ぼざろ世界で転生者がトラウマと向き合うまで   作:ハルカゼ

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【前回のあらすじ】

幼少期、畔一保の友達は喜多郁代のみで、その交友関係ゆえにいじめられ、転校した。
転校後は友達をつくるため、喜多郁代の真似をするようになり、それは中学以降も続いていた。

借り物の個性、趣味1つ続けることのできない自分。
独特な個性、それを認めてくれる仲間、1つのことをやり遂げられる強い意思をもつ後藤ひとり。
自分と対照的な彼女に、彼は嫉妬心を抱いていた。彼女をフォローする立場になろうとしたのも、ギターを始めたのも、彼女と同等の立場に立ちたかったから。
後藤ひとりの一言で、畔は自らの感情を自覚してしまう。

一方で、畔の中にあるのは嫉妬心だけではなかった。
彼女の努力を認め、尊敬し、報われてほしいと願う心。
その感情に気づいた畔は、複雑な気持ちではあれど、後藤ひとりを応援できるようになった。

そして彼は、後藤ひとりに告げる。
ギターの練習は、もう終わりにすると…。



幻のような一瞬の雷鳴

 

【本編】

 

 

 ギターを辞める宣言をして数日後。

 畔は学校から帰ってすぐにベッドに寝転がり、どんよりと曇った空を見上げていた。

 

 

 

 あの日、虹夏さんからロインがきた。

 内容は、結束バンドの新曲……その歌詞がついに完成したこと。そして、オーディションのことをみんなに話したこと。原作よりちょっと早く、彼女たちは動き始めた。

 そのうち曲も完成して、オーディション、初ライブ……結束バンドの歩みが、ここから始まる。

 

 転がり始めた岩は、もう止まらない。

 僕がいなくても、いなくなったとしても……

 

 

 曇り空から視線を外して、スマホに届いたメッセージを見た。

 《オーディション30日だけど、予定大丈夫かな?》 単なる予定の確認でしかないそれに、なかなか返信できないでいる。既読無視になっているから、虹夏さんは心配しているかも…。

 

 (オーディションライブは見たい。けれど、)

 

 その時、僕は平常心でいられるのだろうか?

 プラスの感情が伝わるのは問題ない。けれど後藤さんに気づかれてしまったように、嫌な感情まで伝わってしまったら…。そうなれば、今の関係は続けられないだろう。

 

 関係が壊れてしまうのが怖くて、でもライブを見にいきたい欲望も捨てられなくて…。

 そもそもこんな自分が、オーディションライブを見る権利があるのだろうか、なんて考えまで浮かぶ。星歌さんはどうして、僕のことを誘ってくれたんだろう? 音楽に対する関心が薄いことは見抜かれていたのに…。

 

 ぐちゃぐちゃの思考では何も結論を出せずに、ただ時間が流れていくばかり。

 思考をリセットしようと、お気に入りの動画を再生した。とたんにスマホから流れる、ギターの音色……

 不思議と惹かれるその演奏に引き込まれることで、雑念がなくなっていく。

  

 

 

 ――何曲か再生して、心が落ち着いた頃。

 

 動画を止める。深呼吸して、弱気な自分を心の奥に閉じ込める。

 前向きな考えでいくなら、ライブを見にいくべきだ。そう思って、ロインにメッセージを打ち込んだ時……その音に気づいた。

 

 扉をノックする音。

 母親だろうと、何も考えず返事をして…。でもドアの前にいたのは、

 

 

 

 

 ―――喜多さんだった。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 畔くんが転校してから、私の周りは嘘のように元に戻った。

 何事もなかったかのような周囲の様子が気持ち悪くて、でもそこから飛び出していく勇気はなくて…。周りの目を気にして、畔くんの家にも行かなかった。

 

 ほとぼりが冷めた頃、こっそり畔くんに会いにいって…。

 でもその時には、もう私の幼馴染はいなかった。

 

 無機質になった部屋。他人行儀な話し方。

 久しぶりだからと持って行った遊び道具も、一緒に食べようと思っていたお菓子もかばんから取り出せないまま。何を話したのかもわからず、ただ呆然と帰宅したことだけを覚えている。

 

 諦めきれずに何度も訪ねて、でも元の関係には戻れなくて…。

 もう終わったのだと諦めたのは、いつ頃だったっけ。

 畔くんのことを忘れることにして、中学校でもただのクラスメイトとして接して……

 

 

 

 「……そんなところかな。私と畔くんの話は」

 「あっその…。すみません、軽々しく聞くことじゃ……」

 「ううん、いいの。集中してなかった私が悪いんだし」

 

