遠き、約束の地との対面を   作:小千小掘

2 / 5
はい、書いちゃいました。第二話。一話限りじゃ主人公のことなんもわかんないかなと思って書いてみたけど、全然喋らなかったわ。なんだがんだチュートリアルまではやっちゃうのかな?
みんな魅力的だから、戦わせるのも嘆かわしい。でも戦う少女も絢爛なんだろうなというジレンマ。


あなたの先導に、敢えて疑念を抱えよう

「ユウカ、スズミ。正面は任せられる?」

「数が多いですけど……下手を打つことはないでしょう」

「ユウカさんに同意します」

 

 各学園、主要生徒の情報くらいは頭に抑えてある。ましてここにいるのは、キヴォトスで名高い三大学園の面子だ。

 まともな戦術も陣形もとっていない敵勢力を観察し、先生は早速即席部隊に指示を飛ばす。

 

「こちらは四人。他の二人の特性を考えると、君たちが主軸になりそうだ。頼りにしているよ」

「了解しました」

「……ご期待に沿えるよう善処します」

 

 調子づけようという魂胆か。窺うような眼差しを向けた後、ユウカはスズミ――トリニティ自警団の一員を名乗っている少女――に続き駆け出す。

 

「ハスミ。君には後方に控える敵の掃討とユウカたちの援護をお願いしたい。幸い君と同等の射程に届く相手はいないみたいだ」

「わかり……え? せ、先生。何故そんなことが?」

「何故って、見えてるから?」

 

 視力には自信がある。これくらいの頭数なら詳細は把握できる。

 瞠目するハスミをよそに、先生は付け加える。

 

「有効な狙撃ポイントの位置をデータで送った。到着次第よろしく」

「……ありがとうございます――」

 

 ユウカとは違い迂回する挙動で動き出すハスミ。それを尻目に、先生は最後の一人に意識を向ける。

 

「チナツは後方で待機。前衛二人の容態によっては救護物資の投入と、打ち漏らしがあったらその対処もお願い」

「私はサポートに適性が偏っていますからね。了解です」

 

 作戦は伝えた。生徒の負担を考えると、作戦時間の目安は三分といったところか。

 と、なると……。

 一息つく間もなく、先生は通信を開始する。

 

「あー、あー。聞こえてる? ユウカ、スズミ」

 

 

 

 

 

 前触れなく受信した音声に、ユウカは内心吃驚する。隣を見ると、スズミも同じ反応だった。

 実際に音波が届いたわけでも、脳内に語り掛けてきたなんてオカルトでもない。そういう信号が送られてきた。と表現するのが適切か。

 第一陣を迎撃していたユウカはスズミと左右に割れ、先程から遮蔽物に使っていた建物の残骸――『最適解の導出』によって最大限上手く利用できていた――に再び隠れ返事をする。

 

「何です?」

「調子はどう?」

「自前の演算処理で損傷は最小限です。ただこれは……迂闊に攻め入る隙がないですね」

 

 各個の戦闘力は大したことない。数的不利がもう少し和らげば迅速な無力化は造作もないはず。それがユウカの計算だった。

 すると、僅かな空白の後、先生から指示が下る。

 

「わかった。じゃあ――飛び出しちゃおっか」

「はい。……はい?」

 

 何を言っているんだ、この人は。

 

「私を捨て駒や囮と勘違いしてます?」

「違うよ。私の言うようにやってみて」

 

 簡単な説明を受け、不本意ながらも頷く。

 

「カウント、3、2、1――ゴー」

 

 合図と同時に、愛銃『ロジック&リーズン』を乱射しながら肉迫する。

 

「無駄よ――」

 

 突然の動きに反応の遅れた数人が銃弾に倒れる。他の敵の攻撃も、動揺からか銃口が定まっておらず避けるに容易い。

 しかしやはり、それで全てが排除できるわけではない。

 

「くっ……!」

 

 躱しきれなかった弾丸に苦悶の声が漏れる。

 気付けば第二陣も前線の状況を察したのか進行してきている。被弾も増えた。

 やっぱあの人、無茶振りだったじゃない……!

 愚痴を零した、その時。

 

「今だ、ユウカ!」

「――ッ、言われなくても!」

 

 力強い声に応え――――ユウカはすかさず端末を取り出した。

 

「攻撃が私に命中する確率は……極めて低いっ!」

 

 自分の宣言を『Q.E.D(証明)』すべく、常備している『関数電卓』――暗算に優れた彼女がそれでもなお完璧を追究するためのマストアイテムだ――を慣れたタッピングで操作。

 敵勢力の攻撃情報を分析した計算機が、中和領域のシールドを生成した。

 

「な、何だ、弾が届かない!」

 

 スケバンの一人の怯えた叫びを無視し、一網打尽にする。

 

「ま、ここまでは計算通りね――」

 

 計算が合っていれば、すぐに次の目標が見えてくるはず。

 

「クソッ、アイツを止めろ、数で押せ!」

 

 来た……!

