虹夏ちゃんは鈍感系でいてほしい。
「ド下手だ……」
「えうっ」
なんか依存しかけてたっぽいし、余計にダメージは深かっただろう。南無……
「ああごめんね、つい本音が……じゃなくて、あの、独特なセンスが光ってるっていうか……その、えっとね、ごめん!」
「虹夏、フォローあきらめたね」
「あっうぅ……ミジンコ……」
床に倒れた後藤さんが、ミジンコのようなポーズをとった。
これがプランクトン後藤……ついに生で見れたかと思うと感動的だなー。
伊地知さんが慰めようと近づくが、後藤さんはびくっと震えて逃げ出してしまった。
「えっ…?」と伊地知さんがショックを受けたような顔をしている。さっきまであんなに懐かれていたのにね。でもそれが後藤さんなんだ……
(学校で仲良くなろうと褒めてみた時なんかも、しばらくすると元の態度に戻るんだよなぁ……)
褒めるとバターのように柔らかくなり、厳しくするとガラス細工のごとく砕け散る。おだてれば警戒心皆無の生き物になり、我に返ればまたオドオドしはじめる。
猫のように気まぐれなんて言うが、後藤さんは猫よりよっぽど扱いが難しい。まあそれに適応できるのが《結束バンド》なのだけれど。
ショックで固まっていた伊地知さんだったが、しばらくすると我に返り、スタジオの外に飛び出していく。
追って外に出て、ホールを見渡してみるものの……見慣れたピンク色はどこにもない。
「どうしよう…。ひとりちゃん帰っちゃったかな。あたしのせいで……」
「落ち着いてください。たぶん帰ってはいないかと」
「えっ本当? ……どこにいるのか分かる?」
ちょっと泣きそうな声で聞かれる。
まあ僕の助けがなくてもそのうち見つけられるのだろうけれど、ポイント稼ぎのチャンスを逃す手はない。
「あの扉の向こうにいると思います」
「あの扉って……楽屋のこと?」
「はい」
原作知識の通りになるなら、ステージ横の楽屋に、後藤さんがいるはずだ。
そして楽屋――正確にはそこのゴミ箱の中――にて、後藤さんは発見された。
「本当にいた!」と伊地知さんが驚いている。エスパーみたいなものだし、そうなるのも分かる。まあ、あんな自信満々に断言して外れていたらすごくカッコ悪いので、いてくれて助かった。
どうして分かったの、なんて聞かれたらどうしようかな?
まあ勘ってことにしておけばいいだろう。実際は”知っていた”というだけだが。
「ひとりちゃんお願い~! 今日は大事なライブなの。箱から出てきて!」
「あっうっ……ムリ、ムリです……」
「だいじょうぶ、だいじょうぶだから。即席バンドだししょうがないって。あたしだってそんなに上手くないし」
「私はうまい」
「うぅ……」
伊地知さんが箱から出てくるように懇願しているが、後藤さんは箱の中で震えるままだ。
さらには「え、MCでもお役に立てないので……ハ、ハラキリショーでもしましょうか、あはは……」などと言って笑っている。奇行レベル上がってきたな。
伊地知さんと山田さんの頑張りを眺めていたら、伊地知さんが助けを求めてきた。
「畔くんもお願い! ひとりちゃんを元気づけるの、手伝ってくれないかな? ……あ、コンビニで唐揚げ買ってくればいい? さっき話してたよね」
「あーそれはですね…。効くかどうか分かりませんし、効いたとしても、ライブに出る勇気がつくわけではないかと……」
「そっか…。なんかいい手はないかな?」
「うーん……」
唐揚げはアニオリだし、本当に効くのか分からないんだよな…。事前に試しておけばよかった。
縋るような目で見られても、これといってアイデアは浮かばない……というか「ぼっち・ざ・ろっく!」のファンとして、重要な局面は原作メンバーで乗り越えてほしいんだよね。
……まあ、多少手を貸すくらいならいいか。自分の立ち位置を作りたいからって、引っかき回している責任もあるし。
ゴミ箱に近づき、「後藤さん」と声をかける。ここでかけるべき言葉は……
「ねえ後藤さん、伊地知さんに無理やり連れてこられて、迷惑だった?」
「い、いや! そんなことないです…。バンドはずっと組みたくて、でもメンバーを集めるのも……誘ってもらうのも勇気が持てなくて……」
うん…。誘ってほしいアピールとかくるかなと思って、対処法を考えていたのに全然なかったね。
伊地知さん、流れ弾で「うぐっ」となっている場合じゃないよ、頑張って。
「ふだんはカバー曲をネットに上げたり……」
「普段は何弾くの?」
「あっ、誘われたときにすぐ弾けるようにって、売れ線バンドの曲はだいたい……」
「え、すごっ」
……もう大丈夫だろう。
一歩下がって、輪から外れる。ギターヒーローの話題になり――後藤さんが立ち上がり――完熟マンゴーが生まれるまで。僕は気配を消して、3人の様子を堪能していた。
――空気壊れるからできなかったけど、写真撮りたかったな。
~~~~~
「それあだ名じゃなくない!? ……あれっ、畔くんは?」
ひとりちゃんとの会話に夢中になっていて気がつかなかったけれど、さっきから全然会話に加わってない。
横を見てもいない、後ろ――いた。なんで壁際まで下がってるの?
