「はぁ……はぁ……は……っ!」
卍解修得の条件である斬魄刀の具象化と屈服。
それを成功させた朝緋は霊圧の消耗でその場に大の字で寝転がる。
「やっっっったぁ……っ!!」
斬魄刀の奥義に当たる卍解の修得。それを成し遂げて朝緋は達成感でらしくもない声が出た。
卍解に到達するのは死神として一つの節目だ。そこに至った事で感極まるのは仕方ない事だろう。
霊力を使い果たして倒れている朝緋に小さな拍手が響く。
手を鳴らしているのは、一番隊副隊長の雀部長次郎だった。
「お見事。まさかこの短期間に本当に卍解を修得して見せるとは。末恐ろしい」
上半身を起こした朝緋に、雀部副隊長が表情を引き締める。
「貴方は今日、卍解を修得し、死神としてのひとつの高みに昇りました。しかし、決してそれで満足してはいけません。ここはまだ通過点。そして、終着点はない」
「雀部副隊長?」
「貴方が卍解を使いこなすにはまだまだ時間がかかるでしょう。たとえ卍解を極めたとして、九十番台の鬼道を自在に操れるようになったとしても、驕ってはいけない」
日々の鍛練の大事さを説いているのだろうかと朝緋は姿勢を正す。
「心しなさい。卍解を抜くということは、死神としての貴方の誇りを懸けるということ。けっして負けられない戦いに身を投じるということです。その芯を、振るう刃を絶対に誤らぬように自分を戒めなさい。貴方が元柳斎殿を目指すのなら」
「卍解、だと……」
朝緋が一瞬包んだ膨大な霊圧にルキアは息を呑んだ。
朝緋が卍解を使えるなど聞いていない。
視界を閉ざしていた霊圧が晴れると、巨大な光の刃が姿を現す。
「卍解────雷鳴千鳥丸」
斬魄刀の巨大さだけなら狛村左陣の卍解、黒縄天譴明王が持つ刀以上かもしれない。
巨大となった鍔からはそれに見合った長さの雷で編まれた刀身が伸びている。
「行きます」
「朝緋、待て!!」
ルキアの言葉を聞かず、朝緋が卍解した巨大な斬魄刀を横薙ぎに振るった。
卍解の刃が通った建物など豆腐のように容易く斬り裂かれていく。
白哉とルキアは一旦距離を取り、適当な建物の屋上に着地する。
「朝緋め、いつの間に」
卍解の事だけではなく、朝緋の腕には副隊長が付ける腕章も有った。
いつの間にか副隊長に昇格していたのにルキアは複雑な思いになる。
追ってきた朝緋が卍解の刃を振り下ろす。
それをルキアと白哉は左右反対に躱した。
「破道の三十三、蒼火墜!」
鬼道で攻撃すると、鍔でそれを防ぐ。
(あの巨大な鍔、盾としての役割もあるのか……!)
厄介だな舌打ちするルキア。
攻めあぐねていると、いつの間にか見知らぬ男がいた。
空中に座るような姿勢でいる中年の男。
「戦いっていうのはいつだって哀しい。それはそこに"愛"があるからなんだよね」
そこから長々と話される持論。
戦いは愛がある故に起こり、だからこそ戦いは哀しく、美しいと。
その男の能力が朝緋を操っているのは明白だ。
「行ってください兄様! 朝緋は私が!」
「すまない。任せる」
「はい!」
白哉がその場を離れ、敵滅却師のところまで移動しようとする。
それを朝緋が斬ろうと斬魄刀を振るうがルキアが鬼道で斬撃をずらす。
ルキアも斬魄刀を抜いた。
「さて。久し振りに稽古を付けてやる。朝緋」
正直に言うと、藍染惣右介と破面の軍勢と戦ったあの時には、既に朝緋はルキアの実力を越えていた。
一番隊でなかったら、とっくに別の隊で副隊長に任命されていたかもしれない。
「私も少しは強くなった。卍解だからといって、簡単に斬れると思うな」
瞬歩で朝緋の左に移動する。
ルキアを狙って刃を振るうが、いくら斬れ味が凄まじかろうと、一振りが速かろと、大刀である以上は小回りがどうしても損なわれる。
斬撃が当たる瞬間に一旦下がり、再度朝緋に近づこうとする。
しかし、近付いたその瞬間にルキアの腕が斬れた。
「なっ!?」
腕から血が流れた事で距離を取る。
確かにあの一瞬、ルキアは朝緋の刃を掻い潜った。
追撃は来なかった筈。
考えられるとすれば。
「なるほど。その卍解、斬撃が残るのか……」
卍解から振るわれた刃の軌跡はその場に残る。
おそらくは瞬き程の時間だが、死神の身体能力ではその僅かな時間で突撃し、体を斬られる。
「素晴らしい卍解だ」
素直にそう賞讃する。
強いて言えば、敵に操られてる時ではなく、味方として見たかったが。
