ぼざろ世界で転生者がトラウマと向き合うまで   作:ハルカゼ

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やっぱり書く環境次第で、かかる時間もクオリティも全然変わる気がする…。


理解不能な感情を求めて

 

 放課後。

 高校生3人組が、下北沢駅に到着した。

 

 赤い髪の少女は、やめたバンドの先輩に見つからないかとあたりを警戒し……

 ピンク髪にジャージの少女は、オシャレな街並みに気後れして縮こまり……

 そして唯一の男子生徒、もとい僕は、ちょっと煤けていた。

 

 

 結局あの後、授業に遅刻した僕と後藤さんは、先生から怒られてしまった。

 後藤さんはクラスメイトがとりなしてくれて無罪放免となったのだが……僕のことは誰もかばってくれず、授業中の朗読を全部一人でやるという罰を課せられた。噂のこともあるし、散々な目にあっている気がする。

 

 (まあ、原作ストーリーは順調に進行してるからいっか……)

 

 なんだかんだストーリーの修正はできたし、その代償と思えば安いものだろう…。たぶん。

 下北沢の街中を、僕・喜多さん・後藤さんの順で歩く。行き先がSTARRYだということは、当然喜多さんには秘密にしている。

 行き先が逃げたバンドの拠点であること――もっと言えば、後藤さんが所属しているのが自分が元々いた結束バンドだと知ったら、すぐに帰ろうとするはずだし。まあ、仮に逃げようとしたらすぐに取り押さえるつもりだ。

 

 

 他愛もない雑談をしながら、意外とロックな元幼馴染(喜多さん)の様子をうかがう。

 着々とSTARRYに近づいているからか、どうもすわりの悪さを感じているようだ。STARRYが見えてきたし、そろそろエナドリ抱えた虹夏さんが見えて……こないな。

 

 喜多さんがついに勘づいてしまったのか、後藤さんに「ね、ねえ。そういえば後藤さんが所属しているバンドって――」と尋ねている。やばい、タイムリミットだ。

 いつでも捕まえられるように備えつつ、高速で頭を回転させる。なんで虹夏さんがこないんだ? 時間の問題……お昼の会話……あ、

 

 

 (後藤さん、パリピバンドの話をしてない!)

 

 原作では勧誘を断られた時、結束バンドをパリピバンドのように話してアピールするシーンがあるのだけれど……お昼の会話ではあっさり引き下がってしまっていた。パリピバンドの話がなければ、虹夏さんがエナドリを買うはずもない。自発的な勧誘でなかった結果が、こんなズレを生んでしまうとは…!

 ついに真相を知り、逃げようとする喜多さんのギターケースをガッチリ掴む。ついでに後藤さんにも喜多さんを捕まえるように言うが……状況についてこれてないな。主人公しっかりしてくれ。

 

 「畔くん!? ちょ、ちょっと放して」

 「事情は分かってるから! 謝りにいこうよ、ね!」

 「うっ…。で、でも……」 

 

 事情を知られたことで逃げる力は弱まっているけれど、まだ油断できない。

 後藤さんはおろおろするだけで役に立たなそうだし……僕が説得するしかないのか? え、なんて説得すればいいのか分からないんだけど――

 

 

 

 「ここで逃げたら、喜多さんのやったことを言いふらすよ」

 「うぐぅっ…」

 

 脅迫しか思いつかなかった。

 喜多さんは観念したみたいだけど…。泣いてるし、すごく悪いことをした気分だ。後藤さんも心なしか白い目で見ている気がするし、通行人の視線も……

 居心地の悪さに耐えきれなかった僕は、早く入ろうと2人を促してSTARRYの中に駆け込んだ。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 (……なんか、怒涛のような展開よね)

 

 服を着替えながら、喜多郁代はそう思った。

 突然女の子に謝罪されながら逃げられ、昔の友達に嵌められて追いかけることになり、ギターを教えてもらうことになり――出向いた先で先輩たちと再会、謝罪しても気が収まらず、なぜかメイド服に着替えて手伝うことに…。