 第二陣が向かいから雪崩のように押し寄せる。ヘイトを買った私を威圧したいのかしら? 窮屈なくらい固まって、杜撰にも程がある。

 その証明に、

 

「スズミっ」

「天罰の光を――」

 

 先生の指示に従いスズミが『オーダーメイド閃光弾』を投擲。爆発を喰らった大勢が戦闘不能になり、残りも聴覚と視覚が麻痺し硬直した。

 ユウカは爆発に巻き込まれないよう別の遮蔽物に隠れ、傍ら『高速暗算』を開始。呼吸を整え体力を取り戻す。

 その間、スズミが『自警団の猛襲』を仕掛ける。照準のブレブレな相手の抵抗は全て彼女の軽やかな『緊急回避』によって無益に終わった。

 

「――まだ終わらないわよ」

「逃しませんっ」

 

 二人同時の挟撃。ユウカの『I.F.F(敵味方識別装置)』による解析とスズミの『自警団の底力』のコンビネーションは抜群で、爆煙で視界の悪い中一方的な蹂躙が行われた。

 

「何だか、戦闘がいつもよりやりやすかった気がします」

「やっぱり、そうよね……?」

 

 一段落ついた折。スズミの呟きに同意する。彼の指示は的確で、特にシールドの展開と閃光弾の投擲のタイミングはあれが最適だった。

 これが、先生の力……。

 連邦生徒会長が選んだ方とはいえ、感心せざるを得ない。

 

「先生の指揮のおかげですね」

「ハスミもお疲れ。後方はほぼ単独で殲滅か」

「大変狙いやすい的でしたから」

 

 どうやらこちらの指揮と同時にハスミにも通信していたらしい。器用さまであると来たか。

 

「特に甚大な損傷はなさそうだけど、念のため回復しておこう。一番ダメージを受けているのは、やっぱりユウカか」

「はい。どっかの大人が子供を乱暴に扱ったせいで」

「そ、それについてはごめん。でも危ない橋を渡らせるつもりはないよ。まだちょっと不慣れなものでね」

 

 無愛想を装って鼻を鳴らすが、実の所そこまで不快感はなかった。元々状況が厳しいとは思っていなかったし、合理的な作戦だったのはユウカ自身認めているところだ。

 

「チナツ。『戦傷治療』をお願い」

「はい。この先も、助けが必要なら私にお任せください」

 

 二つ返事や否や救援物資が届く。ケースの中に入っていた注射器で治癒を完了した。

 

「うん、ちょうどいい量ね」

 

 さて。

 シャーレの部室までは、後半分といったところか。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「シャーレの部室は目の前よ」

 

 その後も先生の指揮が功を奏し、一行は順調にシャーレへと近づきつつあった。

 ユウカの発言を追う形で、連邦生徒会幹部、七崎リンから通信が入った。

 

「今、この騒ぎを巻き起こした生徒の正体が判明しました」

「それは……?」

「狐坂ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。似たような前科がいくつもある危険人物なので、気を付けてください」

 

 詳細データを受信する。唯一固定位置で開封する余裕のあったハスミは一人それを確認し、

 ――目を剥いた。

 

「そ、騒動の中心人物を発見! 対処します!」

 

 潜めた影を滲ませたような黒の下地に、妖艶さを演出する瀟洒な花柄の制服。着物を彷彿とさせるデザインは、しかし妙に様になった気崩し方で、不良然とした見てくれだった。

 そして最大の特徴である狐のお面。素顔が見えない相手というのは例外なく測りづらく、底知れぬ不気味さだ。

 そんな悪女は、ユウカとスズミの500メートル以上先で仁王立ちしている。全てビルの屋上からリアルタイムで得た情報だ。

 

「フフ、連邦生徒会の子犬たちが現れましたか。お可愛らしいこと」

 

 飄々とした態度を崩さずに、ワカモは呟く。愉悦の響きのこもった声だ。

 

「興が乗りました。少しばかり、お相手致しましょう」

 

 ワカモは自前のスナイパーライフルを構える。

 その銃口が向けられた先は……

 

「ユウカさん、シールドをッ!」

 

