ぼざろ世界で転生者がトラウマと向き合うまで   作:ハルカゼ

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アニメ10話が放送されましたね。あと2話しかない…。


カラカラ頭で踏み出して

 

 バイトを巡った伊地知姉妹の戦争勃発から数分が経過し――既に趨勢は決していた。

 どちらが勝者かは、うなだれた伊地知虹夏を見れば語るまでもないだろう。

 

 

 

 星歌さんの話を要約するとこうなる。

 

 ①そもそもバイトの人数は十分足りていて、これ以上増やすのは人件費がかさむ

 ②仮に採用するなら、まずは面接から

 ③バンドメンバーの面倒を見るのを、部外者に頼りすぎるな

 

 そもそも後藤さんについてOKしたのも、破格の対応といえる。まじめに面接すればバイト(特に接客系)に受かる可能性は0だろうし…。

 それを察した伊地知さん(妹)が、後藤さんがバンドにかかる費用を稼げるようにするために、姉である星歌さんにお願いした結果が、人柄やスキル等を完全に度外視した採用決定――いわゆるコネ入社だ。

 そういった事情がなく、バンドメンバーですらないのであれば、通常の採用手順を踏むようにというのは正論なんだろう…。

 

 

 「そもそも『迷惑かけちゃうかもだけど、あたしがフォローするから』なんて言ってなかったっけ?」

 「はい…。言いました……」

 「なら安易に一緒に働いてもらおうとしないで、頑張りなよ。バンドメンバーとしてこの先もやっていくなら、人間関係はしっかり構築しておいた方がいいんじゃない?」

 「ごめんなさい…。あたしの考えが甘かったです……」

 

 伊地知姉妹の話し合いはまだ続いているけれど、もはや話し合いというより、一方的なお説教となっている。これはバイトの話は立ち消えだな…。友達として同席するのもこの流れだと遠慮されそうだし、後藤さんの初バイトを見る計画は、もはや実現できそうにない。

 いたたまれない空気になっているからか、いつの間にか他の人も離れた席に移動している。いつまで続くんだろう……なんて思っていたら、山田さんが「ねえ、」と話しかけてきた。

 

 「? はい、なんですか?」

 「畔って、好きなバンドとかあるの?」

 

 この空気の中で雑談……だと? 驚愕して思わず山田さんの顔をまじまじと見てしまうが、なんのプレッシャーも感じていないような表情で見つめてくる。心臓に毛が生えてるのか?

 しかし好きなバンドね……原作に出てきたやつ以外は知らないんだけど。結束バンドはまだろくに活動してないし『SICK HACK』は酒のイメージが…。それなら、

 

 「SIDEROSやケモノリアなんかが好きです」

 「ふーん……どっちも評判いいみたいだね。SIDEROSは新宿FOLTで活動しているみたいだし、そっちの募集は探したの?」

 「あ……いやその、実はそんなにバイトしたいわけでもなくて……」

 

 原作に出てきた人気バンドの名前をあげたら、スマホで情報を検索した山田さんにツッコまれてしまった。つい本音を話してしまったけれど……どうしよう、なんて言えばいいかな?

 無言で続きを促してくる山田さんに、考えがまとまらないまま口を開いた。

 

 「後藤さんや結束バンドのことを見ていたくて……一緒にバイトできそうってなったら、つい」

 「………」

 「お金はまあ、別のバイトでもいいですし、そこまで困っているわけでも……」

 「結束バンド目当て……だからこの前、ライブ途中で帰ったの?」

 

 え、この前って結束バンドがライブした日のことだよね。なんで途中で帰ったことを知っているんだろう…?

 疑問に思った僕の考えを読みとったかのように、山田さんが続きを話した。

 

 「せっかくだから一緒にライブ見ようって、虹夏が探してた」

 「……すみません。その、失礼なことを」

 「別にいい。途中退場はよくあることだし」

 

 ネットで調べたら途中退場はできるみたいだし、人も多いから別にいいかと思ったんだけど……そんなことになっていたのか。一緒にライブを見る――そんなイベントがあるって知っていれば、絶対残っていたんだけどなぁ…。

 ライブ日の失敗がさらに発掘されたことにダメージを受けていたら、お説教タイムが終わった伊地知さんが戻ってきた。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 (うぅ……お姉ちゃんにこってり絞られた……)

 

 あたしの考えが甘かったのはよく分かったけど、あんなに厳しくしなくてもいいのに……なんて思う。まあ、ライブやれて浮かれていたのも事実だし、厳しくされるのはしょうがないのかも。

 ツンツンツンなお姉ちゃんのことを考えながら席に戻ったら、畔くんが意気消沈していた。バイトの話なくなっちゃったからかな……悪いことしちゃったよね。

 

 「畔くん、ごめんね。バイトの話なんだけど……」

 「はい…。聞こえていたので、大丈夫です」

 

 沈んだ様子で畔くんが答える。うん、ほんとごめん。

 リョウはいつも通りに見えるけど、畔くんは沈んでるし、あたしもちょっと居心地が悪い。このまま今日は解散かな……いやでも、まだ聞きたいことが……うん、いっちゃおう!

