ぼざろ世界で転生者がトラウマと向き合うまで   作:ハルカゼ

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タイトルなど諸々変更しました。
更新遅くなってすみません。実質2話更新なので許して…。


見守る星、箱の中の満月

 

 畔を初めて見た時に思ったことは、「なんか妙なやつがいるな」だった。

 

 虹夏たちの初ライブ。なぜかダンボール箱に入ったやつがいて、会場は困惑ムード。

 ダンボール箱の中身は臨時で連れてきたギタリストなんだろうが、人選ミスとしか思えなかった。演奏はバラバラ、会場もいまいち盛り上がらず…。お通夜になってないだけマシといった状況。

 

 ――そんな中で、一人だけ妙に楽しそうにしてるやつがいた。

 見かけない顔。ギターケースを持っているが、出演予定のバンドにはいなかったはず。

 飛び入りでもするつもりなのかと思ったが、その気配もない。周りと違ってやたら楽しそうにしている様子は、いやに目を引いた。

 

 結局、虹夏たちのライブは微妙なまま終わり…。

 そいつは虹夏たちのライブの後、さっさと帰っていった。

 

 

 リョウからの報告によると、そいつ――畔はぼっちちゃんと一緒に、虹夏が連れてきたらしい。

 最初は珍しく虹夏が警戒した様子を見せていたが、最後には打ち解けていたんだとか。打ち解けるあまり、虹夏は軽々しく手を握ったらしく……これはまあいいか。

 

 リョウは虹夏との距離感を心配していたようだけど、ライブを見ていた時の様子からすると、どうもそうは思えなかった。視線がいっていたのは主にぼっちちゃんの方で、あとはステージ全体を見るくらい。

 妙なところはあるが心配する必要はないと判断して、その日は終わったよ。

 

 

 次に畔を見かけたのは数日後。

 虹夏が呼んだらしく、STARRYの一角で話をしていた。話の内容は……まあぼっちちゃん関連だったな。学校での様子とかを話してたよ。

 ――ああ、悪口とかじゃないよ。まあちょっと初バイトの日が心配になったけど、なんだかんだよく働いてくれてるし……甘い? そ、そんなことねぇって…。

 

 それよりさ、その時虹夏があいつを勝手にバイトに入れようとしたんだよ。

 ちょっと調子に乗っているのかと思ってきつめにお説教したんだけど……今にして思えば、無意識に感じていたのかもな。畔のやつが、何かを抱えていることに…。

 

 

 抱えてる内容? さあ、なんだろね。

 面接の時だってそこまで聞かなかったし…。ただまあ、色々と歪なのは分かったよ。

 

 音楽関係への関心をアピールするのに、いまいちリサーチもしていない。

 結束バンドを支えたいと言いながら、あいつらの音楽を見ていない。

 じゃあ女目当てで近づいてるのかと思えば、いまいち距離を縮めようとしていない。呼ばれなければこない、その程度でしかない。

 

 友達を応援するだけにしてはいやに意欲的で、それでいて妙に腰が引けた態度。色々と中途半端で、何がしたいのかよく分からなかった。

 だからまあ、見極める機会を作りたかったんだよね。

 

 

 ――あいつらのライブを見て、どんな反応をするのか。

 

 

 

 

 

 虹夏たちのオーディションライブは、色々と課題はあれど、十分に光る内容が感じられた。

 特に終盤のぼっちちゃんはリョウ並みだった。チームプレイの経験不足で実力を出せていないみたいだけど、もったいないな…。

 

 「――ギター2人、下向きすぎ。ベースは自分の世界に入りすぎ…。で、」

 

 一通り虹夏たちへのアドバイスを言った後、言葉を切る。

 畔のやつに感想を聞こうと横を見ると……一心不乱に何かをかいていた。何してんだ、こいつ?

 

 「ねぇ、何してんの?」

 「………」

 「……おーい、聞こえてる?」

 

 声をかけても全然反応がない。駄目だな、こりゃ。

 感想を聞くのはあきらめて、虹夏たちに視線を戻す。ずいぶん表情が固いし、早く伝えてやるか。

 

 「まあお前らがどんなバンドかは分かったから。ライブの日まで練習頑張りな」

 「はい…。ありがとうござ……? えっと、ライブの日って……つまり合格ってこと?」

 「あ? そう言ってんだろ」

 「いや分かりにくいよ! みんな、ライブできるって!」

 

 