畔くんにひとりちゃんの呼び名について聞いてみるも、後藤さんとしか呼ばれてないらしい。それどころか、畔くん以外に話しかける人はほぼ皆無だとか。何それ……涙が出てきそう。
「ひとりぼっち……ぼっちちゃんは?」
「おま、デリケートなところを」
「ぼぼぼ、ぼっちです!」
「喜んでるし……」
涙が出てきた…。
ともあれひとりちゃん改めぼっちちゃんが、ライブに出てくれる気になって一安心……なんていうほっこりした気分は、ぼっちちゃんの質問で打ち砕かれた。
「あっあの、バンド名って…?」
「うっ」
「結束バンドだよ」
結束バンド――リョウはシャレた名前だって気に入っているみたいだけど、シャレはシャレでもダジャレの方だし、絶対センスおかしいから! 変人めぇ…。
(友達にバンド名聞かれた時も、え…? みたいな反応されたし、そのあと面白い名前だねーなんて気をつかわれて……絶対変えてやる。そうだぼっちちゃんや畔くんはどう思って――)
ぼっちちゃんはリョウに、「いい名前だよね」なんて聞かれて頷いている。畔くんは……いい名前だなーなんて思っていそうな顔をしている。
なんで!? まともなセンスを持ってるのはあたしだけなの?
(まさかあたしのセンスがずれて……いやそれはない。友達みんな微妙な反応だし)
この変人どもめ……と睨むが、全く効果がない。
なんか疲れたな。ライブ前なのに……って、
(時間は? あ、もう練習する時間はないな…。そろそろ準備しないと)
リョウとぼっちちゃんにも声をかけ、準備にとりかかる。
あとは畔くんだけど……
(やっぱり謝った方がいいよね。色々と……)
公園で、畔くんが財布を差し出されていた光景を思い出す。
普通ならあんなの、カツアゲかイジメにしか見えないけど……ぼっちちゃんの性格がわかるにつれ、誤解がとけてきた。
最初は、ただの気弱な女の子だと思っていて、
武道館をも埋めた――なんて言っているところで、違和感を覚え、
そしてハラキリショーだの言いだしたのを見て、確信した。
(ぼっちちゃん、だいぶやばい子だよね。財布を差し出していたのも、なんか変な妄想をした結果なんだろうな……)
ちょっと2人の距離感が遠く見えるのも、しょうがないことかもしれない。
思えば最初から誤解だって言っていたわけで…。それなのに、
(あたしちょっと冷たい態度だったし、それでいてバッチリお世話になっているし…。ライブの出来もちょっとアレな感じになりそう。これじゃあ今日のことが、嫌な思い出として残っちゃうかも。それは嫌だな…。なんかお詫びとお礼しなくちゃ、でもどうすれば…?)
ライブ前に考え事とかしてる場合じゃないのに――と思いながらも頭を悩ませていると、リョウと畔くんの会話が聞こえてきた。
「じゃあ僕は、客席の方に行きますね」
「ん、応援よろしく」
「任せてください。あ、チケットまだ買ってないんですが……」
「それなら受付にいって、当日券1枚・結束バンドって言えば大丈夫」
「分かりました。それじゃ、頑張ってくださいね」
――チケット代! それだ!
あわてて「待って!」と言いながら、扉を開けようとしている畔くんに駆け寄って、腕をつかんで引きとめた。
「え、伊地知さ――!?」
「あのね、やっぱりチケット代は、関係者ってことでただでいいよ。色々迷惑をかけたし、助けてもらったし……」
「え…? いいんですか?」
「うん! そのかわり、次のライブも来てくれると嬉しいな」
「…! もちろんです!」
良かった~。これで肩の荷が下りた。
……なんか畔くん顔が赤いような? この部屋暑かったのかな?
「もしスタッフさんに声をかけられたら、あたしの名前出していいから。あ、ロインも交換しない?」
「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします」
「よろしくね。ぼっちちゃんも――」
畔くんとロインを交換して、ぼっちちゃんとも……と振り向いたら、完熟マンゴーがしなびていた。ダンボールなのに。
「ぼっちちゃんどうしたの!? 頑張ってー!」
「あっうっ……眩しすぎる……」
「今、次のライブの約束したばかりなんだよ。気合い入れて、ね!」
「つ、次……」
あ、ちょっと復活してきた。
畔くんはちょっと心配そうにしていたけど、時間も迫ってきてるし、客席の方に行ってもらう。リョウは何して――スマホ?
