5巻は全体的に伊地知姉妹の出番多いですね。うれしい……
5月。空は青く透き通るようで、雲一つない。
高校入学から1か月の間に、後藤ひとりとはぼっちちゃん、いっくんと呼び合う仲となり、ギターの腕前もぼっちちゃん指導のもとメキメキ上達、あとは結束バンド形成の時を待つのみとなっていた――
――そうなっていれば良かったのだが。
どんよりと曇った空を見上げながら、畔一保はため息をついた。
実際のところはどうなっているのか、現状を整理してみよう。
結束バンド(3人体制)形成前にやっておきたいことは3つ。
①ギターを練習してある程度弾けるようになる――Clear!
ギターは始業式の日に、ためていたお小遣いを使って買った。
価格は4万円くらい。痛い出費だったものの、あんまり安いのだと見劣りしちゃうかもしれないし……多少は見栄をはっておきたい。
もっと高いものにしようかなって迷ったけれど、さすがにお小遣い前借りとかまでする気にはなれなかった。
練習の成果は、ぼちぼちといったところ。
難関と言われるFコードも弾けるようになったし、コードチェンジなんかもそんなにもたつかないでできるようになった。
曲の演奏となるとなかなか上手くできないが、まあ1か月だし、こんなものかな。
指の皮も硬くなってきたし、対外的にもギター練習してる感は出てると思う。アピールできる機会があればしておこう。
いずれは青春コンプレックス*1とか弾いてみたいな。とはいえ楽譜はないし、記憶の中のメロディーを譜面にするのも難しい。
でもお試しで音を鳴らしながら歌ってみると結構楽しいので、地道な練習に飽きた時は、モチベ回復も兼ねて演奏している。
目下の悩みは、母親が心配そうな目で見てくることかな……
作詞作曲は別の人だから。グレたいとか、鬱憤ためこんでいたりとかそんなこと思ってないよ!
②後藤さんからギターを教わる……Failed!
ギターの練習は順調だけど、後藤さんに教わるのはうまくいっていない。
……というか未だに後藤さんからギターができることを聞き出せていないんだよね。
ギターについて話題に出してみても――
<case1>
「この前ギター買って、練習しているんだ」
「えっ、あっ、はい。ギターを……」
「でも練習地味だし、近くにできる人がいなくて大変なんだよね……」
「あっ、そうなんですね……」
「………」
「………」
「(何もいってこない。この流れは失敗かな?)いずれは一緒に演奏できる人も見つけたいなって思っているんだ。いい人が見つかるといいんだけど……」
「一緒……バ……ブツブツ」
(あっ、ぼっちタイム入っちゃった……今日は撤退しよう)
<case2>
「それで、ギターの話なんだけど…。最近Fコード練習しててさ……」
「あっはい……」
「よく言われているだけあって難しくて、誰か上手い人に教えてほしいなーと思ってるんだけ…ど…?」
(ぐりゃあ……)
(え、いつの間にか後藤さん溶けてるし。なんで? 今の話のどこに地雷があった…?)
――こんな有様である。
ギターの話はもうしない方がいいのかな…?
完膚なきまでに失敗だけど、練習の約束は必須事項ってわけじゃないんだよね。
今は無理せず、喜多さんが約束を取り付けるのを待ってからまた試してみよう。
③後藤さんと友達になる……Clear?
最後に、一番重要な後藤さんとの関係について。これは判断が難しい。
1か月間、色々コミュニケーションをとろうと頑張ってきた。挨拶に始まり、休み時間や朝の時間に話しかけ、友達との会話でギターについて話してみることでそれとなくアピールし……これは失敗だったみたいだけど。
でも「あっ」「うっ」みたいな鳴き声や、単なる相づちっぽい言葉以外のリアクションがろくに引き出せない。
結束バンドのメンバーはなんだかんだ普通につきあえていたから甘く見てたけど、15年ぼっち体質は半端なかった。お願いだから一人の世界に入らないで……
アニメみたいにモノローグが聞こえたりしないかな。そうすれば「後藤さん側からどう思われているのか」が分かるのに……
でもずっと友達いなくて飢えてるわけだし、これだけ話しているなら友達か友達(仮)くらいには思われているかなって予想している。
(……現状としてはこんなところか。気がかりな点はあるけど問題なさそう?)
ネットで出てるSTARRYのライブスケジュールによると、結束バンドがライブをするのは明日だ。
ついに物語が動き出すと思うとわくわくするなぁ……
明日の作戦は、なんとしてでも成功させるぞ!