 

 「ところで畔くん、歌の上手な女の子とか知らないかな?」

 「えっ?」

 

 畔くんにギタボ探しのことを説明する。結束バンドにボーカルを入れたいこと、できればギターが弾けるといいけど、意欲があれば問題ないこと。

 話しているうちに場の空気も回復してきたので、ちょっとおしゃべりしてから今日は解散となった。

 

 感触としては……悪くないかも? なんとなく心当たりのありそうな反応だったし。いい子が見つかるといいな。

 

 

 

 

 

 畔くんが帰った後のこと。

 バイトが始まるまで、あたしはリョウとだべっていた。

 

 「ギタボ探し、うまくいくといいね」

 「そうだね」

 

 リョウがぐでーっとリラックスした様子で答えてくる。こういった様子は学校の人には見せないから、なんかちょっと不思議な気分になる。優越感…? なんていうんだろう?

 あたしも一緒にぐでーっとしながら、話を続けた。

 

 「リョウ、畔くんのこと、結構気に入ったの?」

 「なんで」

 「だって、男の子に名前呼び許すの、珍しいじゃん」

 

 リョウが顔を向けてくる。

 なんとなく、感情の読みにくい目をしている。こういう時のリョウは何も考えていないことが多いけど……ごくまれに、何か深いことを考えているらしい。

 

 「まあついでだし」

 「うん」

 「あと……気に入らないから」

 

 気に入ったのかと思って聞いたのに、気に入らないって何だろう――なんて疑問に思うけど、リョウはそれ以上話すつもりがないようで、口を閉じたままだった。

 

 ゆったりと、沈黙の時間が流れる。

 

 色々、お姉ちゃんに言われたことなんかを考えていたら、リョウが「なに考えてるの?」と聞いてきた。

 

 「畔くんに色々お世話になってるから、今度お礼にご飯でもおごってあげようかなって」

 「その時は私もついてく」

 「リョウにはおごらないからね?」

 

 不満そうにしているリョウを置いて、仕事にとりかかる。

 お客さんが入り始めたのにあわせて、あたしは笑顔を浮かべるのだった。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 STARRYからの帰り道。足取りがちょっと軽い。

 結局バイトの件はうまくいかなかったけれど……収穫はそこそこあった。

 

 

 1つは、伊地知さんと山田さんから、名前呼びの許可をもらえたこと。

 

 これからSTARRYで会う機会もあるだろうし、お姉ちゃんと紛らわしいから――なんていう理由で、虹夏さんが許可をくれて、リョウさんもついでに……と許可してくれた。

 名前呼びの方が親密になれた気がするし、一歩前進と言っていいだろう。とはいえ虹夏さんからは全く他意を感じなかったし、リョウさんの方は……どちらかというと、険しさのようなものを感じた。フレンドリーというより宣戦布告のような…。

 

 (後藤さんの呼び名についても聞かれたけど、ちょっとなぁ……)

 

 ”ぼっちちゃん”や”ひとりちゃん”はさすがに恥ずかしいし、”ひとりさん”はなんかちょっと違う気がする。”ぼっちさん”はまだマシだけれど、今の関係ではなんか呼びにくい。

 当分は後藤さんのままだろう。

 

 

 2つめの収穫は、STARRYでのバイトについて、新たな情報を得られたこと。

 

 虹夏さんが星歌さんから聞いた話によると、6月の上旬に、新しくバイトの募集をするらしい。本来ならその枠に、喜多さんが入るのだろう。

 喜多さんの枠だとすると、僕が代わりに入ることで、ストーリーが変わってしまう可能性があるわけだが……まあそのあたりは、面接を受けてから考えても遅くないかな。2人とも採用されれば影響は少ないだろうし、喜多さんが落ちるところなんて想像できない。

 

 

 なんにせよ、1日で色々と進展したと思う。

 晴れ晴れと浮いた気分のまま、僕は家への帰り道を歩くのだった。

 

 

 

 

 

 ――いや結局、後藤さんの初バイトを見れないのには変わりないじゃん!

 




※一応断言しておくと、ハーレム展開とかにはなりません。

2話後半もスキップという暴挙に出てしまった…。
スキップにするかどうかは迷ったけれど、入れるなら受付に拘束する予定だったので、どちらにせよ畔くんがドリンクバーでのシーンを見るチャンスはない模様。
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