 STARRYでの練習中、後藤さんに集中できていないのを見抜かれて…。

 今まで誰にも話せなかったことを話してしまったのは、私の心の弱さのせいか、後藤さんの人柄のおかげか。あるいは、バンドという特別なつながりがあるからなのか。

 後藤さんをあまり困らせないように、笑顔をつくって言う。

 

 「オーディションのこともあるし、畔くんのことより、練習頑張らないとね!」

 「あっはい」

 

 

 ギターを手に取る。

 メトロノームにあわせて、一定のリズムで音を鳴らしていく。私を導くように、後藤さんのギターの音色が加わって――――それにもう1人加わることがないことを、残念に思ってしまった。

 

 鈍い音を立てて、ピックが弦に弾かれた。

 当て方を間違えたそれは、反動で私の手から滑り落ちる。床に落ちたピックを拾い上げて……そのまま私の手は、止まってしまった。

 

 

 (ダメね…。今日の私)

 

 畔くんがギターを辞めたと聞いてから、全然集中できていない。

 せっかく後藤さんに練習に付き合ってもらっているのに、目標に向かって頑張りたいのに。

 

 なんでこんなにショックを受けちゃってるんだろう?

 期待しちゃったのかな。後藤さんと会った日、私を嵌めて困らせてきたり、私の感情を的確に読み取ったり……昔に戻れたみたいだったから。

 

 繋がりかけた絆が再び切れてしまったことへの動揺が、ギターを弾く手を乱れさせる。こんな調子では練習にならない。

 後藤さんはギターを弾く手を止めて、心配そうな目でこっちを見ている。せめて彼女の負担にならないようにと、今日は練習を切り上げることにした。

 

 「ごめんね後藤さん…。やっぱり、ちょっと無理そう」

 「あっいえ……」

 「明日にはいつも通りだから! 心配しないでね」

 

 ギターをケースにしまって、荷物をまとめて。

 帰ろうとする私を、後藤さんが引きとめた……オドオドとした声で、何かを秘めた瞳で。

 

 

 ―――弾くのが無理そうなら、聴いていきませんか?

 

 

 

 

 

 後藤さんが奏でる、ギターの音色。

 私に合わせてスローペースで弾かれる練習曲は、滑らかでお手本のように綺麗だった。

 

 こうして聴いていると、後藤さんは結構うまいと思うのだけど…。なんで伊地知先輩にはへたっぴ扱いされてるんだろう?

 私の疑問をよそに、演奏は終盤にさしかかる。後藤さんは一瞬だけ私を見て……目を閉じた。

 

 

 曲が変わる。

 スローペースからハイペースに。

 練習用の曲から、聞いたことがない曲に。いや、

 

 (この曲、どこかで聞いたことがあるような…?)

 

 ソロギターでは初めてだけど、去年ヒットしたドラマの主題歌だと思う。

 あのドラマはたしか、悩みを抱えた主人公が、それを振り切って走り出すシーンが話題になって……

 

 曲がサビ部分に突入し、全身に稲妻が走ったような衝撃が走る。

 激しくかき鳴らされる旋律から伝わってくる、後藤さんの感情。走り出せと、強く背中を押してくる。普段の様子とは全く異なる後藤さんの演奏に、私は完全に引き込まれて――――

 

 

 

 

 気がついたら、演奏が終わっていた。

 拍手することすら忘れていた私を、後藤さんの視線が射貫く。

 

 「喜多さんと畔くんって……ちょっと似てます」

 「え…?」

 「何かを誤魔化すときの仕草とか…。あっあとは食べ方とか……」

 

 ふらふらと迷うように視線が揺れて……

 ゆっくりと、言葉が紡がれていく。

 

 「き、きっとそれは…。2人が一緒に育ってきた証で……」

 「………」

 「だから喜多さんの幼馴染も、どっどこかにまだいるんじゃないかと…。たぶん……」

 

 

 頼りなく締められた、後藤さんのお話。

 後藤さんはすっかりいつも通りの様子で、まるでさっきの時間が幻だったかのようだけれど……私の胸に宿った灯が、それを否定する。

 

 衝動のまま、私は立ち上がった。

 そのままスタジオの出口へ駆け出して――最後に振り返って、とびっきりの笑顔で宣言した。

 

 「ありがとう。私、行ってくるね!」

 

 

 

 

 

 日が傾きはじめた街中を走り抜けて、見覚えのある家の前に立つ。

 乱れた服と髪を整えて、深呼吸して……意を決して、チャイムを鳴らした。

 

 久しぶりにお会いした畔くんのお母さんは、記憶よりちょっとお年を召されていて。

 案内やお茶出しをお断りして、畔くんの部屋に向かった。

 

 

 ドアをコンコン、とノックする。

 了承の声を聞いて、私は畔くんの部屋に踏み込んだ。

 




この後、ぼっちちゃんは無事に燃え尽きました。
続きは1/2か1/3とかに。
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