 

 先輩たちにはまだ合わせる顔がないけれど……謝罪の機会を得られたのは良かったと思う。私がいきなりやめたことで、めちゃくちゃになったのではと心配していたライブの件も、後藤さんのおかげでなんとかなったと知ることができた。

 ……とはいえ、その状況に至った元凶の1人には、感謝というより複雑な気持ちであるが。

 

 

 (やっぱり畔くん、私が”逃げたギター”だって分かっていたのかしら)

 

 

 ちょっとずる賢い元幼馴染を思い出す。

 畔くんはアドリブで動くことも多いけど、基本的には事前準備をしっかりするタイプだ。ボーカルの勧誘をしようと私に目をつけたのなら、事前に話くらい通してくるはず。それをしなかったのは、詳しい話をすれば断られると分かっていたからかも…。

 だいたい畔くんがあの顔になった時点で、嫌な予感はしていたのよね。小さい時、何度あの顔で当番や手伝いとかを押し付けられたことか…。

 

 今度お返ししなきゃね――なんて少女が思った時、ホールでは畔一保が窮地に立たされていた……

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 (!? い、今なんか嫌な予感が……)

 

 虹夏さんにお説教される中、突然嫌な予感に襲われた。

 お説教の内容は……端的に言えば、後藤さんに無理させすぎたという話だ。

 

 後藤さんはお弁当をほとんど食べていない状態で倒れ、教室に戻ってきたら僕に連れ出されて休み時間はなくなり、放課後もすぐSTARRYにきた。つまりお腹がすいていたわけで…。

 お腹が鳴った音をきっかけに、昼間の所業が芋づる式に暴かれた結果……虹夏さん激おこからのお説教が始まったのである。

 

 「喜多ちゃんを連れてきてくれたのはありがとうだけど、ぼっちちゃんのこともいたわってあげてよ」

 「はい。すみませんでした……」

 「謝るのはあたしじゃないでしょ?」

 「はい…。後藤さん、大変申し訳ございません……」

 

 命じられるがまま、食事中の後藤さんに謝る。

 嵐が過ぎ去るのを待っていると、喜多さんが戻ってきた。これでお説教終わるか…?

 

 「戻りました…。この状況はいったい?」

 「あぁ喜多ちゃん。ぼっちちゃんはお昼あまり食べられなかったんだって。畔くんは女の子の扱いについてお説教中だよ」

 「へぇ…。そうですか」

 

 2人揃って冷たい目を向けてくる。喜多さんは助けにならなさそうだ…。

 リョウさんは? と思って探してみると、後藤さんにお弁当のおかずをたかっていた。やっぱりベーシストって…。

 

 

 まだまだ続きそうなお説教ムードにげんなりしていると、意外なところから助け船がきた。

 

 「お前ら、そろそろバイト始まる時間だぞ」

 「あ、もうこんな時間! ほらみんな、バイト始めるよ~」

 「ぼっちはどうするの? 体調悪いなら休む?」

 「あっいや…。がんばります」

 

 店長さんの一言で、お説教の嵐はかき消えた。

 虹夏さんたちから開放されて一息ついていると、星歌さんが「お前はどうすんの」と聞いてきた。これは……手伝うんじゃなければ帰れって流れかな。

 罪滅ぼしもかねて手伝うことを伝えたが、断られてしまった。人手はもう十分だし、よほど負い目があるとかじゃなければ、タダ働きはさせないんだとか…。喜多さんの手伝いを提案したのも、気持ちの整理をつける側面の方が大きそうだ。

 

 

 星歌さんには「邪魔しないのであればしばらくここにいていいよ。開場前には帰りな」と言われたので、のんびり結束バンドの様子を見させてもらうことにする。

 今は後藤さんが”ダメバイトのエレジー”を奏でているシーンだ。なんかふわふわと魂のようなものが昇っていくように見える…。疲れてるのかな? いや後藤さんだし幽体離脱なんてお手の物とか…。