「舞え、袖白雪……」
斬魄刀を解放する。
卍解を使えば朝緋に勝てる自信はあるが、確実に殺してしまう。
「くっ!」
朝緋の刃を斬魄刀で防御しようとしたが、刃が触れた瞬間に袖白雪の刃が斬り込みが入った為、即座に回避に切り換えた。
「次の舞、白蓮っ!」
一度距離を取ると同時に遠距離攻撃をしたが、やはりあの鍔によって防がれる。
すると、朝緋の卍解が、ルキアの上の方へ刃を振るう。
忽ち周囲の建物が斬り裂かれ、ルキアの上に朝緋が斬った建造物が落ちてくる。
「ナメるな!」
落ちてくる建造物を跳び移って上空へと逃げる。
振り返ると、朝緋の卍解の刃が消失し、鍔がこちらに向けられている。
「しまっ……!?」
空中では即座に動けない。
「囀れ……雷鳴千鳥丸!」
消えていた雷刃の光がルキアに向かって伸びた。
星十字騎士団の"L"であるぺぺ・ワキャブラーダは朽木家の副隊長二人の闘いを少し離れた位置から眺めていた。
「どうやら、ミーの愛を受けた子が勝ったみたいダネ♡哀しいと思わないかい? 朽木白哉」
「……」
白哉の斬魄刀はぺぺの力を防ぐのに使い、既に投げ捨てている。
心のある斬魄刀は彼にとっていつでも奪える物らしい。
「哀しいよね。自分の息子が義妹を殺すなんて♡でもその苦しみからミーが解放してあげるヨ!」
ぺぺの手がハートマークを作り、そこから放たれる洗脳の力を回避する。
「ミーの愛から逃れようなんて許せないヨネ♡」
再び、洗脳しようとするぺぺに白哉が口を開く。
「どうやら貴様が醜いのは容姿だけでなく、目も悪いらしい。あまり、私の家の者を侮るな」
「ん〜?」
静かに告げる白哉に、ぺぺはルキアと朝緋の闘いに視線を向ける。
そこには、卍解での刃を逸らし、ルキアの体を傷つけるギリギリのところで止まっていた。
「な、なぁあああぁあんでぇえぇええっ!?」
自分の命令に反してルキアへの攻撃を止めている朝緋にぺぺを理解出来ずに叫んだ。
「愛と言ったな。いくら朝緋の中で貴様の存在が再上位に置かれようと、家族に対する感情が消えた訳ではない。朝緋の家族を斬りたくないという想いが、貴様への愛に打ち勝ったのだ」
そうして準備していた鬼道を発動させる。
「破道の三十三。"蒼火墜"」
蒼い炎がぺぺに放たれ爆発した。
爆発で弾き飛ばされたぺぺが転がり落ちる。
「クソッ! ミーの愛を上回るだって!? そんなの許さないモン!!」
血の混じった唾液を吐きながら、怒りを露わにするぺぺ。
そのすぐ近くに白哉が下り立つ。
「私は、貴様の闘いを厭悪する。他者の想いを上書きし、操り、自らの手を汚さずに静観する。死すべき無知だ」
白哉の手に黒い霊圧が生まれる。
「終わりだ、
「のわぁあああああんっ!?」
ぺぺはそのまま黒い箱に呑まれていった。
更木剣八が戦線に復帰。
瀞霊廷に落ちそうだった隕石も、彼の手によって粉々にされた。
そして。
「どうやら、一護も間に合ったようですね、兄様」
「そのようだな。で、お前はいつまでそうしている、朝緋」
「……」
地面に転がって落ち込んでいる朝緋。
生まれてこの方、有り余る才能で大抵の事は乗り越えてきた朝緋は、強者に敗北する事はあっても、言い訳の出来ない失敗を殆ど経験した事がない。
敵に操られて家族に刀を向けるなど、本人からしたら切腹したいくらいの恥だろう。
副隊長に就任したばかりでこの失態なのだから。
ちなみに朝緋は剣を止めた段階でルキアに峰打ちと鬼道で意識を刈り取られた。
白哉が小さく息を吐く。
「立て。我らにはこうして伏している暇はない筈だ」
「分かってますよ……」
落ち込んでいる状況ではないのは、本人も理解している為、すぐに立つ。
「ルキア姉様。腕の傷を診せて下さい。治します」
「あぁ、頼む」
これくらい自分で治せるが、少しでも朝緋の罪悪感を軽くする為に治療して貰う事にした。
治療し始めると、小さな声でごめんなさい、と呟く。
気分を紛らわせる為に、ルキアが質問する。
「そういえば朝緋。お前いつの間に卍解を修得していたのだ?」
「一護さんが死神の力を取り戻して程なくに。藍染惣右介との戦いの後に斬魄刀の具象化には成功してましたから。雀部副隊長の指導もあって、どうにか卍解の修得に到りました」
本当につい最近の事らしい。
まだお披露目出来る練度でもなかったので話してなかったと言う。
