(うぅ……どうしよう……)
お昼の学校。次が最後の授業ということで、少し浮足立った教室にて。
私、後藤ひとりは深刻な悩みを抱えていた。
始まりは昨晩のことーー
初ライブを終え、(いつの間にか)正式なバンドメンバーとなり、女の子から初めてロインでメッセージを受け取るなど、様々なイベントにより浮かれきっていた私のもとに……虹夏ちゃんからメッセージが届いた。
《今後のバンド活動について話し合いたいから、明日の放課後、STARRYに集合ね!》
《1人だと心細いなら、畔くんも一緒で大丈夫だよ~》
《よろしくね(スタンプ)》
STARRYはまだ行きなれてないし、雰囲気も怖いから1人だと心細いのは確か…。
扉を開けた途端、変なものを見る目で見られたらと思うと中に入れなくなりそう。扉の前で立ち尽くして、そのうち干物になっちゃう自分の姿が目に浮かぶ……
いやそもそも、
(でも私からメッセージ送ったことなんてないし、今日、完熟マンゴーを見られたばかりなのに……)
は? あんなダンボールライブを見せておいて、また着いてきてほしいとか言ってんの? なんて言われたら爆発四散してしまう気がする…。
いっそほとぼりが冷めるまで学校休むとか……いやここは勇気をだして……なんて転がりながら考えていたら、背後から突然声をかけられた。
「お姉ちゃん、また何かあったの?」
「ヒゥェアッ! ふ、ふたり。どうしたの?」
「おやすみなさい言いにきた」
悩んでいるうちにだいぶ時間がたったらしく、気がつけばちょっと遅めの時間だった。
ふたりにおやすみを言った後、もう一度スマホを手に取るが……ダメだ。もう指が動かない…。
(こんな時間にロインするのは迷惑だし、やめた方がいいよね。うん。きっと明日また話しかけてくるだろうし、怒ってなさそうなら聞いてみれば……)
――なんて思っていたのに、今日に限って話しかけてこない!
横目で畔くんの様子を確認するが、机に突っ伏したまま動かない。
というか休み時間ずっと寝てるような…。授業中はギリギリ起きてるみたいだけど。
(や、やっぱり昨日のライブが下手すぎて怒ってる…? 話すつもりはないって意思表示なんじゃ…。ほ、放課後はダッシュで逃げよう……)
そんなことを考えた私は、最後の授業が終わってすぐに席を立ち、下北沢に向かい……
想像していた通り、扉の前で立ち往生した。
虹夏ちゃんとリョウさんがSTARRYに来たことで、なんとか私も中に入ることができた。
適当なテーブルを囲んで座ると、虹夏ちゃんが「一人でこれてえらいね。よくがんばった!」なんてほめてくれた……えへへ、私頑張った……って、
(違う! よく考えたらほめられ方が
虹夏ちゃんの中の私ってどうなってるんだろう…? なんて疑問に思うけど、聞いたらショック受けそうだし聞かないでおこうかな…。
「ミーティング始めるよ~」と言って、虹夏ちゃんが鞄から何かを取り出した……スケッチブック?
「とりあえず、お題にそって話していこうと思うんだ。まずはこれから……じゃーん、『好きな音楽の話』」
「略してオトバナー」
「お、オトバナ…?」
虹夏ちゃんが音頭をとり、リョウさんが追従する。なんでわざわざ略すんだろう…?
虹夏ちゃんの好きな音楽はメロコア系、リョウさんはテクノ歌謡とか(虹夏ちゃん曰く嘘)らしい。私の番が回ってきたけど、好きな音楽か……
「せ、青春コンプレックスを刺激する歌以外ならなんでも……」
「ん? 青春コンプレックス?」
虹夏ちゃんの疑問の声をよそに、私の心がコンプレックスにより暗黒面に落ちていく……
闇に落ちた私のもとに、
青い海、仲のいいカップル……そういったものから目を背け、ギタ男くんとバンドについて語りあっていると……突然ギタ男くんが消え去った。
(……!? あれ、なんか美味しそうなにおいがする。これは……唐揚げ?)
「良かったー。ぼっちちゃん戻ってきた」
「おー。虹夏やるじゃん」
いつの間にか現実世界に戻ってきたみたいだけど、なにがなんなのか分からない…。
目の前には、かわいいお弁当箱が置かれていて…? 唐揚げ、お米、レタスにトマト、玉子焼き……シンプルなのに輝いて見える。
まさしくお手本のような手作り弁当。それがどうして私の前に…?
「それ、朝作っておいたの。良かったら食べてみて?」
「あっはい…。えっ?」
虹夏ちゃんの言葉に耳を疑う。
わ、私なんかがこのお弁当を食べていいの…? 家族と先生、あと親戚以外の手料理なんて初めて……
夢に違いないと思って頬をつねると、普通に痛い。痛いということは夢じゃない…?
