ぼざろ世界で転生者がトラウマと向き合うまで   作:ハルカゼ

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結束バンド中心と言ったな……すまん、ありゃ嘘だった。


閑話 6月上旬の3ページ

 

【Ep1.ぼっちちゃんの名前】

 

 STARRYでの合わせ練習の日。

 結束バンドの4人が休憩中に雑談していた時のこと……

 

 

 

 「え、ぼっち学校に友達できたの?」

 「あっはい。最近、何人か話しかけてくれるようになって……」

 「すごいじゃん! 良かったね~」

 

 風邪をひいて休んで以来、時々学校の人と話せるようになった後藤ひとり。

 倒れて保健室に運ばれたこともあり、初日ほど多くの人がくるわけではないが、それでも(畔一保以外に)誰とも話さず1日を終えることはなくなった。もっとも、教室で食事をすることはあれから一切なかったが…。

 

 虹夏や喜多がひとりの快挙を祝う中、山田は一人だけ浮かない表情をしていた。異変に気付いた虹夏が問いかけると、山田は重々しい口調で、ある命題をなげかけた。

 

 

 「ぼっちがぼっちじゃなくなったら、もうぼっちとは呼べないのでは?」

 

 

 ――ひとりと虹夏に戦慄が走る。

 確かにそうかもしれない。ぼっちという名前はひとりぼっちからきたのであり、つまりひとりぼっちでなくなったからにはもはや別の名前が相応しいのかも…?

 そしてこの命題を解決すべく、虹夏が音頭をとった。

 

 「よし! じゃあぼっちちゃんの新しいあだ名を考えよう~!」

 「楽しそうですね! 賛成です!」

 

 虹夏の音頭に対して、ノリのいい喜多が追従する。山田は掛け声などはあげないものの、話に参加する様子を見せていた。

 ただ1人だけ思考の迷宮に取り残されているひとりを除いて、3人の白熱した議論が始まり――

 

 

 

 

 「あっあの!」

 

 後藤ひとり(主役)の発言によって中断された。

 3人の視線が集中する。その視線に気おされながらも、ひとりはたどたどしく、自分の気持ちを口にし始めた。

 

 「そ、その…。できれば”ぼっち”のままでいたいなって……」

 「ええ!? あたしたちの考えた名前、微妙だった?」

 

 虹夏があげた疑問の声に、ひとりは首を何度も横に振って、答えた。

 

 「は、初めてのあだ名だし、結束バンドでの思い出があるから……」

 

 

 

 ひとりの言葉に、スタジオが静まり返る。

 あっけにとられた様子の虹夏だったが、やがて優しい表情に変わった。

 

 (そっか…。ぼっちちゃんにとってここは……)

 

 結束バンドを、そんなに大切に思ってくれてることが嬉しくて、心がぽかぽかする。

 温かな気持ちで”ぼっちちゃん”を見つめていた虹夏だったが、見つめているうちに彼女の様子がおかしくなっていくのに気がついた。

 

 

 ぼそぼそとしたつぶやき、だらしなく緩んだ表情。

 内容こそ分からないものの、一人の世界に入り込んでいるのは確実に分かる。たぶんインタビューで名前ネタを披露する妄想でもしてるんだろうな……と思うと、心の温度がぬるくなっていった。

 冷めていく心に氷水を浴びせるかのように、リョウと喜多ちゃんの会話が耳に入る。

 

 「犬は名前を変えると混乱するらしい」

 「せ、先輩。後藤さんはペットじゃないですよ…?」

 

 

 

 色々と台無しだなぁ……と思うも、ツッコむ元気すら出てこない。

 呆れまじりの虹夏の声を合図に、また楽器の音が鳴り始めた――

 

 

 

 

 

【Ep2.感謝とお返し】

 

 6月のある日。

 畔一保は、とあるカフェで軽食をとっていた。

 

 発端は虹夏さんから《一緒にどこかで食事しない? 日頃の感謝ってことで奢らせてほしいな》とロインがきたことである。

 結局STARRYでバイトをしてないから金欠気味だし、虹夏さんと交流を深めるのは良さそうなので、ありがたく誘いにのったわけなのだが…。

 

 (なんでリョウさんもいるんだろう……)

 

 なぜか山田リョウもついてきていた。

 いやどうせタダ飯狙いなのは読めるんだけれど…。こっちは当然奢る気はないし、虹夏さんには何度も釘をさされているのに、全く動じる気配がない。

 喜多さんのベースを買って、金欠になってるはずなのに…。高めのメニューを躊躇なく頼み、平然とした様子でいる。

 

 「リョウ、本当に大丈夫なの? 給料日はまだ先だよ?」

 「大丈夫。あてがあるから」

 「……?」

 

 今「あてがあるから」って言った時、こっちを見なかったか?