 虹夏の言葉を起点に、一気に表情が明るくなる結束バンド。

 喜多がぼっちちゃんに飛びついたりしているのを眺めて、私は頬杖をついた。まだまだこれからだってのに、浮かれすぎだっての…。

 まあ今日くらい喜んでいてもいいか――なんて考えながら、隣に視線を移した。畔は相変わらず何かを描き続けていて、周りの様子に気づいていないらしい。

 

 異様な状況に気づいたのか、虹夏たちも集まってきた。

 ぼっちちゃんは喜多に支えられている。どうやら安心したら、腰が抜けてしまったらしい。頑張った反動かもしれないな…。

 私はもういいし、椅子に座らせてあげた。

 

 「(お姉ちゃんなんか優しくない…?)ねぇ、畔くんはどうしちゃったの?」

 「なんかさっきからこの調子なんだよ」

 「……これ、私たちだよね」

 「本当だ! さっきのライブかな?」

 

 畔の絵を見て、虹夏たちが騒ぎだす。リョウも珍しく興味を示しているようだ。

 ……まあ無理もないか。絵は門外漢な私だけど、それでもこの絵が並じゃないのは分かる。

 

 

 ライブの様子を絵で伝えるのは難しい。

 映像なら音も動きもあるが、写真や絵にそれはない。だからアー写撮影なんかは、背景や小道具、ポーズとかで雰囲気を出していくもんだ。

 

 それをこいつは、鉛筆の線だけで表現している。

 ライブの熱気がそのまま伝わってくるような、印象的な絵。このままフライヤーに載せてもいいくらいだ。

 

 (……いや、やっぱりアー写として使うのはなしだな。美化されすぎてる)

 

 いい絵なのは確かだが、忠実とは言い難いか。これを期待して客がきたら、実物とのギャップでがっかりするだろう。

 特にギタボは補正かけすぎだな。ぼっちちゃんもこんなに鋭い雰囲気じゃないし、そもそも虹夏は位置的に見えてないはず。想像で補ったのか…?

 

 

 (まあでも、これで懸念は消えたかな……)

 

 結局どんなやつなのか、いまいち分からない部分はあるが……これなら心配しなくてもいいだろう。

 虹夏たちのライブで、こいつは間違いなく結束バンドのファンになった。周りの影響とか、単に友達を手伝うってだけじゃない――本物のファンに。

 

 その場の空気や一体感、ノリなんかで変わる突発的に変わる演奏。単に音楽を聴くだけじゃなくて、そういった魅力もライブにはある。

 絵を描くのはかなり独特な楽しみ方だけど、まあこういうのもありだろう。

 

 

 絵の感想を言い合っている虹夏たちから離れて、適当な席でパソコンを開いた。

 来月のライブスケジュールを正式に出して、結束バンド用のチケットを印刷する。ぼっちちゃんへかける言葉や、あの絵を譲ってもらう方法なんかを考えながら――私はキーボードを叩いていた。

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 「よーし、それじゃあ畔くんも入れて写真とろう!」

 

 虹夏ちゃんのかけ声で流れが変わる。だめだ、なかなか言い出せない…。

 ライブチケットを握りしめて、次こそ言えるようにシミュレーションを始めた。

 

 (さりげなく、自然に言うんだ…。ライブ気に入ってくれたみたいだし、買ってくれるはず!)

 

 チケットノルマの5枚目。これさえ売れればあとは家族の分だけ。他の人が言い出す前に売っちゃわないと…。

 リョウさんが撮影料として畔くんからお金を巻き上げようとして、虹夏ちゃんにハリセンでひっぱたかれる。スパーン、といい音がホールに響いた。

 

 「構図はどうする? 5人横並びで入るかな?」

 「前2人、後ろ3人でいいんじゃないですか? 私撮影するので前にいきますよ」

 「そうだね。畔くんは前と後ろ、どっちがいい?」

 「えっ………前でお願いします」

 

 喜多ちゃんが自撮り棒を使って、スマホを上に掲げた。

 私もスマホの方を見て……ちょっと視線をそらしてしまう。し、仕方ないよね。撮られるって思うと緊張するし、カメラって人の目みたいだし…。

 

 

 パシャリと軽快な音を立てて、本日2回目のフラッシュがたかれる。

 写真の寸評をしている喜多さんたちに気づかれないように、畔くんの袖を引っ張った。

 

 怪訝そうな表情で振り向いた畔くんに、チケットを差し出す。

 大丈夫、シミュレーション通りにやればうまくいく。「今度のライブのチケットがあるんですが、買ってくれませんか?」って言えばいいだけ……

 

 「こっ……あ……かっ……」

 「え、こわかった…? ――いや違うか。チケット買ってってこと?」

 「(コクコクコク)」

 

 小声すぎて聞こえなかったみたいだけど、なんとか意思は伝わった。

 目をつぶって頭を下げたまま、震える腕でひたすらチケットを差し出す。お願いします、どうか買ってください――――

 

 

 どれだけ時間が経っただろうか。ほんの数秒だった気もするし、1分以上かかったような気もする。

 ついに私の手からチケットが取り除かれて、かわりに紙とコインが置かれた。目を開けて確認しても間違いない。チケットがお金に変わって…?

