【本編完結】Ib ~ゲルテナ展 10周年記念展~   作:梅山葵

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『回転』

 視界が、回る。意識が、回る。さながらそれは、走馬燈のように。

 

「―――!!」

 

 丸ごと蒸し焼きにされているような灼熱に、あわや絶叫しそうになる。しかし、少し触れただけでこれほどの苦痛を与えるこの煙を直接吸い込もうものなら、それこそどれほどの地獄が待っていることか。そう予想することで、必死に口を食いしばって、喉で悲鳴を噛み殺した。

 

 身体を蝕む毒々しいペンキに似たガスの痛みに耐えながら、イヴはやっとのことで、紫色の絵の具玉が置かれていた安全地帯に辿り着いた。

 

 そして部屋の奥へと目をやり、部屋の入口へと目をやり、絶望する。たった今踏破した距離とは比べ物にもならない長さの煙の道が、視線の先に続いていた。

 

 この部屋の探索は、あえて後回しにするようにしていた。この部屋のあちこちから吹き上がる色付きのガスは、どう見ても身体に優しいものではないと、本能的に察知していたから。

 

 それなのに、今になってこの部屋の捜索に踏み切った理由は、他に調べるところが無くなってしまったのもあるが……。

 

「これで6つ目。あとは書庫の一個だけだね、イヴ!」

 

 こうやって隣で笑う、メアリーが怖くてたまらなくなったから。それが多分、一番だ。

 

 あの青い人形達の部屋での一件を受けて、イヴのメアリーへの印象は、可愛いけれど強い女の子から、得体の知れないナニカへと反転した。

 

 だからメアリーと2人きりの今の状況が怖くて、早くギャリーの元に戻りたくて、先に進める唯一の可能性に賭けた。この煙の中は通るべきではないという、自分の直感に蓋をして。

 

 その結果、なんとか6つ目の絵の具玉までは手に入れることができた。……でも、無理だ。この先を耐え切って奥に行くことなんて、とてもではないができるわけがない。ちょっと煙に触れただけで、ほぼ萎れかけてしまった赤薔薇が、その証拠だ。

 

 このままだと、すごく危ない。早く元来た道を戻って、花瓶に薔薇を活けて回復させないと……。

 

 そう思って振り返り、そこに先ほど潜り抜けたばかりの煙が上がっているのを目にして、足が止まる。

 

"もう一度、あれを通るの……?"

 

 この半分薔薇が萎れた状態のまま、もう一度煙に突っ込んだりしたら。今度こそ完全に、薔薇は枯れてしまうかもしれない。そうなったら、イヴはどうなるのか?

 

"本当に、死んじゃう、かも……"

 

 ならばこの状況は、もはや「閉じ込められた」ようなもの? その事実に気づき、イヴはゾッとして立ち尽くす。

 

「あっ……! 見てよ、イヴ! あの床にキチッとハマりそうなクローバーの置物だよ! あれで本置き場のトゲトゲも、きっとなんとかできるはずだよ!」

 

 この部屋の入口付近にも、最後に残った桃色の絵の具玉が残っている書庫にも、茨の石像がある。そして、この茨を引っ込ませる方法は、おそらくメアリーが言うように、床の隙間に、同じ形のオブジェを嵌め込むことだと思う。前にやった時と、同じように。そういう意味では、この絵の具玉集めの終点はもうすぐだ。

 

 そのためには先程より遥かに長い煙の道を潜り抜けなくてはいけない、という事実さえ無視すれば。

 

「それじゃあ一緒に、レッツ、ゴー!」

 

 そう言いながらメアリーは、左手で私の右手を掴み、グーにした右手を上に伸ばした。右手が強い力で、引かれているのを感じる。その向かう先は当然、煙がもくもくと立ち込める部屋の奥。

 

「や、やだ!」

 

 気がつけば。イヴは咄嗟に、メアリーの手を払い除けていた。

 

 された方のメアリーはと言えば、目を丸くしてパチパチさせながら、呆然とイヴの方を見るだけ。なんでそんなことをされたか、分からない。そう、言わんばかりだ。

 

「……え、……イヴ?」

 

 是が非でも、行きたくない。そんな態度をメアリーに示すように、イヴは両手で膝を抱え、壁を背にして座り込む。

 

