ちょっとタグを追加してみました。
あとがき部分にアンケートを設置しているので、よろしければご協力をお願いいたします。
畔が絵を再び描き始めてから数週間。
結束バンドの面々がオーディションに向けて練習を重ねる中、畔はひたすら絵の練習をしていた。
窓から見える風景、ギターなどの小物、自宅近くにいる動物……
放課後は即帰宅、期末テストの対策もせず、遊びの誘いもすべて断って…。今までやれなかった時間を取り戻すかのように、ひたすら時間をつぎこんだ結果―――
(これもイマイチ、ダメ、ボツ……)
失敗した絵でスケッチブックが埋まるのは、もう何度目だろうか。
部屋の隅に積まれたノートを数えようかと思って、やっぱりやめた。そんなことを気にしている時間はない。明日は結束バンドのオーディション……久しぶりに、喜多さんと会う日なのだから。
期限を切られたわけじゃない、約束しているわけでもない。
それでも早く、喜多さんにいい絵を見せたい。結束バンドの出発に間に合わせたい。ここで踏み出せなければ、置いていかれるような……そんな気がしてしまう。
焦りと疲れで思考が鈍くなるのを感じて、いったん休憩をとることにした。
自室の扉を開けると、外には母親が用意してくれた夜食が置かれていた。恒例となっているそれをいただいて、リフレッシュしようとする。
冷めてもおいしくいただけるように、胃に負担がかからないように。作り手の愛情が感じられる料理が、体にしみわたる。
急な生活スタイルの変化、成績の下落。叱られるかと思いきや、その気配はなく…。そっと見守ってくれる家族の姿勢が、今の僕にはとてもありがたかった。
喜多さんの期待に応えたい。家族の支えを無駄にしたくない。
そんな思いを乗せて、鉛筆が紙の上をすべる。その音は明け方近くまで続き……
それでも、満足のいく絵は描けなかった。
翌朝。
午後のオーディションに向けて、出発の準備をする。
寝癖を直す。変に心配をかけないように、目の下のクマを化粧で隠してもらい、身だしなみをチェックして…。スケッチブックをどうするか、考えた。
数週間の練習は、着実に実を結んでいる。
線はぶれていないし、構図や焦点なども勉強して、絵に取り入れられている。ネットで高評価を得ている絵と比べても、そんなに見劣りはしていないだろう。
けれど、見れば見るほど物足りない。
吐き気に耐えながら見返した、昔のスケッチブック。そこに描かれた絵は今よりずっと拙いのに、そちらの方がいい絵だと感じてしまう。
今の絵の方がずっとうまいはずなのに、昔の絵の方が輝いてみえる。
自分で納得できていないのに、喜多さんに見せるのは早いかもしれない。絵を見せた時に、もしもがっかりした顔をされたら…。そうなれば、立ち直れないだろう。
でも、やる気がないようにも思われたくない。この前は弱い部分を見られてしまったけれど、少しはしっかりしているところを見せたい。
もう今更なのに、仮病で休むことまで考えて……なけなしのプライドが、最後に勝った。
描きかけのスケッチブックを鞄の中に入れる。本当に見せられるかは分からない。いざとなって日和るかもしれない。
けれど出かける前に諦めたりは、したくなかった。
畔がSTARRYに着いたのは、14時ちょうど。
扉を開けた途端、星歌さんに睨まれる。促されるまま、星歌さんの隣に座った。
ステージにはまだ誰もいないが、来ていないということはないだろう。奥で練習なりしているはずだ。
……なんかやたら見られている気がして、落ち着かない。久しぶりにSTARRYにきたから気まずいし、誰かと待ち合わせてくれば良かったかな…?
自分が演奏するわけでもないのに、緊張して息がつまりそうになる。
オーディションはうまくいくって分かっているのに、なぜか不安になってしまった。
隣に座る人のため息が大きく聞こえて、びくっと体が震えた。
――ドン、と音を立てて、目の前に何かが置かれる。
置かれたものは、何の変哲もない紙パック入りのお茶で…。意味の分からない状況に、思考が止まった。
「飲みな」
「あ……えっ?」
「ほら、一気に飲め」
星歌さんが、お茶を飲むように圧をかけてくる。
反対側に座るPAさんにも視線を送るが、にこにことほほ笑んでいるだけで、助けてくれそうにない。仕方なく、言われたとおりにした…。
お茶の味が口に広がる。一気に飲み干して息をつくと、さっとゴミを回収された。
「ったく…。ライブ見にきたんだから、もっと楽しそうな顔しなよ」
「あんまりお客さんが緊張していると、ステージに立つ方もやりにくくなりますよ」
「あっ…。すみません」
PAさんの言葉で、星歌さんの行動の真意を察した。
おそらくさっきの僕は、すごく緊張しているのが顔に出ていたんだろう。結束バンドのみんなに、心配をかけてしまいかねないほどに…。
素直ではないけれど、星歌さんはなんだかんだ妹に甘い。おかげでちょっと気が紛れて、僕はその時を、静かに待つことができた。
オーディションの時間となり、結束バンドがステージに入ってくる。
虹夏さんは軽く手を振ってくれたけれど、その動きはぎこちない。みんな黙々とセッティングをしていて、緊張感が伝わってきた。
セッティングが終わり、演奏者が前を向く。
オーディションライブの見どころは、サビに入るあたりから。後藤さんが一歩踏み出して、演奏のギアが一段階上がる瞬間だ。
それを分かっていたのに、僕の視線は後藤さんに向いていなかった。
~~~~~
ここに立つまでに、色々なことがあった。
憧れと勢いで結束バンドに加入して、結局ギターが弾けなくて逃げ出してしまった。
畔くんと後藤さんが逃げた私を連れ戻してくれて、先輩たちが優しく受け入れてくれた。
ギターだと思っていたものがまさかのベースで、あらためてギターを練習することになった。リョウ先輩にギターを貸してもらって、後藤さんに先生をしてもらって…。
色々な人に迷惑をかけて、色々な人に支えてもらった。
