ぼざろ世界で転生者がトラウマと向き合うまで   作:ハルカゼ

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ぼざろロスになって小説を読みにきた人に暗い話をぶつけていくスタイル

今回の話にはいじめなどの成分が含まれます。
あるいはそういうのが苦手な方がいるかもしれないので、次回の前書きで今話のあらすじを載せておきます。


心に置かれたパンドラの箱

 

 喜多ちゃんと同じクラスになって、クラスの輪の中に引きずりこまれて……

 

 

 あの頃は毎日楽しかった。

 喜多ちゃんに引っ張られて過ごすのは大変だったけれど、おかげで色々な人と遊ぶことができて、僕の世界はちょっとだけ広がった。

 

 喜多ちゃんはクラスメイトとの遊びに僕を誘うだけじゃなくて、僕のやりたいことも否定しないで付きあってくれた。

 当時の僕は絵を描くことが好きで、その辺の風景や動物、喜多ちゃんとかをよく描いていた。喜多ちゃんの色々な表情を見たくて、わざと下の名前で呼んで怒らせたり、周りの人を誘導して困らせてみたりと……色々やっていた。

 

 今にして思えば嫌われてもおかしくなかったし、実際に何度か仕返しされたけれど……僕のどこを気に入ったのか、喜多ちゃんは僕とよく遊んでくれていた。

 他のクラスメイトと個別に遊ぶことはあまりなかったけれど、喜多ちゃんと一緒にいる時が一番楽しかったし、あまり気にしていなかった。

 

 

 

 3年生になったとき、喜多ちゃんとクラスが分かれた。

 

 クラスが分かれてからも、喜多ちゃんと僕はよく遊んでいた、

 クラスメイトとはあまり話が合わなかったけれど、喜多ちゃんに予定がある日は絵を描いていればよかったし、一人で過ごす時間も苦しくはなかった。

 その結果どうなるかなんて、考えもしないで。

 

 

 ――かわいい学校の人気者な女の子。

 ――地味であまり話もしない男の子。

 

 そんな2人が一緒に過ごす、特に女の子から男の子の方に関わってくるとなれば、結果は必然だったのかもしれない。

 

 

 始めは悪口を言われるだけだった。

 次は持ち物を隠されたり、机に落書きされたり、ふざけた様子で蹴られるようになった。

 スケッチブックもなくなった。何枚か絵が破り取られて、ゴミ箱に捨てられているのが見つかった。

 

 先生は何もしてくれなかった。

 喜多ちゃんは何とかしてくれようとしたけれど、クラスが違えばやれることも少なくて……さらには彼女まで、陰口を言われているのを聞いた。

 

 僕は結局、転校することになった。

 僕が転校してから、喜多ちゃんの周りは落ち着いたらしい。

 

 

 

 

 

 新しい学校では、いじめられたくなかった。

 

 だから、喜多ちゃんのように過ごすようにした。

 相手にあわせて楽しそうに相づちをうち、毎日毎日おしゃべりをして、時には強く、人を引っ張っていく。

 おしゃべりについていくために、ゲームやアニメをよく見るようにした。少ないけれど、友達もできた。

 

 女の子とは、あまり仲良くしないようにした。

 喜多ちゃんは時折、僕の家まで来てくれたけれど…。学年が上がるにつれて、それもなくなっていった。

 

 

 中学校に上がってからも、僕と喜多さんの関係は変わらなかった。

 もうお互いの家にいくことはなくて、クラスが一緒になった時も、クラスメイトとしての交流しかしなかった。

 

 僕は喜多さんのような生活が板についていて……それでもクラスの中心にはなれなかった。あるいはそれが、僕の限界だったのかもしれない。

 趣味は全然見つからなくて、話すことはゲームやアニメの話ばかり。1つの作品にはまることはなかったけれど、ゲームやアニメは新作がどんどん出てくるから、話すネタには困らなかった。

 

 

 関係が変わらないまま、中学校を卒業して……

 僕は【後藤ひとり】に出会った。

 

 

 

 

 

 ――毎日6時間ギターを練習して、気づいたら中学生活が終わっていた。

 

 前世の自分を通して知った、彼女の人生の1ページ。自虐ネタとして書かれていた話だけど、これはとんでもないことだ。

 16時に家に帰ったとして、練習、食事、風呂、宿題……妹に遊んでとせがまれることもあっただろう。テレビを見るとか他のことをする余裕もなく、それでも寝るのが0時過ぎになるのは、珍しくなかったはずだ。

 

 そんな生活を3年間。迷うことはなかったのだろうか? 嫌になったりしなかったのか?