「ね、ねぇ、どうしたの? 座ってないで、行こう? きっとあと少しで、出口があるよ!」

 

 ……メアリーは、なんで笑えるのだろう。

 

 青い人形達を素手で引き裂いていた時もそうだが、今もそうだ。メアリーも、イヴと一緒にあの煙に触れたばかりのハズ。一瞬でさえあんなに痛かったのに、こうして笑顔を浮かべたまま、奥へ進むことを戸惑わないでいられるメアリーが理解できない。

 

「私も頑張るから! 一緒にここを出ようよ! ね、イヴ?」

 

 メアリーは、死ぬのが怖くないのだろうか。イヴは、怖い。ひとりぼっちだった時は、「死んじゃってもいいや」と思ってた。でもその後ギャリーと出会って、ひとりぼっちじゃなくなって、いざこうして肉体的に激しい痛みを味わってみたら、どうしようもなく死ぬのが怖くなっている自分がいる。

 

「ほら、立って!」

 

"嫌、嫌、嫌。痛いのは嫌、痛いのは嫌、痛いのは嫌。死にたくない、死にたくない、死にたくない"

 

 必死にイヴを立たせようとするメアリーに、イヴは全身全霊の力を込めて抵抗する。腕を必死に互いに組んで、その場から動かないで済むように。

 

「イヴ……。私、ひとりで行っちゃうよ? いいの?」

 

 ただ、どうしてもその言葉だけは、聞き逃せなくて。身体がビクッと、一瞬震えた。ただ、それでも。俯いて膝を抱えた体勢から、顔を上げることは出来なかった。

 

 イヴ自身、訳が分からなかった。

 

 メアリーのことを、怖いと思っているのに。メアリーには、付いて行けないと思っているのに。そんなメアリーに置いて行かれることも、とても怖いと思っている。一体、何様のつもりなんだろう。

 

 少なくとも、メアリーはイヴと仲良くしたいと思ってくれている。それは、メアリーの態度からすごく感じる。それなのに、イヴが勝手に、一方的に、メアリーのことを怖がった。ただ理解できないものとして、メアリーを遠ざけようとした。……だから。

 

「……イヴのバカ……。せっかく、外に出られるかもしれないのに」

 

 こうして、見捨てられてしまうのも、当然なのかもしれない。メアリーの声からは、呆れと失望が滲む。メアリーがイヴから離れていくのを、イヴはその足音から聞いていた。けれど、まさか。

 

「ほんとに、私だけで行っちゃうからねっ!」

 

 元の部屋の方向ではなく、煙が立ち込める奥の方へ、たった1人で飛び込んでしまうとは。

 

「ダメっ、メアリー!!」

 

 そんな。自殺行為だ。メアリーは、どうしてこんなことを? 掴めるわけもないのに、メアリーが消えた煙の方へ手を伸ばす。

 

 自分のせいだ。自分がメアリーの手を振り払うようなことをしたから、こんな無謀なことをしたに違いない。

 

「置いてかないで……」

 

 最後に口から零れ出た言葉は呟きに近くて、ろくに反響もしなかった。そうして静かになった後、イヴは床に這い蹲った状態のまま、身体も起こさず嗚咽を漏らした。

 

 また、ひとりぼっちに、なっちゃった。この期に及んで考えているのは、1人で死地に向かわせてしまったメアリーのことじゃなくて、自分のこと。なんて自分勝手なんだろう。

 

 ……カタン。……カタン。

 

 軽い木片同士がぶつかり合った時のような、場違いな明るい音がした。それは部屋の奥の方から、したように聞こえた。

 

 先程までと、煙が出る場所と、煙の色が変わっている。イヴが閉じ込められていた安全地帯を取り囲んでいた煙も、入口扉方向のものはもう止まっていた。つまり、これでイヴはこの部屋から、安全に出ることができるということだ。

 

「んーしょ! んーしょ! ふぅ~……」

 

 聞き覚えのある声。とても騒がしくて、明るい声。呆然と声の方に目をやると、イヴの目の前でこの部屋の片方を塞いでいた、石の茨が引っ込んでいく。

 

