ということね・・・)
「はぁ・・・で、どっちが言い出したの?」
「瞳子さんが・・・」
「可南子さんが・・・!」
二人がきれいに互いの名前をハモった。ホントは双子じゃないのあんたたち?
そして、二人は言い争うように・・・とは行っても、言葉少なく事実を並べる可南子さんと、事柄は多いがおそらく多くの脚色と誇張が加えられているだろう瞳子の話・・・まとめると次のようなことらしい。
三日前、時代劇の撮影で暫く滞在していた瞳子と取材で京都に来た可南子さんがたまたま会って、私を誘って食事をしようという話になったらしい。ところが、どっちが店を選ぶか、また誰が奢るか(払いたくないではなく、貸し作るのはいやだから払わせろ、と言うことらしい)で言い争いになり、結局、一次会を瞳子が選んで三人分奢り、二次会を可南子さんが選んで三人分奢り、私の意見で勝敗を決める・・・ということのようだ。
無論、私の意見などそこになし。私に連絡が来たときは全て決まっていた。青年将校と首相ではないが、まさに「問答無用」だ。
社会人としてはただこんな高価なものを奢られるというのはどうかと思うが、逆にこんな機会じゃないと一生縁がないかもしれない。で、結局、ごちそうになることにした。断ったりしたら、後が面倒だし・・・。