朽木家の次期当主   作:赤いUFO

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前篇

 朽木家の当主である朽木白哉は先日産まれた我が子を抱きながら妻との()()の会話をしていた。

 尤も、話しているのは妻である緋真であり、白哉は妻の手を握っているくらいだったが。

 妻の最期の我が儘として、過去生活苦で捨ててしまった妹を見つけてどうか妹として迎え入れてあげてほしいという願い。

 

「最期に、白哉様との子を抱くことが出来て、幸せでございました。一つだけでしたが、ようやく白哉様から頂いた愛に報いることが出来ました」

 

 それだけを言い残すと、朽木白哉の妻緋真は、目覚めることのない眠りについたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私、朽木ルキアが朽木家に拾われて十年と少しの時間が経った。

 未だに貴族の生活に馴染めない自分がいるが、それでも屋敷に帰れば楽しみもある。

 

「ルキア姉様っ!」

 

「朝緋」

 

 朽木朝緋。

 義理の兄である白哉兄様の息子である。

 本来と甥と叔母の関係だが、そう呼ばれることに抵抗があり、姉と呼ばせている。

 顔立ちは屋敷の者曰く、白哉兄様によく似ているが、目元などは亡くなった兄様の奥方である緋真様の面影があるとのこと。

 

「良い子にしてたか? 朝緋」

 

「はい!」

 

 年相応に元気良く返す朝緋。

 続いて信じられない言葉を発した。

 

「二十番台までの鬼道を修得出来ました!」

 

 胸を張って報告する朝緋にルキアは目を丸くした。

 

「ほ、本当か! この間まで、まだ基本の鬼道が精々だったろう!」

 

「がんばりました!」

 

 胸を張って言う朝緋。

 その成長に私は才能の差を感じずにはいられない。

 

(きっとこの子は私などあっさりと追い抜いて行くのだろうな)

 

 四大貴族である朽木家の血筋からか、生まれついての高い霊圧を持つ朝緋。

 数年前から家庭教師のような事をしているが、物覚えが良くて少し時間を置いて会えば驚く程に成長している。

 

「行きましょう、姉様! 父様がお待ちですよ!」

 

「あ、コラ! 危ないだろう! 腕を引っ張るな!」

 

 元気な甥に振り回されつつも仕方ないなと笑ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!」

 

「ヤァッ!」

 

 木刀を構えて朝緋と共に左右から海燕殿に立ち向かう。

 しかし私達の剣は海燕殿にあっさりに受け流される。

 どれだけ打ち込んでも一撃当てる事も出来ず、楽々と対処されている。

 だが、問題はそこではなく。

 

「まだまだぁっ!!」

 

「よーし来いっ!」

 

 私が既に息も絶えているのに、朝緋はまだ海燕殿と打ち合っている。

 それも私より明らかに鋭い斬術で。

 

(もう斬術では勝てぬかもしれぬな……)

 

 鬼道ならまだ私の方が上だろうが、それもいつまでの事か。

 甥っ子の成長に嬉しさと悔しさ。そして自分への不甲斐なさが同時に襲いかかる。

 そこで海燕から激が飛んだ。

 

「おら朽木! まだ死神でもねぇ子供(ガキ)に負けてんじゃねぇ! お前も来い!」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝緋と共に倒れるまで海燕に稽古を付けてもらうと浮竹隊長が道場にやって来た。

 

「お! やってるな」

 

「浮竹隊長っ!」

 

 今日は体調が良い様子で私達を見る。

 そこで朝緋に気づく。

 

「君は……」

 

「初めまして! 浮竹隊長! 朽木朝緋と申します!」

 

 ペコリと挨拶する朝緋に浮竹隊長がそうか、と笑う。

 

「君が朽木の……もうすぐ霊術院を卒業すると聞いたが……」

 

 元より優秀な朝緋は真央霊術院を二年で卒業が決まっていた。

 来月には新人の死神として活動する事になるだろう。

 だから今日は十三番隊の見学も兼ねていた。

 

「そうか。どこの隊に配属されたいか、希望はあるのか」

 

 浮竹隊長の質問に朝緋はうーん、と考える。

 

「わたしとしては色んな隊を見て回りたいなって思ってます。あ、でも最終目標は決めてるんですよ」

 

 それはルキアも初耳だった。

 私達が見てる中で朝緋は真っ直ぐに浮竹隊長を見て自分の夢を言った。

 

「わたしは、誰よりも強い死神になって、総隊長の座に就きたいです!」

 

 朝緋の言葉に私達三人が固まる。

 それはつまり、現総隊長である山本元柳斎重國を超えると言ったのだ

 最初に吹き出したのは海燕殿だった。

 

「そうか! そうか! ま、頑張れよ!」

 

「はい! って、笑わないでくださいよー!」

 

 心外とばかりに海燕に抗議する朝緋。

 浮竹隊長も苦笑している。

 

「先生が聞いたらなんて言うかな」

 

 その意気や良しとするか、調子に乗るなと一蹴するか。

 これが、私が海燕殿を殺す数年前の事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから朝緋は護挺十三隊の五番隊に入隊し、数年ごとに隊を変えていた。

 今では、二番隊と三番隊。そして十二番隊以外には席を置いていた。

 

 

 

 

 

 

「ルキア姉様」

 

 現世への駐在任務へと向かう途中、朝緋と出くわした。

 どうやら出立の送り迎えに来てくれたらしい。

 月日が経つのは早く、子供だった朝緋も今は成長して一番隊の席官となっていた。

 

「現世への任務、どうかお気をつけて。私も父様も、ルキア姉様の土産話を楽しみにしています」

 