 そうして茨がどいた先では、メアリーがおでこにかかった邪魔な髪を、左手で後ろに流していた。その姿は、まさに一仕事終えたと言わんばかり。そしてその足元には、きっちり嵌め込まれたクローバーのオブジェがある。

 

「……メアリー?」

 

「大丈夫! イヴのこと、置いてったりしないよ! だって、それってとっても寂しいもん。私、よく知ってるんだから!」

 

 分からない。分からない。メアリーは良い子なのか、悪い子なのか。メアリーは優しい子なのか、怖い子なのか。メアリーの人物像が、ぐるぐるぐるぐる回り続ける。

 

 ただ、メアリーはイヴを見捨てなかった。それだけは、間違いなかった。

 

「……そうだ、メアリー! 身体は!? 薔薇は!? 痛いところない!? 大丈夫なの!?」

 

 1人で煙の通路を奥まで行って、そうして戻って来たメアリーは、イヴよりずっと長い間、正面からあのガスを浴びたはずだ。気が狂いそうなあの痛みの中を越えてきたはずだ。死んじゃったとしてもおかしくなくて、すぐに治療しなくてはいけない。

 

 すぐにメアリーの元に走り寄り、その勢いのまま一緒に部屋を飛び出す。すぐにでもメアリーの薔薇を、花瓶に活けないといけないから。そのはずだから。

 

 ……なのに。2人で花瓶の前に立っても、メアリーは一向に自分の黄色い薔薇を活けようとする素振りを見せない。そんなことよりも気になることがあるといった感じで、なんかピンピンしているような……。

 

 ……あり得ない。すごく我慢強いだとか、死ぬのが怖くないだとか、そんな精神論を超えている。

 

「変なイヴ……」

 

 キョトンとした様子の、メアリーと眼が合った。そして彼女が続けた言葉で、全ての前提がひっくり返った。

 

「"イタイ"わけ、ないじゃん」

 

 メアリーの黄色い"バラ"は、花瓶に活けるまでもなく、ただ綺麗なままだった。

 


 

 

「メアリーは……。メアリーは、ゲルテナの作品なの……?」

 

 "イタイ"わけないってイヴに言ったら、何故か質問で返って来た。

 

 そのあまりの内容に、耳を疑う。

 

 ……ナンデ? ……ドウシテ? 

 

 オカシイ、オカシイ。バレちゃいそうなことなんて、何もしてない。

 

「アハハ。やだよ、イヴ。突然、何を言うの……?」

 

 今、私は自然に笑えてる? ちゃんと上手く、誤魔化せてる?

 

 イヴとはずっと、一緒にいた。私が作品だって書かれた本だって、イヴは絶対に見てなんかいない。それはイヴの傍にずっといた、私が一番よく知ってる。

 

「だって、その"バラ"……」

 

 イヴがおそるおそる指差したのは、私が手に持つ黄色いバラ。それをなんとなく不吉に思った私は、咄嗟に手を後ろに回して、自分の背中にバラを隠す。別にやましいところなんて、私のバラには無いはずなのに。

 

 気のせいかと思っていたけど。ちょっと前からイヴはどこか、私から離れたがっているような素振りをしていた。私より先に歩くようになったり、私の手を振り払ったり。これも全て、私が作品だって、気づかれてしまったから?

 

 近づくイヴから離れるように、ずりずりと後ずさる私。そんな私に構わずに、イヴはさっきの続きの言葉を言った。私にとって、絶対に無視なんてできない、その言葉を。

 

「だって、その"バラ"……。偽物、でしょ?」

 

「!? 違う!!」

 

 ほとんど、無意識だった。

 

 ニセモノ。それは、お父さん以外の人が、お父さんの作品だと偽って、作ったもののこと。私達家族が、絶対に許せないもののこと。だから私は、隠していたバラをイヴの前に見せつけて、大きな声で言い返す。

 

「これはお父さんが私のためだけに創ってくれた、ホンモノのバラだもん! ニセモノなんかじゃ、ないもん!」

 

 薔薇は、その人の心を映す鏡。それがモットーなお父さんが、私にくれた宝物。私が綺麗な心を持てるようにって、願いを込めてくれた宝物。だからいつも肌身離さず、大切にしている宝物。

 

