やっぱり電車の中とかだと集中して書けないのかな……
「……ってなにこれ。カツアゲ?」
あたし、伊地知虹夏。下北沢高校の2年生。
今日は結束バンドのデビューライブをするはずだったんだけど、急にギターの子から「バンド辞めます。本当にごめんなさい」なんてロインが送られてきて、音信不通になっちゃったの。
それで急遽、サポートギターをしてくれる人……あわよくば逃げたギターの子が見つからないかと思って、秀華高の近くに来たあたしは、とんでもない場面に出くわしてしまった。
涙目で財布を差し出す女の子と、それを見下ろす男の子。
どちらもギターケースを持っているから、一見すると軽音部かバンド仲間かな? って思うけど……2人の間の空気は重苦しい。友達っぽく見えない。
ギターは気になるけど、それは後回し。まずは真相を確かめないと。
「――って勢いで失礼なこと言っちゃってごめんね。2人はどういう関係なの?」
「友達です、友達! すみませんこれカツアゲとかじゃなくて、財布はそう、コーラ代を払おうとしただけだと思います。な、後藤さん?」
「えっ……。あっはい、カツアゲじゃないです」
「……そうなんだー。お邪魔だったかな?」
「いえ全然、そんなことないです」
「あっ、いえ……」
う、嘘くせぇ~!
露骨に「やばいところ見られた」って顔に出てるよコレ。後藤さん(?)は返事が弱弱しいし、何か怯えている様子で俯いているし。
……うん、これはもう決まりかな。後藤さんを助け出して、あとなんとかサポートギターをお願いできないか聞いてみよう。
あたしが方針を固め、後藤さんを連れ出すべく口を開こうとした時――
~~~~~
(やばいコレこのままだと置いていかれる)
気まずい沈黙の中、僕はそう予感した。
伊地知さん、一応笑顔ではいるんだけど……なんか作り笑顔っぽい感じが出ている。アニメで見た時は、もっと屈託のない、明るい笑顔だったのに。
誤解もとけていなさそうだし、このままだと「あたし後藤さんに頼み事があって~ちょっと席を外してくれない?」ってルートになっちゃう。
(会話は流れに任せるだけじゃなくて、自分の望む流れに誘導していくもの……ここはとにかく、主導権を伊地知さんに渡さないようにしないと)
僕が知る限り最もコミュ力の高い人の教えを参考に、作戦を練る。
伊地知さんから発言させたらまずい。こちらから話を振っていこう。
「ところで”ギター”って叫んでいたけど、ギターを探していたの?」
「あ……うん、そうなんだ。それであたし、そっちの子に――」
「そうなんだ! ギターを探しているの? それともギタリストの方?」
「え、えっと…。サポートギターをしてくれる子を探していてね。2人とも、腕前の方はどうかな?」
「僕は初心者だけど、後藤さんは3年くらいやっているみたいですよ」
「ぴえっ!? いやあのそれは……」
後藤さんのギター歴を明かすと、伊地知さんの顔がぱっと明るくなった。かわいい。後藤さんが突然鳴き声をあげたが、よくあることだ。
そのまま伊地知さんは、「そうなんだ! よかった~!」と言いながら、ブランコを囲む柵を乗り越え、後藤さんに駆け寄る。
あ、手を握ってそのまま立ち上がらせた。いい光景だ。感動的だな。だが――
「あたし、下北沢高校2年で
「あっえっうっ……」
「? ごめん、うまく聞き取れなくて……どうしたの?」
――無意味だ。
なにせ相手は
まあ自己紹介くらいはできるかと思ったけれど、流れとしては問題ないな。
「後藤さんは引っ込み思案で、時々ひとりの世界に引きこもっちゃうんですよ。フルネームは後藤ひとりです」
「そ、そうなんだ…。あのね、ひとりちゃん! 実はあたしとても困っててね。今日ライブの予定だったんだけど、ギターの子が突然やめちゃったの。それで、ひとりちゃんにサポートギターをお願いしたいんだけど、どうかな!?」
「あっ……ライブ…? あっ……えっ…?」
順調に後藤さんが振り落とされているな。
