やっぱり創作って難しい
朝8時。
いつもはもうちょっと遅くに登校するのだが、どうにも落ち着かなくて早めに来てしまった。
今日は、ギターを持ってきている。
音楽アピールのため……というのも1つの理由だが、万が一、後藤さんがギターを持ってこなかった時に備える意味もある。
ギターは伊地知さんとの縁を繋ぐ、大切なアイテムだからな。大事にしないと。
まだ来ないかな……と教室の入口に視線をやるものの、後藤さんの気配はない。
ギリギリまで来ないことの方が多いから、まあこれで普通なんだけど。
でも、話しかけられ待ちするなら、早めに登校した方がチャンスが増えるよね…。そこまで考えてないとか?
そんなことを考えながら後藤さんを待っているうちに、友達も登校してきた。
普段はゲームやアニメの話がメインだけれど、僕がギターを持ってきたから、今日はそっちの話題が中心になっている。
話しながら入口の方を見ているけど、後藤さんは姿を見せない。じりじりと時間だけが過ぎていく。
(まだ来ないのかな? この分だと朝は話す時間が――お、)
始業5分前になろうかというところで、ようやく
いつものジャージ姿ではなく、バンド女子(?)の格好をしている。よしっ。
内心ほっとしながら後藤さんを見ていたけれど……教室の中に入ってこないな。
様子も明らかにおかしい。入口で石像のように固まっているし、なんか青ざめてるというか、顔が崩れかけている。
(何かアニメと違うな…? いったいどうして……こっちを見てるような――)
と、そこまで考えたところで気がついた。
後藤さんの視線の先にあるのは、僕のギターだ。
Q.人気者になろうとギターを持ってきたら、他の人が既にギターを持ってきていて、ちやほやされていました。どうすればいいですか? (神奈川県のGさん)
A.先を越されちゃったね。諦めよう! (ギタ男先生)
(――今の僕の状態って、後藤さんのプランそのものじゃん!?
ヤバいヤバい…! このままでは後藤さんが、放課後になる前に灰になってしまう。急いで軌道修正しないと。でもどうしたら……)
必死に打開策を考えていると、肩を小突かれて我に返った。
友達に「ほら、行ってこいよ」「良かったな、頑張れ」などと言われながら、後藤さんの方に押しやられる……
何の話をしてるんだ? お前らとしゃべっている場合じゃないから助かるけど…。まあ今は気にしないでいいか。
(対処法はまだ浮かばないけど、とりあえず後藤さんを椅子に座らせようかな。このままじゃ倒れそうだし……)
~~~~~
(終わった。私の高校生活……)
私、後藤ひとりは迫りくる
(まさか畔くんと行動が被ってしまうなんて…。2番煎じ……後追い……所詮、陰キャは陽キャの影に生きる運命……)
学校にギターを持ってきたら、みんなが話しかけてくれて、バンドに誘われて、文化祭ライブをしてちやほやされる…?
今にして思えば、なんて穴だらけの計画だろう――明るい陽キャなギタリストと、根暗でコミュ障な自分。バンドを組むとき、どっちを選ぶかなんて分かりきっている。
(あっ腕を掴まれた…。これでもう逃げられない……)
腕を引かれて教室の中へ。促されるまま席に座る。
畔くんも自分の椅子を持ってきて近くに座った。これは長話(※ひとり基準)をするときのパターンだ…。
もう家に帰りたい。注目を奪おうとしてすみません……お願いだから解放してください……
(あっ、お金払ったら帰してくれるかな…? みかじめ料……財布の中身で足りなかったら……)
「ギター持ってたんだね。もしかして、結構前からやってたりする?」
「あっ……えっ?」
財布を渡して見逃してもらおうとしたら、なんかギター歴を聞かれた。
……これはどういう意味だろう?
畔くんより長くやっていることは知られない方がいいよね…。よし、誤魔化そう。
「いっ、いやこれついこの間――」
「指の皮が硬くなっているし、前から何かしてるんじゃないかなって、思っていたんだ。ギターやってたんじゃないの?」
「――あっ……さんねんくらいです」
誤魔化そうとしたけど、失敗…。
な、生意気だって思われたよね。どうしよう、ギター没収とか――
「3年もやってるんだ! ギター似合ってるよ。格好いい!」
――えへ、なんかほめてくれた。あれ? もしかして思っていたよりいい人?