 ただ、反射的に叫んだ後。悲しそうに私を見つめるイヴは、ゆっくりと首を振りながら言ったのだ。

 

「……メアリー。普通の薔薇は、誰かが作れるものじゃないよ」

 

「え……」

 

 ナニソレ、シラナイ。

 

 イヴはゆっくりと、その手に持ったイヴの赤い薔薇を、私の前に掲げる。それはちょうど、私がイヴへと突き出した、私の黄色いバラの隣。

 

 イヴの赤い薔薇は、なぜか皺くちゃになっていた。私の黄色いバラは、ぜんぜん綺麗なままなのに。

 

「だからメアリーは、痛くなかったんだね……」

 

 なにかが、違うんだ。イヴの薔薇と、私のバラで。イヴが言ってた、"ニセモノ"ってこのこと?

 

 そのままイヴは、水が貯まった花瓶にその赤い薔薇を挿す。すると、赤い薔薇はみるみる水を吸って、そのみずみずしさを取り戻していく。

 

 そうして並ぶ、赤い薔薇と、黄色いバラ。それを並べて見比べて、隣の赤い薔薇の方が、何故か綺麗に私には見えた。

 

 薔薇は、その人の心を映す鏡。健全な肉体にしか、咲くことはない。私が外に出るための"存在の交換"でも、一番大事になってくるモノ。

 

 その間で出たハッキリとした差を見せられて、私はすごく嫌な予感がしていた。ナニカ、とんでもないものを見落としているような、そんな気がする。

 

 それがなんなのか知りたくて、感じた疑問をイヴにぶつける。

 

「……イヴ。イヴの言う"イタイ"って、なに……?」

 

 私が知ってる"イタイ"って言葉は、自分が壊れちゃいそうな時に言う言葉。例えばみんなで遊んでいたりして、足が片っぽ取れちゃったりすると、歩きにくくて不便だよね。そーゆー時に"イタイ"って言えば、誰かが直しに来てくれるの。

 

 だけど、イヴが言う"イタイ"は、なんか違う。もっと別の意味から、出来ているような気がした。

 

 ……イヴは、なかなか口を開かない。どう言葉にすれば良いのか、それを考えているようだった。

 

「"痛い"っていうのはね……。苦しいこと、辛いこと。ヒリヒリして、怖くて、嫌なこと。傷ついたり、怪我をすると、私達はそうなるの」

 

「傷つく……。壊れそうってことで合ってるよね……? イヴは今、"イタイ"の……?」

 

「……今は、もう大丈夫。……さっきの煙に当たったとき、痛かったの。すごく、すごく、痛かったの」

 

 そう話すイヴの顔は暗いもので。だから、言われた言葉だけではよく分からなくても、少なくともそれは良い感じのものじゃないんだってことだけは分かった。

 

「……でも。傷ついたって……。こうやって、ほら! すぐ"直せる"よね……?」

 

 私はちょっとだけ半笑いで、花瓶に差されたイヴの赤い薔薇を指差しながらそう言おうとして。でも、私を見つめ返すイヴの真剣な眼差しに、その言葉はだんだん小さくなる。

 

「……メアリー。"痛い"は耐えられないとこまで行くと、"治せない"よ……。……それにね。"治せる"から傷ついていいなんて、そんなのは絶対おかしい」

 

 ナオセナイ。傷ツイテハイケナイ。それはとても、私には分かりづらい話だった。それに何よりどうしても、気になることが1つできた。

 

「"ナオセナイ"と、どうなるの……?」

 

 美術館で、物を壊したりするのはいけないこと。確かにお父さんからは、そう教わってはいる。ただ、家族みんなで一緒に遊んだりしていると、どうしても何かしら傷つけちゃうことはある。そういう時、私は皆が動けるように、ちゃんと元通りに直してきた。……だけど、それが出来ないとすれば。

 

「……ずっと、動けなくなっちゃう。……ずっと、話せなくなっちゃう。……そうして最期には。ずっと遠いところに行っちゃって、もう会えなくなっちゃうの」

 

「!?」

 

 私にとって、家族が動くのも、家族が話すのも、どっちも当たり前のことだった。だからイヴが先に言った2つは、私には想像が難しくて、あまりピンとは来なかった。だけど最後の1つだけは、それだけは私にもすぐに分かった。