 ギターを弾ければモテモテになれるかもだなんて、ありきたりな動機のようでいて――その衝動はとてつもなく強い。

 

 

 そんな彼女のことを、前世の自分は素直に応援していた。

 

 そして僕は、後藤さんのことを――――

 

 

 

 

 

 「――どうして私に、嫉妬してるんですか?」

 

 

 

 

 

 嫉妬。

 そう、嫉妬心だ。

 

 僕にあるのは借り物の個性で、何を趣味にしても続けることができない。

 だから独特な個性と、それを認めてくれる仲間。さらに1つのことをやり遂げられる、強い意思をもつ後藤さんのことを、羨んでいた。

 

 

 本当はすごい人だと知っていた。素直にギターの師事を仰ぐ方法だって、いくらでもあった。

 でもそれをせずに、ただの奇行が多いクラスメイトとして扱った。本当はフォローなんて必要ないのに、彼女を助けるポジションに立ちたかった。

 そうすることで、輝いていく彼女と同じようになりたかった。

 

 

 ……なんて醜い感情だろうか。

 

 後藤さんの成功は彼女の資質と努力がもたらしたものなのに、大した努力もせずに相乗りして、自分を満たそうとするなんて…。

 ギターを始めたのも打算だけじゃなくて、これで彼女のようになれるかも、なんて身の程知らずな期待があったからだ。

 毎日何時間もギターにそそぐ情熱も、それを楽しいと思う心もなかったくせに。

 

 知ってしまった自分の心が、たまらなく嫌になる。

 長い沈黙に耐えかねたのか。後藤さんは落ち着かない様子で、視線を彷徨わせていた…。

 

 

 

 けれど……分かったことは、もう1つある。

 

 僕は後藤さんのことを尊敬している。

 その長所を尊いと、好ましいと思っている。彼女の積んできた努力が報われることを願っている。

 

 たくさん努力してきた過去を知っているから。

 人と話すことが苦手なのに、クラスメイトと頑張って交流しようとする姿を見ているから。

 

 羨ましいと思う心とは別に、後藤さんに対する憧れが、輝いていてほしいと思う気持ちが、僕の中に確かにあった。心の整理がついたことで、それに気づくことができた。

 前世の僕のように純粋な気持ちではないけれど……これでやっと、後藤さんのことを応援できる。

 

 「後藤さんは―――」

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 (ああもう私のバカバカバカ! なんであんなこと言っちゃったの…!?)

 

 どんなに後悔しても、言葉はもう口から出たあとで…。

 ぽろっとでた私の言葉を最後に、畔くんがギターを弾く手は止まっていた。かといって何か話すこともなく、ただ沈黙だけが続いていた。

 

 

 (私に嫉妬する人なんているわけないのに。変なことを言われて気を悪くしたのかな…?)

 

 顔色をうかがうものの、無表情な畔くんからは怒りも何も読み取れない。

 薄暗い物置が、さらに暗くなったように感じられて。普通なら落ち着くはずなのに、心臓は嫌な音をたてるばかり。ひたすら助けを求めるも、誰かがくることはなく、ギタ男くんすら出てこない…。

 しーん……と静まりかえった部屋にいるのが、とても気まずい。と、とりあえず何か言わないと……でも何をどう言えばいいの…?

 

 

 「後藤さんは……」

 「はっはい!」

 「将来の夢ってある?」

 「えっ…? えっと……」

 

 私が迷っている間に畔くんが復活した。てっきり怒るかなと思っていたのに、将来の夢って……なんでそんな話になったんだろう? 

 もしかして、聞かなかったことにしてくれたのかな…?

 

 「やっぱりバンドマンになるの?」

 「はい。売れっこバンドマンになってちや……世界平和を伝えたいな、と」

 「……うん、後藤さんらしいね」

 

 うっかり出そうになった本音を誤魔化すと、畔くんはちょっと楽しそうに笑った。

 み、見抜かれた…? それとも、1回しかライブしてないヘボギタリストが何いってんのって思われてる?

 疑心にかられて狼狽える私に、畔くんは言った。

 

 

 「なれるよ、絶対」

 「……えっ?」

 「後藤さんなら、結束バンドなら大丈夫」

 

 

 先のことなんて分かるはずもないのに、何の根拠もないはずなのに……畔くんの言葉からは、強い確信が伝わってきた。

 戸惑う私の前で、畔くんはギターをケースにしまい始めた。あっ時間が、私も片付けないと。

 

 「あのさ、後藤さん」

 「…? な、なんですか?」

 「考えたんだけど、僕は今日で」

 

 練習にくるのは最後にするから。

 畔くんの言葉を聞いた、私の手が止まる。最後、最後って……もう、ギターやめちゃうの?

 

 

 「喜多さんにも伝えておいて」なんて言い残して立ち去ろうとする畔くんの背中が、

 初めてあった日の喜多さんと重なって―――私は思わず、声を張り上げていた。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 「あっあの!!」

 

 突然背後からした大声に、思わず振り向いてしまう。

 声の主は半ば俯いたまま、それでも確かに、僕を見ていた。

 

 「あの…。ギター、やめちゃうんですか?」

 「………」

 「せっかく弾けるようになったのに…。ずっと弾かないでいると、また弾けるようになるまで大変ですし、いっ今はあまり弾く気分になれなくても、ちょっとずつでも続けていれば……」

 

 リアルでは初めて見る、後藤さんの真剣な目。

 前髪に隠されてなお、強い意思が感じられて…。目をそらしたいのに、離せなくて……

 

 

 やっぱり、後藤さんはすごいな。

 強くて、輝いていて…。

 これからもっともっと、輝いていくのだろう。

 

 

 でもそれは……今の僕には眩しすぎる。

 

 「ありがとう」

 「なにか……え?」

 「でもいいんだ。僕は自分で演奏するより」

 

 他の人(結束バンド)の演奏を聴く方が好きだから。

 そう続けた僕の言葉に、後藤さんは言葉を失い……

 

 

 

 それから教室に戻るまで、僕らの視線は交わらなかった。

 

 

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