(現実にこんなことが起きるなんて…! あ、味わって食べよう。こんな機会、もう一生ないかもしれないし……)
「いっいただきます」
「ふふっ、喜んでくれて良かった」
「……虹夏、私の分は?」
「え、ないけど……」
幸せをかみしめながら、お弁当を味わう。冷めちゃっているのに、なぜかとても美味しい。
虹夏ちゃん料理もできるんだ。優しくて家庭的で、私のことをよく甘やかしてくれる…。
「私も食べたい」
「昼間もあたしの唐揚げ食べたでしょ!」
「でも小腹がすいてきたし。ねぇぼっち、唐揚げ1個ちょうだい」
リョウさんの言葉に、ピタリ……とお弁当を食べる手がとまる。
嫌だ、あげたくない。唐揚げあと2個しかないのに。最初で最後かもしれない、友達が作った手料理なのに……
断固たる決意を持って断るべく、リョウさんを見るけれど……無表情で見つめてくるリョウさんが怖くて、すぐに目をそらしてしまう。言葉が出ない。い、威圧感が…。
――その後、抵抗(してない)むなしく、唐揚げをとられてしまったのは言うまでもない。
お弁当を食べ終わって、ミーティング再開となった。「次の議題は……うーん、どうしようかな…?」と虹夏ちゃんが悩んでいる。
そんな虹夏ちゃんをよそに、リョウさんが話しかけてきた。
「ぼっち」
「はっはい、なんでしょう…?」
「これでぼっちと私は同じ釜の飯を食べた仲だから。つまりマブダチ」
「えっ!? リョウずるい!」
言葉は聞き取れたけど、言葉の意味が理解できない…。
マブダチ……マブダチってなんだっけ…? あっ親友って意味か……親友?
左を見る。リョウさんはマブダチと言ってくれた。お弁当を分け合った仲。つまり友達。
右を見る。虹夏ちゃんはお弁当をくれて、色々優しくしてくれて……友達と言っていい、はず。
……い、いつの間にか友達が2人も! バンド組んで、友達もできて、これはリア充と言っていいのでは…!
「うへへ……リア充ぼっちです……」
「よくわからないけど、なんか元気になったね」
「私のおかげ」
「ドヤるな! まあ、ぼっちちゃんが元気なうちに、この話題いってみよっか」
にやける私をスルーして、虹夏ちゃんがスケッチブックをめくる。
どんな話題かな? まあリア充となった私なら、どんな話題もパーフェクトに……
「次は『学校の話』だよ!」
「略して、ガコバナ~」
「あっはい……」
学校ネタを脳内検索するが、嫌な記憶の詰まった引き出ししか見つからない…。
とりあえず無難な定番ネタで乗り切ろう……
「ふ、二人は同じ学校で…?」
「そうだよ! 下高の同級生」
「家から近いから選んだ」
「あっ下北沢に住んでるんですね……」
こんなおしゃれタウンで過ごせるの、すごいなぁ…。
私も下北沢で育っていたら虹夏ちゃんみたいに……なれるわけないか。私だし。
「ぼっちちゃんは秀華高だよね。この辺じゃないの?」
「あっいえ、県外で、片道2時間かけてます……」
「えっ?」
「2時間……」
「なんでそんな……ごめん! 今のなし、忘れて!」
虹夏ちゃんの疑問の声で死んだ魚の目になりかけたけれど、すんでのところで持ちこたえた。
誰も自分の過去を知らないところに行きたかったなんて、どう言っても盛り上がる気がしないよね……察してくれてありがとうございます。
「あの畔ってやつとはよく話すの?」
「あっはい。だいたい毎日……」
「そうなんだ! 昨日の感想とか、何か言ってた?」
「あっ今日は1回も話してないです……」
やっぱり怒らせてしまったのでは……なんて思ってまた沈みそうになったけれども、なんだか虹夏ちゃんは不思議そうな顔をしている。
な、なんだろう? おかしなことを言ったつもりはないんだけど…。
「うーん、ぼっちちゃんは見てなかったと思うけど……畔くん、結構楽しんでるように見えたんだけどなー」
「えっ…?」
「虹夏はロイン交換してたよね。何か来てないの?」
「一応《今日は楽しかったです。これからよろしくお願いします》とは来てたよ」
「ふぅん……」
虹夏ちゃんとリョウさんが色々話しているけど、なんだか耳に入ってこない…。
畔くんが楽しそうにしていた? あのライブで…?
(出来は悪かったのに、なんだかちょっと嬉しいな……)
畔くんは、コミュ力高くて、ギターも弾けて、文化祭ライブもしそうで……私のアイデンティティが崩壊しそうになる日が続いて、どうにも苦手意識が強かったんだけど…。
この前ライブしたことで、バンドマンとしては私の方が一歩リードできたわけだし……あまりコンプレックス感じなくていいのかも。もうちょっと自信をもって、向き合ってみようかな?