 

 ……気づいたら、虹夏ちゃんたちもこっちを見ていた。

 虹夏ちゃんは「やっぱり気のせいか……」ってがっかりした顔をしているし、喜多さんも苦笑してる…。恥ずかしい、どこかに隠れたい…。

 手近なゴミ箱に入り込もうとすると、虹夏ちゃんに羽交い絞めされた。

 

 「ぼっちちゃん落ち着いて!? 誰も責めてないから、ね?」

 「あっ抜け駆けしてすみません……」

 「ぼっちだけ買ってもらうのはずるい。私の分も買って」

 「いや、2枚以上買う必要は…。というか5枚全部差し出さないでください」

 「リョウは空気読めや! 喜多ちゃんお願い、手伝って!」

 

 ひとしきり騒いでようやく落ち着いた私は、虹夏ちゃんと喜多さんに謝罪した。

 リョウさんは結局お断りされたみたいだけど、言うほど気にしていないみたいだし…。2人も笑って許してくれたから、これで一件落着……かな?

 

 

 このバンドに入れてもらえて良かったと、あらためて思う。

 これから結束バンドのみんなと人気者になろう! 残り4枚のチケットも、家族4人でまかなえるし順風満帆―――4”人”?

 

 (あれ、ジミヘンって人じゃないよね…。犬は人数にカウントされるの? それにSTARRYってペットOKかな?)

 

 父、母、妹、犬……4本柱の1つにひびが入る。

 追い打ちをかけるかのように、店長さんが声をかけてきた。

 

 「ぼっちちゃん、ちょっといい?」

 「えっ、あっうぇ? な、なんでしょうか…?」

 「いやその…。お前のこと、ずっと見てるからな」

 

 店長さんの言葉が、私の中でこだまする。ずっと見てる……私を!? なんで――まさか監視!? 

 演奏で調子に乗ってたから? それともさっき抜け駆けしようとしたこと…?

 

 店長さんに聞き返すなんて当然できなくて、私はただ震えることしかできなかった…。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

~~~

 

 

 

 バンドメンバー4人のものとは別に、新たに畔くんもいれてつくられたロイングループ。

 初めてそこに投稿された写真には、満面の笑みの虹夏ちゃんと喜多さん、いつも通りのリョウさん、目をそらしながらピースする私と、嬉しそうだけど目が泳いでいる畔くんが写っていた。

 

 ちょっとだけ、親近感がわく。

 押し入れの中でほほえみながら、今日の写真を保存した。

 4人で撮った写真、5人で撮った写真…。両方とも、なくならないように――

 

 





 アンケートのご協力、ありがとうございました。
 まず結論としては、分割投稿することにしました。こちらは完結扱いにしますが、アニメ2期の放送前に番外編を投稿しようと思います。
 なのでブクマだけでも残しておいていただけると嬉しいです。

結束バンドのファンになった転生者の軌跡

↑続きはこちらになります。ブクマ、感想、評価など、ありがとうございました!
 お手間をとらせてしまい申し訳ありませんが、続きの方もよろしければお付き合い下さい。



 以下はアンケート結果についての雑記です。

 ネタバレ系の回答:2%
 恋愛や作風の回答:3%
 気にしない   :95%

 気にしない方が大半だろうとは思っていました。ネタバレよりは恋愛・作風のことが投票数多いですね。やっぱりテーマ・雰囲気を切り替えたいということで、分割を決めました。
 あとは2期が来たとき、これの更新を見てぼざろを思い出してくれたらいいな……という感じですね。まあそんなの1~2人いるかも怪しいですが…。ちょっとした自己満足です。
 アニメ2期がくるのは数年後だと思いますが、その時もよく盛り上がりますように――

今後の更新について

  • アニメ2期までお預け
  • 分けて投稿する(ネタバレに配慮)
  • 分けて投稿する(恋愛・作風が理由)
  • 特に気にせず投稿を続ける
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