 回避行動は間に合わない。冷静にして一瞬の判断から咄嗟に警告する。

 すんでのところで気づいたユウカが即座にシールドを展開。それとほぼ同時――。

 

「なっ……!?」

 

 たった一発だった。

 今までスケバンやヘルメット団の銃撃をものともしなかったユウカのシールドは、不出来なガラス細工のように脆く割れて散った。

 動揺を押し殺し、ユウカは最寄りの車に身を隠す。一連の出来事を目撃した三人も射線から外れた。

 

「あら、怖がらせてしまいましたかね」

 

 そりゃビビるというものだ。有効射程を優に超えた長距離射撃。ハスミの見立てでは、あの長物は500メートルが有効かも怪しいはずだ。

 それに加え、何食わぬ顔で否定しようのない殺傷力を行使する非道さはまさしく『花開く破戒衝動』と言えよう。

 

「さあ、貫かれたい子は誰かしら?」

 

 きっと隠れた表情は、純真無垢な微笑みか。

 

 

 

 

 

「どうしますか、先生」

 

 会話に余裕の残っているハスミが先生に問いかける。

 

「ちょっと待ってね」

 

 どうする。まだワカモとの距離は相当ある。彼女の付近には今のように腰を下ろせる安置がなく、無理に移動しようとすれば格好の餌食だ。

 一撃でも喰らえば、自分は勿論生徒たちも無事とは限らない。

 つまり、この状況の突破口となるのは……

 戦術を組み終えた先生は、四人に告げた。

 

「指揮を執る。行こうっ」

 

 作戦開始。

 

「……! フフ、ウフフフフフ……」

 

 薄ら笑いするワカモ。そこに最初に向かって行くのは、ユウカだ。

 

「いいでしょういいでしょう。泣き叫びたい方から順番にどうぞ」

「誰がっ、そんな惨めな真似するものですか!」

 

 相手のファーストアタック――不意打ちはノーカンだ――は身体を転がすことで無理矢理躱す。まだ近くに残っていた遮蔽物に身を隠した。

 

「ユウカ」

「わかっています。――勝利を、証明するわ。私たちで」

 

『関数電卓』を起動。青い領域に包まれながら射線を駆け抜ける。

 それに息を合わせ、彼女を追い掛けるようにスズミも前に出た。

 

「さて。この蛮勇の意図は……」

 

 無論迎え撃とうとするワカモだったが、彼女は瞬時に標的を変更する。

 射撃と同時に一歩後ずさると、彼女が元いた位置に鉛がめり込んだ。

 

「フフ、バレてしまいましたね」

「白々しい……やはり気付いていましたか」

 

 立て続けに変化する前衛の状況に気を取られれば僅かながら隙は生まれるかと思ったが、そうはいかないようだ。

 一弾指の攻防の間に、ユウカが抜け出した場所にスズミが到着。ユウカはワカモまでおよそ300メートル強のところに迫っていた。

 しかし、

 

「……っ、くぅ。うぐっ――」

 

 対象をユウカに定めた猛撃に、ついに回避が遅れシールドが破壊される。

 それでもっ。

 

「まだよ。まだ……!」

 

 駆ける。自分がどこまで()()()かも、この策の鍵なのだ。

 一撃。苦痛に表情を歪めるが、足を止めたのはほんの一瞬。

 二撃。もう勝手はわかった、今度は臆さず進む。

 

「存外硬いのですね」

「当たり前、でしょ。こっちは優秀な救護係がいるんだからっ」

「ユウカさん、私のことそんな風に思っていらしたんですね」

「建前よ! 建前!」

 

 自分がここまで銃弾を受けながら平静を保っていられるのは、チナツによる『防御支援の強化』があるからだ。これも当然先生の指示である。

 

「仲良しこよしはいいことですね。では、これはどうでしょう!」

 

 歓喜の滲んだ声と共にワカモが構える。

 荒廃した街並みに、一輪の花が咲いた。

 

「……!」

 

 ヤバい!

 そう思った時には手遅れだった。

 

「『乱れ散る花吹雪』の如く……。はぁっ!」

 

 禍々しいオーラを纏った銃口から放たれる漆黒の三発が、ユウカに牙を剥く。

 

「うぅっ……!」

 

 耐えられない……!

 先行する二発を受け膝をつく。死の近づく音が聞こえ、思わず目を瞑った。

 最後の一発が、ついに彼女のヘイローを――

 

「……! 何が……」

 

 聞こえてきたのは、血肉が嬲られる音ではなかった。

 動揺するワカモの声に目が開く。自分の身体に、あるべき傷が全く見られなかった。

 一体、何が起きたの……?