そこから今の状況を知らせる。
現在、総隊長は京楽春水が引き継いでいる事。
朝緋は沖牙の推薦で伊勢七緒と共に一番隊の副隊長に就任した事。
滅却師との戦闘が始まってから、浦原喜助が卍解を取り戻す丸薬を送ってきた後に狛村隊長と日番谷隊長の霊圧を感知出来なくなった事から敵と相打った可能性が高い事など。
「死神側が圧倒的に不利という事か」
「霊圧の感じから更木もどうやら負傷したようだ。急ぐぞ。我らで尸魂界を護るのだ」
白哉の言葉にルキアと朝緋は、はいと頷いた。
一護が瀞霊廷に戻って来た後に滅却師側の頭であるユーハバッハが霊王宮への進軍を開始した。
それにより、黒崎一護を含めた死神代行組をもう一度霊王宮に送る為に、現地の死神達は瀞霊廷内に残った滅却師の足留めを行う。
十一番隊の斑目一角と綾瀬川弓親。それと九番隊の檜佐木修兵は滅却師と交戦していた。
一人は自身の血液でゾンビを製造するジゼル・ジュエル。
もう一人は、攻撃の雨を降らせているバンビエッタ・バスターバイン。
「チッ! めんどくせぇなぁ!」
敵の攻撃を観察しつつ逃げ回る。
走りながら弓親が推測を述べる。
「見た限り、あの飛んでくる攻撃が爆弾というより、当たった物を爆弾に変える能力みたいだね」
「別に大した違いはねぇだろうが!」
「大違いさ。この鬼灯丸で防御出来ないって事だからね」
冷静にそう忠告する弓親に一角が踵を返す。
「なるほど。つまりどっちにしろ、敵の攻撃に当たらずに突っ込むしかねぇって訳だ!」
逃げるのに飽きた一角がバンビエッタに突っ込む。
「あの馬鹿!」
「無茶するなぁ!」
斬り込む一角に弓親と檜佐木が鬼道で援護する。
それを見ていたジゼルが拍手を送った。
「スゴい! スゴい! バンビちゃんの攻撃を掻い潜るなんて、でもさ。ボクのゾンビが、バンビちゃんだけなんていついったかなぁ?」
後もう少しで一角の鬼灯丸がバンビエッタを捉えようとした距離で、落雷が落ちる。
「ぐあぁあああぁあああっ!?」
「一角っ!?」
見ると、頭上には金髪の滅却師が居た。
それは朽木朝緋が倒した筈の滅却師。
ジゼルがキャンディスに向かって指示を出す。
「キャンディちゃん! 先ずは一人、死なない程度におねが〜い!」
落雷を喰らって動けを止めている一角に追撃が加わろうとしている。
「待て!」
「待たな〜い! そいつもゾンビにしてあげるね。どーん!」
弓親が駆け寄ろうとするが、その前に一角へ落雷が落ちる。
眼を覆うような光。
それが止むと、別の死神がその場に居た。
その死神を見たジゼルが、ゲッ、と声を出す。
「無事ですか? 斑目三席」
「朝緋か……助かったぜ」
雷鳥丸で落雷を吸収した朝緋。
一角のすぐに立ち上がる。
「負傷した更木隊長は虎徹副隊長に預けてきました。あの人のことです。動けるようになれば、すぐに戦線に復帰するでしょう」
「たりめーだ。それより、朽木隊長の傍に居なくていいのか?」
「今はちょっと……顔を合わせづらいと言うか……」
「あぁん?」
珍しく眉間にしわを寄せて答える朝緋に一角が首を傾げた。
さっきの事を気にしているのもあるが、朝緋からすれば白哉は一人でも充分だろうし、ルキアは恋次が意地でも護ると踏んでいた。
それよりも今は。
「死体を自分の操り人形にする能力……
不快感を露わにして斬魄刀を握る手に力を込めるとジゼルが側に現れる。
「なんでー? ボクはキャンディちゃんやバンビちゃんが死にたくないと思ってゾンビにしたんだよ? ボク達も二人が居なくなったら淋しいからねー」
おどけた調子で話すバンビを一瞥してからキャンディスを見る。
「あちらは私が殺します。次は死体が利用されないように灰にして……」
それがせめてもの手向けだと構えると、バンビエッタが朝緋を狙って爆撃する。
攻撃を察知して距離を取る朝緋。
「君とキャンディちゃんの相性が最悪なのは判ってるからねー。行かせないよ。君にはバンビちゃんの相手を────」
そこで何かを思いついたのか、首を傾げた後に、口元を歪につり上げる。
「やーめた! 君にはもっと面白い相手を用意してあげるね! 隊長さーん!」
呼ばれて現れた人物。それは。
「日番谷隊長……!」
霊王が消えていた十番隊隊長である日番谷冬獅郎だった。
朽木朝緋の霊王宮戦はどっちが良い。
-
ジェラルドと戦闘。
-
ユーハバッハと戦闘。