「リョウ、何してるの?」
「店長に報告」
「ひぃっ。チケット代のことばらしてないよね?」
「してない。ほら、準備するんでしょ」
ぐ、どういう報告をしたのか問い詰めたいけど、確かに今は準備しなきゃ。
ライブ頑張ろう。これが、夢を叶える第一歩なんだから――
~~~~~
客席側に戻った僕は、結束バンドの3人が、機材のセッティングをしているのを見ていた―――叫びそうになるのを抑えながら。
(や、やったぁぁぁーー! 色々トラブルがあったけれど、結果的には総取り成功! 伊地知さんとも仲良くなれて、関係者枠もゲットし、アニメ1話の幻のライブも拝める!)
公園で最悪な場面を見られたときは、本当にどうなるかと思ったけど。冷たい空気に耐えながら頑張った甲斐があった。
さっきの伊地知さんもかわいかったな~。さすがアニメキャラ。ちょっとドキドキした。
(これからSTARRYでバイトして、アニメで描かれなかった時のバイト風景を拝んだり……オーディションライブも生でみたいよね。うーん、夢が広がるなぁ)
ステージの照明がつき、伊地知さんのMCが始まった。
演奏は素人の僕でもわかるくらいイマイチで、ステージのマンゴー仮面がライブハウスの空気をぶち壊し、客席の反応はどうみても良くなかったが――
――それでも僕は、終始笑顔でそのライブを楽しんでいた。
夢のライブが終わり、次のバンドに交代となる。
交代といっても、すぐに次の演奏が始まるというわけではないらしい。機材のセッティングなんかをしているみたいだ。
(結束バンドのライブは終わったし、もう帰ってもいいんだけれど…。どうしようかな?)
いや、たしかもう1イベントあるんだっけ?
楽屋の扉を見ていると……あ、後藤さんが飛び出してきた。そのまま脇目もふらず、出口に一直線。階段を駆け上がっていった。
もう見るものはないかな。楽屋にもう一度入るのは目立つだろうし……帰ろう。
いや~。楽しい1日だったな~。
――その日は浮かれ気分のまま、家に帰った。
今日のことを思い返していたらなかなか寝付けず、翌朝は寝坊しかけて、授業中も居眠りしそうになっていた。
そんな風にぼんやりしていた僕は、気がつかなかったのだ。
後藤さんにだけ――結束バンドのミーティングについて、連絡がきていたことに。
ようやくオリ主の性格が見えてきたかな…?
次回、オリ主不在の結束バンドミーティング。
以下、アニメ考察という名の駄文。
今回あれこれ悩みました。
まずスタジオ練習の場所について。スタジオ練習って、普通はライブハウスじゃなくて、レンタルスタジオでするそうです。というかライブハウスは楽器練習の場じゃなくて、ライブをする場所なんですね。リハもステージでするとか。
でも作中描写からすると、スタジオ練習はSTARRY内でやっているようにしか見えない…。じゃあ練習部屋はどこにあるの?
ここで注目したのが楽屋について。楽屋は本来、出演バンド全員の楽器類が置かれる荷物置き場かつ、次の出演バンドの待機場所。
8話でステージ右側の部屋から客席を覗いていますが、普通に考えればあそこが楽屋…。でも楽器とか全然置かれてないよね。練習部屋に繋がりそうなドアも見当たらない。
というわけで、練習部屋や楽器置き場は別エリアにあることにしました。楽器置き場はステージ左側の扉として、練習部屋はどこだろう…? 楽器置き場のさらに奥? PAブースの右側?
とりあえず控え室っぽいのを楽屋、練習部屋はスタジオと書いています。何か分かる方がいらっしゃったら、教えていただけるとありがたいです。
次に時間について。
アニメ1話で、スタジオ練習を始めるときに時計が映ります。時間は16時過ぎ。
その後、演奏と偽EDを挟むと、ライブがもうすぐ始まる時間帯だそうです。
チケットの販売は17時から。結束バンドが一番最初だとしても、ライブが始まるのは17時半。
つまり少なく見積もっても1時間以上、演奏開始からぼっちinゴミ箱のシーンまでにかかっています。10分もやればダメダメなのはわかるでしょうし、そんなに長く演奏していたようには思えませんが、残りの時間は何をしていたのか…?
妄想の結果、スタジオから逃げたぼっちちゃんを見失い、探すのに時間がかかったことにしました。てっきり外にいったと思って探し回っていたら、リョウから楽屋にいたよってロインがきて、慌てて戻る虹夏ちゃんとかかわいいかもしれない。
今回、畔くんのおかげでショートカットできたので、時間短縮になったかもしれません。
色々書いたけど話半分に。この小説ではそういう設定なのかってくらいに思ってください。
あれこれ考え、調べて書き直していたら、日曜日が終わっていました…。
書き溜めできなかったので、次の投稿は遅くなりそうです。