 どうにも不気味というか、嫌な予感がするんだけれど…。

 

 

 食事をしながら、虹夏さんやリョウさんと雑談をする。特別に話したいことがあるわけではないらしく、話題はころころ変わっていった。休日の過ごし方、後藤さんの様子、星歌さんの愚痴などなど…。

 ちょうどいいから、ギターについてアピールしようと話題に出したのは失敗だったな。リョウさんが滅茶苦茶食いついてきて、山のようにおすすめの練習法や本を紹介された…。そんな真剣にやるつもりはないんだけれど。

 

 食事を終え、色々おしゃべりして……話がとぎれたところでお開きとなった。

 僕の分の会計は虹夏さんが持ってくれるので、あとはリョウさんの分なんだけれど……どうするつもりだろうか?

 様子をうかがったけれど、財布を出すそぶりも見せない。虹夏さんが支払いを要求すると、

 

 

 「じゃあ畔、私の分よろしく」

 「なんで僕が払うんですか?」

 

 リョウさんの言葉で、臨戦態勢に入る。なぜ僕が山田さんの分を奢らないといけないんだ?

 空気が重くなり、バチバチと火花が鳴る。虹夏さんが山田さんを止めているのに、全く譲る気がなさそうだ。なぜか嫌な予感が強まっていく。こいつ、何を考えて――

 

 「喜多から魔法の呪文を聞いてる」

 「え、喜多ちゃん?」

 「路上、涙、言いふらす……だって」

 

 

 ……リョウさんの言葉に、天を仰いだ。おしゃれなカフェの天井に、喜多さんの顔がうかぶ。

 そういえば子供の時、喜多さんに手伝いを体よく任せたりしたら、決まってその後”お返し”があったんだっけ。苦手な遊びに付き合わされたり、おやつを献上させられたり…。

 もはやこれまでか、と財布を取り出した。

 

 「謹んで払わせていただきます……」

 「うむ、よきにはからえ」

 「な、なんかごめんね」

 

 申し訳なさそうな虹夏さんの声を最後に、食事会は終わった。後で喜多さんに謝っておこう…。これ以上リョウさんにたかられるわけにはいかない。

 虹夏さんが多めに出してくれたとはいえ、財布はちょっと軽くなった…。

 

 

 

 

 

【Ep3.開店前のふたり】

 

 私がSTARRYの扉を開けると、店長が書類を読んでいた。

 

 「おはようございます…。あれ、店長なに見てるんですか?」

 「おはよう。新しいバイト候補の履歴書」

 

 そういえばこの前バイトやめた子達がいましたね。まあノルマ代さばけるようになったから辞めるっていうのは、悪い話ではないのかな。

 店長がずいぶんと熱心に見てるのが気になって、私もちょっと覗いてみると…。うーん、相変わらず下北沢高校の生徒がぽつぽつと。近いのもあるんだろうけど、たぶん結束バンドの2人目当てでしょうね。進学校じゃなければもっと増えてたかも。

 このあたりはほぼ落ちそうだな……と思いながら履歴書を見ていたら、気になる名前のものを見つけた。

 

 「あ、喜多ちゃんに畔くんも受けるんですね」

 「ん、まあね」

 

 どうでもよさそうに店長は答えるけど……視線は正直ですね。さっきからずっとそれ見てるじゃないですか。

 まあ喜多ちゃんは結束バンドのメンバーだし、仕事や人柄も問題なさそうだから受かるとして…。問題は畔くんの方かな。性格とかはあまりよく分からないし、履歴書は……高校生にしてはよく書けてるけど、ちょっと薄っぺらいような…?

 

 

 書類を読む店長を眺めていると、いきなり視線がこっちに向いた。

 

 「って勝手に見るな! あっちいってろ」

 「はーい」

 

 

 クスクスと笑いながら、警戒する猫のようになった店長から離れる。

 虹夏ちゃんたちの行く末を思いながら、今日の仕事の準備にとりかかった。

 




アニメあと1話しかない…。
今回も色々笑えたし次回が楽しみになった。ライブ見にくる人が増えてたのは特に良き。
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