伊地知さんは目をつむっているから気づいていないけれど、後藤さんの顔はもう崩壊寸前になっている。学校での様子から、これだけ詰め込めばキャパオーバーになるのは分かっていた。
――よし、ここで仕上げといこう。
「後藤さんがギターをするなら、僕もついていっていいですか? 後藤さんのギターを聞いてみたいですし、様子も心配なんで……」
「えっ!? ……うーんと、チケット代とかで2000円かかるんだけど、大丈夫?」
「大丈夫です。……後藤さんはしばらく戻ってこなさそうですし、行きますか?」
「……うん。時間も押しているし、もう行かないとね」
ミッションコンプリート。よくやった自分。
伊地知さんとは距離を感じるけど、とりあえず一緒に行く流れにはできた。2000円は痛いがしょうがない。必要経費ってやつだ。
伊地知さんが後藤さんの手を引きつつ、歩き出す。後藤さんはまだトリップ中。僕は2人の後ろからついていく。
……未だに名前も聞かれてないな。道中で距離を縮められるといいんだけれど。
~~~~~
時は過ぎ、STARRYのある下北沢駅についた。
道中、ようやく名前を聞かれたり――行き先のライブハウスのことを聞いたり(知ってるけど)――なかなか戻ってこない後藤さんを復活させる手はないか聞かれたり(唐揚げって効くのかな? 分からん)――と色々あったが、そこそこ話したこともあって、少しは距離が縮まってきたと思う。たぶん。
(……さっきから伊地知さん、こっちの方を見ないな)
まあ後藤さんがようやく現世に戻ってきたことだし、伊地知さんとしては後藤さんとお話して、距離を縮めたいのだろう。
こちらとしては、原作コンビの交流を見れて満足だけれど……このまま微妙な関係だと、楽屋入りできるか心配になる。
「ひとりちゃんは下北沢に来たことある?」
「あっいえ…。初めてで……」
「そっか~。いいところだよ、カフェとかライブハウスとか、色々あってね」
「あっはい……」
アニメよりちょっとだけ、後藤さんが声を出せているような…?
マンガよりの世界なのか。もしくは1か月間、僕と話してきてコミュ力上がったのか。
「さっき畔くんにも話したんだけど、今日行くライブハウスはSTARRYっていってねー」
「あっはい」
「最近オープンしたんだけど、うちのおねえちゃんが店長しててね」
「あっはい」
「……だから気楽な感じで大丈夫だよー! 緊張しないで!」
「あっはい……」
コミュ力あるのかと思ったけれど、気のせいだったか。後藤さんが「あっはい」しか言わないから、会話が盛り上がらない…。
あ、伊地知さんがこっちを見た。ちょっと困っているのが見て取れる。うんうん、後藤さんとの会話って苦労するよね…。
伊地知さんの視線がそれたのをいいことに、後藤さんが伊地知さんの匂いを嗅いでいる。
実際いい香りがするし、嗅ぎたくなるのは分からなくもないけど……気づかれたらドン引き案件だよね。ちょうどいいしフォローするか。
「伊地知さんはなんの楽器をやっているんですか?」
「私はドラムだよ。畔くんはギター初心者なんだよね? どれくらい練習してるの?」
「1か月くらいですね。最近ようやく曲が弾けるようになったような……なってないような?」
「あははっ。まあ1か月で曲が弾けてるなら十分じゃないかな。バンド組んだりはしないの?」
「う~ん、検討中です」
少し伊地知さんの明るさが戻ってきた。頑張れ、後藤さんのオーラに飲まれちゃダメだ。
ここで伊地知さんは、鼻息が荒くなった後藤さんに気がついたようで「ごめん、歩くペース早かった?」と、振り向いていた。
――そのまましばらく伊地知さんが話し続け、そろそろライブハウスにたどり着くかという時。
後藤さんの発言が、空気を凍らせる。
「私は武道館をも埋めた女……」
「えっ!?」
「いっいや、なんでもないです……」
「そ、そう……」
――それから誰も口を開くことはなく、
僕たち3人は、ライブハウスの入り口にたどり着いた。
原作に入ったからか、感想や評価が増えてきているの嬉しいです。ありがとうございます!