 

 そろそろ出番だな――と、鞄の中身を確認する。ハンカチとミニタオル、塗り薬……すぐに取り出せるようにして、その時をまった。

 

 

 

 喜多さんの悲鳴が上がる。後藤さんがやけどをしたからだ。

 虹夏さんや星歌さんの慌てた声を聞きながら、僕はいち早く、後藤さんに駆け寄った。喜多さんが後藤さんの手を冷やそうとしているのを手伝い、薬やタオルを準備する。こぼれたコーヒーの後始末をしながら、喜多さんたちの会話に耳を傾けた。

 

 「ぼっちちゃん大丈夫? けがの具合は?」

 「あっいえ。そんなにひどくないです……」

 

 どうやら後藤さんのやけども大したことないらしい。まあ原作でもギャグ調で流されていたし、重症になることはないだろうと思っていたけど。

 喜多さんが後藤さんの手を握っているし、たぶん勧誘もうまくいくだろう。開場までしか居られないなら、もう見どころもないだろうし…。帰ろうかな。

 

 

 荷物をまとめて帰ろうとしたところで、虹夏さんに「あ、待って!」と呼び止められた。まさかお説教の続き……はないだろうけど、何かあったかな?

 振り向くと、虹夏さんは満面の笑みで口を開いた。

 

 「さっきはありがとう! ぼっちちゃんの手当てしてくれて」

 「……いや、あれは喜多さんが」

 「でも真っ先に駆け寄ってくれたよね。コーヒーの後始末もしてくれたみたいだし」

 

 真っすぐに感謝を伝えてくる虹夏さんから、目をそらす。

 「また今度ね~」という声に当たり障りのない返答を返して、僕はSTARRYを後にした。

 

 

 

 

 

 ――目を閉じて、前世の記憶を思い出す。

 

 前世の自分は、ぼざろの物語がとても好きで、音楽に感動し、グッズも大量に買っていた。

 

 アニメを見ている時の感情は楽しさで満ちていて―――その感情が、僕には理解できない。

 

 

 面白くないわけじゃない。ギャグは見ていて面白いし、ライブシーンもすごいと思う。

 

 でも前世の自分が感じていたような”熱”が、僕には感じられない。

 

 前世の自分は、後藤さんのどこに、そんな魅力を感じていたんだろう…?

 

 

 

 

 

 ……変なことを考えていたら、いつの間にか眠っていたらしい。

 自室のベッドの上で、目を覚ました。

 

 人に優しくするのは、それを見せて他人によく思われるため。菓子折りも、薬を用意したのも、その方がよく思われそうだからという打算込みでのこと。罪悪感や心配がないわけじゃないけれど、それだけなら僕は動かなかっただろう。

 だから虹夏さんみたいに真っすぐな目で見られると、なんだか逃げたくなってしまう…。

 

 後藤さんの行動は面白い。

 結束バンドのみんなもかわいいし、性格も一部を除いていい子ばかり。一緒に過ごす時間は楽しくて……でも実のところ、全力で応援しているわけではない。

 

 ごろり、と体の向きを変え、スマホを手に取る。

 虹夏さんから《喜多ちゃんが結束バンドに加入しました!》なんてメッセージが届いていたので、祝福のメッセージを送っておいた。

 

 

 

 (僕のようなつまらない人間でも、結束バンドと関わる中で、何かを得られるのかな…?)

 

 窓の外を見ながら、そんなことを考える。

 窓の外の風景は真っ暗で、わずかな建物の灯りだけが、その暗闇を彩っていた。

 




当初案ではここまで暗くなかったんだけど、書いてるうちにオリ主がどんどん暗くなる…。

次回は閑話として、結束バンドメンバー中心の明るい話をお送りします。
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