あ、ギターやグッズのおかげでイケ女子に見えてたりするのかな。もしかしてこのまま一緒にバンドやろう! とか誘われちゃったり……
「良かったら、今度ギターのコツとか教えてくれないかな?」
「えへへ…わかりました……。えっ? あっ、その……」
「じゃあそろそろ先生がくるから。また後でね」
「あっ、はい…。」
……はしないか。なんか勢いに任せて、変な約束をしちゃった気がする…。
でも「ギターを持ってきて話しかけてもらおう作戦」すごい! さっそく一人話しかけてくれたし、今日中にはクラス全員と話せていてもおかしくない―――
―――なんて思っていたのがフラグだったのか。
朝のひと時以外、誰にも話しかけられることはなく……帰りのHRの時間を迎え、私は机に突っ伏したのだった。
~~~~~
寝たふり……もしくは意気消沈か。
机に伏せた後藤さんを視界の端でとらえつつ、友達との会話で時間をつぶす。
(正直、だんだん元気を失っていく後藤さんを見るのは胸が痛んだけど……必要な犠牲だから、うん)
とりあえず、これで軌道修正はできたと見ていいかな…?
あとは公園に行くのを見届けるのみ。
もし行かないようであれば誘導する必要があるから、気づかれないように尾行しよう。ピンクのジャージは目立つし、見失う心配はあまりないだろう。
しばらくたって、ノロノロと動き始めた後藤さんにあわせて、教室を出た。
校舎を出たところから尾行を始めているが……どうやら介入の必要はなさそうだ。
アニメの絵を参考にして、行き先候補となる公園を事前に調べておいたのだが、
公園に入ったのを見届け、近くの自販機でコーラを購入する。
……女の子が走っていくな。母親も一緒だし、そろそろいいタイミングかもしれない。
公園の入口からそっと中の様子をうかがうと、
(……いた。後藤さんだ。視線は仲良し家族の方に向いてるな)
仲良し家族を見て、ショックを受けている後藤さんがいた。
今なら気づかれずに、後藤さんの近くまで行けるだろう。
親子連れが立ち去った後、いよいよ正念場だ――と気を引き締め、後藤さんの背後でタイミングをうかがう。
狙いは、後藤さんがスマホを取り出し”ギターヒーローの動画を見る”時。まだ……まだ………今、
「後藤さん、何してるの?」
「あっ、ぴぇっ!」
突然話しかけられたことで、ブランコがガシャンと音をたて、スマホが地面に落ちる。一瞬だったけど、後藤さんの体が細くなったように見えた。
「大丈夫? 驚かせてごめんね」といいながら、スマホを拾って渡す。ちらりと画面を確認すると、ギターヒーローの動画が見えた――これで、後藤さんと”ギターヒーロー”を結びつける根拠が1つできたな。
今後の布石を打っておけたことに満足するが、今日の本題はそちらではない。
驚かせたお詫びとして、さっき買ったコーラを渡しつつ、会話の糸口を探る。伊地知さんがくるまで場を持たせないと……
「ごめんね、突然話しかけて……」
「あっ、いえ…。そっそれでなにか…?」
「うん。学校で”また後で話したい”って言ったじゃん?」
「あっ、うぅ……」
……なんで?
「えっと…。これは何?」
「どっ、どうかお納めください……」
「ジュース代はいらないよ? ただのお詫びだからね、気にしないで」
「えっ、あっはい……」
相変わらず行動が謎すぎる…。モノローグを見れる機能はまだですか? 今すぐ実装して下さい。
というか後藤さん、震えながら財布を握りしめていないで、早くしまってくれないかな。なんかこの絵面イジメみたい――
「あっ! ギター――!! ……ってなにこれ。カツアゲ?」
あっこれやばいやつ……
話とは関係ないんだけど、虹夏ちゃんに「大嫌い! 顔も見たくない」とか言われたら死ぬしかないよね。
嫌われるだけでも致命傷になりそう……