 

「大丈夫ですか、ユウカさん」

「チナツ……あなたの?」

「回復、間に合いましたね」

 

 彼女の『戦傷治療』の賜物らしい。何だか()()()が残るが、それは今気にすることではないだろう。

 さあ、バトンタッチだ。

 

「スズミ!」

「――ええ。ここからは、私の番ですね」

 

 ユウカの背後からスズミが飛び出す。ユウカの稼いでくれた距離を、スズミが更に攻めていく。

 

「フフ、面白い」

「いつまでもニヤニヤさせるわけにはいきません。――腰を抜かしてさしあげましょう」

 

 閃光弾を投擲。――届く前に打ち抜かれる。

 両者の間に迸る光。それを掻い潜り、スズミは全速力で射程圏内を目指す。

 

「速い……」

 

 距離、200。もっとだ、もっと加速だ。脚力の限りを前方へ。

 侵攻を封じようとするワカモの発砲。スズミは不自然とも思える挙動でこれを回避する。

 

「今のは……ああ、支援ですか」

 

 戦闘に躊躇いはないが脳筋ではない。ワカモは反射的に不可思議な現象に答えを見出す。

 

「無駄です――!」

「バイタル正常。進んでください!」 

 

 チナツから『戦況の立て直し』の恩恵を授かったスズミは、ワカモの正確な射撃すら凌駕する。

 そして――――距離、100……!

 日課であるパトロールのパートナー、『セーフティ』を構える。

 時の止まった世界。スズミとワカモ。二人の視線が交錯し、触発寸前の間合いが完成した。

 刹那の均衡。それは一瞬にして崩壊する。

 

「くっ……!」

 

 先に着弾したのは――――ワカモの銃弾だ。

 片足に重い衝撃を受けたスズミは空中で姿勢を崩し、勢いは収まることなく地べたを転がされる。――しかし、タダでは転ばない。

 ローリングの最中、無理矢理体勢を立て直し立膝に。間髪入れず、本能の指摘した場所へ銃口を突き付けた。

 ようやくたどり着いた、500の距離。歩幅一つ分の間隔は、二つの銃身で埋まっている。

 響く音は、限界が近いスズミの乱れた呼吸だけだ。

 

「――お見事」

「終わりです――」

 

 両者のみが感じ取れる互いの圧力。心の睨み合いは、銃火器がもたらす戦火よりもずっと熾烈だ。

 

「何が目的ですか? 脱獄を働いた上でこのような騒ぎを起こして……」

「お答えする義務が、私にあるとでも?」

「どうしても、拒否されると言うのですね。回答も、投降も」

 

 肯定を示す沈黙。それを認めたスズミは――――()()()()()()()

 

「残念です。ならあなたをここで無力化する他ありません」

「無駄ですよ。あなたのアサルトライフルでは私を一発では仕留めきれない。一方私は……お分かりですね?」

「その通りです。でも…………これは痛いですよ」

「――ッ! まさか、」

 

 瞬間。二人を閃光が包んだ。

 ここだ、今しかない……!

 

「ハスミ!」

 

 

 

 

「心は熱く、頭は冷静に――」

 

 呼吸を止める。揺れが止まる。

 呉越同舟とはいえ、体を張ってくれた者たちのため。この一瞬は絶対に逃してはならない。

 逃すなど、一人のスナイパーとして。正義を掲げる一員として、ナンセンスだ。

 

「『災厄の狐』よ。一つ教えてあげましょう。――――あなたより私の方が、ずっと射程は長いんですよ」

 

 愛銃『インペイルメント』。

『アーマーピアッシング弾』、装填完了。

 目標、狐坂ワカモ。距離904m。

 

「『照準よし』。撃ち抜くッ……!」

 

 女狐の属性弾にも引けを取らない純黒の熱意。それは、決して跋扈する悪の象徴ではなく。

 何者にも染められることのない、絶対的な正義の志である。

 勧善懲悪への信仰を乗せて。正義の銃口より放つ、会心の一撃。

 それはついに、無傷だった「七囚人」の一角を、確実に穿った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ありがとうハスミ! 一転攻勢だ!」

 

 形勢逆転。依然動けずにいるワカモを、ハスミは再び狙撃する。戦線に復帰したユウカも合流した。

 

「これは……困りましたね」

 

 初めて、負の感情の吐露を聞いた。

 

「さっきはよくもいたぶってくれたわねっ」

「あらら。こうなってしまっては分が悪い……。ここまでにしておきましょう」

 