「畔くんって歌はどう? 聞いたことある?」
「えっ? くっクラスでカラオケいった時は、評判良かったとか……」
「虹夏。彼、入れるつもりなの?」
畔くんが新メンバーになったらどうなるんだろう…?
頭の中でシミュレートしてみる……ボーカルって目立つし、注目の的になるよね。虹夏ちゃんたちともあっという間に仲良くなって……あ、私がどんどん薄くなって消えちゃった…。
未来予想での自分の末路に、俯いてプルプルと震えてしまう。に、苦手意識が……
「うーん。畔くんが女の子なら迷わず勧誘するんだけど、男の子だしなあ……」
「男女混合バンドは、恋愛関係でこじれて解散ってのが定番」
「いやそれ偏見だから! きちんと活躍している人達もいるでしょ」
あ、リョウさんは反対っぽいし、虹夏ちゃんもそんな乗り気じゃないみたい。
良かった。私のアイデンティティは守られた…。
虹夏ちゃんがスケッチブックを手にとる。
どうやらガコバナは終わりみたい…? よし、次の話題は頑張るぞ。
スケッチブックがめくられて、今度は『バンドの話』と書かれたページになった。
「ちょうどいいし、次はバンドの話ね」
「結論だけ言うと、女性のギタボ*1を入れたい」
「あっそうなんですね」
「およ? なんか今日、珍しく積極的だね…?」
「眠いし、早く終わらせよう」
「おいこら」
リョウさんが虹夏ちゃんにツッコまれてるのを見ながら、さっきの発言について考える。
女性ボーカル限定ってことは、ガールズバンド路線でいくんだよね。ガールズバンドといえば、夢とか、恋の歌みたいな……い、嫌だけどここで空気壊したくないし、賛成ムードを……
「あっ恋の歌、最高ですよね……ぺっ……」
「凄く嫌そうな顔! 大丈夫だよぼっちちゃん、ガールズバンドってのを前面に出して売りたいわけじゃないから」
「恋の歌とか嫌なら、ぼっちが歌詞書いたら?」
「それいいね! ね、作詞大臣やってみよ?」
「あっはい、任されました……」
なんか勢いで作詞担当になってしまった…。まあ中学校まで休み時間は図書室で過ごしてきたから、なんとかやれるはず……
でも、ならなんで女性限定なんだろうっていう疑問は、虹夏ちゃんが説明してくれた。
「まあガールズバンドじゃなくてもいいんだけど、男女混合だと着替えとか、色々大変らしいんだよね。リョウじゃないけど、恋愛で関係がこじれて……なんて話もないわけじゃないし」
「実力があるなら考えなくもない」
「な、なるほど……」
2人の話にうなずく。恋愛はともかく、着替えとか大変そうってのは分かるかも…。
虹夏ちゃんが「まあギターはできなくても大丈夫。これから練習すればいいだけだし……」なんて話しているのに相づちをうちながら、ミーティングは続いていった。
~~~~~
(……まあ女性限定にしてる一番の理由は、別にあるんだけど)
虹夏とぼっちが話すのを見ながら考える。
本音では、音楽性があえば男だろうと全然かまわないのだが――
(虹夏目当てで加入しようとするやつが多すぎてうざい)
虹夏は学校ですごいモテる。
かわいくて、面倒見がよく、人当たりもよいとなれば当然のこと。自分もそこそこ人気があるが、ふらふら集まる男の数は、圧倒的に虹夏が上。
それなのに当の本人は、向けられる感情にさっぱり気が付いていない。
虹夏にアピールするため、音楽雑誌やギターを買ってくる奴も、そう珍しくはない。まあちょっとつつけばすぐボロがでるのだが…。
そんな奴を入れても意味はないので、バンドメンバーは女性限定ということにしているのである。
(ギタボ探しが振り出しに戻ったのは残念だけど、ぼっちが見つかったのは良かった。腕はともかく、個性的なのが実にいい…。気に入った)
虹夏が「ギタボ探し、がんばろー!」などと掛け声をあげるのに適当に合わせる。
……虹夏、緊張してる。そろそろあの話題にいくのかな。
「最後は『ノルマの話』だよ。もう一息だから、頑張ろうね!」
「あっはい」
「………」
学校で、スケッチブックを用意しながら悩んでいた虹夏を思い出す。
だいぶ眠くなってきたけど、もう少し頑張るか。面白いものが見れそうだし――
「ノルマ代とか諸々の経費がかかるから……お金を稼がないといけないの」
「はい……えっ?」
ギギギ……と音を立てそうな動き方で、ぼっちが顔を上げる。どうやら察してしまったようだ。
そんなぼっちを優しい目で見つめながら、我が親友は裁きを下した。
「だからぼっちちゃん、バイトしようね」
「バイトォ!?」
今日一番の大声をあげて、ぼっちが気絶する。
それを見て慌てる虹夏を見ながら、満ち足りた気分で、夢の世界に旅立った。
6000字近くあるし、ガコバナあたりで切って前後編にした方が良かったかも…?
次回は畔くんパートに戻ります。