 

 だって、私は知ってるから。会いたい人にずっと会えない寂しさを、私はずっと知ってるから。他でもない私自身が、それでずっと苦しく辛かったから。

 

 だから本当に悪いことをしちゃったんだと思って、今まで誰かに謝ったことなんてほとんど無かったのに、自然と謝る言葉が出てきたんだ。

 

「ゴメン! 私、そんなつもりじゃなくて……。私、イヴと会えなくなるなんて、ヤダ」

 

「……いいよ。メアリーに悪気があったわけじゃなかったんだって、分かったから」

 

 さっき、イヴに手を払われた理由は、これだったんだろう。イヴに酷いことをされたって、あの時はこっちがちょっと怒っていたけど、もっと酷いことをしていたのは私だったんだ。

 

 ……だけど、どうしよう。今のこの状況。私がお父さんの作品だって、認めてしまったようなものだよね? それって、やっぱり良くないことなんじゃ。

 

「……メアリー。私ね。メアリーのことが、怖かった」

 

 イヴが口にする言葉が怖くて、ギュッと強く目を瞑る。

 

「人形さんのお腹を破って、笑えちゃうメアリーが怖かった。毒の煙に当たっても、笑えちゃうメアリーが怖かった。理解できないメアリーが、とってもとっても怖かった」

 

 作品の、私が怖い。作品の、私が嫌いだ。だから作品の、私とは友達になれない。……そんなふうに、続けられると思った。

 

「でもね、今はもう違うよ」

 

 その瞬間。イヴが話す言葉の流れが、私を中心にぐるりと回る。

 

「メアリーは、知らなかっただけなんだ。自分が痛いっていうことが。誰かが痛いっていうことが。痛いのはみんな嫌だから、自分を、誰かを、傷つけちゃいけないんだっていうことが」

 

 イヴが右手を伸ばして、私の髪を梳かすように撫でる。その優しい手付きを感じて、やっと私はイヴがどんな顔をしているのか、見てみたい気持ちにかられた。

 

「もう理由が、解ったよ。メアリーのことが、解ったよ。だから私、もうメアリーのことは怖くない。メアリーがゲルテナの作品だってことなんて、友達になる邪魔にはならないよ。だってほら。私、作品の友達、他にもけっこういるし」

 

 おそるおそる眼を開けると、イヴは私を穏やかに見つめながら、その指を折り曲げるようにして、これまでに作った友達を数え上げているところだった。

 

「アリさん、椅子さん、猛唇さん、ガン見さん、いただきますさん、貴婦人さん、ジャグラーさん……。兎さんは、人形さんで、ちょっと残念だけど……。でも、どーだろ……? キモカワ?」

 

 イヴに最後に読み上げられて、大部屋に1人だけいた青い子は、嬉しそうにジャンプする。

 

「ほらね? メアリーが増えたって、それはとっくに今さらなんだよ?」

 

 そう言って、イヴは私に向けて、手を伸ばす。

 

 イヴが言ったことの意味が、じんわりと私の中に染み渡って、心が温まっていくのを感じる。

 

 ……すっごく、すっごく、嬉しい。もうイヴに、隠しごと、しなくていいんだ。私が作品だって知られちゃっても、イヴは嫌ったりなんてしないんだ。大好きなお父さんの話だって、もうぼかさずに話しちゃっていいんだ。

 

「ありがとう、イヴ!! 私達、これでシンユウだね!」

 

「そうだね、メアリー」

 

 私は幸せいっぱいの笑顔で、イヴの差し出した右手を掴んだ。そしてそんな私に、イヴも満面の笑顔を返してくれる。

 

 天にも昇る気持ちって、きっとこういう感じなんだね!

 

 ……そしてその笑顔のまま、手を繋いだまま。イヴは私に、言ったんだ。

 

「ところで、ギャリーと合流したいんだけど、できるよね。メアリーは詳しいんでしょ、この世界」

 

 この世界からは、2人しか出られない。やっぱり、このことだけは、言うわけにいかないんだと分かって。

 

 最後に改めて、地面へと突き落とされた気分だった。




印象は、状況は、反転する。

人間万事塞翁が馬。


~???~


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