 朝緋の言葉に私は曖昧な笑みで誤魔化す。

 朽木家に拾われて四十余年。兄様が私を見てくれた事など一度もない。

 しかしその誤魔化しも甥っ子には通じなかったらしい。

 

「ルキア姉様は父様の事を誤解してます。父様はアレで、ルキア姉様の話を毎回楽しみにしておられるのですよ」

 

 きっと、息子である朝緋には兄様が私を大切に想っていると考えているのだろう。

 だがそれは違うことを私は知っている。

 兄様は奥方だった緋真様に偶々似ていた私を拾っただけ。

 しかしこの話は互いに平行線になるのを理解しているのでここで終わりにする。

 

「ルキア姉様。行ってらっしゃい」

 

「あぁ、行ってくる」

 

 

 これから私が経験する奇妙な出会いと事件を、まだ知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朽木朝緋は罪人として呼び戻された姉として慕う叔母、朽木ルキアが幽閉されている牢に足を運んでいた。

 

「ルキア姉様っ!!」

 

「朝緋……」

 

 朝緋の来訪にルキアは驚いたは目を瞬きさせたがすぐに柔らかい笑みを見せる。

 

「久しいな、朝緋。元気にしていたか?」

 

「それどころではありません! これはいったいどういう事です!」

 

「すまないな。どうやら私は、現世に長居し過ぎたらしい」

 

「今回、ルキア姉様の罪状は人間への力の譲渡だと聞きました。その程度の罪で極刑だなんて聞いた事がありません!」

 

 四十六室が下した決定に憤る朝緋。

 

「もう少し待っていてください! 今回の判決は明らかに異常です。父様だって、ルキア姉様の為に動いてくれます!」

 

 朝緋の言葉にルキアはただ申し訳なさそうに笑うだけ。

 その様子にも朝緋は苛立ちを募らせる。

 

「とにかく! 待っていてくださいね! 絶対にそこから出してあげますから!」

 

 そう言って慌ただしく牢から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父様!」

 

 霊圧を辿って六番隊の隊長室に押しかける朝緋。

 父である白哉が何かを言う前に口を開く。

 

「ルキア姉様の件、どうなさるおつもりですか? このままでは────」

 

「朝緋」

 

 それを制するように白哉は息子の名を呼ぶ。

 

「お前はこの件に関わるな。何もする必要はない」

 

「何を仰いますか! 通達は届いているでしょう! ルキア姉様が処刑されるのですよ!」

 

 次に父から発せられた言葉は朝緋には受け入れられない物だった。

 

「それが四十六室の決定ならば、私はそれに従うだけだ」

 

「……本気で言っているのですか」

 

「くどい。これ以上ルキアに会うことも許さぬ。隊務に戻れ」

 

 まるで取り合わない父に朝緋は机をバンッと叩く。

 

「父様! 父様はこんなことで死なせる為にルキア姉様を傍に引き取ったので────っ!?」

 

 そこで白哉が朝緋に平手打ちを見舞った。

 だが朝緋は父を睨むことを止めない。

 互いに視線を逸らさずにいると、隊首会の連絡がはいる。

 白哉は椅子から立ち上がる。

 

「お前も四大貴族朽木家の死神として自身の言動をよく考えろ」

 

 そう告げて隊長室を出る白哉。

 

 朝緋は怒りを吐き出すように口にする。

 

「頑固者……っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数時間後。旅禍と呼ばれる侵入者の対応に瀞霊廷内の全死神で対応する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朽木朝緋は旅禍に対応する為に瀞霊廷内を動き回っていた。

 隠密機動から報告を聞き、苦い表情を浮かべる朝緋。

 

「旅禍が瀞霊廷内に侵入して数時間。もうそこまで被害が出ているのですね」

 

 報告だけ済ませて去っていく隠密機動。

 少し遠くだが、戦闘が行われている地点に動こうとした。

 

「ん?」

 

 そこで僅かな霊圧に気付く。

 

「破道の四"白雷"」

 

 試しに鬼道で威嚇した。

 建物越しに放った鬼道が貫通する。

 すると、小さな影が飛び出してきた。

 

「猫?」

 

 影から飛び出した黒猫が屋根に飛び乗り、逃げていく。

 

「待ちなさい!」

 

 朝緋も屋根に飛び乗り、その猫を追った。

 

(速い!)

 

 高速移動術である瞬歩を使用しても一向に距離が縮まらない。

 それだけでただの猫でないのは明白だった。

 

「縛道の六十二"百歩欄干"」

 

 無数の白い棒を出現させると同時に投げて、猫の進行方向の前に立てる。

 

「縛道の六十一"六杖"……」

 

 次の鬼道を放とうとした時に猫の姿が消える。

 何処に、と動きを止めると黒猫は朝緋の肩に乗って背後に移動した。

 斬魄刀に手を掛けると、黒猫が言葉を話してきた。

 

「はっ! 懐かしい顔じゃのう。もっとも、儂が知っておる白哉坊とは違うようじゃが」

 

「父様?」

 

 父の知り合いだろうか? 

 警戒を解かずに黒猫と向き合う。

 黒猫は楽しそうにくつくつと笑った。

 

「なるほど。白哉坊の息子か。これは少し遊んでゆくか。坊主、名を名乗れ」

 

 何故ならば猫にそんな事を言われなければならないのかは謎だが、正直に名乗る。

 

「護挺十三隊。一番隊五席、朽木朝緋。貴方を捕縛させていただきます」

 

 そう告げて斬魄刀を抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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