そして今、こうしてステージに立てていることが…。みんなで一緒に過ごす日々が、とても楽しい。
この先、失敗することがあるかもしれない。普通の人生を送るなら経験しなくてもいい、そんな苦労をすることになるかもしれない。
それでも私は、後悔しないように生きていきたい。
踏み出さなかったことを、精一杯やらなかったことを後悔することだけは、したくない。
「じゃあ、『ギターと孤独と蒼い惑星』って曲、やりまーす!」
準備を終えて前を向くと、客席にいる畔くんと視線が交わった。
今日は結束バンドのためのライブだけど…。畔くんにとっても、良いライブにしたいな。
先輩たちや後藤さんと目を合わせ、呼吸を合わせる。
シンバルの音を合図にして、私たちのライブが始まった。
~~~~~
ジャンジャンという音とともに、イントロが始まる。
華やかな音の集まりが、畔の耳に響いた。4つの音が交じり合って、たった3人だけしかいない観客の体を揺らした。
歌が始まるのと同時に、ギターの音が止む。リズム隊の演奏だけを支えに、喜多さんの歌声が響く。
やがて後藤さんのギターが加わって、喜多さんもギターボーカルとして働くパートに入った。
喜多さんの視線は手元にいきがちで、どうみても余裕はない。
……無理もないことだ。ギターをまともに練習し始めてから2ヶ月足らず。曲の速度についていくので精一杯だろう。
ああ、でもそんな演奏が―――
(喜多さん、とっても輝いてる……)
技術的なことなど問題ではない。
どこまでもまっすぐに。迷わず全力で進もうとする姿勢が、彼女の歌と演奏から伝わってきた。
一歩踏み出した先の世界、その輝きが見えて。背中を押されているような、そんな感覚を覚える。
ひたむきに前に進もうとする彼女を、3人が支える。サビの部分に入ってもその構図は変わらず、4人の輝きがステージを埋め尽くしていく。
あふれるくらいの輝きを見て、僕の胸の奥に、何かが生まれた。
歌が終わる。演奏が終わる。
余韻を残すようにそれぞれの楽器から音が響いて、やがて静寂が訪れた。
今にして思えば…。ライブで感動したのは、本当に楽しいと思ったのは初めてだったかもしれない。
マンゴー仮面を入れた3人でのライブは楽しかったけれど、あの楽しさは結束バンドの仲間になれたかのような高揚感と、後藤さんの奇行を楽しんでいただけで……演奏はちっとも心に響いていなかった。
ライブが終わっても、心の中に生まれた”何か”は消えない。
それに突き動かされるまま、スケッチブックを取り出した。
紙の上に線を描く。
自分の見た輝きを写し取るかのように、きらめきを紙の上に残していく。
描いて、描いて、描いて……ようやく最後の線を引き終えた。
――描き終えた瞬間、周りの音が戻ってくる。
「あ、戻ってきたのかな?」
「あっそうみたいですね……」
「物販で売れば…。いや、Tシャツにプリントして」
「ほらそこ、金勘定始めないの。せっかくいい絵なのに……」
いつの間にか、結束バンドのみんなに囲まれていた。急な変化についていけなくて、混乱してしまう。
絵を描いているところを見られたと、パニックを起こす暇もない。今いる場所と、オーディションライブが終わった直後だったことを思い出すまで、結構な時間がかかった。
……あらためて、自分の描いた絵を見る。
ライブの様子を描いた1枚。まだ色塗りもしていないけれど、そこには確かな輝きがあった。子供の頃の絵と同じような、あるいはそれ以上の輝きが…。
――視界がにじむ。絵に涙がこぼれないように、乱暴に目を拭った。
虹夏さんが慌てて心配する声をかけてくれて、それに大丈夫だと答えた。実際に心配される必要なんて、まるでないのだから。
描いた絵を、正面にいる人に渡す。赤い髪をもつ、大切な幼馴染に…。
口角が上がる。まるで子供の頃に戻ったような気分で、自慢げに問いかけた。
「この絵、どう?」
「うん、―――」
そして喜多さんは、答えてくれた。
花が咲いたような、眩しい太陽のような、満面の笑顔で。
「―――とってもいい絵だと思うわ!」
オーディションライブ終了。次話でだいたいお話としては一段落です。
<今後の更新についてのアンケート> ~1/10(火)23:59予定
今後のストーリー展開にあたって、いくつか問題点が…。
更新の仕方を迷っているので、アンケートにご協力いただけるとありがたいです。
①アニメ範囲外のネタが出てくる
これまでは小ネタレベルにとどめていますが、今後がっつり出てくる可能性があります。
②恋愛関係
今は片想い止まりですが、畔くんが頑張れば両想いになれるかもしれません。(未定)
男オリ主入れてる作品で今更な気もしますが…。
③テーマの変化
ここまでは畔くんの内面にテーマが寄っていて、重くシリアスな部分がありました。
一方、今後は重いテーマは予定していません。シリアスパートも考えてはいますが、重くならないと思います。
結構色々変わってしまうので、作品を分けるのもありかなと思う次第です。
アニメ二期がくるまで完結にして、他の設定で書くのも検討中。書くとしたら原作はぼざろです。設定はもうちょっと煮詰めたいところ…。
どうするか自分では決めかねているので、ご意見を聞かせていただけると幸いです。よろしくお願いします。
今後の更新について
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アニメ2期までお預け
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分けて投稿する(ネタバレに配慮)
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分けて投稿する(恋愛・作風が理由)
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特に気にせず投稿を続ける