 途端、ワカモの身体が消える。

 否、痺れから回復した彼女が砲火から脱出したのだ。

 

「なっ、何よその動き!」

 

 ユウカの驚愕は最もで、本当に得物がSRなのかと疑ってしまう機動力が窺えた。

 

「逃がしませんっ」

 

 ハスミの『アーマーピアッシング弾』も、二度目の着弾は叶わなかったようだ。

 すると、

 

「こ、今度は何!?」

 

 ふらつく規模の地響きと共に姿を現したのは、一度話題に挙がっていた巡航戦車だ。

 

「クルセイダー1型!?」次はハスミが声をあげる番だった。「トリニティの制式戦車と同じ型です」

 

 噂の兵器がこのタイミングでお出ましとは。今まで見かけなかったのだからおかしなことではないのだが、上手く使われてしまった。

 

「後は任せます」

 

 クルセイダー戦車を盾に、ワカモは待避してしまう。追跡するには難度が高すぎる。

 

「逃がすわけには……!」

「いいえ、生半可な行動は不要です」無理をしようとするユウカだが、それを深追いだと判断するハスミが止める。「私たちの目標はあくまでシャーレの奪還です。余力も考慮すると、このまま目標地点のビルへ向かうべきです」

「……っ、わかったわ。あいつを追うのは私たちの役目じゃない。そういうことでしょう」

「罠かもしれませんしね」

 

 方針は決定したようだ。そこでスズミが疑問を呈する。

 

「結局、アレの出所は一体?」

「恐らく、不法に流通されたものね。PMCに流れたのを不良たちが買い入れたのかも」

 

 つまり、

 

「ガラクタってことだから、壊して問題無し。行くわよ!」

 

 ラストスパートだ。

 もう不安要素はないだろう。一人の強力な手合いを前にしたことで、即席だった小隊も自然な連携ができるようになってきた。さすが、それぞれの学園で相当な地位を熟しているだけのことはある。

 ワカモと比べれば戦車程度、それこそ鈍足な的でしかない。気は抜かずとも、どこか緊張していた気分が弛緩する。

 柔軟になった思考は、皮肉なことに休むことを知らず、現在から未来に巡り始めた。

 リンの言っていた「ある物」とは一体何なのだろう。これから自分はどのように『先生』を全うすべきなのだろう。

 個性溢れる生徒たちと、どう向き合っていけばいいのだろう。

 答えには遠すぎる疑問だが、それが希望への行進であることを、彼は疑っていなかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「へー、ほー。あれが先生か。何だか危なっかしい人だなあ」

 

 一連の攻防を傍観していた私は、思わずそう感想を零した。

 藍髪の少女をタンクにしてできるだけ距離を詰める。限界まで進んだところですかさず回復&俊敏な生徒に交代。それすらも陽動で、足止めしたところを高威力の狙撃で落とす。

 頑張っていたのはみんなだったけど、要だったのはスナイパーとサポーターの二人だね。スナイパーの初撃は「私はここで構えているぞ」の意思表示。あれがなければ懐に飛び込む難易度はもう一段階上がっていた。サポーターに至っては言わずもがな、彼女の支援がなければ二人撃墜されていた。

 精密さの求められるその策を短時間で練ったのがあの『先生』。果たして生徒を信じている故なのか、手腕が未熟故なのか。導き手にも独裁者にもなれる存在だね、大人っていうのは。

 確かにあの劣勢を覆すには優良な策であったことは事実だ。でも実際、()()()()()()()()()()()()、タンクの子は助からなかった。きっと誰も、そのことには気づいてないんだろうけど。

 

「ふむふむ、調査っていうのはこういう感じかな? 何かお高くとまったような気分になれて楽しいかも」

 

 狐のお面を被った少女のおかげで随分格が落ちてしまった巡航戦車が沈黙した。と言うことは、そろそろ先生がシャーレに踏み込む頃合いか。

 どういう風に接すればいいのかやら。私だって乙女だ。ファーストコンタクトにはわりと気を遣う。こればかりは成るように成るなどとは言ってられない。

 前途多難。ポリポリと頬を掻きながら、私は『シャーレ』の屋上を降りることにした。

 




自分なりなリスペクトを最大限表現してみした。見覚えのある名前、聞き覚えのあるセリフも何箇所かあったでしょう。

今話で雰囲気はちょっとだけ伝わったかなと思います。わりと硬派というか、練習目的で戦闘描写もしていきたいなと。
アニメーションとしてイメージしてみるとかっこいいシーンとか作ってみたつもりです。スズミVSワカモやハスミのEXスキルはお気に入り。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。