――畔一保がそんなことを考えていた日の夜のこと。
金沢八景のとある一軒家、2Fの部屋、押し入れの中にて。
小さな暗い世界の中で、ギターの悲しげな音色だけが鳴り響いていた……
(————押し入れより愛をこめて。作詞作曲『後藤ひとり』)
即興曲での弾き語り(声は出ていない)を終えた少女・後藤ひとりは、自分の高校生活を振り返って、落ち込んでいた。
(高校生活が始まってはや1か月、未だに友達といえる相手はゼロ。せっかく県外の高校に通っているのにどんどん黒歴史ができていく……)
そう。一保の予想とは裏腹に、後藤ひとりは一保のことを友達とは思っていなかった。
毎日挨拶や会話をしているし、友達(仮)くらいには思われているはずと高を括っていたが、実際にはクラスメイト(A)くらいの認識である。
もっとも、一保の予想がまったく的外れだったとは言い切れない。後藤ひとりにとっては「よく話すクラスメイト」ですら人生初の存在であるし、とある思い込みがなければ友達認定していたかもしれなかった。
その思い込みというのは――
(畔くんは陽キャ。自分とは違う存在……話しかけてくるのは、近くに浮いているクラスメイトがいるから気をつかって話しかけているだけ……)
――畔一保が陽キャであるというものだった。
後藤ひとりは、家族以外の他人と関わることを苦手としている。
その中でも陽キャなど、自分の陰キャっぷりを自覚させられてしまう相手は特に苦手であり、相手との間に心理的な壁を作り出してしまう。
そういったタイプの人が後藤ひとりの友達になるためには、多少なりとも強引に距離をつめ、心の壁をぶち壊す必要がある。
もちろんただ強引に迫ればいいというわけではないが、距離感がつかめず、手探りでの会話を繰り返すばかりでは、到底仲良くなることはできない。「あまり仲良くなりすぎて行動が変わるといけないから気をつけよう」などと一歩引いた立場で接していれば尚更だ。
逆に、苦手とするタイプ以外であれば、仲良くなれるハードルはだいぶ下がる。
同類(陰キャ)認定、友達がいない、目をあわせられないなどの要素があれば、(後藤ひとりにとっては)親近感がぐぐーんと増すことだろう。
本来ならば、畔一保はこちら側に属する。
しかしながら、とある行動がそれを阻んでしまった。
その行動とは――文化祭実行委員に志願したことである。
陰キャにとってイベントの実行委員というのは苦行である。
イベントの実行委員に陰キャが紛れ込んだ場合を想像してみよう。周りはイベントを盛り上げようと、意気揚々・元気溌剌とした陽キャばかり。「何か盛り上がりそうなアイデアある人~?」などの質問がきても、陰キャに気の利いたことを答えることはできない。
何も発言せず疎外感を味わうか、突飛なことを言って場を白けさせ”企画会議を盛り下げた賞で死刑”となるか……いずれにせよ地獄でしかない。(注:個人の感想です)
実行委員という処刑台に進んで上がる人は、間違いなく陰キャではない。畔一保は実行委員に立候補した結果、
そして、陽キャ認定されたことがさらなるすれ違いを招いた。
陽キャ(本当は違うが)がギターを始め、一緒に演奏する人を見つけたいといった時、ひとりが想像したことは――
(……きっと畔くんはそのうちバンドメンバー集めて、文化祭でライブする気なんだ…。実行委員として、文化祭を盛り上げることにも貢献して、拍手喝采をあびて人気者に……うらやましい……こういう人が青春ソングとか世に出すんだろうな……私だってライブしたいのに……同じクラスにライバルがいるなんて……)
――憧れのバンドを組み、文化祭でライブをして喝采をあびるクラスメイトの姿であった。
青春コンプレックス*2発動待ったなしである。バンドに自分が加わるイメージが持てないのが悲しい性か…。
今ではギターの話になるとまともに聞くこともなく、一人の世界に引きこもる有様である。
閑話休題。
学校生活のことを考えてぐずぐずと溶けていた後藤ひとりだったが、しばらくすると「ぐへへ…。うへへ……」などと笑い始めた。
(……でもギター始めたばかりなら腕は私の方が全然上だよね…。ネットでも評判いいし……ギター勝負をしたらみんなあっと驚くだろうなぁ……)
後藤ひとりの脳内では、文化祭ライブで畔一穂のバンドが場を盛り上げたあと、次に登場した自分の演奏で観客が総立ちになり、拍手喝采と、ひとりコールが鳴り響く――なんて光景が繰り広げられていた。
ひとしきり妄想を楽しんだあと、いい気になったひとりはギターを手に取って弾き始めた、
先程とは打って変わり、気分良さそうな音色が鳴り響く。
そうだ、ギターヒーロー名義の動画アップしなきゃ――とパソコンを操作するひとりの頭には、ギターを弾くクラスメイトのことなど、もはや残ってはいなかった。
③後藤さんと友達になる……Failed?
これって「勘違い」タグとかつけた方がいいのかな?
次回はいよいよ大天使登場予定